さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「アンドロメダ、右90度回頭。左砲戦用意」
《了解。右90度回頭、左砲戦用意》
「全ショックカノン、対艦グレネード2番、4番、及び対艦短魚雷発射管、照準をヤマトにセット。発砲は号令を待て」
《了解。ショックカノン1番、2番、3番、4番、照準連動。対艦グレネード2番、4番、発射管解放。対艦短魚雷発射管エアロック閉鎖。照準、”宇宙戦艦ヤマト”。発砲は山南指令の号令を待ちます》
山南の命令を聞き受けたアンドロメダのAIが、即座にそれを行動に移す。艦首側の左舷に搭載されていたスラスターが蒼い炎を閃かせるや、アンドロメダの進路が右へ右へと変わっていった。
それと連動するように、前部甲板及び後部甲板に搭載された3連装ショックカノン砲塔、そして船体左舷のバルジ部に搭載された対艦グレネード発射機、更には船体側面に埋め込まれていた対艦短魚雷発射管も解放され、その照準をヤマトに合わせている。
アンドロメダに搭載された火器は、こんなものではない。
他にも艦首や艦尾の速射魚雷、対艦ミサイルVLS、正面砲撃用の艦橋砲に防御用のショックフィールド砲もある。
左舷を向いた状態で、そして今のヤマトとの想定される交戦距離で使用可能な兵装は、全て目標たるヤマトに向けている。
こちらは本気だ―――山南の命令は、それを行動で示した形になる。
「司令、波動砲の使用を提案します」
すっ、と立ち上がった副長が、艦長席に座る山南を真っ直ぐに見つめながら意見具申した。
「ヤマトにはアンドロメダほどではないとはいえ、波動防壁があります。本艦の通常火器でも対処可能ですが、撃沈には時間がかかるでしょう。波動砲ならば―――」
「そうしたいのは山々だが」
意見具申をそう遮り、山南は顎髭を手で弄りながら答える。
「副長、なぜヤマト確保にアンドロメダのみがアサインされたか、その理由をよく考えてみろ」
「それは……」
―――この作戦行動は、極めて機密性の高いものである。
タイミングが悪い事に、今は木星沖で地球防衛軍主力艦隊とガミラスの太陽系方面軍の合同演習の真っ最中である。
もしそんな最中に、無断出撃したヤマトを確保できなかったとなれば、ガミラスに「地球は自軍の制御すらできていない」と見做されてもおかしくはない。今の地球とガミラスの政治的関係は非常にアンバランスで、表面上こそ
砲火を交えた戦争は終わっても、政治的な戦争は続いている、という事だ。
隙を見せれば取り込まれる―――防衛軍上層部はそれを恐れている。
だから今回の事件を秘密裏に処理するために、アンドロメダを単艦でヤマト追撃にアサインした、というわけだ。
「波動砲を使えば、莫大な量のエネルギーが観測される……ガミラス側にこちらの動きが露見するぞ」
何のためにステルス性の高いアンドロメダ級を差し向けたのか―――その理由を考えれば、アンドロメダ単独でヤマト確保に動いた理由も分かるというわけだ。
デブリ帯と小惑星帯を隠れ蓑に進むヤマトを、ステルス性の高いアンドロメダが確保する―――さながら幽霊同士の鬼ごっこである。
「……はっ、申し訳ありません。軽率でした」
敬礼し、再び席に着く副官―――実に真面目な男だ、と山南は思う。
士官学校を優秀な成績で卒業し、アンドロメダ副長の座を勝ち取った男というだけあって真面目で、物事の理解が早い。さながらコンピュータのようだが、しかし、だからこそ山南が抱き続けている”真意”までは読み取れていない。
確かに先ほどの言葉は、山南の考えそのものと言っていい。波動砲のような派手な兵器を使えばガミラス側にこちらの動きを観測され、秘密裏にヤマトを確保するという作戦が台無しになる。
仮に司令部がそれを良しとしても、ヤマト1隻の確保ないし撃沈のためだけに、最新鋭艦たるアンドロメダが奥の手の波動砲まで使ったとなれば、それこそ宇宙の恥晒しであろう。
(嫌だねぇ……政治が絡むっていうのは)
船乗りというのは自由なものだというイメージのあった山南だが、ここまで雁字搦めになると苦笑いを浮かべずにはいられない。
しかしそれよりも、山南は興味があった。
古代たちヤマト乗組員の―――”沖田艦長の子供たち”の覚悟が、どこまで本当なのか。
アンドロメダによる実力行使をちらつかせて足を竦ませるようならば、残念ながらその程度だったという事だ。イスカンダルへの航海を成功させることができたのも、沖田艦長という名将を艦長に据えていたからに過ぎない、と断じざるを得ない。
だが―――。
(そうではないのだろう、古代?)
先ほどメインパネル越しにやり取りした時、山南は確かに見た。
古代の目―――その目には確かに、沖田艦長と同じ光が宿りつつあった。
だからこそ、確かめたい。
その覚悟がどれほどのものか。
無断で出撃してまで、己の維持を突き通せるのかどうか。
―――見せてみろ、頑固者。
にいっ、と笑みをそっと浮かべながら、山南はメインパネルの向こうのヤマトを睨んだ。
「アンドロメダ、回頭しました」
西条の報告通り、アンドロメダは進路を変えていた。
艦首側のスラスターから蒼い光を発し、全長444mの巨体がゆっくりと重々しく、しかしヤマトのそれとは比べ物にならないほど滑らかに進路を変えていく。
やがてアンドロメダの艦籍番号と地球防衛軍のエンブレムが描かれた船体の左舷が、ヤマト側に向けられる。
ヤマトに道を譲り渡した―――わけでは、ない。
それは甲板上で旋回するショックカノン砲塔や、左舷のバルジ部に埋め込まれた対艦グレネード発射機、そして左舷に搭載された対艦短魚雷の発射管が解放されている事からも明らかだった。
「あ、アンドロメダの武装が全部こっちを向いてます!」
太田が情けない声を上げた。すぐさま島が「みっともない声を上げるんじゃない!」と叱責するが、しかしそれも仕方のない事だ。
先ほどの言葉は―――最後通告は決してハッタリではないのだと、山南は行動で示したのだ。
これ以上接近するならば実力で排除する、つまりはそういう事だ。
「砲雷撃戦用意! 第一、第二砲塔及び第一副砲、アンドロメダへ照準!」
前部甲板で主砲の砲塔が動いた。
増加装甲や波動コンデンサーの増設で、どっしりと丸みを帯び、さながら太平洋戦争時代の戦艦大和の46㎝砲塔と似た形状になったヤマトの48㎝ショックカノン砲塔が、砲身を重々しく持ち上げ、航路に立ち塞がるアンドロメダを睨む。
「各砲塔、照準データに木星の重力による影響を入れるのを忘れるなよ」
南部が各砲塔に指示を出す。
惑星の重力が宇宙戦艦の航行や戦闘に与える影響は大きい。特に木星のような、強大な重力を持つ天体が間近に存在する場合は猶更だ(イスカンダルへと向かう最中にそれは嫌というほど経験している)。
「波動防壁、艦首に集中展開」
古代の指示に、艦橋の空気が重くなった。
隣に座る島は進路を変更するものと思う一方で、隣に座る”頑固者”ならばそうするだろうな、と納得していた。
士官学校時代から古代は変わらない。
頑固で、とにかく一度意地を張ったら譲らない。そういう男だ。
「―――本艦はこれより、正面突破を図る」
「しかし古代さん、それじゃあアンドロメダからの集中砲火を浴びる羽目に―――」
そこまで言いかけた太田だったが、しかし全員が理解している事だった。
他の選択肢など、そもそも存在しないのだ。
小惑星帯とデブリ帯はヤマトにとって絶好の隠れ蓑だ。そこを飛び出せば近隣の宙域で演習中の艦隊がこちらの動きを察知し、大挙して確保に動いてくる事は想像に難くない。
地球艦隊どころかガミラス艦隊(それも指揮官は名将ローレン・バレル中将である)まで相手にするとなれば、テレザート行きは絶望的となるだろう。
ならば多少の犠牲を覚悟し、目の前のアンドロメダを突破するしかない。
腹を括る一方で、しかし古代は疑念を抱いていた。
―――本当に撃つつもりか?
既にヤマトとアンドロメダの距離は十分に詰められている。普通の砲戦を基準にするとやや近いと言わざるを得ないような、そんな距離だ。
通常ならばもう既に発砲していても良い筈である。なのに、アンドロメダは撃ってこない―――地球艦やガミラス艦の残骸が浮かぶデブリ帯の中で、武装をこちらに向けたまま不気味に静止しているだけだ。
必中の間合いまで惹きつけて撃つ―――という可能性は低いだろう。
アンドロメダの火器管制システムはヤマトのそれよりも高性能だ。ヤマトだってアンドロメダ級の建造で培った技術の一部が(主に真田の手によって)フィードバックされており、大幅な近代化改修を受けている。
しかしそもそも、アンドロメダとはスタートラインが違うのだ。ヤマトは先発の艦であり、アンドロメダは後発の艦。新技術の塊として生まれた艦と、その新技術の一部を旧来のシステムに後付けした艦とでは性能に大きな差が出るものである。
何が言いたいかと言うと、アンドロメダの高度な火器管制システムを以てすれば、どんな距離でも当てられる―――必中の間合いまで惹きつける、という戦法が無用になるという事だ。
射程距離に入り次第、一撃必中の攻撃を見舞う事ができるのである。
先ほどの威嚇射撃もそうだ。ヤマトには当てず、船体に損傷も与えないギリギリの距離をショックカノンが掠めていった。
最新型の火器管制システムとAIの連携があってこそなせる業と言っていい。
それまでの性能を誇るアンドロメダを知っているからこそ、古代は―――いや、島と真田も、同じ疑念を抱く。
―――なぜ、撃ってこない?
不気味な沈黙―――西条がアンドロメダとの距離を読み上げる声だけが、艦橋の中に響く。
アンドロメダの姿が、ついには肉眼でも見えるようになった。やがてアンドロメダ級の灰色の船体がぐんぐん大きくなり、艦橋の窓のすぐ近くまで迫ってくる。
ここまで来ればもうパルスレーザーの間合いだ。
なのに、アンドロメダの火砲が火を噴く気配はない。
「アンドロメダ、あと10秒で接触!」
「総員、衝撃に備え!」
古代が命令を発した直後だった。
バヂンッ、と蒼い光が、デブリ帯の中で閃いた。
波動防壁の光だ―――ヤマトが艦首に集中展開していたそれと、アンドロメダが船体を覆っていた波動防壁がたがいに接触、反発しあっているのだ。
そのままではヤマトの艦首がアンドロメダの横っ腹を殴りつける筈だったが、しかし波動防壁の反発がそれを阻む。
ヤマトの艦首が上へと滑り、同じくアンドロメダの船体も下へと
放電のように蒼い光が乱舞する中を、ヤマトは進んでいく。
ちょうどアンドロメダの前部甲板、その上を掠める形でヤマトは通過していった。
艦橋の窓から、古代はアンドロメダを睨んだ。
ヤマトの艦橋と比較して、凹凸が少なくのっぺりとした―――昔のイージス艦を思わせる、アンドロメダの艦橋。
そこに座る山南の姿が、微かに見えた。
―――笑っていた。
やりおったな、とも、それでこそだ、と背中を押すようにも受けて取れるような笑み。
そこで古代は確信する。
この人は―――”ヤマト”を試していたのだ、と。
「島、最大戦速!」
ヤマトがアンドロメダの前部甲板上を通過すると同時に、古代は命じる。
「このままアンドロメダを振り切るぞ!!」