さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
大聖堂を思わせる広間に響く力強い太鼓の音を聞きながら、ぐいっと酒杯を呷る。
既にその緑色の肌で覆われた肉体には老いの兆しが見えているが、しかしそれを感じさせない力強さがそこにはあった。数多の星々を攻め落とし、帝国の版図に加える―――大宇宙を征服するための長い旅路。ガトランティスという集団の長には兎にも角にも”強さ”が求められる。
強いからこそ皆が付き従う。強いからこそ敵を服従させる。そして強いからこそ勝者として君臨し続けるのだと、”大帝”は―――『ヴロド・ズォーダー』は思う。
酒杯が空になるや、傍らに控えるサーベラーがすぐに酒杯に酒を注いだ。この酒はズォーダーのお気に入りの銘柄だ。かつて攻め落としたアンドロメダ星雲の惑星『エドラ』の原住民たちが、信仰する神に捧げる供物であったという。
これからは神ではなく、この大帝を崇めよ。我らガトランティスを崇め、付き従うべし。さすれば帝国の一部として永遠の安寧を約束しよう―――そのズォーダーの言葉に従った者はガトランティスの臣民として受け入れ、歯向かう者は皆殺しにした。
かつてヴロド・ズォーダーの父であった先代の大帝”バスタド・ズォーダー”は口癖のようにこう言っていたという。
―――『愛が必要だ』、と。
確かにそうだ、とズォーダーは思う。
この広大な宇宙を版図に収め、全てを我が物としてこそ愛でる価値もあるというもの。ならば対象を愛でるための戦もまた、”愛のため”の戦いに他ならない。
いつもの事だった。
服従か死か。ガトランティスは常に、相手にその二択を突きつけてきた。
初めてその二択を突きつけたのは”ゼムリアの民”であったか。ガトランティスの初代大帝『ラング・ズォーダー』から脈々と受け継がれてきた古い記憶を呼び起こしながら、ズォーダーはぼんやりと、玉座の間の下で踊る女たちを見下ろす。
ガトランティス人の女もいれば、肌の違う女もいた。皆、彼らが征服してきた星の者たちだ。服従を選んだ彼女たちは皆、こうしてガトランティスの寵愛を受けている。
いいぞいいぞと囃し立てる者や、早く次の酒を持って来いと騒ぐ者。踊り子たちの舞いも音楽もそっちのけで肉を食い散らかす兵士や、酔いが回り自慢話に花を咲かせるベテランの兵士たち。視線を巡らせ、耳を傾ければそんな光景や声が頭の中へと入り込んでくる。
「サーベラーよ、ゴーランドからの報告は?」
「はい、テレサの間へと到着、封印の補強作業を開始したという報告の後は何も」
「……」
いずれにせよ、これで恐れるものは無くなった。
惑星テレザートに眠る宇宙の女神、テレサ。
彼らガトランティスの野望を妨げる最大の障害にして、ズォーダー一族が最も恐れる存在。
それと同時に、それを手中に収め兵器として転用する事が出来れば、全宇宙はガトランティスの版図に収まったも同然となる。
だからこそゴーランドとザバイバル将軍の2名をこの重要任務に選んだのだ。
酒杯を呷り、太鼓の音と異星の言語が奏でる歌に合わせて舞う踊り子たちをしばらく眺めていたズォーダーだったが、しかし後ろからやってきたゲーニッツが一礼しそっと耳打ちする。
「大帝、
「して、大将は誰か」
「はっ。第八艦隊司令、メーザーとその部下、コズモダート。それと……大帝のご指示の通り、”あの者”も」
「よろしい。すぐここに呼べ」
「はっ、直ちに」
くるりと踵を返し、去っていくゲーニッツ。その後ろ姿を一瞥するや、交戦的な笑みを浮かべるズォーダーの傍らに控えていたサーベラーが静かに手を挙げた。
それが合図となり、太鼓の演奏も、異星の言語による歌も、そしてそれに合わせて舞い踊っていた踊り子たちも皆、ぴたりと全てが静止する。
酒を飲み、肉を喰らい、己の武勇の自慢話に花を咲かせていたガトランティスの将兵たちも、酔いの回った赤い顔でじっと大帝の方を見つめていた。
踊り子たちが去るや、入れ替わる形で2人の将校が姿を現す。
今回の
ガトランティス兵の鎧の上に陣羽織を思わせるコートを羽織り、腰には剣を提げている。
玉座の間へと歩み出るや、2人は石造りの床の上に跪いた。
「お呼びでしょうか、大帝陛下」
「メーザー、そしてコズモダート。貴様らは栄えある帝星ガトランティス艦隊の一番槍として
レピメア、と星の名を告げられると同時に、天井のモニターに惑星の映像が映し出された。
緑色の空と岩の大地を持つ惑星レピメア―――もちろんこれはガトランティス語による呼称であり、地球では『第十一番惑星』と呼ばれている。
惑星表面は岩と氷で覆われており、地表にはまるで刀で切り付けられたかのような渓谷が、ぱっくりと口を開けていた。
「このレピメアを
「このような役割をこのメーザーめに与えてくださった事、光栄にございます」
「メーザー一族と、このガトランティスの名に恥じぬ戦いを期待する。メーザー、そしてコズモダートよ。ガトランティスの先兵として功名を挙げるべし」
「はい、必ずや」
ズォーダー直々の作戦説明と訓示に、メーザーとコズモダートは滾っていた。それだけ大帝からの期待を向けられているのだ。失敗は許されず、手に入れるべき結果は勝利のみ。それが叶わぬならば敵を道連れにしてでも打ち倒す―――そんな覚悟を、2人は決めていた。
コツ、コツ、と石畳の床を踏み締める音が、大帝玉座の間に響く。
玉座の脇に控えていた若い将校―――”ヴィリム・バルゼー”が「誰か!」と声を上げ、腰のホルスターにある大型拳銃に手をかけた。
「今は大帝直々に訓示しているところだ。それを知っての狼藉か」
「よい、バルゼー」
「しかし……」
ふっ、と笑みを浮かべ、彼の隣に立つ将校―――ヴィリム・バルゼーの父であり艦隊司令でもある”ヴィル・バルゼー”がそっと息子の手を掴んだ。
「お前は血気盛んだ。少しは落ち着きを覚えろ」
「申し訳ありません、父上」
「貴様の息子は将というよりは兵に向くな、バルゼーよ」
「はっ、お見苦しいところをお見せしました」
「よい……我がガトランティスには、貴様の息子のような猛将が必要だ」
バルゼーにそう言いながら、ズォーダーは視線をメーザーとコズモダートの後ろへとやってきたもう1人のガトランティスの将校へと向けた。
傍から見れば武士のようにも見えるだろうが、しかしその眼光の鋭さは明らかにメーザーやコズモダートとは―――いや、ここにいるすべての幕僚たちとは異質と言っても良かった。
若い兵であれば、睨まれただけで竦んで動けなくなってしまうだろう。
武士と表現したが、しかしそのおぞましい怒気と怨嗟も加味すれば、さながら武士の怨霊のようにも思える。
傍らに控えていたサーベラーが息を呑むのが、ズォーダーにははっきりと感じられた。
「……面を上げい、疾風の戦士”イスラ・パラカス”よ」
怨嗟を纏うガトランティスの将校―――かつてのゴラン・ダガームと共に戦った疾風の戦士、イスラ・パラカスは顔を上げた。
その眼光は大帝を前にしても微塵も揺るがない。むしろ、戦に出さないというのであれば貴様をも叩き殺してくれようぞ、とでも言わんばかりの凶暴さが滲んでいる。
「パラカスよ、レピメアを攻めれば
憎いのだ、かの艦が。
宇宙戦艦ヤマトが。
「艦隊も兵も、何もかもを用意した。その恨み、敗北の屈辱、存分に晴らすがよい」
「……ありがたき幸せ」
そう言い残し、パラカスは踵を返した。
ゴラン・ダガームと共に、”静謐の星”へと派遣されたイスラ・パラカス。ヤマトとガミラス連合軍の反撃の前に敗北し、航行不能となった艦と共に漂っていたところを救出された彼は、今この瞬間までずっとヤマトへの恨みを募らせていたのだという。
復讐者と化したパラカスが去るや、サーベラーが口を開く。
「大帝、なにゆえあのような者を侵攻の先鋒としたのです?」
「……」
「ガトランティスにおいて、弱さこそ罪。敗軍の将に席などありませぬ」
一度負けた者を救出してまで、なぜ。
そんなサーベラーの問いに、ズォーダーは笑みを浮かべながら答える。
「―――見てみたくなったのだ。滾る復讐心が、どれだけヒトを強くするのかを」
太陽系―――第十一番惑星に、ガトランティスの魔の手が迫りつつあった。
第一章『新たな危機、ヤマト発進せよ』 完
第二章『死闘、第十一番惑星』へ続く
これで第一章は終了となり、次回より第二章がスタートします。第十一番惑星編です。
それでは、来年もよろしくお願いします。
皆さん良いお年を!