さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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『槍』

 

 この辺境の惑星とも、それなりに長い付き合いになった。

 

 ガミラスの手を離れ、領有権を主張する地球の手に渡ってからの4年間、この第十一番惑星駐留軍司令部の椅子から開拓の様子を見守ってきた。

 

 最初に思ったのは、地球連邦政府もなかなかに面の皮が厚い連中だ、という事であろう。

 

 元々、第十一番惑星は氷に閉ざされた惑星だった。鉱物資源にガスに氷、それ以外は何もなく、この大気だってガミラスが人工太陽を軌道上に建造して地表の氷を溶かし、地表に植物を植え付けて生成した酸素によってやっとマスク無しでも呼吸ができるレベルになった(とはいえ酸素濃度は地球のそれよりもやや薄く、場合によってはマスクが未だに必要になるケースもある)。

 

 ガミラスが丹念に準備し、ヒトが住める段階になったところで領有権を主張しそれを掠め取っていくその姿勢には嫌悪感すら覚えるが、しかしガミラスとて地球人類を滅亡の縁に追いやった怨敵でもある。惑星の1つや2つ、奪ってやったところでその恨みは消えまい。

 

 一種の仕返しなのだろうな、と思う事で納得させていた更科指令は、今日で最後となる執務室の窓から大地を見渡した。ガミラスの植物と地球の植物が植え付けられた大地は、微かにではあるが緑色に染まりつつある。

 

 そうでなくとも、第十一番惑星は翡翠の色をした美しい星だ。曰く「大気の性質の関係でそういう色合いに見える」との事だが、そんな事はどうでもいい。

 

 更科にとって今日は、随分と待ち望んだ日でもあった。

 

 第十一番惑星駐留軍の司令官の交代、である。

 

 後任はあの土方指令―――波動砲艦隊に異を唱え、左遷されたという噂があるあの艦隊司令だ。軍拡路線をひた走り、暴走気味でもある地球連邦政府に真っ向から異を唱える勇気は更科には無いが、しかし土方の心境も理解できないわけではない。

 

 特に、イスカンダルへの航海を成功させた宇宙戦艦ヤマトの関係者であれば猶更であろう(むしろ、だからこそヤマト乗組員に代わって矢面に立ったに違いない。土方はそういう男だ)。

 

「福田君、長い事世話になったね」

 

 窓の外、基地の敷地内を見下ろしながら更科はぽつりと呟いた。

 

 窓の向こうではモスグリーンの制服に身を包み、ヘルメットを装着した空間騎兵隊の隊員たちが隊列を組んで、小銃を抱えながらランニングをしているところだった。防弾ガラス越しに、指揮官を務める斉藤始の大きな声がここまで響いてくる。

 

「司令こそ、毎日の激務お疲れ様でした」

 

「やだねぇ、激務だなんて」

 

 苦笑いを浮かべながら、更科は副官の福田の方を振り向く。優しそうで少し太り気味の副官ではあるが、こう見えても空間騎兵隊出身の古強者だ。

 

「私だって左遷されてきたんだ。本部(中央)の山南君ほどの仕事はこなしていないよ」

 

 更科がここに左遷されてきたのは、口封じの意味合いもあったのかもしれない。

 

 彼はガミラス戦役時、木星沖のアステロイドベルトに潜み、ガミラス艦隊相手にゲリラ戦を展開した水雷戦隊の司令官だった男だ。水雷戦隊とは名ばかりで、イソカゼ型駆逐艦を宛がわれた他の戦隊はまだ良い方であり、彼等は民間の輸送船を徴用、レーダーと外付け式の魚雷発射管を搭載しただけの、船籍番号や艦名すらない急ごしらえの駆逐艦で捨て石同然に扱われたのである。

 

 そんな彼らが戦後になって声を挙げるのを、防衛軍司令部はどこかで恐れていたのだろう。とにかく更科のような捨て石の生き残りは、彼等にとっては都合の悪い存在であったに違いない。

 

 第十一番惑星駐留軍初代司令官―――いかにも名誉がありそうな肩書だけを与えられ赴任してきた更科ではあったが、結局ここは扱い辛い人材に余り物の装備を与えておくだけの流刑地と何も変わらない。

 

 が、それも今日が最後だ。

 

 来月付で更科も定年を迎える。土方と基地司令を交代してからは地球に戻り有休を消化し余生を送る毎日となるだろう。

 

 地球に戻ったら、遊星爆弾で亡くなった妻と娘の墓にでも行くか、と家族に想いを馳せる彼に、福田はそっとマグカップを差し出す。

 

 『UN COSMO NAVY(国連宇宙海軍)』と記載されたマグカップは、彼の私物だ。木星沖でのゲリラ戦に従事していた頃から愛用しているそれで、地球防衛軍伝統の微塩コーヒーで一息入れるのも今日が最後。そう思うと、何もかもが停滞し緩やかに年老いていくだけの退屈な毎日が懐かしく思えてくる。

 

 ありがとう、と礼を言いながらそれを受け取り、コーヒーを口へと含んだ。

 

(まあ、土方指令なら俺なんかよりよっぽど上手くやってくれるさ……)

 

 斉藤も喜ぶだろうな、と思う。

 

 空間騎兵隊の斉藤と土方の付き合いはそれなりだ。それこそ4年前、ヤマトがイスカンダルを目指し旅立ったあの日以来からで、キリシマがヤマトを見送るついで(、、、)に月面の空間騎兵隊を収容した事に端を発する。

 

 聞いた話では、キリシマの艦橋で土方に喰ってかかったのだそうだ……『アンタがもっと早く来てくれれば桐生さんは』、と。

 

 相手が誰であろうと恐れない、虎のような男だ。そういう意味では土方も斉藤も似た者同士なのかもしれない。間違いなく馬は合うであろう。

 

 既に引継ぎの手続きは済ませた。後は土方指令の到着を待つのみ。

 

 マグカップの中身が半分を切ったところで、どたどたと誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

 只事ではない―――マグカップを執務室のデスクの上に置いて備えていると、ドアを開け司令部の士官が大慌てで入ってきた。

 

「何事か!」

 

 福田が声を荒げると、息を切らしながら走ってきた士官は敬礼をする余裕すらなく報告する。

 

「き、軌道上にガトランティス艦隊が!」

 

「襲撃か」

 

「いえ、襲撃(、、)ではありません! 侵略(、、)です!!」

 

 いつもの散発的な襲撃などでは―――ない。

 

 侵略―――今、確かにこの士官はそう言った。襲撃ではなく侵略なのだと。

 

 つまりいつもの散発的な、統率も取れていない襲撃などではない。兵站をしっかりと固め、戦力を整え、適地を攻撃する準備を周到に済ませたうえでの大規模攻勢をかけてきている―――つまりはそういう事なのだろう。

 

 ついにこの日が来たか、と腹を括る更科に、士官は「軌道上の戦艦”フォレスタル”とは既に通信が途絶しています!」と報告を続ける。

 

(フォレスタル……そうか、武藤君も既に……)

 

 軍人である以上、別れは唐突にやってくる。

 

 彼もまた良い奴だった―――何をしたのかは聞かないのがここでのマナーではあるが、第十一番惑星に赴任してきた時期は更科と同じであり、そういう関係もあって色々と気に掛けていた艦長の1人である。

 

 よりにもよって交代直前に襲撃とは、なんとタイミングの悪い……あのミドリムシのようなガトランティスの連中を呪いながら、更科は未だ現役の将校と遜色ない声を張り上げる。

 

「地球本星に緊急通信、救援を要請しろ! 通信できんなら発光信号でも原始的な方法でも良い、出来ることは全部試せ!」

 

「はっ!」

 

「福田君、全部署に戦闘配置を通達。基地防空隊もスクランブル発進させろ。装備は対艦装備だ」

 

「了解しました」

 

「民間人を直ちに地下シェルターに。空間騎兵隊は防空隊の支援を。宇宙港の艦隊にも直ちに出撃を要請―――」

 

 ドン、と窓の向こうで火柱が上がる。

 

 大地から噴き出したものにも思えるが―――違う。

 

 あれは地表から噴火したものではない。衛星軌道上から、遥か頭上の星の海から放たれ、地上に叩きつけられたものだ。

 

「司令……宇宙港が……!」

 

 あの火柱が上がった方向には、確かに宇宙港がある。

 

 今の一撃で全滅したのではないか―――絶望を見せつけられた彼らの頭上から、無数のミサイルと共にカブトガニを思わせる異星人の攻撃機が襲来したのは、それからすぐの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《HQより各部隊へ、宇宙港は全滅。繰り返す、宇宙港は全滅の模様》

 

 先ほどから無線を聞いていればこれである。

 

 いい知らせなど何もない―――悪い知らせだけが、悪意を煮詰めたかのような絶望が濁流の如く押し寄せてくるばかりで、肉体だけでなく精神的にも鍛え上げられた軍人でなければ心を折られていただろう。

 

 やだねぇ、と悪態をつく余裕は、少なくともまだ如月にはあった。

 

《HQより基地防空隊、離陸を許可する》

 

《管制塔より”コスモセイバー隊”、滑走路への侵入を許可します》

 

「りょーかい」

 

 誘導員の指示に従い、如月はヘルメットのバイザーを閉じながら機体を格納庫から前進させた。

 

 コスモタイガーⅡをベースに、基地防衛や艦隊防空任務に最適化させた派生機の1つ―――それが、彼等に与えられた翼、『コスモセイバー』である。

 

 主翼及びエンジンの大型化が最大の特徴で、複座型だ。操縦席前方にパイロットが、後方の副パイロットがレーダー管制を行う。

 

 コスモセイバーの役割はスクランブルを受け直ちに離陸、その圧倒的加速力で現場に急行し、基地や艦隊目掛けて放たれた敵のミサイル、あるいは艦載機や駆逐艦などのコルベットにいち早くミサイル攻撃をお届けするというもので、分類上は地球独自の”迎撃戦闘機”に分類される。

 

 つまりは2名のパイロットにより操縦され、基地や艦隊からのレーダー情報によるバックアップを受けながら運用されるミサイルキャリアーだ。

 

 滑走路の周囲はお祭り騒ぎだった。基地周辺に設置された対空ミサイルのランチャーが対空ミサイルを放ち、土嚢袋で補強された高射砲陣地では対空用のパルスレーザー砲塔がひっきりなしに火を噴いては、紅いレーザー(実際はレーザーではなく、圧力をかけたガスをプラズマ化して撃ち出しているだけだ)に絡め取られたカブトガニが煙を吹きながら、基地の敷地の外目掛けて斜めに落ちていった。

 

 基地上空では既に先に出たコスモタイガー隊との空戦が始まっており、ミサイルを撃ち尽くし身軽になったはずのカブトガニが、モスグリーンに塗装された第十一番惑星仕様のコスモタイガーⅡに追い回されているのが見える。

 

《管制塔よりセイバー1、敵艦隊は衛星軌道上に展開、艦載機を次々に発艦させています。敵空母の排除を優先的にお願いします》

 

「はいな」

 

《ターゲットの情報は既にそちらに転送してあります。ご武運を》

 

「了解した……セイバー1より各員、話は聞いたな?」

 

 離陸準備に入る如月のコスモセイバーに続き、後続のコスモセイバーも大きな対艦ミサイルをこれでもかというほど機体に吊るし、タキシングに入っている。

 

「離陸後、高度1万で敵艦隊をロックオンしミサイル攻撃を行う。手加減は不要だ、礼節を知らないガトランのミドリムシ共を弁えさせてやれ」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

《コスモセイバー隊、離陸を許可します。ご武運を!》

 

「はいよ。セイバー1、出るぞ!」

 

 フットペダルを踏み込んだ。

 

 ぐんっ、と身体がシートに押さえつけられる。コスモタイガーⅡをベースに大口径化、出力を強化した新型エンジンの手加減の無い全力噴射は凶悪の一言で、テストパイロットは「Gで身体が潰れたかと思った」と証言するほどだ。

 

 しかしそれほどの出力の恩恵で、コスモセイバーはすぐに滑走路から離れた。離陸するやランディング・ギアを機内に収納、離陸直後のコスモセイバーを狙おうとし背後に回り込もうとするカブトガニすら純粋な推力で振り切って、衝撃波による渦輪を幾重にも描きながら上昇していく。

 

『ターゲット情報、来ました』

 

 後部座席でレーダー管制を行う相方の中村が淡々と告げた。

 

 如月の操るセイバー1に遅れて離陸したコスモセイバー隊がやっと追い付き、上昇しながら編隊を組んだ。

 

 その時だった―――背後の基地の方へ、空から落ちてきた炎の雨が降り注いだのは。

 

 艦砲射撃だ。ガトランティス艦に搭載されている緑色の回転式ビーム砲による艦砲射撃で基地が狙われているのだ。

 

 ガトランティスのビーム砲は、命中精度、威力共に地球、ガミラス軍のそれを大きく下回る。しかしその連射速度は目を見張るものがあり、「こちらが1発狙っている間に50発は撃ってくる」とベテランの砲手に言わしめるほどである。

 

 破壊エネルギーをばら撒くという用途においては、理想的な武器と言えた。

 

『高度8000……8500……9000』

 

 コスモセイバーの加速力は地球、ガミラス両軍の中でも随一だ。追加ブースター装備のツヴァルケでも追い付けない(その分旋回性能は劣悪である)ほどの速度なのだから、攻撃力を重視するあまり鈍重になったガトランティスの艦載機では追い付けないであろう。

 

 ここからは、もう彼らの独壇場だった。

 

 バイザーの内側に敵艦隊の位置情報とロックオンマーカーが表示され始める。左上にある高度計の数値は凄まじい勢いで更新を続けており、間もなく10000に到達するところだった。

 

 高度10000―――ロックオンマーカーが紅く変わり、ピー、と甲高い電子音がコクピット内に響き渡る。

 

「今だ。全機”槍”を放て」

 

 セイバー1、ブルーザー……規定通りのコールと共に、発射スイッチを押し込んだ。

 

 ガゴッ、と何かが外れる音がして、機体が一気に軽くなる。コスモセイバーに搭載された新型対艦ミサイルが切り離され、ロケットモーターに点火したのだ。

 

 複数のロケットモーターでぐんぐん加速していくミサイルの群れが、紺色の空へと舞い上がっていく。

 

 狙うは衛星軌道上、ガトランティス機動艦隊。

 

 侵略者を打ち払うべく、地球側の握り拳がついに振るわれたのである。

 

 

 

 

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