さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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炎の雨

 

 あの時、イスラ・パラカスという男は地獄を見た。

 

 ”静謐の星”シャンブロウ上空での、ヤマト・ガミラス連合艦隊との最終決戦。彼が指揮を執る機動艦隊は航空隊による襲撃を受け壊滅、彼らの乗る空母”キスカ”も大破、動力源を喪失し航行不能となった。

 

 艦内は地獄だった。損傷の修復はままならず、外部との連絡も取れない。艦内は負傷者や戦死者で瞬く間に埋め尽くされ、戦闘を生き延びた乗員も負傷の傷が原因で命を落とすか、あるいは飢餓に苦しんだ末に動かなくなっていった。

 

 弱い者から死んでいったのだ。

 

 ガトランティスには”強さこそが絶対”という教えがある。

 

 強ければ相手を搾取でき、己の都合のいいように歴史を書き換えることができる。そういう意味では『強さこそが正義』であり、敗北とはすなわち種そのものの根絶か、永遠の隷属を意味する。

 

 ガトランティス人という種族がそれを学んだのは、彼らが最初に”ゼムリア人”と全面戦争に突入し、勝利してからの事だった。

 

 だからある意味で、あれは試練だったのかもしれないとパラカスは考えている。

 

 自らと配下の兵士たちを篩にかけ、強き者と弱き者に選別する。そして弱き者を間引き、強き者のみを残す事で強さはより純度を増していくのだ、と。

 

 それに加えて、今の彼等は復讐に燃えている。

 

 敗北の屈辱を味わわせた地球(テロン)(フネ)―――ヤマト(ヤマッテ)

 

 あの艦を沈めぬ限り、この屈辱は決して癒える事はないだろう。

 

 そして、生きて再び母星の土を踏む事もあるまい。ガトランティスにおいて弱さは罪、敗軍の将には本来席など与えられる事はないのだ。

 

 今のパラカス達に再び艦隊が与えられ、こうして地球(テロン)侵攻の先陣という栄誉を与えられたのも、ひとえに大帝ズォーダーの気まぐれゆえの事。本来であればそのままシャンブロウのあった宙域に捨て置かれたか、敗北の責任を取らされ首を刎ねられていてもおかしくはない。

 

 勝利か死か、今の彼等にはその二択しかないのだ。

 

(―――それでいい)

 

 メーザー率いる『第八主力艦隊』の先鋒、『強襲艦隊』を率いるパラカスは、メダルーサ級殲滅型重戦艦『レガルーダ』の艦橋で腕を組みながら好戦的な笑みを浮かべた。

 

 元より知的な風貌の彼ではあるが、しかしシャンブロウの戦いの折に眉間に負った大きな傷のせいか、その笑みはより獰猛で残虐さを滲ませている。

 

「パラカス様、地上よりミサイル攻撃です」

 

「迎撃せよ」

 

「はっ」

 

 淡々と指示を出し、パラカスはメインパネルに視線を向けた。

 

 衛星軌道上から惑星表面にある地球防衛軍基地へ艦砲射撃を続けていたパラカス艦隊へ、複数のミサイルが迫ってくるのが見える。大型だ。戦闘機を迎撃するための対空ミサイルではなく、動きこそ鈍重ではあるが大量の炸薬を内蔵し、当たりさえすれば戦艦をも数発で轟沈へと追いやる対艦ミサイルによる攻撃である。

 

 基地とは別の場所にミサイル基地でもあったのか、それとも……?

 

 腕を組みながら目を細めるパラカスの視線の先では、艦隊旗艦レガルーダと、後方に控えるナスカ級打撃型航空母艦を守るべく、複数のククルカン級襲撃型駆逐艦やラスコー級突撃型巡洋艦が前に出た。エンジンノズルから仄かに蒼い炎を吐きながら増速し、船体各所に設けられた回転砲塔から緑色のビームを乱射し始める。

 

 ガトランティス艦の主砲は、一撃の威力や命中精度よりも連射速度を重視した代物だ。口径こそ大型の戦闘艦と並ぶものであるが、その実は砲口内部に4つのビーム砲発射口を設け、発射の際に4つのビームを束ねて放っている。

 

 それゆえに砲塔にかかる負荷は少なく、リチャージも素早く済む半面、ビームの集束率に劣り威力の低下に繋がっているのだ(しかしガミラス艦のミゴウェザー・コーティングを貫通する威力はあるので十分と見做されている)。

 

 ビームを射かけられたミサイルの1発が被弾、弾頭部を消し飛ばされ爆発する。爆炎を突き破り後続のミサイルも迫ってくるが、続けて放たれた対空回転砲塔の小型ビームに蜂の巣にされ、1発、また1発と火球にその姿を変えていった。

 

 しかしそれでも、ミサイルは巡洋艦や駆逐艦の築いた防衛ラインを突破し空母を食い破らんと突入してくる。

 

 そこで駆逐艦や巡洋艦が動いた。ミサイルと空母の間に、ビームを連射しながら割って入ったのだ。

 

 対艦ミサイルの穂先がククルカン級の船体に深々とめり込む。

 

 地球側が放った対艦ミサイル―――コスモセイバーに搭載されていたそれは、地球側の技術をベースに、ガミラスからの技術援助も受けて完成した新型のものだ。サイズこそ大きくなってしまいペイロードに余裕のある機体を選ぶ装備となってしまったものの、その威力は艦載機が搭載できるものでは最大クラスの物であり、直撃すれば戦艦クラスだろうと撃沈が期待できるというものだ。

 

 そんな威力の武装を受けたククルカン級は、あっという間に火達磨になった。

 

 船体を真っ二つにへし折らせて沈んでいくククルカン級の傍らを、ミサイルを2発も撃ち込まれたラスコー級が炎上しながら降下していく。エネルギー回路に誘爆したのか、船体の各所で小さな爆発を散発的に生じさせていたラスコー級は、友軍艦を巻き込まない程度に距離を取ったところで爆散、宇宙の塵となった。

 

 最終的にククルカン級3隻、ラスコー級1隻を失う事になってしまったが、しかしパラカスは予想外の反撃にも怯まない。むしろ、侵攻の要である航空機の母艦を守れただけ儲けものだとすら考えていた。

 

 戦っている以上、人はいつか死ぬ。それが遅いか早いかの違いでしかない。

 

 沈んだ合計4隻の戦士たちは、一足先に眠りについたのだ。

 

 戦の中で命を散らせる―――ガトランティスの戦士にとって、これ以上の栄誉はない。

 

「……ミサイルの発射地点を特定せよ」

 

「どうやら基地ではなく航空機から発射された模様です」

 

 ほう、と呟いた。

 

 地球(テロン)ヤマト(ヤマッテ)ばかりが脅威と思っていたが―――しかし、こんな辺境の星にも一矢報いようと矢を放つだけの、骨のある戦士はいるらしい。

 

 ならばこちらも全力でかかるまでである。

 

「火焔直撃砲を向けよ」

 

「はっ」

 

 大気圏内から、艦載機によるミサイル攻撃が行われた―――ガトランティスの航空機、それらが放つミサイルには無い長射程である。この星はやがてガトランティスの版図となるであろうが、しかし損耗を強いるような脅威は早めに摘み取らなければなるまい。 

 

 見過ごすわけにはいかなかった。

 

 がごん、と船体下部にある悪魔の歯を思わせるシャッターが開いた。黄緑色に塗装された砲身が迫り出すや、そのライフリングが緩やかに回転を始める。

 

 火焔直撃砲―――ガトランティスが保有する艦隊決戦兵器。

 

 侵略した他の惑星の兵器と、ガミラスの科学奴隷に製造させた空間転送システムを組み合わせた代物だ。超高熱のエネルギー波を敵艦の前方に転送させることにより、回避困難、尚且つ必殺の一撃を見舞う代物である。

 

「火焔直撃砲、エネルギー充填率50バノン」

 

「火焔直撃砲を集束モードから拡散モードに」

 

「了解、エネルギー集束率を75バノンに制限」

 

「第二ライフリング回転開始」

 

 バチン、と甲高い音を響かせ、回転していたライフリングが前後に別れた。

 

 後方にズレたライフリングが、前方に位置するメインのライフリングとは逆方向に回転を始める。

 

 元々、火焔直撃砲はしっかりと集束したエネルギー波を撃ち出す兵器ではない。単純に高威力のエネルギー波を、超高圧で空間へ()()()()タイプの兵器である。

 

 それゆえに、どれだけ集束率を調整してもエネルギー波の周囲からエネルギー弾が剥離してしまうのだ(火焔直撃砲の周囲にフレアのようなエネルギー弾が生じるのはそれが理由である)。

 

 惑星シャンブロウでの戦闘の際、ヤマトに火焔直撃砲を回避されてしまった事を受け、ガトランティスの技術部はその対策を打ち出した。

 

 その案の一つが、『火焔直撃砲に通常モードと拡散モードの撃ち分け機能を追加する』というものだ。フレア状のエネルギー弾でも戦艦に対し十分な貫通力を持つことから、”それならば逆に集束率を下げて無数のエネルギー弾として拡散させ、一撃の威力よりも加害範囲の拡張により敵艦隊に手傷を負わせる方向にシフトすればよい”という発想で後付けされたものである。

 

「拡散火焔直撃砲、発射準備完了!」

 

「……テロン人共め、我らガトランティスの輝きとくと見よ」

 

 コントローラーを手に、パラカスは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

「【拡散火焔直撃砲】、発射ぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、戻ってきた!」

 

 土嚢袋で囲まれた高射砲陣地、そこに据え付けられた簡易型パルスレーザー砲の冷却タンクを交換していた永倉が、翡翠色の空を指差しながら嬉しそうに叫んだ。

 

 見なくても分かる―――先ほど飛び立っていった迎撃戦闘機、コスモセイバー隊が敵艦隊への攻撃を終えて戻ってきたのだ。

 

「ミサイルを使い果たしたんだ」

 

「何隻やったんだ?」

 

「馬鹿野郎、そりゃア大漁よ。あれだけミサイルぶっ放して収穫ゼロなんて無いだろうさ」

 

 若手の空間騎兵隊員たちが口々に言う。

 

 冷却液の交換が終わった事を受けた斉藤は、手元にあるハンドルを回してパルスレーザー砲を旋回させた。

 

 翡翠色の空にはまだ、例のカブトガニのようなガトランティスの攻撃機が残っている。ミサイルやレーザー誘導爆弾を使い果たし、レーザー砲や機銃だけになってもまだ果敢に機銃掃射をかけてくる。

 

 カブトガニの機動力がそれほど高くない事は分かっている。コスモタイガー隊との戦闘では、一方的とは言わないが簡単に背後を取られ、たらふく機銃を撃ち込まれて撃墜されているのを何度も見た。

 

 どちらかというとあの機体は、頑丈さと固定武装の多さを生かし敵艦隊や拠点を攻撃するのに向いた攻撃機なのだ。機動力不足は物量か、背面に搭載した回転砲塔による銃撃で補っているのだろう。

 

「古橋ィ!」

 

「隊長、右30度、仰角60度ぉ!!」

 

 副官の古橋が叩き出した数値通りに仰角をセット、足元にある発射ペダルを踏み込んだ。

 

 パルスレーザー砲から紅いレーザーが放たれ、翡翠色の空へするすると伸びていく。

 

 やがてそれはコスモタイガーⅡを振り払おうと旋回を繰り返していたカブトガニのどてっ腹を盛大に撃ち抜いた。いくら装甲が分厚かろうと、艦艇に搭載されているパルスレーザー砲の威力の前にはどうしようもない。

 

 大穴を穿たれたカブトガニが黒煙を吐き出しながら錐揉み回転、そのまま斜めに落ちていった。

 

「さすが隊長!」

 

「よっ、撃墜王!」

 

「浮かれてんじゃねえ、警戒を続けろ!」

 

 ガト公共はすぐに攻撃してくるぞ、と部下たちを叱責した次の瞬間だった。

 

 その時、斎藤は―――空間騎兵隊の面々は、空が焼けたものと思った。

 

 翡翠色の空が真っ赤に焼け爛れたかのように染まったかと思うと―――ごう、と空気を引き裂くような音と熱風が装甲宇宙服の表面を撫でていた。

 

 赤々と燃え盛る炎の雨が、第十一番惑星駐留軍の基地へ降り注いでいた。まるで太陽から吹き上がる無数のフレアをぶちまけているかのように、燃え盛る超高熱、超高圧のエネルギー弾が土砂降りのように大地を穿ち、基地を焼き尽くし、呑み込んでいく。

 

 加害範囲内を友軍の航空機が飛んでいようと、その砲撃は容赦がなかった。コスモタイガーⅡとドッグファイトを繰り広げていたカブトガニ諸共にコスモタイガーⅡが炎の雨に呑まれて蒸発、爆炎すら残さず消滅してしまう。

 

 その炎の雨は基地だけでなく、着陸のためのアプローチに入っていたコスモセイバー隊にも襲い掛かった。着陸のため減速していたコスモセイバー隊には、機体の元々の鈍重さもあって回避する手段はなかった。

 

 1機、また1機と炎の雨に呑まれ、掠めて主翼を融解させ、友軍機と衝突し火球と化していく。

 

 炎の雨が高射砲陣地にも迫ってくるのを見るなり、斎藤は叫んだ。

 

「伏せろ、塹壕に逃げろ!!」

 

 傍らにいた永倉を半ば突き飛ばすように、そのまま一緒に塹壕へと転がり込んだ。

 

 そこから先は何が起きたか、全く分からなかった。耳を聾する爆音に熱風。生きたままオーブンに放り込まれたかのような熱風が装甲宇宙服を撫で、塹壕に遮られたなけなしの視界の先では紅蓮の炎が乱舞する。

 

 この時初めて、斎藤は神に祈った。

 

 敵の攻撃が落ちてきませんように、部下たちが無事でありますように、と。

 

 やがて、砲撃が止んだ。

 

 しんと静まり返った第十一番惑星の大地―――塹壕内に隠れていた永倉の安否を確認するや、斎藤は塹壕から身を乗り出した。

 

「……!」

 

 その先にあったのは、変わり果てた第十一番惑星の姿だった。

 

 基地のあった場所には燃え盛る廃墟だけが残され、滑走路は砲撃で穴だらけになっていた。こうなってしまえばもう、航空機の出撃や着陸は出来ない。第十一番惑星守備隊は航空戦力を実質的に封じられたようなものだった。

 

 大地は焼け、燻り、無数の兵器の残骸や兵士たちの焼死体がいたるところにあった。

 

《各……隊……徹底…戦……ゲリラ……抵抗を……希望…捨…な……!!》

 

 無線機から聞こえてくる、ノイズ交じりの更科指令の声。

 

 そうかよ、と斉藤は歯を食いしばった。

 

 黒煙立ち昇る、くすんだ翡翠色の空の向こう。

 

 ガトランティスの艦艇や強襲揚陸艇が緩やかに降下してくるのを睨みながら、斎藤は背負っていた突撃銃に手をかけた。

 

 

 

 

 

(俺の目の黒いうちは、この星をやらせはしねえ……!)

 

 

 

 

 

 絶望の序章は、始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

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