さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
暗黒の海原に、波紋が生じた。
やがてそこから生じた重厚な舳先が、空間を突き破る。船体の表面に付着した氷が剥がれ、第十一番惑星の付近に浮かぶ人工太陽の輝きを反射して、エメラルド色の輝きを放った。
「ワープ終了」
一足先にワープアウトした護衛艦と駆逐艦に続き、グレーとネイビーカラーに塗装されたパトロール艦『ゆうなぎ』も通常空間に姿を現す。船体を覆う氷を脱ぎ捨てたゆうなぎの舳先、その進路上には翡翠色に輝く美しい惑星があった。
太陽系第十一番惑星―――星間国家たる地球の領土、太陽系の最果ての星であり対ガトランティス戦線の最前線。そう呼べば確かに聞こえは良いが、その実態は地球防衛軍が扱いに困る人材を送り込む左遷先、実質的な流刑地である。
ガトランティスとの戦いに明け暮れ、その中であわよくば死んでくれれば口封じも出来て一石二鳥―――そんな軍上層部の思惑が透けて見えて、土方は溜息をつく。
あそこが土方の新たな配属先―――波動砲艦隊計画に異を唱え、芹沢から厄介者として見做された土方も、流刑地などと陰口を叩かれる第十一番惑星へと降り立つこととなった。
だからなのだろう。第十一番惑星まで土方を送り届けるのにこのパトロール艦ゆうなぎだけでも十分だというのに、随伴艦が3隻も同行するなど異例にも程がある。
艦橋の窓の向こうには、磯風型突撃宇宙駆逐艦に代わる新型駆逐艦の、葉巻を彷彿とさせる船体が見えている。そして艦列の先頭には艦首に小型波動砲を搭載した護衛艦『はつづき』の艦尾があり、第十一番惑星へ黙々と進んでいた。
一応は「道中、もし土方指令の身に何かがあったら大変だ」という名目でついた護衛ではあるが、しかしその実態は監視役、あるいは護送役と見るべきなのだろうな、と土方は思った。
防衛軍上層部―――芹沢からすれば、土方は軍の方針に逆らう厄介者だ。しかもガミラス戦役の頃からその手腕で多くの作戦の立案や指揮を執ってきた古強者、軍内部には彼を慕う若い将兵も多い。土方が声を大にして波動砲艦隊計画に反対の立場を露にすれば、やがてその意見はかつてのヤマト乗組員を中心に伝播、軍内部に軋轢を生む事になりかねない。
だから芹沢からすれば、土方もまた第十一番惑星に封じ込めておくのが一番なのだ。軍としてはガトランティス相手に陣頭に立って戦う軍神・土方指令と喧伝しプロパガンダに利用できるし、あわよくば戦死してくれればそれで波動砲艦隊反対派の旗振り役はいなくなる。封じ込めさえすれば都合の良い事しかないのだ。
その傲慢さには腹が立つが、それよりも土方が気に入らないのは彼の戦友、沖田が命を懸けてイスカンダルまで航海し、持ち帰ったコスモリバースシステムで蘇った地球をこのような軍事国家に変えようとしている事だ。
確かに現実を見れば、ガトランティスという未知の脅威がすぐそこまで迫っている。今ここで軍拡を推し進め力を用意しなければ、地球に待っているのは今度こそ人類滅亡の未来であろう。軍事力とは祖国を守るための盾であり、侵略者に対抗する手段であるという事はこれまでの歴史も証明している事である。
しかしイスカンダルが救いの手を差し伸べたのは地球を軍事国家にするためではないし、第一、沖田が今の地球を見たらどう思うか……理性では現状を打開するために何が必要かは理解しているが、しかし感情ではそれを受け入れられない。
「おかしいですな」
自分の決断と行動は果たして正しかったのか、と理性と感情の間で板挟みに苦しむ土方の隣に立つ藤村艦長が、首を傾げながら言った。
「迎えの艦隊がいない……?」
「基地を呼び出してみます」
「やってみてくれ」
「はっ」
思考の海に意識を向けていた土方も、艦橋でのやりとりを耳にして意識を自らの外へと向ける。
藤村艦長の言う通りだった。
予定通りであれば、今頃既に出迎えの艦隊が見えている筈だ。第十一番惑星駐留艦隊の旗艦『フォレスタル』―――ガミラスから供与された(というより扱いに困る艦を押し付けられたというべきか)ゲルバデス級の地球仕様と、艦隊を預かる武藤艦長の姿が見えてもおかしくない筈である。
しかし既に第十一番惑星に十分近付いているというのに、艦隊が迎えに来る様子が無いのだ。
何かがおかしい。時間を間違えたか、と普通の軍隊では考えられない可能性にまで視野を広げた土方の耳に、「ダメです、基地との通信が繋がりません」と通信士の報告が飛び込んでくる。
通信設備に異常が発生しているのか―――事故の可能性を疑い始めたその時だった。
「艦長、惑星表面で閃光を観測」
「なに?」
「どうやら……せ、戦闘が繰り広げられている模様です」
そんな馬鹿な、と藤村艦長が言いかけたそこで、土方は気付いた。
艦橋の窓の外―――すっかり焼け焦げているものの、辛うじて『011-663A』と艦籍番号が記載された装甲の一部のようなものが、デブリに混じって浮かんでいる事に。
011から始まる番号は第十一番惑星駐留艦隊所属を意味する。そしてその後に続く663Aは、駐留艦隊の中でも巡洋艦や戦艦に割り振られる数字だ。
まさかアレはフォレスタルの残骸ではないか―――嫌な予感が背骨を伝って全身を駆け巡ったのと時を同じくして、見張り員が声を張り上げる。
「く、9時方向に重力振―――」
報告が終わるよりも先に、艦隊の左舷を航行していた駆逐艦『さみだれ』の左舷、ちょうど艦橋とその前方に搭載された対艦ミサイルVLSの中間に、一発の空間魚雷が深々と突き刺さったのである。
戦闘時ではないため波動防壁も展開していなかったさみだれの船体が、着弾時の衝撃で
紅蓮の火球と化したさみだれ。火達磨になった艦首が、黒煙を纏いながらどこかへと流れていった。
「さ、さみだれ轟沈!」
「何だ、何があった!?」
「魚雷攻撃です!」
「対空監視、何をしていた!?」
艦長の怒号と艦内に響き渡る警報。先ほどまでの静寂はどこへやら、それほど広いわけでもないパトロール艦の艦橋内部があっという間に戦闘時の喧騒に包まれる。
「レーダー監視を厳となせ!」
「ダメです、ジャミングを受けています! レーダーが……!」
「くっ……!」
「2時方向に重力振!」
「魚雷が来ます!」
「対空戦闘!」
「対空戦闘!」
一足先に混乱から立ち直った護衛艦『はつづき』が、ゆうなぎに先んじてパルスレーザーの火線を迸らせた。加圧されたガスをプラズマ化して放つパルスレーザーが魚雷の穂先を撃ち抜き、暗黒の海原に火球を生じさせる。
「敵艦は確認できるか?」
「目視出来ず! 何もいません!」
「何もいない? バカな、そんな話があってたまるか!」
「……」
喧騒の中、土方は考える。
ヤマトがイスカンダルへと向かった長大な航海の最中、このような攻撃を受けたという報告を見かけたような気がするのだ。それによると敵艦の正体はガミラスが建造した試作型の兵器、次元潜航艦―――異次元の底に潜み、こちらからは手の出しようのない別次元から一方的に魚雷攻撃を仕掛けてくる強敵。従来の潜水艦に相当する兵器であるという。
もしかしたらそれなのではないか。確かにそうであれば、魚雷攻撃の前に空間振が観測されたのも辻褄が合う。
が、しかし。
―――それは相手がガミラスであればの話である。
今の相手はガトランティス。純粋な技術力であればガミラスの後塵を拝しており、彼等の運用する艦艇や兵器をガミラスの物と比較すると頑丈であれど粗削りであり、全体的な完成度では劣るものとされている。
そんなガトランティスに、ガミラス叡智の結晶たる次元潜航艦を模倣できるだけの技術力があるとは思えない。何か別の兵器ではないか……?
常識的な思考が決断を鈍らせる中、立て続けに魚雷接近の報告が艦橋に響いた。
「8時方向及び3時方向、魚雷接近! 雷数4!!」
「回避運動、波動防壁緊急展開! 敵艦の索敵を―――」
「―――対潜戦闘用意!」
「し、司令……?」
艦橋の中が、土方の一声でしんと静まり返った。
対潜戦闘―――対艦ではなく、対潜戦闘と言ったのか。艦長席に座る藤村艦長の驚いたような顔が、確かにそう告げている。
「次元ソナー起動、ソノブイ投射。亜空間短魚雷及び亜空間爆雷攻撃準備。各艦に伝達、対潜警戒を厳となせ」
「しかし指令、ガトランティスが次元潜航艦など……」
「……確かに、保有しているという情報はない」
だが、と土方は懸念を続けた。
「―――もし、新たに建造しそれを投入してきたのだとしたら?」
「……っ!」
艦橋の窓の向こう、パルスレーザーで撃ち抜かれ、あるいは投下されたデコイに騙された魚雷が爆発し、緋色の閃光が後光となって土方を照らした。
ありえない話ではない―――ガトランティスとて”蛮族”と呼ばれている種族だが、しかしその技術力は日に日に増していると聞いている。
それだけではない。ガミラス側からの情報開示によると、次元潜航艦の試作段階において、実験中の艦が次元潜航中に行方不明となる事故も発生しているという。ではもしそれがガトランティスの勢力圏に流れ着き、彼らがそれを徹底的に解析して模倣したのだとしたら―――そしてそれが、今まさに土方たちに牙を剥いている兵器の正体だとしたら?
「ありえないなどという事はありえない……悪い冗談のようだが、現実だ」
受け入れろ、さもなくば死ぬぞと藤村艦長に告げると、艦長は汗を浮かべながら頷いた。
単なる移送任務の筈が、まさかガトランティスの侵略に居合わせる事になろうとは、きっとこの艦隊の誰もが予想していなかった事だろう。
だがしかし、残酷な現実は最悪なタイミングで訪れるのが世の常だ。
それはヒトが大宇宙に進出した今となっても、何ら変わらない。
「テロン艦1隻撃沈」
雷撃手からの報告に、発令所で腕を組むガトランティス軍指揮官の1人、コズモダート・ナスカは満足げに笑みを浮かべた。
ガトランティス軍の保有する兵器は、他の勢力から得たものを解析し転用した代物が多い。実に7割がそういった技術の簒奪で得た兵器であり、彼等の乗るこの新造艦―――『カラル級奇襲型次元潜航艦』もそうした技術の簒奪により建造が可能となった新兵器である。
元と言えば、これはガミラスの技術だ。たまたま次元潜航実験の際に消息を絶ち、次元境界面から通常空間へと飛び出して遭難していた実験艦を拿捕、それを徹底的に解析し少数生産したものだ。
ガミラス軍の次元潜航艦がかつての地球のUボートを思わせるのに対し、ガトランティスのカラル級は葉巻型の船体をしている。宇宙空間に溶け込むような紺色の塗装に、艦首にはガトランティス艦の特徴である複眼状の発光部がある。魚雷発射管はその発光部を取り囲むように左右4門、合計8門搭載され、同様のものが艦尾側にも4門装備されている。
その他の兵器は回転砲塔が前部甲板に1基、艦橋の左右に対空用の小型回転砲塔を1基ずつ備えているものの、あくまでも主兵装は魚雷だ。異次元の海に潜み、一方的な攻撃を仕掛けるのがこの艦の役目なのである。
「パラカス艦隊はどうなっている」
「惑星表面への降下を開始した模様」
「ふっ……これではメーザー提督が到着する前に終わってしまうな」
当初、惑星への降下と制圧はコズモダート・ナスカ率いる艦隊が行う予定であり、次元潜航艦隊は制圧後の惑星近辺の空間封鎖を担当、十一番惑星救援へとやってくるであろう艦隊を奇襲し足止めする役目を与えられていた。
しかし作戦開始直前になって、惑星制圧の役目は急遽任務に捻じ込まれる形で参加となったパラカスに任される事となり、ナスカは副官と共に次元潜航艦隊の指揮を執る事となった。
それがたまらなく面白くない。
誰が好き好んで、敗軍の将に自分の艦隊を預けなければならないのか。
しかしそれが全能なる大帝の決断ともなれば不満を口にする事も出来ず、こうして異次元の底で燻り続けることしかできなかった。
その鬱憤を晴らせる相手が現れた事に、彼は喜んでいた。
「よし、この調子でテロン人共を血祭りに上げろ」
「はっ」
聞くところによると、テロン艦隊には次元潜航艦を攻撃可能なオプションは存在しない。
あの
だから殴り返される事はない―――そんな慢心が、コズモダートの思考をより一層嗜虐的なものに塗り替えていた。
カラル級奇襲型次元潜航艦
武装
・艦首魚雷発射管×8
・艦尾魚雷発射管×4
・100mm回転砲塔×1(前部甲板)
・58mm対空小型回転砲塔×2(セイル左右)
ガトランティスが建造した次元潜航艦。全長168m。実験中に遭難したガミラスの試作次元潜航艦を拿捕、徹底的に解析した結果生まれたガトランティス版の次元潜航艦。ガミラスのものとは異なり葉巻型の船体を有し、艦首にはオレンジ色の発光部が存在する。
しかしながら技術的にガミラスのものと比較すると未成熟であり、次元潜航システムの信頼性もそれほど高くなく、試験段階では少なくとも9隻が再浮上できなくなり除籍となるなど、問題も抱えている。
※外見は旧作ヤマトの潜宙艦をご想像ください。ほぼアレです。