さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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対潜戦闘

 

「亜空間短魚雷、亜空間爆雷、発射準備完了!」

 

「次元ソナーに感、距離80000宇宙キロ!」

 

 やはり居たか、と土方は目を細めた。

 

 次元潜航艦―――異次元の海を泳ぐ、宇宙の潜水艦だ。通常空間と異次元空間を自由に潜航、浮上する能力を持ち、異次元空間から一方的な魚雷攻撃を可能とする特殊兵器である。

 

 ガミラスが初めて実用化したそれを、ガトランティスも投入してきたのだ。

 

 彼らが独自の技術で実用化させたのか、それともガミラス側から何らかの形で技術が流れたのか真相は定かではない。が、それが自分たちの目の前に立ちはだかっている事は事実であり、今に限ってはその技術的ルーツがどこからのものなのか、それは重要ではない。

 

 イスカンダルへの航海の際、ヤマトが遭遇したガミラスの次元潜航艦。その際は対潜オプションを持たないため手も足も出ず、次元潜望鏡を破壊して逃げるのが精一杯であった、とヤマトからの報告で聞いている。

 

 相手からの反撃を恐れる事無く一方的に攻撃し続ける事が出来る兵器―――ガトランティスもその強みを前面に押し出すためにこうして次元潜航艦を投入していたのだろう。

 

 確かに、地球艦隊では手も足も出ない―――そう、昔の地球艦隊ならば。

 

「亜空間短魚雷、1番2番、撃て!」

 

「発射!」

 

 パトロール艦『ゆうなぎ』、護衛艦『はつづき』、駆逐艦『はるさめ』の艦首に搭載された魚雷発射管―――来たるべき対潜戦闘を想定して搭載されていた特殊な魚雷が、ついに撃ち出された。

 

 ロケットモーターで前進していたそれは、やがて充填されていた燃料を使い果たすや、慣性で前進しながら後端部のロケットモーターを切り離す。

 

 そこから姿を現したのは、水上艦艇のスクリューを思わせるプロペラだった。

 

 スクリューが回転を始めるや、魚雷の後方に”泡”のような気泡の軌跡が浮かび上がる。

 

 やがて魚雷たちが蒼い光と気泡を放ちながら、異次元空間へと潜航していった。

 

 ―――『亜空間短魚雷』。

 

 ヤマトと次元潜航艦のデータを元に、ガミラス側から開示、あるいは産業スパイを潜り込ませて得たデータを利用して作り上げた、地球製の対潜兵装である。

 

 母艦から発射された魚雷は従来のロケットモーターで敵艦の潜行しているであろう宙域まで前進、そこでロケットモーターを切り離し次元潜航用機関―――『ゲシュ=ヴァール機関』を起動。次元潜航を行い、異次元の海の底に潜む敵の次元潜航艦を撃沈するという兵器である。

 

 次元潜航艦を相手に手も足も出なかった地球人類が新たに手にした、必殺の矛だ。

 

 一発製造するのに駆逐艦0.8隻分という高コストではあるが、しかしそれでもあのヤマトが手も足も出せなかった次元潜航艦に対抗できるという事実は大きく、軍拡真っ最中の今となってはそれなりの数が製造、配備され、多くの駆逐艦やパトロール艦などの補助艦艇に搭載されている。

 

 中には対潜兵装を重視して搭載した”次元潜航艦狩り部隊”も存在するというが……。

 

「亜空間短魚雷、亜空間へ突入を確認」

 

 報告を聞くや、水雷長が懐から懐中時計を取り出した。

 

 今では何でもデジタルだというのに、アナログな趣味を持つ人間というのも一定数存在するものだ―――そう思いながら土方は、真っ先に沖田(今は亡き戦友)の姿を思い出し、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナスカ指令、次元境界面で振動を検知」

 

「なに?」

 

 腕を組み、高みの見物を決め込んでいたコズモダート・ナスカは眉をひそめた。

 

 次元境界面での振動―――つまりはこちらから発射された魚雷が亜空間から通常空間へ飛び出したか、あるいはその逆の現象が起こったという事だ。

 

 次元境界面は不思議な事に、水と同じ振る舞いを見せる。何かが飛び込んだり飛び出したりすれば、その表面に波紋にも似た揺らぎを生じさせるのだ。次元潜航艦にはそれを検出するための次元センサーも搭載されており、魚雷の射程距離内であればそれを検知できる。

 

 さて、惑星レピメア(第十一番惑星のガトランティス側での呼称だ)攻略のために投入された3隻のカラル級次元潜航艦の動きをここで思い起こす。魚雷の発射は特に命じておらず、今は3隻の次元潜航艦全てが最適な狙撃位置への移動の最中だ。

 

 つまり次元境界面で何らかの揺らぎが生じたという事は―――何かがこちら側に飛び込んできた、という事だ。

 

 まさか、とナスカの顔が引きつった。

 

 そんなはずはない。テロン人が、よもや”対次元潜航兵器”を保有しているなど。

 

 つい数年前までは、ガミラスの次元潜航艦に成す術もなく一方的に殴りつけられるばかりだった地球人たち。ガトランティスですらその技術の習得から実用化までに4年かかったのだ。次元潜航技術はガミラスにとっての最高機密(トップシークレット)の1つ、いくら同盟国が相手とは言えホイホイ渡していいものではない。

 

 次元潜航艦、その実験艦を拿捕する事に成功したガトランティスと技術供与を貰えぬ立場の地球では、その技術開発に対するハードルがそもそも違うのだ。

 

 しかもそれをわずか4年で実用化まで漕ぎつけるなど―――本当に4年前まで、遊星爆弾攻撃で赤く干上がった星で絶滅の時を待っていた種族の軍隊なのか? その底力はいったいどこにある?

 

 部下からの報告が決してセンサーの誤動作でない事は、「司令、スクリュー音が」と報告してきたソナーマンから半ばひったくるようにして受け取ったヘッドセットを耳に当てた時点で確信した。

 

 宇宙の音―――流れる水の音にも似た亜空間の音。

 

 その中をキュルキュルと、回転する何かと(シャフト)がこすれ合うような音を発する”何か”がこちらに接近してきては、すぐ脇を通過し後方へと抜けていくのが分かる。

 

 外れたのだろうか。

 

「下手くそめ、どこを狙って―――」

 

「―――指令、魚雷が”アラドス”に向かっています」

 

「なに?」

 

 ヘッドセットの向こうから爆音が聞こえたのは、その直後だった。

 

 決して魚雷の諸元入力を間違えたわけではない。地球艦隊の狙いは最初から僚艦の1隻、アラドスだったのだ。

 

 事実、先ほど魚雷を発射し駆逐艦『さみだれ』を轟沈に追いやったカラル級次元潜航艦『アラドス』は、亜空間魚雷が次元境界面を飛び出して、地球艦隊へと向かっていった方向から大まかな位置を既に特定されていたのである。

 

 反撃されるわけがない、殴り返される筈がない―――そんなガトランティス側の慢心が、致命的な結果を生んだ。

 

 さみだれの仇と言わんばかりにアラドスの葉巻型の船体、その艦首側にある発光部へ、パトロール艦ゆうなぎから発射された魚雷が突き刺さる。信管が動作して炸裂してから間髪入れずにはつづきの魚雷がセイルを突き破って炸裂、セイル直下の発令所に居た艦長たちを爆風で引き裂き、艦を機能停止に追いやった。

 

 最後にはるさめの魚雷が船体の腹を直撃し、アラドスは満足に退避する猶予も、そして乗員が脱出ポッドに乗り込む暇すらも与えられず、亜空間の底へと沈没していく事となった。

 

「アラドス、轟沈……」

 

「馬鹿な……嘘だ、そんな……」

 

 敵はやられるばかりではない。

 

 結局のところ、ナスカは舐めていたのだ。

 

 地球人類(テロン人)を。

 

 全力で生きようと足掻く、ヒトの底力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――時間です」

 

 懐中時計を手に時間を数えていた水雷長が落ち着いた声で告げた直後だった。

 

 ずん、と何もない空間から、青白い気泡にも似た物質を大量に含んだ水柱のようなものが吹き上がった。あの気泡のようなものは亜空間の中を流れる星間物質で、通常空間に飛び出すとあのように泡のように見えるのだそうだ。

 

 それはまるで、かつての地球の海を思わせた。暗黒の海原、そこを征く宇宙海軍とはよく言ったものである。

 

「敵艦、機関音の停止を確認。沈んでいきます……!」

 

 ソナーマンからの報告で、艦橋の中で歓声が沸き起こった。

 

 副長も拳を握り締めて笑みを浮かべ、「どうだ見たか、ガトランのミドリムシ共め!」と聞こえる筈もない罵声を浴びせている。

 

「気を抜くな、まだいる筈だ。対潜警戒を厳に」

 

「はっ。ソナー、しっかり聞いてろよ」

 

「任せてください。ガミラスの次元潜航艦の音紋と比べると、ガトランの次元潜航艦はずいぶん騒がしいですからね」

 

 得意になって言うソナーマンだが、しかし事実であった。

 

 やはり工作精度の差なのだろう―――本家たるガミラスの次元潜航艦と比較すると、ガトランティスの次元潜航艦の機関は随分と騒がしい。先ほどヘッドセットを拝借して土方も音を聴いてみたが、ゴリゴリと何か部品が激しくこすれ合っているような、今にも壊れそうな音が聴こえてきた。

 

 ヤマトが持ち帰ったガミラスの次元潜航艦の音紋はもっと小さく、実際の音声データも静かなものだった。亜空間の底に潜む狩人、と評するべきであろう。

 

 しかしガトランティスの次元潜航艦はそんなものではない。向こうの座標を探知する術もなければ反撃する手段もない事に高を括ったのか、それとも単なる技術力の差なのかは定かではないが、まるで太鼓を打ち鳴らしながら大声で歌っているような、そんな騒がしさがある。

 

 少なくとも、静かに獲物を待ち必殺の一撃を見舞うガミラスのものにはまだほど遠い。

 

 しかし、今回は相手がガトランティスだからまだ良かった。実用化間もない量産型の次元ソナーと次元ソノブイの連携による索敵、そして亜空間短魚雷による反撃は実用化こそされているものの、対亜空間兵器としてはまだ地球では黎明期にあたる。不安定で信頼性も低く、生じた以上を逐次修正・アップデートしながら運用している段階だ。

 

 もしこれがガミラスの次元潜航艦を相手にする事になっていたならば、こうも上手くはいかなかっただろう。

 

「ソナーに感、9時方向!」

 

「亜空間爆雷投射!」

 

 後部甲板に搭載された爆雷発射機が旋回、ゆうなぎとはつづきから大量の爆雷が投射される。

 

 やがて爆雷たちは次元境界面に接触、同じく蒼い気泡のようなものを発しながら亜空間の海の中へと沈んでいった。

 

 大昔に対潜兵器として使用されていた爆雷『ヘッジホッグ』を思わせる亜空間爆雷たち。標的にされたカラル級次元潜航艦『ゲレガル』は大慌てで逃走を図るが、しかしガトランティスの次元潜航艦はあまりにも鈍重が過ぎた。

 

 武装を優先し、更に可能な限りサイズダウンをするために艦内容積にも余裕がなく、機関出力も二の次にされた結果だった。ゲレガルが動き出した頃には既に船体の周囲には沈降してきた亜空間爆雷が浮遊していたのである。

 

 発令所でソナーマンと艦長が顔を蒼くした頃には、爆雷たちは一斉に起爆していた。

 

 やったか、と水雷長が呟く。巨大な水柱にも見える星間物質の隆起、それはゆうなぎの艦橋からもはっきりと見えたが、その中には確かに残骸のように見える物体も紛れている。

 

 ソナーマンからの報告を待っていると、唐突に次元境界面から何かが盛り上がるのが見えた。泡のような星間物質をかき分け、葉巻型の船体が浮上してきたのだ。

 

 紺色に塗装された船体の艦首にある発光部は、瀕死なのかその輝きは弱々しい。船体各所はズタズタになっていて、セイルや船体にあったはずの安定翼は千切れていた。

 

 しかしそれでもまだやるつもりなのだろう、損傷し緊急浮上してきた敵艦は、前部甲板に搭載された回転砲塔を回転させ、緑色のビームを矢継ぎ早に射かけてきたのである。

 

「主砲、撃て!」

 

 ゆうなぎ、はつづき、はるさめの3隻に搭載された12.7㎝連装ショックカノンが立て続けに火を噴いた。蒼白い陽電子の束がカラル級の船体に面白いほど突き刺さり、ガトランティスの次元潜航艦は瞬く間に火球と化した。

 

「敵艦撃沈! 2隻目です!」

 

「よし、いける……いけるぞ……!」

 

 次元潜航艦の2隻目の撃沈という大戦果に、艦長も喜びを隠せないようだった。

 

 しかし、敵艦はまだいる―――それに第十一番惑星も、ガトランティスによる襲撃を受けている最中だ。

 

 ここはいったん引いて増援部隊と共に惑星奪還を目論むべきか。戦果を挙げつつも表情を表に出さず、腕を組んだまま押し黙る土方であったが、しかし歓喜に湧き立つ乗員たちに、それ以上に残酷な現実が冷や水を浴びせる。

 

「―――空間振を検出、何かがワープアウトしてきます」

 

「なに?」

 

 友軍―――ではないだろう。

 

 このジャミングの嵐の中で、第十一番惑星襲撃の知らせを味方艦隊が受け取った可能性は限りなく低い。

 

 ということは―――敵の増援か。

 

 メインパネルにその光景が映し出された。

 

 唐突に蒼く裂け、広がる空間。そこから白いガスのようなものを纏った何かが次々に飛び出してきたのである。

 

 やがてガスが晴れ、その中からガトランティスの艦艇が姿を現した。ぐるぐるとなおも回転する船体をスラスターの噴射で安定させ、次々に後続艦が同じように通常空間へと飛び出してくる。

 

 ラスコー級やククルカン級と言った見慣れた艦の中に、一際大きな戦艦が4隻ほど紛れているのを土方は見逃さなかった。

 

 それはまるで、深海魚を思わせた。安定翼やフィン状の物体が幾重にも取り付けられたどっしりとした船体には回転砲塔がこれでもかというほど搭載されており、塔の如く聳え立つ艦橋にも砲門らしきものが搭載されている―――いや、違う。砲門を何段も積み重ね、あの塔のような艦橋を形作っているのだ。

 

 全身に兵器を搭載したかのような、推定500mオーバーの超弩級戦艦。

 

「だ、大戦艦……!?」

 

 通信士が震える声でそう言った。

 

 間違いない、ガトランティスの戦艦だ。

 

 今まで戦っていた部隊は先鋒、露払いに過ぎない。

 

 ついに、ついに惑星攻略軍の本隊がやってきたのだ。

 

 

 

 

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