さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「はぇー、やっぱり似てるなぁ」
艦橋の窓の向こうに見える艦影を見ながら、太田がそんな事を呟いた。
ヤマトの艦橋の向こうには、ヤマトに瓜二つな宇宙戦艦と、そして後ろ姿が似ても似つかぬもう1隻の宇宙空母の姿が見える。
「似てるのは当たり前ですよ」
レーダー監視を行いながら、西条が少し呆れたように言う。
「ムサシもシナノも、ヤマト級の同型艦なんですから」
地球の海底ドッグから無断出撃し、アンドロメダの追撃も振り切ったヤマト。そのヤマトの航海を”監視”するために派遣された2隻の戦闘艦は、何の因果かどちらもヤマトの姉妹艦であった。
ヤマト級二番艦『ムサシ』と、三番艦『シナノ』である。
イスカンダルへの航海の際、真っ先に完成・就役し赤く焼け爛れた地球を飛び立ったヤマト。その姉妹艦であるムサシ、シナノ、そして四番艦『キイ』は完成が遅れ、就役したのはヤマトが冥王星のガミラス軍基地を撃滅した頃であったとされている。
その際、この2隻のヤマト級については意見が割れた。『今すぐヤマトを追わせ、3隻でイスカンダルへと向かいヤマト計画を確実なものとすべし』という意見と、『ガミラス軍がヤマトの進路を回り込む形で地球にトドメを刺しに来る可能性も否定できないのだから、この2隻は地球の守りに就かせ、万が一ヤマト計画が失敗した場合に備えイズモ計画発動時に用いるべし』という2つの意見が、地下の司令部で激突したのである。
結果として採用されたのは後者の意見だった。
無理もない話である。当時の地球には戦える戦闘艦が損傷の癒えぬキリシマただ1隻のみとあっては、万一ガミラスがヤマトの進路を両側面から回り込む形で進軍、地球本土進攻を始めたとあっては、母星を守るどころか人類脱出の時間稼ぎにすらならない事は明白であり、ムサシとシナノは共に地球に残留、地球の守りとイズモ計画という保険の発動に備える事となった。
その後、ヤマトがバラン星を突破し亜空間ゲートに突入したのとほぼ同時期に、最も遅れていた四番艦キイも無事就役。その後は次期戦闘艦開発のためのテストヘッド、つまるところ”試験艦”として運用され、今に至る。
ヤマト級四姉妹のうち次女と三女も、長女ヤマトのテレザート行きに同行するのはこれ以上ないほど心強い事だ。
それに―――。
「古代艦長代理、ムサシの栗田艦長がいらっしゃいました」
相原が報告すると同時に、艦橋のエレベーターの扉が開いた。真っ黒な艦長用のコートに身を包んだ大柄な中年の男性が、ゆっくりとヤマトの第一艦橋に足を踏み入れてくる。
まるで戦国武将のような迫力があった。筋骨隆々で眼光は鋭く、そろそろ退役が秒読みに入っている年齢であるにもかかわらず”老い”という言葉は全く似合わない。軍服ではなく鎧姿であったならば、その威圧感は軍人というよりも戦国時代を生き抜いた
軍服の肩にあるのは、准将の階級章だった。
敬礼で出迎えると、ヤマトを訪れた栗田も敬礼を返し、そっと艦長席の方に視線を向けた。
そこに座っているべき人物は、もういない。
代わりに艦長席の後方に、かつてのヤマト艦長―――沖田十三を模ったレリーフが安置されており、イスカンダルへの航海を成功に導いたクルーたちを暖かく見守っている。
ああ、もうこの人はいないのだ―――古代には、そんな哀愁が栗田の瞳に宿ったように思えた。
「お久しぶりです、栗田艦長」
「久しいな古代、それに島」
にっ、と笑みを浮かべる栗田の顔は、あの時から変わっていない。
「士官学校以来か」
「ええ、そうなります」
士官学校時代の頃を思い出す。栗田は第一次火星沖海戦で乗艦だった村雨型宇宙巡洋艦『テンリュウ』を撃沈に追い込まれるも辛うじて乗員と共に脱出、その際負傷し、以降は士官学校で教鞭を振るう立場となっていた。
指導者から艦長の役職に復帰したのは、単純にムサシという宇宙戦艦を任せられる人材が他に居なかったからであろう(噂では山南指令も候補に挙がっていたのだそうだ)。
「……今回の航海、行動方針については先ほどデータで送った通りです。艦隊の指揮はぜひ栗田教官に」
「馬鹿を言うな、指揮は君が執れ」
ぴしゃりと言う栗田に、島は困惑した。
確かにヤマトの乗組員は経験豊富で、無事にイスカンダルへの航海から帰還したばかりの精鋭揃いである。だがしかし、それは沖田艦長という優秀極まりない司令塔がいたからこそと言っても過言ではなく、1隻の戦艦の指揮を執るならばまだしも、その同型艦3隻からなる艦隊を指揮せよとなると、そのハードルが一気に上がるのは言うまでもないだろう。
しかし、栗田ならばそう言うのだろうなと薄々勘付いていた古代は、唇をぎゅっと固く結びながら栗田の顔を見上げるばかりだった。
「私が指揮を執ってもいいだろうが、本当にそれでいいのか?」
「……と、仰いますと?」
「古代、お前……」
古代の顔を見下ろし、栗田は目を細めた。
「―――随分と重い
「……」
「ふん、目を見れば分かる。昔のお前の目はもっと輝いていた……だが、今はどうだ」
やはり、見抜かれていた。
地球を飛び立った日から―――いや、ヤマトに波動砲を再装備する、と真田が言い出した時から、古代の胸中を渦巻いている”何か”。それは栗田の言う通り、きっと十字架であったのだろう。
罪人が背負うもの―――その罪を悔い改めさせるための責め苦、古代の背中にずっしりと重くのしかかるそれの正体は、彼が抱く罪悪感そのものだ。
コスモリバースシステムを地球へと供与したイスカンダル。しかし今の地球は新たな敵の出現を前に、軍拡路線をひた走っている。
復活したらしたでコレなのだ―――いったいイスカンダルに、スターシャにどう顔向けをすればいいのだろうか。
心の奥底に黒く、深く、冷たく、そして粘つく罪の感触。それはいつしか十字架となり、彼の心身を共に苛んでいるのだ。
島や古代を教えた栗田だからこそ分かる。特に古代は真っ直ぐな男だ。曲がった事が嫌いで、馬鹿正直で、そしてそれゆえになんでもかんでも自分で背負い込もうとしてしまう。他人に頼らず、自分だけが重荷を背負ってしまう。
他人への頼り方、というものがよく分かっていない不器用な男だ。
「古代、覚悟を決めろ。沖田さんが生きてたら、今頃そう言ってた筈だ」
「覚悟……栗田さん、覚悟って何なんですか」
「それはお前が一番よく知っている筈だ、古代」
そう言い残し、栗田は踵を返す。
「……諸君、すまないが彼をしっかり支えてやってほしい」
エレベーターに乗り込む前に立ち止まり、第一艦橋のクルーたちにそう言い残した栗田は、大きな背中を揺らしながらエレベーターの中へと消えていった。
艦橋に残った古代の胸中には、隠れ蓑を取り払われ、剥き出しになった罪悪感だけが残った。
「古代……」
「……」
ヤマトから発進したコスモシーガルが、ムサシの方へと戻っていく。
ムサシには、ヤマトとは違って副砲の類は搭載されていない。その代わりに箱型の対空ミサイルランチャーが2基ずつ、副砲のあったスペースに並列で搭載されている。
だからなのだろう、大まかな形状はヤマトと似通っていても、細かな部分は異なっている。
しかしそんな同型艦との外見上の些細な違いも、今の古代にはどうでも良かった。
あの人は―――栗田は、古代の胸中に渦巻く罪悪感を剥き出しにしていった。
逃げるな、上辺だけの正義感で誤魔化すな―――言葉にこそしなかったが、そう言われているような気がして、古代の胸はずっしりと重くなるばかりだった。
覚悟を決めろ―――覚悟とは、そういう事か。
「古代艦長」
「なんだ」
相原の声に応じると、古代に何と声をかけるべきか分からず、遠巻きに様子を覗うような素振りを見せていた彼はいつものように報告する。
「その……救難信号を受信しました」
「救難信号?」
珍しい事ではない。
ガミラスとの戦いが終わり、地球の復興と軍備の拡張を急ピッチで進める地球は、その資源の多くを太陽系内外の惑星に依存している。それでも賄い切れているとは到底言えず、不足分はガミラスから委託を受け時間断層内でガミラス艦を建造、それを引き渡す見返りに資金と資源を受け取っている状態だ。
そういう状況でもあるから、とにかく輸送艦の往来は多い。軍、民間問わずだ。
島も輸送船団で勤務していたが、なかなか休みが取れず有休日数が溜まっていくばかりであったという。
そんな激務の只中であるのだが、輸送船の本数が多ければ何かしらの事故も目立つようになる。実際に機関不調で航行不能になってしまったり、小惑星やデブリに激突して損傷・擱座してしまう事故は後を絶たず、その度に救援部隊が出撃して対応している。
ここもまだ地球の勢力圏内だ。遠距離輸送船団が事故ったのか、と思いながら続く報告を待つ古代だが、しかし相原が告げた情報はその期待を裏切るものであった。
「―――これは防衛軍のものです。輸送船団じゃありません」
「なに?」
貸してみろ、と古代は相原からヘッドセットを受け取った。耳に当ててみると、凄まじいノイズと共に電子音と声のようなものが、断片的にではあるが聞こえてくる。
傍らでは相原がパネルをタッチし、ノイズの除去を試みていた。
《こち……所属、ゆう…………し、航行…能……を請……》
「艦長、レーダーに感。距離、10万宇宙キロ」
「識別は出来るか?」
問いかけると、西城は戸惑いながら答えた。
「これは……地球防衛軍所属、パトロール艦”ゆうなぎ”です」
「ゆうなぎって……」
「確か、土方さんの……!?」
土方がどうなったのか、古代たちは以前から聞かされていた。
波動砲艦隊構想に異を唱えた結果、土方は閑職へと追いやられ、辺境の第十一番惑星へと送られる事となった―――古代たちは、真田からそう聞いていたのである。
今の地球に対する不満を抱いているのは古代だけではない。あのイスカンダルへの命懸けの航海を経験したからこそ、多くのヤマト乗組員が同じ思いを抱いていた。
だからこそ土方は矢面に立ったのだ。
その土方が乗った艦からの救難信号となれば、無視するわけにはいかない。
やがて、メインパネルにゆうなぎの無残な姿が映し出された。
パトロール艦であるゆうなぎの左舷には、大きな穴が開いている。ビーム兵器の直撃ではこうはならないだろう。もしそうならば反対側まで貫通していてもおかしくはない。おそらく対艦ミサイルか、空間魚雷のような類の実弾兵器による攻撃を受けたのだと、古代には分かった。
それも波動防壁を展開していない状態で、だ。あるいは熾烈極まる攻撃に波動防壁がダウンし、そこを狙われたのか。
波動防壁の出力は機関出力に比例する。つまり大規模な機関部を持つ大型の戦闘艦であればより強力な波動防壁が展開でき、小型であるが故にスペースの限られる小型艦であれば出力は限定的なものとなる―――極めて単純な話だ。
しかしそれでも、装甲の薄い補助艦艇に大型戦闘艦の主砲にも耐える防御力を付与するそれは、ガトランティス戦役が始まってから多くの船乗りの生還に寄与してきたといっても過言ではあるまい。
それがダウンするまで熾烈な攻撃を受けた……いったいどこで?
「ひどくやられてる」
「古代、艦内でも火災が続いているようだ」
双眼鏡で艦橋の中などを確認していた島が、焦りを滲ませながら言った。
ドン、と右舷の外壁が吹き飛んだ。島の言う通り、艦内では深刻な火災が続いているようだった。今のは予備の魚雷に誘爆したのか、それとも他の要因なのかは分からない。だがしかし、このまま放置していれば助かる命も助からない、というのは明白だった。
「コスモシーガルを出そう」
一刻の猶予もない。
まだ生きている乗員がいるならば、救出しなければ。
海の上で漂流する他の船の船員を見つけた場合は、国籍や人種問わず救助する―――古くから船乗りたちの間で守られてきた暗黙の了解だ。それは船の行く先が海原から暗黒の海に変わった現代でも変わらない。
「これより、パトロール艦ゆうなぎの生存者救出作業を行う」