さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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唯一の生存者

 

 ヤマトから発進した2機のコスモシーガルが、機体各所からスラスターの光を煌めかせて姿勢制御をしながら、大破し漂流するゆうなぎへと接近していく。

 

 間近で見れば見るほど、いつ沈んでもおかしくはない状況だった。こうして古代たちがゆうなぎに向かっている間にも船体各所で小規模な爆発が断続的に続いており、それがいつ轟沈へと至る大爆発への呼び水になるか分からない状況で、古代も気が気ではなかった。

 

「大破の原因は船体左舷への被弾……波動防壁を破られたか、展開していないタイミングを狙われたか……あの損傷度合いを考慮するに使用されたのはビーム兵器ではなく実弾兵器……魚雷か?」

 

 緊張で救助要員の誰もが口を閉ざしていたからなのだろう、静かなコスモシーガルの機内にその独り言はよく響いた。

 

 見慣れない顔だな、と古代は思った。

 

 今のヤマトの乗組員は殆どがイスカンダルへの航海を経験した者たちばかりだ。しかしその中のごく一部は、新たにヤマトの乗組員となった外部の人間となっている。だからなのだろう、今となっては家族同然と言ってもいいほどの付き合いとなったヤマト乗組員の中に新顔がちらほらと目立つようになっている。

 

 彼もそうなのだろう―――今回のテレザート行きの航海は極秘裏に準備を進める必要があった関係上、外部から計画へと招き入れる人間は信用に足る人物か否か、裏で司令部と繋がっていないかを吟味して声をかけたと真田は言っていた。

 

 ぶつぶつと独り言を続ける彼が見に纏っているのは、隣に座る真田と同じく技術科の制服だった。

 

「気になるか」

 

 真田が苦笑いしながら言う。

 

「え、はあ」

 

「彼は速河信也(はやかわしんや)。防衛軍でガトランティス関連の技術について研究していたのを今回の航海にスカウトした。俺の後輩だよ」

 

 確かに敵の兵器や武器についての知識がある人間は、今回の航海には大きな助けになるだろう。今の敵はガミラスではなく、他ならぬガトランティスなのだから。

 

 しかし、”速河”という彼の姓にどうも引っかかるものを古代は覚えた。

 

「真田さん、速河って……」

 

「ああ……お察しの通りさ」

 

 今の地球において、戦艦や各種兵器類の製造を担っている企業は数多く存在するが、極東地域においての最大手となっているのは南部の実家でもある『南部重工』、そしてもう一つが速河の実家となる『ハヤカワ・インダストリー』、この2社だ。

 

 国連宇宙軍時代から宇宙戦艦の建造を担ってきたお抱えの企業である南部重工に対し、ハヤカワ・インダストリーは比較的新興の企業だ。同じく宇宙戦艦の建造を担う他、ガミラスやガトランティスの技術の解析、ライセンス生産やコピー、先進技術の研究も行っていると聞く。

 

 最近になって地球の駆逐艦やフリゲートに搭載されるようになった亜空間短魚雷や亜空間爆雷も製造を手掛けているが、元を辿ればハヤカワ・インダストリーがガミラスに産業スパイを送り込んで盗み出した技術が元になっている、という黒い噂がある。

 

 そこの跡取り息子をよく計画に引き込めたものだと、古代は少し驚いた。

 

 それに確か……速河家には息子が2人居る(・・・・)と聞いた事がある。

 

 彼は弟の方なのだろう。

 

 ドン、と爆音が轟いた。ゆうなぎの左舷、被弾した破孔から火の手が上がり、装甲が内側から吹き飛んだのだ。ゆうなぎ爆沈までの猶予は、思ったよりも少ないようだった。

 

 細かな姿勢制御を繰り返し、2機のコスモシーガルが比較的損害の少ないゆうなぎの前部甲板へと降り立つ。操縦席を離れ、外へと出た古代はすぐに船体のハッチを探した。

 

 艦橋の付け根に緊急用のハッチがある。付近にある装甲をスライドさせると、配線を接続するためのプラグ付きの端末が顔を覗かせた。

 

 技術科の乗組員がそれに、持参した携帯端末から伸びたケーブルを接続して画面を素早くタップする。どうやら外部からの緊急解放コマンドを送っているようで、携帯端末の画面の中では進捗を現すバーが凄まじい勢いで左端から右端へと移動しているようだった。

 

 ハッチが解放される。信じがたい事に、こんなに損傷した状態でもゆうなぎの非常用電源はまだ生きているようで、ハッチの向こうにあったエアロックは正常に動作していた。

 

「驚いたな」

 

「それはそうですよ」

 

 古代の意図を汲み取ったのだろう、信也が古代の方に顔を向けるや、バイザーの向こうで口元に笑みを浮かべた。

 

 それはどこか、実家の建造した兵器の信頼性を誇るというよりは、どこか呆れ、疲れたような笑みにも見えた……彼もまた、腹の中に抱える思いは古代と同じなのだろう。どことなく漂う自分と同じ雰囲気に、古代も少し親近感を覚える。

 

「波動エンジン採用の恩恵は大きいですからね。兵器転用の面以外にも、非常電源の信頼性や持続性も飛躍的に向上しました。おかげで人命を守るための設備にもキャパシティを割り振る事が可能になったんです」

 

 人命軽視のガトランとは違いますよ、と信也は続けた。

 

 地球の今の兵器は、ガミラスよりも人命の安全確保にキャパシティを割り振っている。結局のところそれはガミラス戦役で減りに減った人員の、これ以上の損耗を防ぐための選択ではあった。

 

 しかし問題は、このゆうなぎの乗組員が何人生き延びているか、という事だ。いつ爆発するかもしれぬパトロール艦に乗り込んでまで生存者ゼロで、おまけに爆発に巻き込まれ道連れにされたとあっては笑えない。

 

 エアロックが開き、艦内の惨状が露になる。

 

 非常電源が作動し、不要な設備の電源を落とした影響なのだろう。艦内の慣性制御はダウンしており、通路には破片や爆風を浴びたと思われる乗組員の死体が、ビー玉のような血液と共にふわふわと浮かんでいた。

 

「……アナライザー、生体反応は?」

 

 艦内の惨状に息を呑みながら、真田が同伴したアナライザーに問いかける。

 

 アナライザーは真っ赤な非常灯が照らす艦内の通路で頭部のLEDを何度か点滅させると、イスカンダルへの航海の際に何度も聞いた声で分析結果を報告する。

 

「艦橋ニ1名、生命反応ヲ確認」

 

 他は全滅、という事か。

 

 生きましょう、と真田に視線で訴え、古代は先へと進んだ。

 

 この艦は土方指令を第十一番惑星へと送り届ける任務に就いていた艦だ。向かう途中に襲われたのか、それとも帰り道に襲われたのかは定かではないが―――生存者が居るのであれば、是が非でも救わなければならない。

 

 それは人道的な面でもそうであるし、そうでなくとも自分たちが一体何に襲われたのか、そして第十一番惑星への航路で何があったのか、それを聞き出すだけでも大きな意味がある。

 

《古代艦長、急いだほうがいい》

 

 無線機からムサシの栗田艦長の声が聞こえた。

 

《ゆうなぎの機関部に火の手が回った。船体後部は火の海だ》

 

「了解です」

 

 隣を進む真田の手には、技術科の人員が持つ多目的端末がある。

 

 画面の中には艦内の酸素濃度の表示があった。火災の影響と隔壁閉鎖が上手くいっていないのか、それとも損傷個所からの酸素流出が止まらないのかは不明だが、艦内の酸素レベルが凄まじい勢いで減少している。

 

 このままでは、助かる命も助からない。

 

 幸いにも機能していたエレベータに乗り込み、艦橋へと上がる。

 

 扉の向こうにも死体が浮かんでいた。戦術科や航海科の人員なのだろう。ヤマトと同じ制服には血が滲み、身体には大小さまざまなサイズの破片が突き刺さっている。

 

 天井は大きく剥離しており、パトロール艦の特徴でもある大きな窓ガラス(対ビームコーティングを施した特殊ガラスだ)には亀裂が生じている。もし攻撃の当たり所が悪かったならば、今頃艦橋のガラスは吹き飛び、生存者も宇宙空間へと吸いだされていただろう。

 

 生存者はどこだ、と視線を巡らせる古代の目に、見慣れた人物の姿が映った。

 

 艦橋の後方、艦長席の隣に用意された簡易座席。そこに座るのは黒い艦隊司令のコートを羽織った初老の男性で、彼の目の前には艦長用のコートに身を包んだ中年の男性が、まるで覆いかぶさるようにして浮かんだまま事切れている。

 

 せめて彼だけでも守ろうと、最期の力を振り絞ったのだろう。

 

「……土方さん?」

 

「なに?」

 

 そう、そこに居たのは土方竜その人だった。

 

 間違いない。士官学校で教鞭を振るい、古代や島に厳しい訓練を課した恩師でもある―――その顔を見間違える事などあり得ない。

 

 土方さん、と古代はもう一度彼を呼びながら床を蹴った。

 

 土方の目が、ゆっくりと古代の方へと向けられた。アナライザーが先ほど検出した生命反応はきっと彼のものなのだろう。

 

 意識は朦朧としているようで、このまま手を施さなければゆうなぎの艦長が命を賭して救った彼も帰らぬ人と化すのは火を見るよりも明らかだった。

 

「……古代、か」

 

「はい」

 

 助けに来ました、と告げると、土方の口元がほんの少しだけ笑みを刻んだ。

 

「急ごう古代、時間がない」

 

 真田に言われるまでもなく、古代は土方に肩を貸した。このまま沈みゆく艦と運命を共にさせるわけにはいかない。しかし土方の事だ、「私に生き恥を晒せというのか」と後になって言い出すのではないか―――彼の頑固な性格だからそうなりそうだとは思ったが、今はそれでも構わなかった。

 

 古代や真田が土方を艦橋の外へ連れ出している間に、信也や他の技術科の人員たちは艦橋の機器類に端末とプラグを差し込んで、何やらデータを吸い上げているところだった。

 

 記録装置(レコーダー)から艦の記録を回収しようとしているのだ。最新鋭のアンドロメダ級やドレッドノート級は艦の各種制御をAIが担当していて、艦の記録はリアルタイムで防衛軍司令部とリンクされているが、しかしそれらよりも先に戦闘補助艦艇として、そして急繋ぎの戦力として数を揃えたパトロール艦や護衛艦ではそうはいかない(とはいえそれは初期ロットの艦の話であり、現在生産されている後期型では管理AIの搭載が進められている)。

 

「急げ、いつ沈むか分からんぞ!」

 

「待ってください、もう少し……!」

 

 ズン、と艦が大きく揺れた。

 

 機関部の方だ。今の爆発で艦が傾き始めている。

 

「終わりました!」

 

「行くぞ、急げ!」

 

 技術科の乗員たちと共にエレベータに乗り込み、壁面のスイッチを半ば殴りつけるように押し込んだ。

 

 幸運にもエレベータは途中で止まる事は無く、そのまま下部の通路まで辿り着いた古代たち。先ほどの通路ではアナライザーが、1名の生存者を収容するためにコスモシーガルに積み込んでいた医療用の簡易カプセルを用意しているところだった。

 

 コスモシーガルはゆうなぎの前部甲板に着艦している。そのため一時的にとはいえ宇宙空間に出なければならず、宇宙服を身に纏っていない土方をそのまま連れ出すわけにもいかない。が、この簡易カプセルならば彼の命を守ってくれるだろう。

 

 土方をそっと簡易カプセルに収めた古代はエアロックを操作してハッチを解放、そのまま負傷者を乗せた担架を運ぶ要領で簡易カプセルをコスモシーガルへと運んでいく。

 

 ゆうなぎに乗り込んだ全員が艦内から脱出し、コスモシーガルに乗り込んで甲板を飛び立った直後だった。

 

 ドン、と艦尾で一際大きな爆発が生じ、ゆうなぎの船体が更に傾く。爆風と共に艦尾から蒼い光(波動エネルギーの光だ)が漏れたかと思うと、まるでゆうなぎは生存者の脱出を見届けたかのようにそこで力尽きた。

 

 立て続けに生じる爆発に船体を押され、ゆうなぎが宇宙の果てへと落ちていく(・・・・・)

 

 黒煙と蒼い光の尾を曳きながら流されていったゆうなぎは、ヤマトへと向かうコスモシーガルの遥か遠方で1つの火球と化した。

 

 その光へ、古代と真田は無言で敬礼を送った。

 

 

 

 

 

 

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