さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
ヤマト艦内の会議室には、ヤマト艦長を務める事となった古代や第一艦橋のクルー、各部署の責任者や副官をはじめ、ムサシの栗田艦長と戦術長の仁科、そしてシナノの藤堂艦長が集まっていた。
女の艦長とは珍しいな、と古代は視線をシナノの藤堂艦長へと向ける。
本名、『藤堂早紀』。地球防衛軍の藤堂長官の娘も地球防衛軍に在籍しており、ガミラス戦役後からは宇宙巡洋艦の艦長になっていた、という話は噂程度には聞いていたが―――よもやヤマト級戦艦の1隻であり空母型(ガミラスでは戦闘空母と見做されている)であるシナノ艦長を拝命しているとは。
古代の物珍しそうな視線に気付いたのだろう、艦長用の黒いコートを羽織った藤堂艦長がじろりと古代に視線を向けると、彼は少しばかり気まずくなって逃げるように視線を逸らした。
「あまりジロジロ見ない方がいい」
隣に立っていた島が、少しからかうように言った。
「”綺麗な薔薇には棘がある”って言うだろ」
「馬鹿、そんなんじゃない」
第一、古代には雪がいる。それは島も分かり切っている事だ。
士官学校時代と変わらぬやり取りに、しかしいつの間にか肩の力が抜けていた。
古代はいつも肩に力が入る。やる気と馬鹿がつくほどの真面目さは彼の長所だが、しかし何事も真面目であり過ぎ、同時に力み過ぎなのだ。だから大事なところで空回りしてしまう事も多々ある―――今のやり取りは島なりの、彼の緊張を取り除いてやろうという粋な計らいなのだろう。
少し呆れながら息を吐き、礼の一つでも言おうとした古代ではあったが、しかし遅れて会議室にやってきた真田と速河の2人が説明を始める素振りを見せた事で、それは叶わなかった。
「―――ゆうなぎのレコード解析が完了しました」
速河が言うなり、手元の計器を操作して床と一体化したパネルに映像を映し出す。
ゆうなぎの艦橋からの映像だ。ワープアウトしたゆうなぎの周囲には2隻の駆逐艦と1隻の護衛艦(護衛艦の船体には”はつづき”の表記と艦籍番号がある)が展開、翡翠色に輝く第十一番惑星へと進路を取っている。
ワープアウト後の何の変哲もない、どこの艦でもやっているやり取りが音声として再生された。機関部各所異常なし、船体異常なし―――やはりどこでも同じなんだな、とぼんやり考えていた古代は、しかし惑星表面で閃光が観測された事と、そして左舷を航行していた駆逐艦が唐突に爆沈した映像が再生された事で、会議室に居る者全員が息を呑む。
火達磨になり、船体を真っ二つにして沈んでいく駆逐艦。
ゆうなぎに乗っていた土方指令が冷静に戦闘準備と対潜戦闘の命令を下す。
それからは文字通りの『死闘』だった。
ガトランティスの未確認艦艇(見間違えでなければそれはガトランティスの次元潜航艦ではないか)に一矢報いたところで、艦隊正面に敵の主力と思われる大型艦艇が多数ワープアウト。そこからの飽和攻撃に耐えかね、駆逐艦”はるさめ”もビームの雨の中に消えていく。
せめてゆうなぎだけでも逃がそうと、満身創痍の護衛艦はつづきが前に出た。はつづきの如月艦長とゆうなぎの艦橋とのやりとりも克明に記録されており、古代は胸が締め付けられそうになる。
(同じだ……兄さんと……)
古代の兄、守も同じだったという。
撤退するキリシマを援護するため、ユキカゼ1隻でガミラス艦隊の真っ只中へと果敢に切り込んでいった。その後の結末は古代たちもよく知っている。
はつづきが命を懸けて稼いだ時間を使い、反転しワープ―――その直前、次元潜航艦からの魚雷攻撃を左舷に受けたゆうなぎが、火達磨になりながらもワープ空間へと飛び込んだところで映像は終わった。
会議室に集まった面々は唖然としていた。
今までは太陽系外縁部に散発的な襲撃をかけ、ちょっかいをかける程度だったガトランティス。古代率いる外縁部警務艦隊でも十分に相手をできた連中が、しかしついに本腰を入れて太陽系への侵攻に乗り出したのである。
しかも、未確認の兵器まで引っ提げて……。
「あれは……次元潜航艦か?」
「ガトランティスが? そんな馬鹿な」
「しかもでっかい戦艦も居たぞ」
予想外の戦力にざわつく中、真田が冷静な声で状況を整理する。
「レコードによれば、これは8時間前の映像だ」
そう言いながら、傍らのコンソールを操作した。
さきほどのレコードの映像、そのスクリーンショットと思われる静止画がいくつかウインドウに表示され、その中央に第十一番惑星沖の海図が表示される。
床のモニターを飛び出し立体投影された第十一番惑星の周囲には、網目のような、あるいは木の根を思わせるグラフィックも表示されている。
「現在、ガトランティスは第十一番惑星に強烈なジャミングをかけてネットワークを遮断、守備隊へ猛攻をかけていると思われる。おそらくだが既に惑星駐留艦隊や空軍、戦闘衛星群は壊滅しており、惑星表面への降下作戦へ移っている事だろう」
第十一番惑星には、守備隊の他に戦闘衛星も展開している。波動エンジンを搭載しヤマトと同じく48㎝ショックカノン砲塔を12基も搭載した、宇宙の沿岸砲とも言える代物だ。
地球脱出時、ヤマトも砲火を交えているからその性能は古代もよく知っている。ヤマトのショックカノンを受けてすら外装がいくつか損傷した程度であり、完全破壊はおろか中破させる事が出来なかったほどだ。
それも壊滅したという事が何を意味するのか、それは言わなくても分かるであろう。
「第十一番惑星には空間騎兵隊も駐留しています。が、映像から推測した敵戦力と第十一番惑星側の残存兵力を仮に基地守備隊及び空間騎兵隊のみと仮定した場合、その戦力差は100対1となります」
絶望的です、と速河は言った。
地球人類が未だ宇宙に出る術を知らず、塹壕と歩兵、機関銃に毒ガス、そして黎明期の戦車に複葉機が主役だった頃、数多の屍を積み上げて人類は学んだ事がある。
それは少なくとも、敵拠点を制圧、あるいは敵の支配地域へ攻勢に転ずる場合、兵力は敵守備隊の3倍は用意しなければならない、という事だ。
攻勢が困難である事、そして防衛側が有利であると言われる所以である。
そしてそれは惑星間航行が当たり前となり、異星人との交流もごく普通の事となった西暦2203年になってもその常識は覆されていない。
が、しかし。
戦力差、実に100対1―――それに加え、守備隊側は歩兵や戦車といった地上戦力のみで制海権、制空権を喪失し、残るはなけなしの物資でゲリラ戦を仕掛けて敵に出血を強いつつ時間を稼いで、援軍がやってくる事に希望を託すのみ。今、第十一番惑星でどれだけ絶望的な状況が繰り広げられているかは察するに余りある。
「助けに行くべきです」
迷わずに口にしたのは古代だった。
ガミラス戦役を経験したからこそ、その絶望は理解できる。外敵の侵略に晒され、虜囚となるか殲滅されるかの瀬戸際に立たされる絶望、恐怖―――イスカンダルから救いの手を差し伸べられたからこそ、他者に対し救いの手を差し伸べるべきではないのか。
ヤマトとは、そのための艦ではないのか。
古代の考えている事はよく分かる、と言わんばかりに真田は少しの間目を瞑った。
「……だがしかし、敵戦力が分からん」
ウインドウの一つに映る敵の大型戦闘艦、その画像をズームアップしながら真田は言った。
確かに見た事もない艦艇だった。ククルカン級駆逐艦やラスコー級巡洋艦、メダルーサ級重戦艦とも意匠が全く異なる武骨な戦闘艦である。シーラカンスを思わせる船体には重厚な装甲が施され、甲板上にはガトランティス特有の回転砲塔が大小問わずびっしりと搭載されている。
それだけではない。よく見ると、塔のように聳え立つ艦橋は艦橋砲が重箱の如く積み上げられて形成されており、最長部にある指揮所と思われる部位以外には3連装の艦橋砲が埋め込まれている。
推定全長550m級の船体に、スペースとペイロードの許す限り重火器をぎっしりと詰め込んだかのような、攻撃力を重視するガトランティスの設計思想が垣間見える。
「未知の戦闘艦も多数投入されている。それに、あの映像に映っていた戦力が全部というわけでもあるまい……後詰の部隊がワープアウトしてくる可能性もある。ヤマト、ムサシ、シナノの3隻で対処できなかった場合のリスクはあまりにも大きいぞ、古代」
「ですが……」
「確かに、真田副長の言う通りね」
冷たい声で言い放ったのは、シナノ艦長の藤堂だった。
古代もその理屈は理解できる。敵戦力がヤマトの処理できる限界を超えていた場合、文字通りヤマト、ムサシ、シナノの3隻そろってミイラ取りがミイラになってしまう。
しかし第十一番惑星を見殺しにするわけにもいかない。それは、この場に居る全員が理解している事であった。
「……古代」
熊の唸り声のように低い声で、ムサシの栗田艦長は腕を組んだまま言った。
「ここはひとまず、防衛軍にこの映像を添えて増援部隊の派遣を打診するのが先じゃあないか」
「栗田艦長……」
「第十一番惑星だって、元はといえば地球側がガミラスにゴネて地球領土に組み入れた惑星だ。そこまでしたんだから簡単に手放す筈もないさ」
それに、と続けながら栗田艦長は速河の方を見る。
「―――山南指令の下には
「……」
何かコネがあるのか、と古代が速河の方を見ると、彼は少し恥ずかしそうな様子で首を縦に振った。
「上層部が出撃命令を下せばすぐにでも増援部隊が派遣されるだろう。万一ヤマトやムサシ、シナノで対処できない場合でも増援部隊が後から駆けつけてくれれば、ヤマト艦隊と増援艦隊で敵を挟撃する事も可能になるだろう……どうだ、悪い話ではないと思うが」
にっ、と栗田艦長が笑みを浮かべる。
士官学校で教鞭を振るっていた頃から変わっていない―――豪快で、いかにも頑固親父といった風貌の艦長が見える笑みは、これ以上ないほど頼もしい。
栗田艦長の提案に背を押されるように、古代は頷いた。
「栗田艦長、それでは申し訳ありませんが至急増援部隊派遣の打診を」
「……行くんだな、古代」
「はい」
背後の不安は栗田艦長が取り払ってくれた。
後はただ、前を向いて突っ走るだけでいい。
先へ、そして最善の結果へと脇目も振らずに進む事にかけては、古代の右に出る者はいないのだ。
「―――これより、第十一番惑星へ救援に向かう!」
同時刻
第十一番惑星 司令部跡
第七番塹壕
血と鉄の臭い。
塹壕の中にも、外にも、大勢の死体が転がっている。
地球の兵士がいた。ガトランティスの兵士がいた。地球のドローンの残骸に、ガトランティスの無人兵器の残骸。鉄と血、残骸と死体。それらが無数の屍を築き上げ、溢れ出た血とオイルが混ざり合って、赤黒い川を成している。
ここが地獄だとは、少なくとも斉藤は思わなかった。
地獄ならばとうに見た。ガミラス戦役時、月面基地でガミラスの空爆に耐え、飢餓に耐え、そして戦友との死別に耐えた。耐えて耐えて、じっと耐え続けた。
それに比べればこの程度の状況など屁のようなものだ。こんなもので音を上げていたら、あの時死んでいった空間騎兵隊の上官や先輩に笑われてしまう。
「……腹ぁ、減ったな」
隣に座り込んでいた古橋が、ぼんやりと空を見上げながらそう言った。
「馬鹿、そんな事言うんじゃないよ」
隣でバトルライフル―――空間騎兵隊で採用されている”二一式小銃”の空のマガジンに、7.62mm弾を装填していた永倉が、空腹を訴える古橋にキツい言葉を浴びせる。
とはいえ、腹が減っているのは事実だ。斉藤も古橋も、永倉も、そして他の空間騎兵隊の面々もかれこれ侵攻開始時から何も口にしていない。強いて言うならば先ほど啜った泥水くらいのものか。
もし生還できたら、その時は部下を連れて寿司でもかつ丼でも腹いっぱい食わせてやろう―――そう思っていた斉藤だが、しかし空から響いたエンジンの音にすぐ思考を戦闘モードに切り替える。
それに遅れて、見張り員が叫んだ。
「敵機デスバテーター30機、爆装し突っ込んでくる!!」
「対空戦闘!」
「空だけじゃねえ、地上にも注意しろ! 空爆が終わったら突っ込んでくるぞ!!」
生存者に向けて怒鳴りつつ、近くに居た新兵や部下たちを優先的に塹壕内の防空壕へと押し込んだ。逃げ遅れた仲間がいない事を確認してから、斉藤も熊みたいな身体で防空壕に蓋をするように穴倉へと転がり込む。
その直後、すぐに空爆が始まった。ミサイルや爆弾、ロケット弾に荷電粒子ビームが土砂降りのように降り注ぎ、空間騎兵隊が総出で掘り進めた塹壕を滅茶苦茶に破壊していく。
「クソッタレ、ここ掘るのにどれだけ苦労したと思ってやがる」
古橋が悪態をついた。
確かに地球と比較して、第十一番惑星の土は堅い。低い気温に加え、ところどころが凍てついているので、普通のスコップではどう頑張っても塹壕どころかタコツボすら掘る事が出来ない。
だから重機と電動ドリルを使い、半日かけてやっと完成に漕ぎ着けたこの塹壕には愛着があったし、我が家のような安心感も感じていた。
誰しも我が家を吹き飛ばされれば怒りもする。ならばその怒りは敵にぶつけてやればいいだけの話だ。
空爆が止んだ。
それが何を意味するのか、斎藤を含めた全員が理解していた。砲撃や空爆の後には歩兵や機甲部隊の突撃があるものだと相場が決まっている。
冬眠明けの熊の如く、全員がぞろぞろと防空壕を出た。手にはバトルライフルや汎用機関銃、狙撃銃にグレネードランチャーがある。
中には武器を
もはや総力戦だ。
ここで助からなくても、1人でも多くのガトランティス兵を道連れにする。地球人の怖さを骨の髄まで知らしめてやる―――そんな覚悟が、各々の背から滲んでいる。
(さあ来やがれガト公……地獄に引きずり込んでやる)
うっすらと、黒煙の向こうに巨大な影が見える。
ガトランティスの戦車部隊だ。カニのような足に円盤のような胴体、そしてその上下に回転砲塔を搭載した多脚戦車だ。
それを盾に、兵士たちが後に続く。
攻撃準備完了、と無線機から部下たちの報告が上がってくる。
にっ、と汗の滲んだ顔に笑みを浮かべ、斎藤は命じた。
「―――撃てぇ!!」