さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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新造戦艦アンドロメダ

 

 西暦2199年―――かつてヤマトが、地球の運命を背負って旅立っていったあの日以降、地球には戦える戦闘艦は僅か1隻しか残されていなかった。

 

 メ号作戦―――冥王星沖での激戦を生き延びたキリシマである。

 

 強大な軍事力を誇るガミラスに太刀打ちするにはあまりにも心許なく、大きな損傷を受けていたキリシマの任務といえば月面に残った空間騎兵隊の生き残りの収容や、ヤマトの活躍で奪還した宙域からの物資の輸送であった。

 

 いつヤマトを迂回してガミラスが地球へ止めを刺しに来るのか、地球の人々は不安で仕方がなかった。

 

 しかしヤマトが冥王星基地を撃滅した頃、心強い守護者が2隻就役する事となる。

 

 イスカンダルへの航海へ間に合わず、就役が遅れたヤマト級二番艦『ムサシ』と三番艦『シナノ』の2隻である。ガミラスを蹴散らし、冥王星を奪還したあのヤマトの同型艦が2隻も地球に控えているという知らせは大々的に報じられ、絶望に打ちひしがれていた地下都市の住民たちは、絶望の毎日に希望を見出していた。

 

 新造艦の就役で地球がこんなに沸き立つのは、あの日以来であろう。過ぎし日の事を思い出す藤堂の目の前には今、巨大な宇宙戦艦が1隻佇み、周囲を取り囲む観客たちからの完成を一身に浴びている。

 

 その船体はヤマトよりも一回り大きい。大昔の水上艦艇を思わせるヤマトに対し、”それ”は最新の電子機器をこれでもかというほど詰め込んだ、最新鋭のステルス戦闘艦を思わせた。ヤマトと比較すると全体的に凹凸は控えめとなっていて、ややのっぺりした印象を与える。

 

 だからなのだろうか―――温かみのある、いわゆる”人の熱”を宿しているヤマトと比較すると、その新造艦はどこまでも冷淡で、ただただ冷たく、与えられた命令を淡々とこなす機械のような無機質さを感じさせる。

 

 新造戦艦『アンドロメダ』。それが、地球の誇る新たな切り札の名だった。

 

 システム面の調整に立ち会った真田の言葉を思い出す。『これは戦闘艦ではなく、機械のバケモノだ』という彼の、技術屋としての忌憚のない意見を。

 

 確かにそうだろう、アンドロメダにはヤマト級4隻の建造で培ったノウハウに加え、ガミラス側の企業からもたらされた最新鋭の技術が惜しみなく導入されている。

 

 全世界の皆さん、こんにちは―――全世界へ中継されているであろう、このアンドロメダ級一番艦『アンドロメダ』の進水式。その口火を切ったのは地球連邦政府大統領の、他愛もない挨拶だった。

 

 長々としたスピーチを聞き流しながら、藤堂は隣に座る芹沢をちらりと見た。

 

 ”波動砲艦隊構想”という新たなドクトリンの元、地球では波動砲を搭載した新造艦の建造が凄まじい速度で進んでいる。このアンドロメダの他にも7隻、既に同型艦の建造が始まりつつあり、二番艦『アルデバラン』、三番艦『アポロノーム』は艤装を終えればすぐ処女航海に行かせることも可能なレベルの完成度である、と聞いている。

 

 全てはこの男が強く後押しした波動砲艦隊構想によるものだ。

 

 コスモリバースシステムの恩恵で地球環境は回復、死にかけていた地球人類は再び太陽の下での生活ができるようにまでなっていた。しかしそれは病人がやっと立って歩けるようになっただけの話であり、同盟関係にあるとはいえ今の地球の国力はガミラスの10分の1にも満たない。

 

 その事に対する焦りなのだろう―――波動砲を搭載した艦艇を多数就役させ、その性能を以て国力の差を埋める。それが波動砲艦隊構想の真の目的である事は、藤堂の目から見ても明白であった。

 

 アンドロメダ級の他にも既に14隻、ドレッドノート級が就役している。そこから空母型の『ヒュウガ級』、補給艦型の『アスカ級』にも派生させていくプランであると聞いているが、果てしない軍拡の気配に、藤堂は不安と落胆を隠し切れない。

 

 これでは沖田が―――ヤマトの乗員たちが命懸けでイスカンダルへと向かった旅の目的を見失ってしまうのではないか、と。

 

 彼らが救いたかったのはこのような地球なのか、と。

 

『―――宇宙の平和。それをもたらし、それを守る力となるのは、我らが地球とガミラスの揺るぎない同盟であります。その第一歩として、私は地球連邦政府大統領として、ここに最新鋭戦闘艦『アンドロメダ』の完成をご報告するものであります!』

 

 長いスピーチがようやく締め括られ、式典は次のステップに移った。

 

 ロープで繋がれたフランス産のワインのボトルが、戦闘機を思わせるアンドロメダの艦首に叩きつけられる。それと同時に大量の紙吹雪が会場を舞い、観衆の歓声が会場を揺るがした。

 

 ワインの味を知ったアンドロメダが、ここでやっと目を覚ます。

 

 艦首の錨を巻き上げる音が響いたかと思いきや、艦尾に4基搭載された補助推進器―――ケルビンインパルスエンジンのノズルが、ほのかに紅い灯りを燈したのだ。

 

 かつての海上艦さながらに、アンドロメダの船体が海へと滑っていく。全長444mの巨艦は会場のすぐ目の前にあった海面に着水、派手な波と飛沫を吹き上げると、そのまま水の抵抗をぐいぐいと押しやりながらどんどん加速していった。

 

 会場から離れたところで、アンドロメダのメインエンジンに光が燈る。

 

 ヤマト級のものをベースに、より小型化・高効率化を実現した第二世代型波動エンジンの光だ。エンジンノズルから光を吐き出しながら、アンドロメダの巨体が重々しく海面から浮き上がり、そのまま蒼い空の彼方へと飛び去っていった。

 

 空へと飛び立つ地球の新たな矛を、多くの人が頼もしい存在であると認識しているだろう。

 

 しかし、複雑な表情で起立し拍手を送る藤堂は違った。

 

 あれは怪物だ。

 

 真田の言う通り、機械でできた化け物だ。

 

 果てしない効率化の果てに行きついた、地球人類の誤った答え。

 

 人々はいつそれに気付くのか―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球に戻れば休暇が待っている。

 

 久しぶりの休暇ですねぇ、と嬉しそうに言いながら傍らへとやってきた相原からコーヒーを受け取りつつも、しかし古代は素直に喜べなかった。

 

 最近の地球は復興で大忙しだ。ガミラスの手により完膚なきまでに破壊された地球環境は再生されたが、しかし復興のためには膨大な量の資源が必要となる。地球に眠る資源だけでは当然ながら賄いきれないため、資源採掘船団が地球と太陽系内の惑星の往来を繰り返している状況だ。

 

 そんな中、ついに太陽系外縁部にガトランティスが進出してきた。

 

 イスカンダルからの帰り道に遭遇した、あの連中だ。

 

 ガミラスとも異なる文化と思想を持つ彼らに、地球の常識は通じない。こちらを見つけたならば対話よりも先に武力で制する事しか考えない連中だ。そのような勢力に資源採掘船団が狙われればひとたまりもない。

 

 連日の出撃で、古代も疲労が溜まっている。艦長席でちょっと目を瞑っただけで睡魔が手招きしてくるほどに、だ。いい加減に柔らかいベッドで熟睡したい、という思いもある。

 

 そして何より、雪に会いたい。

 

 艦長席の傍らに置いてある私物のホログラム発生装置には、地球帰還後に雪と2人で撮った写真が表示されている。

 

「間もなく地球への大気圏突入コースです」

 

「総員、大気圏突入に備えよ」

 

 蒼い地球―――地表の7割を占める海の色だ。

 

 その中へ、古代の乗るパトロール艦『ゆきかぜ』は吸い込まれていく。ごう、と船体が赤々とした炎に包まれ、やがて真空の宇宙空間から大気圏内へと突入を果たす。

 

 船外温度急速下降中、と乗員が告げたその時だった。

 

「前方より接近する艦影……アンドロメダです」

 

 アンドロメダ―――地球で建造中だった、最新鋭の宇宙戦艦だ。

 

 その建造計画は2199年の時点でスタートしており、ヤマト級二番艦『ムサシ』、三番艦『シナノ』に遅れて就役する形となった四番艦『キイ』をそのテストヘッドとしてデータを収集、ヤマト級よりも高効率化と自動化を果たして建造された、地球の新たな切り札である。

 

「コース変更。右20度変針」

 

「了解、おもーかーじ20」

 

 小柄なゆきかぜが進路を転ずるや、白雲の海の底から灰色の船体がせり上がってきて、ゆきかぜの艦橋に居たクルーたちは声を上げた。

 

 ヤマトよりも大きな船体の上に、すらりとした3連装ショックカノンの砲塔と、のっぺりしたような形状の、ヤマトよりも凹凸の少ない艦橋が乗っている。ステルス性を考慮した結果なのだろうか、その設計思想はかつてのイージス艦を彷彿とさせる。

 

 ゆきかぜのすぐ隣を飛び去り、太陽へ向けて悠々と舞い上がるアンドロメダ。それはまるで蝋の翼を得たイカロスのようだった。

 

「すげえ」

 

 艦橋の窓からアンドロメダの巨躯を見つめていた相原が言った。

 

「地球も、あんな大戦艦を建造できるほどに復興したんですねぇ」

 

「……」

 

 これは復興と呼べるのか。

 

 コーヒーの入ったマグカップに口をつけながら、しかし古代の目つきは険しい。

 

「艦長?」

 

「すまない、なんでもない」

 

 艦長の制帽の位置を正し、古代は命じた。

 

「地球への着陸シークエンスに入る」

 

 口の中に残る苦みは、コーヒーのせいだけではないだろう。

 

 

 

 

 

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