さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

30 / 108
この2203もPixivにマルチ投稿しようかなってちょっと悩んでます。


俺たち空間騎兵隊

 

 ごう、と対戦車ミサイルが3発、後端部から白煙を吐き出しながらガトランティスの多脚戦車目掛けて突っ込んでいった。

 

 ミサイルの後方からはワイヤーが伸びている。あの中に内蔵された光ファイバーで発射機からの照準データをミサイルに伝達、照準を修正する事でミサイルを誘導するというシステムだ。西暦2203年においてはすっかり旧式化した、それこそ軍事博物館に収蔵されていてもおかしくないレベルの代物ではあるが、しかし有線接続されているためジャミングに強く、万一敵の電子攻撃により誘導システムや各種ネットワークがダウンした際の保険(・・)として、今なお製造が継続されていた(これはジャミングによりネットワークに深刻な影響を受け苦戦した内惑星戦争時からの教訓である)。

 

 ガトランティス側も黙ってはいない。多脚戦車に据え付けられた小型の回転砲塔がフリスビーさながらに回転、緑色のレーザーを矢継ぎ早にばら撒き始める。おそらくあれは主砲ではなく、対人用のレーザー機銃の類なのだろう。

 

 上部ハッチから身を乗り出したガトランティスの戦車兵も、ハッチの傍らに据え付けられたレーザー機銃を手にし全力で射撃している。

 

 その猛烈な弾幕に晒され、3発のミサイルのうち1発が装甲を穿つよりも先に火球と化した。ガガッ、と弾頭部に2つの風穴を開けられ、目標の遥か手前で炎の華を咲かせる。

 

 しかし残りの2発は、しっかりと期待通りの結果を見せてくれた。

 

 高速で飛翔したミサイルがガトランティス多脚戦車の弾幕を突破。片方は正面から、やや高度を上げていたもう片方はトップアタックの形で戦車の上面に突入。猛回転していた回転砲塔を吹き飛ばし、レーザー機銃を射かけていた戦車兵の上半身を爆風が包み込む。

 

 ボコンッ、と間の抜けた音と共に、正面装甲にも大穴が開いた。対戦車ミサイルが正面装甲を直撃、大口径の成形炸薬(HEAT)弾が正面装甲を穿ったのである。

 

 有線接続である事から射程がワイヤーの長さに縛りを受けるという特徴のため、『ならば推進剤を削減し大口径化、近距離用・大威力の兵器として設計すればよい』という発想で設計・製造されたのが、この【九七式対戦車誘導弾】だった。製造元は南部重工である。

 

 ガミラス軍にも言える事ではあるが、少なくとも兵器の性質においては、地球とガトランティスでは思いのほか相性が良かった。

 

 軍事技術においてガミラスの後塵を拝す地球においては、レーザー兵器の開発が遅れており、星間国家群の中では未だ実弾兵器が主体となっている。単純な質量や爆発の威力で相手を直接”ぶん殴る”事で撃破するのだ。

 

 しかしガトランティスもガミラスも、レーザー兵器の発達により防御面においてもそちらを重視する方向へシフトしており、そういった原始的な(・・・・)兵器への備えは疎かになっていたのである。

 

 事実、速河が務める『星外科学技術局』の解析では、ガトランティス、ガミラス両軍の戦車の装甲はあくまでも素材の性質と表面に塗布したミゴウェザー・コーティングにより相手の攻撃を防護するものであり、装甲の厚さそのものは第二次世界大戦中期の中戦車とあまり変わらない、という結果が出ている。

 

 つまるところ、原始的な手段でぶん殴られる事には弱いのだ。技術が発達し過ぎたが故に、ローテクな手段に対する防御が脆弱なのである。

 

 とはいえ、あくまでもそれは防御面の話。攻撃面に関しては熾烈の一言だった。

 

 大破し擱座した多脚戦車の残骸を踏み越え、後続の多脚戦車が前に出てくる。

 

 胴体の上下に搭載された回転砲塔が回転を始めるや、緑色の陽電子ビームを速射砲の如く射かけてきた。

 

「伏せろ!」

 

 斉藤が叫ぶが、しかし飛来したビームの1発が対戦車ミサイルの発射機諸共、射手の上半身を消し飛ばした。残った下半身も瞬く間に水分が蒸発、発火し塹壕内で篝火のように紅い光を放つ。

 

 確かに装甲は薄い。その気になれば、機関砲でも貫通を期待できるレベルだ。

 

 しかし装甲が薄いという事はそれだけペイロードに余裕ができるという事であり、確保できた分のキャパシティを武装やエンジンに回せるという事だ。

 

 ガトランティスの場合はそれを攻撃につぎ込んだというわけである。

 

 果敢に応戦しようと身を乗り出した兵士の頭が、レーザー機銃の攻撃を受けて爆ぜた。降り注ぐ肉片と焦げた骨片と共に塹壕内に横たわった兵士からドッグタグを回収し、彼の装備していた対戦車ライフルも拝借する斉藤。

 

 不思議と涙は出なかった。

 

 分かっているのだ、彼が誰なのか―――襲撃がある前は、訓練や食事を共にした仲だ。優秀な兵士ではなかったが、しかし根性のある奴だった。どれだけ逆境に立たされても歯を食いしばり、なんのなんのとついてくる男だった。

 

 だからベテランからも可愛がられていた若手だ。それが、自分より先に死んだ事に斉藤は悲しみと怒りを感じていた。

 

 身体の内側では激情が燃え盛っているのに、頭は意外なほど冷静だった。ガミラス戦役の地獄を経験した事で、今は何を優先するべきか身体が理解しているのだ。心では悲しみや怒りを感じるが、しかしそれは思考や身体までは伝播しない。まるで、余分な情報だけがマスキングされているように、だ。

 

 対戦車ライフルを構え、目を見開いた。

 

 接近してくる多脚戦車に照準を合わせ、引き金を引く。

 

 ドガンッ、と対戦車ライフルが吼えた。

 

 全長2m、重量23㎏にも達するそれは、たった14.5mmの鉄礫を撃ち出すための発射装置でしかない。しかしこれもガトランティスの兵器は実弾に弱い、という分析結果を受けて急遽製造されたものである。

 

 ガギュンッ、と塹壕に接近してきた戦車の装甲に穴が開いた。

 

 対戦車ライフルの14.5mm弾はただの徹甲弾ではない。着弾と同時に弾頭部からプラズマ化した高温のガスを放出、装甲を融解させ貫通を補助する仕組みになっているのだ。これにより第二次世界大戦の頃の対戦車ライフルとは比較にならない貫通力の獲得に成功している。

 

 徹甲弾は装甲を貫通。それでもなお十分すぎる運動エネルギーを保持した弾丸は戦車内部で操縦するガトランティス兵の上半身を直撃、屈強極まりない筋骨隆々の肉体を千々に引き千切っていた。

 

 いきなり隣に居た戦友の肉体がバラバラになり、隣の座席で砲撃の照準を合わせていた砲手が悲鳴を上げる。

 

 そんな惨状の戦車にも、空間騎兵隊は果敢に挑みかかった。操縦手の戦死で動けなくなった戦車に、近くの塹壕に潜んでいた空間騎兵隊の隊員が、さながら獲物を見つけたグンタイアリさながらに群がり始めたのである。

 

 手には手榴弾や、お手製の火炎瓶があった。酒瓶に航空基地の格納庫から入手したコスモタイガー用の燃料を詰め込んだ即席の武器だった。

 

 ガトランティスの戦車によじ登るや、ハッチをこじ開け手榴弾や火炎瓶を投げつけていく空間騎兵隊たち。やがて火柱が噴き上がるハッチから甲冑のような装備に身を包んだガトランティス兵が悲鳴を上げながら飛び出し、地面をゴロゴロと転がってからそのまま動かなくなった。

 

 続けて別の戦車に狙いを定め、引き金を引く斉藤。強化装甲服に搭載されたパワーアシストの恩恵で、反動は小銃程度まで軽減されている。

 

 14.5mm弾が多脚戦車の脚を穿った。バランスを崩し、多脚戦車が地面に叩き伏せられる。随伴歩兵を押し潰しながら擱座した戦車から戦車兵が飛び出し、塹壕へと銃撃を加えてきた。

 

 ゾッとするほど近くを、ガトランティス兵の大型ライフルの弾丸が掠めていく。

 

 杭のような弾丸だった。アサルトライフルのような取り回しの良さよりも、一撃で相手を仕留める事を想定した兵器なのだ。あんなものに被弾したら強化装甲服どころか、装甲板すら貫かれてしまうだろう。

 

 それだけではない。

 

(これは……!)

 

 杭のような弾丸が刺さった塹壕の壁面から煙が上がっているのを見て、斉藤は息を呑んだ。

 

 敵兵がアサルトライフルのように手にしているガトランティスの大型ライフルの原理は、どうやら斉藤が持つ対戦車ライフルと同じようだった。あの杭のような弾丸も先端部からプラズマ化させたガスを噴出する事で対象を融解させ、貫通を補助する仕組みになっているのだ。

 

「ア゛!」

 

 鶏を絞め殺すような断末魔を発しながら、近くで機関銃を放っていた空間騎兵隊の兵士が派手に吹き飛んだ。そのまま後方の土嚢袋が積み上げられた壁面に磔にされ、動かなくなる。

 

 喉元には杭のような弾丸が深々と突き刺さっていた。

 

「誰かそこの50口径につけ!!」

 

「隊長、あたしが!」

 

 バトルライフルで応戦していた永倉がいの一番に駆け付けた。血まみれの重機関銃につくや、コッキングレバーを引いてから押金を押し込み弾幕を張り始める。

 

 熾烈な12.7mm弾の弾幕を受け、数名のガトランティス兵が身体を大きく抉られて、第十一番惑星の大地に倒れ伏す。

 

 対戦車ライフルで多脚戦車の装甲をぶち抜きながら、斉藤は視線を周囲に向けた。

 

 辛うじて持ちこたえているのは、斉藤、永倉、古橋といったベテランの隊員が集まっている場所だけだ。塹壕の北側では既にガトランティス兵が塹壕に侵入、空間騎兵隊と入り混じっての激しい白兵戦が展開されている。

 

 ゴッ、と肩に鈍い衝撃があった。

 

 対戦車ライフルの機関部に、杭のような弾丸が深々と突き刺さっているのだ。ガトランティス兵の狙撃である事に気付いたのと、身体が反射的に対戦車ライフルを手放したのは同時だった。

 

 パパンッ、と装薬が誘爆し、対戦車ライフルの機関部が大きく抉れる。

 

「隊長!」

 

「俺に構うんじゃねえ!」

 

 背負っていたバトルライフルを構え、鞘からナイフを引き抜いた。

 

「総員着剣!」

 

「着剣!」

 

「白兵戦に備えろ!!」

 

 着剣装置に銃剣を装着し、ガトランティス兵の突撃に備える斉藤。

 

 他の兵士たちも銃剣の用意を始めるや、ガトランティス兵たちが大型ライフルを投げ捨て、一斉に腰の鞘から剣を引き抜いた。向こうも塹壕の制圧のために突撃をかけるつもりのようだ。

 

 手のひらにじんわりと汗が浮かぶのを、斉藤は感じ取っていた。

 

 ガトランティス兵はがっちりとした体つきの者が多い。実際生命力や筋力は地球人、ガミラス人のそれを大きく上回っており、地球人はパワーアシスト付きの強化装甲服を身に纏ってやっと並ぶ程度だ。

 

 こうして見ると、ガトランティス兵は直立したヒグマのような迫力があった。そんな怪物が異星の言語を叫びながら剣を掲げ、鎧に身を纏い突っ込んでくるのである。白兵戦をやらされる側からすれば生きた心地がしないだろう。

 

 だが―――。

 

(戦いは多少ヤバいくらいが丁度いい……!)

 

 ガミラス戦役の頃、ガミラス兵は一度も地表へは降りてこなかった。

 

 地球へは遊星爆弾を、月面基地には無人機を介した空爆を繰り返すだけで、空間騎兵隊の役目と言えば地球に帰還した後、地下都市で暴動を起こす市民から政府施設を防衛したり、暴動を鎮圧したりといった後味の悪い任務ばかりだった。

 

 だが、あの時とは違う。

 

 今は敵が目の前にいる。そしてこれからこちらの手の届くところへと突っ込んで来ようとしているのだ。

 

大帝万歳(ローン・ズォーダー)!!!』

 

「来るぞ!」

 

 剣を掲げ、あるいは旗(ガトランティスの国旗だろうか?)を取り付けた槍を構えながら、ガトランティスの兵士たちが果敢に突撃してくる。塹壕を制圧しようというのだ。

 

 このタイミングになって、空爆も開始された。

 

 爆装したデスバテーター攻撃機も戦場に戻るや、空爆で兵士たちの突撃を支援し始める。が、時折それは自軍の兵士さえも巻き込んだ。投下された爆弾の爆発に、数名のガトランティス兵が木っ端微塵になる。

 

 頭すらも上げられない空爆の中、斉藤は果敢に引き金を引き搾った。バトルライフルの銃撃でガトランティス兵が腹を抱えながら転がり落ち、後続の兵士たちに踏み潰されていく。

 

 黒煙を突き破り、剣を振り上げた兵士が突っ込んでくる。咄嗟に引き金を引きセミオート射撃で2発叩き込んだが、しかし彼らの生命力が想定よりも高いのか、それとも戦闘中の興奮によるアドレナリンの過剰分泌故なのか、被弾してもなおガトランティス兵の突進は止まらない。

 

 振り下ろした大剣の斬撃を半身になって躱し、踏み込んで下から喉元を銃剣で突き上げた。銃剣の切っ先が鉄仮面の隙間から喉元を突き刺し、ガトランティス兵の手から大剣が零れ落ちる。

 

 そのまま相手の腹を蹴って銃剣を引き抜いた。

 

 他の仲間がどうなっているのか、確認する余裕すらなかった。

 

 何やらガトランティス語で罵声を発しながら、剣を手にした兵士が突っ込んでくる。切っ先を突き出す兵士の一撃を咄嗟にバトルライフルで受け止めたが、体重を乗せた相手の攻撃の重さは想定外だった。スリングが千切れ、ライフルが明後日の方向へとすっ飛んでいく。

 

 拳銃を引き抜くよりも先に、ガトランティス兵が剣を振り下ろそうとする。

 

「っ!」

 

 歯を食いしばり、斉藤はそのまま相手にタックルした。

 

 まるでトレーニング用のサンドバッグにタックルしているような感覚だったが、しかし予想外の体当たりに相手は完全に虚を突かれた。そのまま押し倒され、斉藤と一緒に凍てついた塹壕の地面に転がり込む。

 

 斉藤も柔道の有段者だ。柔道、空手にレスリング、あらゆる格闘技で優秀な成績を収めている。

 

 そのまま押さえつけてやろうとする斉藤の身体を、しかしガトランティス兵は信じられないほどの力で投げ飛ばしてきた。

 

 今度は逆に、斉藤が地面に押さえつけられる。馬乗りになったガトランティス兵が胸元の鞘からダガーを引き抜き、逆手に持ちながら斉藤にトドメを刺そうとする。

 

 相手のダガーを握る手を両手で受け止め、歯を食いしばった。しかしパワーアシストの恩恵を受けてもなお、ダガーの切っ先はじりじりと斉藤の顔へと向かってくる。

 

 ピッ、と切っ先が強化装甲服のオレンジ色のバイザーに触れ、傷がついた。そこから亀裂が生じ、どんどん面積を広げていく。

 

 片方の手を放し、咄嗟に近くにあった石を拾い上げた斉藤は、それでガトランティス兵の側頭部を思い切り殴りつけた。

 

 ガッ、と石で側頭部を殴りつけられたガトランティス兵がよろめく。やはり、いくら屈強な肉体を持っていても頭部への打撃に脆弱である事は変わらないらしい。

 

 攻守が逆転した瞬間だった。

 

 よろめいたガトランティス兵を引き倒し、今度は斉藤が馬乗りになる。そのまま手にした血まみれの石で、ガトランティス兵の頭をひたすら殴りつけた。

 

 叫びながら何度も手を振り下ろす。ゴッ、ゴッ、とガトランティス兵の頭に石が打ち付けられる度に血が噴き上がった。

 

 やがてガトランティス兵が動かなくなったところで、斉藤は血まみれの石を投げ捨てる。

 

 呼吸を整えながら立ち上がり、周囲を見渡した。

 

 どこもかしこも死体だらけだった。散発的な銃声は聞こえるものの、塹壕の中には空間騎兵隊やガトランティス兵の死体が幾重にも折り重なり、死体から流れ出た鮮血にはうっすらと薄氷が張っている。

 

「隊長……」

 

 弾丸が掠めたのか、左肩を押さえながらよろよろと歩いてきた永倉が視線を脇に向けた。

 

「古橋が……」

 

「……」

 

 そこにはガトランティス兵と刺し違えたと思われる、古橋の亡骸があった。

 

 腹を剣で貫かれながらも、最期の力を振り絞ったのだろう、ガトランティス兵の首元に突き付けられた拳銃はホールドオープンした状態で静止しており、ガトランティス兵の首には幾重にも弾痕が刻まれている。

 

 歯を食いしばり、血塗れの顔で目を見開きながら絶命している古橋。

 

 ガミラス戦役の頃からの戦友が、また1人あの世へと旅立った―――その事を理解した斉藤は、しかし涙を流す事が出来なかった。

 

 短い黙祷を捧げ、そっと彼の強化装甲服からドッグタグを外す。

 

「……永倉ァ」

 

「なんだい、隊長」

 

「生きてる奴を集めて撤退だ。司令部の地下壕に籠城する」

 

 最後の1人になるまで戦う―――斉藤は、そう覚悟を決めていた。

 

 翡翠色の人工太陽が照らす、第十一番惑星の空。

 

 そのはるか彼方には、ガトランティス艦隊の襲来を告げるワープアウトの光が幾重にも浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。