さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
背中を12.7mm機銃で撃ち抜かれたデスバテーターが、そのカブトガニを思わせる胴体から盛大に火を吹いた。
ぐらり、と重厚な機体を傾けるや、そのまま錐揉み回転を始め地表に激突、爆散する。パイロットが脱出した形跡はなく、機体と運命を共にしたのであろう。それを見届けながら操縦桿を倒し、加藤はやはりガトランティスはガミラス人とは違う種族なのだ、という事を殊更に意識させられる。
ガミラス人はまだ、撃墜されたら脱出しようとした。中には墜落するガミラス機から小型の脱出ポッドが射出されるところを見た事があるし、それには手を出さずに戦闘宙域を離れた事もある(機体を棄てたパイロットは殺してはならないという暗黙の了解だ)。
しかし、ガトランティス人は違う。
撃墜されても脱出する素振りを見せない。生き恥を晒すくらいならば潔く死を選ぶ、大昔のサムライのような気質の持ち主なのだろう。
「ん」
編隊からはぐれた1機のデスバテーターが、胴体にぶら下げたミサイルを投棄して急旋回に入る。パイロットにも凄まじいGがかかっているであろうそれを追いかけ回すのは、篠原の乗るコスモタイガーⅡだった。
レーザー機銃の掃射を受け、背面の回転機銃(ガトランティス艦に搭載されている回転砲塔を小型化したものだ)のある辺りを撃ち抜かれ、デスバテーターはあっという間に火達磨になった。
これで篠原の撃墜マークも1つ増える……そう思い離脱しようとした加藤は、信じられないものを見た。
燃え盛り、さながら火の鳥のようになったデスバテーター。ぐんぐん高度を落としていくそれが、唐突に右側の機銃を狂ったように乱射し始めたのである。
(なんだ?)
答えはすぐに分かった。
機銃を発砲した際の
「篠―――」
しかし、戦友の死は訪れない。
ガガガッ、と飛来した機関砲に機首を砕かれ、デスバテーターが木っ端微塵に砕け散った。爆炎を突き抜いて飛翔するのは他のコスモタイガーⅡと比較してやや大きく、流線型のシルエットが特徴的なガミラス機―――地球仕様ツヴァルケこと『コスモタイガーⅠ』。
山本の機体だった。
主翼に吊るしたガンポッドの35mm機関砲を掃射、デスバテーターを粉砕した山本機に、篠原は手を振って礼を告げた。
危ういところはあったが、しかし航空優勢はこれで確保できた。
ガトランティスの航空機―――デスバテーターは鈍重な機体だ。コスモタイガーⅡがなくとも、コスモファルコンでも十分に背後を取れるほどである。しかしその分装甲が分厚く、また武装も豊富であり、ガミラス機とは違った手強さがあった。
それに加えさっきの執念。撃墜したと思っても油断ならないな、と思った加藤の頭上を、大きなデルタ翼を持つ攻撃隊が通過していく。
一見するとコスモタイガーⅡに似ているが、機体のサイズが一回り大きい。機首にはカナード翼も設けられており、軽装のコスモタイガーⅡと比較すると、その攻撃機はさながら鎧をがっちりと着込んだ重装兵のようにも思えた。
「あれが”コスモシャーク”か」
”コスモシャーク”―――コスモタイガーⅡをベースに開発された、対地・対艦特化型の攻撃機である。
機体サイズを大型化、ペイロードを大幅に増やす事でより大量の火力を搭載できるようになった機体であり、そのペイロートはコスモタイガーⅡの約2.7倍という破格なものだ。
それを証明するかのように、主翼や胴体下部にはさながら親の仇のように対艦ミサイルをぶら下げている。
シナノから発艦した攻撃隊だ。航空優勢確保の知らせを受け、戦闘空域に突入してきたのだ。
しかし敵も黙って見ているわけではない。生き残ったデスバテーターたちが、母艦をやらせてなるものかと特攻せんばかりの勢いで急上昇、コスモシャークの編隊を狙い襲撃してくる。
「いかん! ヤンキーリーダーより各機、やらせるな!」
了解、と部下たちからの返事を聞きながら操縦桿を倒す加藤。狙うはデスバテーターの群れ、その先頭の機体。
焦っているのか、それとも実際にそれほどの射程があるのかは定かではないが、先頭を飛ぶデスバテーターが早くもレーザー機銃を射かけている。
(頭を潰せば!)
操縦桿に指をかけ、機関砲の発射スイッチを押し込んだ。
ドフドフドフ、と重々しい砲声がキャノピー越しに響き、発射された砲弾がデスバテーターの横っ腹をぶち抜いた。カブトガニのような機体が大きく揺れ、火を吹きながら第十一番惑星の凍てついた地表へと落下していく。
確かに敵の編隊を相手にするのは骨が折れるが、しかし先頭の機体を潰して敵の進路を狂わせてしまえばいい。
高度を上げ、宙返りしながらコスモシャーク隊を見下ろす。
彼らの背中に搭載されているパルスレーザー砲が、紅い炎の矢を空に向かって放ち続けている。よく見るとそこにもデスバテーターの残存部隊がおり、雲の切れ間からコスモシャーク隊へと決死の急降下を敢行しているところだった。
《こちらマイクリーダー。ヤンキーリーダー、下の連中は任せろ》
マイクリーダー……ムサシ航空隊のコールサインだった。
ヤマト、ムサシ、シナノの航空隊はそれぞれ、母艦のイニシャルを取り『ヤンキー』、『マイク』、『シエラ』のコールサインを振り分けられている。だから加藤のコールサインはヤンキー1という事になっていた。
見ると、対地攻撃を行っていたムサシ航空隊の一部が合流して、デスバテーター狩りに加勢してくれているところだった。ヤマト不在の間、地球の守りを担った航空隊というだけあって練度は高く、2機1組でデスバテーターへ的確に機銃を叩き込んで撃墜へと追いやっている。
「……すまん、頼む!」
低高度の敵機をムサシ航空隊に任せ、ヤマト航空隊は高度を上げた。
雲を背に急降下してくるデスバテーターと、ヤマト航空隊の編隊が真正面から激突する。パルスレーザーと緑色のレーザー機銃の火線が入り乱れ、空には幾重にも炎の華が咲き乱れた。
すれ違いざまに敵機のコクピットへ12.7mm機銃を叩き込んだ加藤はそのまま急旋回。なおも急降下を続けるデスバテーターに追い付こうと、左手でコンソールを操作しつつフットペダルを思い切り踏み込んだ。
《警告 安全装置 解除》
電子音声が警告を発してくるが、そんな事は分かり切っている。
パイロットの安全性を度外視した急激なG。機体が軋む音が聞こえ、頭に血が上って視界が真っ赤に染まり始める。
「ぐっ……ぬ、ぅ……ぁ……!」
コクピットに貼り付けた妻子の写真が、赤い視界にちらりと映り込む。
歯を食いしばって急激なGに耐えながら、操縦桿の発射スイッチを押し込んだ。
パルスレーザーが紅い舌を伸ばし、デスバテーターのずんぐりした胴体を背後から撃ち抜いた。溶解した金属片をばら撒きながら火達磨になった敵機が、第十一番惑星の空に黒い大蛇の如き黒煙を描きながら大地へと落ちていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……はっ、どうだ見たか翼……父ちゃん強いだろ」
Gに苛まれた身体で呼吸を整え、写真の中の息子にニッと笑いかける。
彼らの護衛の甲斐もあって、シナノから大量の対艦ミサイルを抱いて出撃したコスモシャーク隊も急降下に転じた。
高度を上げ、ヤマトを頭上から砲撃せんとするガトランティス艦隊へと、ついに宇宙の鮫たちが牙を剥く。
《ブルーザー、ブルーザー》
コールと共に、コスモシャークに搭載されていた対艦ミサイルが一斉に切り離された。
コスモタイガーに搭載されている多目的ミサイルや対艦ミサイルと比較すると、それは一回り大きい。新規開発された”コスモハープーン”と呼ばれるミサイルだ。フライト2に移行したアンドロメダ級にも搭載されている、対艦ミサイルシステムの中核を成す代物である。
対艦ミサイルの飽和攻撃に、しかしガトランティス艦隊も素早く対応した。
ヤマトへ攻撃に向かう艦隊の陣形、その外縁部に展開していたククルカン級が、艦底部から緑色の、まるで蛍のように光る何かを投下し始めた。
フレアかチャフのような、ミサイルに対する欺瞞装備なのだろう。
しかし新型のミサイルはそんな欺瞞には惑わされず、真っ直ぐに艦隊へと向かっていった。
続けてガトランティス艦特有の速射ビームが、土砂降りのようにミサイルたちへと射かけられる。その緑色の閃光に絡め取られ、1発、また1発と被弾、火球と化していくが、コスモハープーン・ミサイルの真価はここからだった。
ミサイルの群れの中の一部が、唐突に高度を上げたのである。
真っ直ぐに直進してくる一群と、急上昇しトップアタックを試みる一群の双方に対応する羽目になり、ガトランティス艦隊の対空砲火は乱れに乱れた。
それだけではない。ミサイルの1発1発がS字形に回避運動を取り始めたのである。
弾頭部を南部重工が、センサーやシステム周りをハヤカワ・インダストリーが開発した新型対艦ミサイル『コスモハープーン』。その機動性とトリッキーな弾道に、ガトランティス艦隊の砲手たちは翻弄された。
直進する一群が、ついに艦隊へとその牙を突き立てる。
ラスコー級の横っ腹に火の手が上がり、果敢に砲撃を継続していたククルカン級が船体下部に被弾。炎上し誘爆を続けるそれを切り離し、船体上部だけで延命を図るククルカン級ではあったが、そこにトップアタックのために高度を上げた一群が降り注いだのだからたまらない。
ズゴン、と艦橋にミサイルを突き立てられたククルカン級が火球と化し、艦隊中央部を航行していたナスカ級航空母艦の飛行甲板にも数発のコスモハープーンが突き立てられる。飛行甲板をぶち抜いた数発のミサイルが格納庫で起爆し、燃料や予備の弾薬に誘爆した事で、ナスカ級は船体を真っ二つに叩き割りながら轟沈、その無残な姿を第十一番惑星の翡翠色の空に晒す事となった。
駆逐艦5、巡洋艦1、空母1―――たった一度の飽和攻撃による戦果は極めて大であった。
それだけの損耗を被ったガトランティス艦隊が反撃に転じるが、しかしその横っ腹をショックカノンの蒼い閃光が豪快に殴りつけていく。
生存者救助を行うムサシの支援のため、その頭上に展開しつつ航空管制を行い広域支援を敢行していたシナノからの、情け容赦のない艦砲射撃だった。
《命中、命中》
《オ見事、オ見事》
艦橋内に設置された3体のアナライザーズ(火器管制、航空管制、対空索敵を担う3体だ)が口々に言うが、しかし藤堂艦長はその戦果に顔色一つ変えない。それはどこか機械のようで、血の通った人間とは思えぬものであった。
”精密機械”と揶揄される事もあるその無表情な顔で、彼女は今の戦況を冷静に分析する。
航空優勢は確保、されど散発的な敵機の攻撃はあり。依然として対空警戒は厳に。
敵艦隊は大気圏内で艦砲射撃を行う一団と、衛星軌道上で第十一番惑星への増援部隊を足止めする一団の2グループに分けられている。大気圏内の艦隊は積極的な攻撃に打って出ているが、しかし軌道上の艦隊には依然として動きはない。
藤堂艦長や古代たちは知らぬ事だが、軌道上の艦隊とはメーザー提督率いる艦隊である。
(情報が共有できていない? あるいは……)
ガトランティスにも、派閥というものがあるのか。
いずれにせよ、目の前の艦隊と軌道上の艦隊とを相手に二正面作戦にならずに済んでいる事だけは幸運といえた。何しろ、軌道上の艦隊には例のガトランティスの最新鋭戦闘艦―――ごく一部の乗組員は『大戦艦』などと呼んでいる、例の新造艦が含まれている。
「副長、増援艦隊は?」
抑揚のない声で問うと、副長の神崎が手元のパネルをタッチしながらすぐに答えた。
「現在木星沖にワープアウトした模様。間もなく二度目のワープに入ります」
「了解。衛星軌道上に敵艦隊と、それから……次元潜航艦が展開している事は伝えておいて」
「了解です」
戦闘そのものは、ヤマト、ムサシ、シナノ3隻の優位に推移している。
しかし―――ガトランティスがここまでの大艦隊を派遣し、本格的な地球侵略に乗り出すなど前例がない。
この戦い、最後まで何があるか分からない……そんな先の見えぬ不安が、藤堂艦長の胸中に渦巻いていた。
コスモシャーク
固定武装
・12.7mm機銃(炸裂焼夷弾)×6
・パルスレーザー砲×4(機体背面ターレット)
・35mm対物機関砲×2(エンジンポッド内)
オプション
・高性能空対艦ミサイル『コスモハープーン』
・空対空ミサイル『コスモスパロー』
・二〇式無誘導噴進弾(対地ロケット弾、サーモバリック弾頭)
・九九式対地制圧爆弾(クラスター爆弾)
・一式レーザー誘導爆弾
・35mm機関砲ガンポッド・システム
・六七式対戦車ミサイル
・75mm対艦砲
※上記のオプションはペイロードが許す限り搭載可
傑作マルチロール機としてロールアウトしたコスモタイガーⅡをベースに、対地、対艦、対要塞攻撃に特化した攻撃機として開発された機体。製造は南部重工、武器システムやソフトウェア開発はハヤカワ・インダストリーが担当。
軽快な機動性は失われたが、豊富なオプションと余裕のあるペイロードにより高い攻撃力を誇り、装備によっては単機で飽和攻撃を実施する事も可能。複数機でのミサイル攻撃の破壊力は推して知るべしである。
なおその機体の特徴から、大昔の攻撃機である『A-10 サンダーボルト』にあやかり【サンダーボルトV】という愛称が一部パイロットの間で好まれているという。
余談だが、同じくコスモタイガーⅡをベースにした迎撃機仕様に『コスモセイバー』が存在する。