さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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絶対防壁

 

 第一艦橋の窓の向こうで、パルスレーザーの紅い舌に絡め取られたデスバテーターが1機、カブトガニを思わせる機体の各所から炎を芽吹かせながら斜めに落ちていった。

 

 岩肌に激突して生じた閃光が、第一艦橋の中を一瞬だけ照らし出す。

 

 ムサシの栗田艦長は戦闘の状況を確認しながら、生存者の収容作業の進捗を手元のコンソールで確認する。

 

 現在、ムサシは生存者救助のために高度を下げ、第三艦橋にあるハッチから受け入れている状態だ。当然ながら収容作業が終わるまでは動くわけにはいかず、接近してくる敵は迎撃し、攻撃は波動防壁で防いで難を逃れるしかない。

 

 しかし、収容作業は中々思うように進んでいないようだった。

 

 それも当然である。生存者の全員が無傷、というわけではないのだ。むしろ負傷者の方が多く、中には手足を欠損して自力では動けないほどの重傷者も多数存在しているという報告を受けている。負傷者に肩を貸し、あるいは担架で担いで安全な艦内まで連れ込むのは中々に大変な作業である。

 

 ちらりとメインパネルを見上げた。

 

 ムサシの頭上では戦闘空母型のシナノが、その周辺にはコスモタイガー隊が展開し、そのさらに上空ではヤマトが布陣、逆襲をかけてくる敵艦隊をショックカノンで豪快に殴りつけている。

 

 その打撃力たるや相当なもので、被弾した敵艦が巨大な剛腕に「ぶん殴られたかのように」吹き飛び、被弾ヵ所を大きく抉られて轟沈していくのだ。

 

 果たしてこの状況がいつまで続けられるか―――そして地球から差し向けられたであろう増援艦隊の到着はいつになるのか、と栗田艦長は若干の焦りを覚えた。報告では、増援艦隊は木星沖へとワープアウト、そこから小惑星帯を抜け連続ワープに入るところだという。

 

 報告通りならばそろそろ到着してもいい頃ではあるが……。

 

(それにしても連続ワープとは……アイツ(・・・)も無茶をさせるものだ)

 

 通常のワープではなく、ワープアウト後にすぐさま次のワープを行う前人未到の連続ワープ……アンドロメダ級の最新ロットに搭載されている新型波動エンジンの安定した出力があるからこそ、そして高性能AIの補助があるからこそ成せる業と言っていいだろう(最新の艦のAIには、ガミラス戦役での島の操縦データが使われているという話だ)。

 

「11時方向、ラスコー級及びククルカン級!」

 

「!」

 

 レーダー手の三好が報告するや、メインパネルにガトランティス艦の姿が映し出される。

 

 ククルカン級駆逐艦とラスコー級巡洋艦、どちらもガトランティス艦隊では一般的な艦だ。船体の装甲は薄いものの、機動力と火力に物を言わせて真っ向から押し切る攻撃特化型の艦艇である。

 

 鹵獲した艦を解析していたハヤカワ・インダストリーの担当者が、あまりにも防御を度外視した人命軽視の設計に度肝を抜かれた、という逸話もあるほどだ。

 

 とはいえ、ヤマト級の敵ではない。ショックカノンが命中さえすれば容易く轟沈へと追い込める。

 

 が、しかし。

 

 メインパネルに映る2隻の敵艦は第十一番惑星の地表、尖塔の如く突き出た岩塊の合間を縫うようにすれすれを飛行して接近してくる。

 

「岩塊が邪魔で主砲の照準が……!」

 

「敵艦よりミサイル!」

 

「敵ミサイルはコスモスパローで迎撃! 主砲を三式弾に切り替え!」

 

「え」

 

「急げ、実弾だぞ」

 

 実弾―――その言葉で、仁科は栗田艦長の狙いを理解したようだった。

 

 艦橋後方にある煙突状のミサイル発射システムから、艦対空ミサイルシステム『コスモスパロー』が次々に発射されていく。ロケットモーターの咆哮を高らかに、白煙を描きながら宙へと飛んでいくそれらは、ガトランティス艦から放たれたミサイルと空中で結びつくや、第十一番惑星の翡翠色の空を緋色の閃光で塗りつぶした。

 

「主砲三式弾、砲撃始め!」

 

「撃ちーかたー始め!!」

 

 どう、と48cm砲が吼えた。

 

 口径だけで言えば地球防衛軍最大規模となるヤマト級の主砲―――長女たるヤマトと同じそれが、文字通り火を吹いた。

 

 南部重工製の新型複合装薬により押し出された三式弾が、第十一番惑星の凍てつくような外気に晒される。やがて運動エネルギーは消耗していくや、砲弾の重みが惑星の重力に誘われるように、三式弾の切っ先が段々と下を向き始める。

 

 その進路上には、砲撃のタイミングを虎視眈々と覗いながら岩塊の合間を這うラスコー級の無防備な姿があった。

 

 ガゴゴンッ、と3発の三式弾が、ラスコー級の船体―――船体中央部と砲塔部へとめり込んだ。いきなり頭上から振り下ろされた鉄槌に、ラスコー級の巨体が揺らぐ。艦底部にあるフィン状の物体が地表へと接触、そのまま根元からへし折れた。

 

 だがしかし、いかに超重量とて金属の物体が船体にめり込んだ程度で沈むほどラスコー級も脆くはない。仮にも巡洋艦、艦隊戦闘においては攻守ともに中核を担う存在である。

 

 そう、単なる金属の物体に被弾した程度であれば、だ。

 

 砲弾内部に搭載されたタイマーが動作するや、砲弾内部にたっぷりと充填された炸薬が一斉に爆発した。

 

 被弾した部位から巨大な火柱を芽吹かせ、ラスコー級の船体が2つにぶち折れる。騎兵の槍を上下に2つ重ねたような艦首が脱落し、ミサイルさながらに地表へと落下していった。

 

 同様の鉄槌の如き一撃は、共に低空飛行での奇襲を試みたククルカン級にも牙を剥いていた。

 

 コロネを思わせる船体の下に設けられた楕円形の船体へ、1発の三式弾が落下したのである。ラスコー級よりも小柄(とはいえ駆逐艦基準で考えれば十分大型の船体だ)なククルカン級はその一撃でバランスを崩し、火柱を吹き上げながら船体を左へ大きく傾がせる。

 

 スラスターを必死に吹かして姿勢制御を試みるが、それでも一度失ったバランスを立て直すの簡単な事ではない。ましてやあのような、尖塔上の鋭利な岩塊が幾重にも屹立する場所を低空飛行しているのだから猶更であろう。

 

 しかし、敵艦もここで意地を見せた。

 

 何と被弾し火を吹く船体下部の楕円形の船体を切り離し、コロネ型の船体(ちょうど白く塗装されている部分だ)だけで航行、戦闘を継続するべく急迫してきたのである。

 

 実際、ククルカン級はあのように船体を上下で切り離す事も可能であるという報告が上がっており、太陽系外縁部では複数のククルカン級が船体下部に爆薬を満載、船体下部を巨大な質量弾として攻撃に使用してきたというとんでもない事例が報告されているのだ。

 

「主砲、次弾装填―――」

 

「いかん、近すぎる!」

 

 なおも主砲で砲撃を続行しようとする仁科を栗田艦長が制止した。

 

「左舷パルスレーザー、近接戦闘! せっかく助かった生存者たちをこんなところで死なせるな!」

 

 艦橋から煙突にかけての側面にずらりと並ぶムサシのパルスレーザー群が、接近してくるククルカン級を一斉に睨んだ。

 

 岩塊に船体を擦りつけて炎上させつつも、回転砲塔を旋回させて緑色の陽電子ビームを射かけてくるククルカン級。それに牙を剥いたのは、血のように紅い針のようなパルスレーザーの槍衾だった。

 

 ガガガガガ、と真っ白な船体が瞬く間に穴だらけになっていく。パルスレーザー、という名称ではあるが、その実態は加圧したガスをプラズマ化させて発射しているような代物である。さすがに戦艦相手では艤装を破壊するのが精一杯であるものの、相手は駆逐艦―――それも殊更に装甲の薄い、ガトランティス艦である。

 

 被弾個所から炎を芽吹かせ、ククルカン級は火達磨になりながらムサシの頭上を掠めるように通過していった。ごう、と艦長室のすぐ真上すれすれを炎上しながら通過していく敵艦に、第一艦橋のクルーたちが息を呑む。

 

 

 火達磨になったククルカン級はそのまま後方の岩塊に乗り上げるように激突した。ゴリゴリと船体を地表に擦りつけながらもまだ停止しない敵艦は、勢いのままに第十一番惑星の地表にぱっくりと開いている巨大な渓谷の中へ、真っ逆さまに落ちていく。

 

 ふう、と仁科は息を吐いた。

 

 しかし、一難去ってまた一難とはよく言ったものである。

 

 レーダー手の三好が「上空、高エネルギー反応!」と報告した直後の事だった。

 

 翡翠色の空が赤く染まった。

 

 ゴウッ、と炎の渦が、第十一番惑星の空を引き裂いていく。

 

「あれは……」

 

「火焔直撃砲?」

 

「続けて第二波、依然ヤマトを指向!」

 

「やらせるな。仁科、波動防壁弾を緊急発射(スナップショット)、発射数3。ヤマトの間に割り込むように展開!」

 

「了解!」

 

 ドウ、と艦首魚雷発射管から3発の波動防壁弾が立て続けに放たれる。ぐんぐん高度を上げた3発の防壁弾は瞬く間にヤマトと同高度へ展開するや、収納されていたフィラメントを一斉に開き、さながら傘のように防壁を展開し始めた。

 

 ムサシからの波動共鳴波を受け、蒼く輝くフィラメント。三重に重ねられたその向こうで、転倒されてきた火焔直撃砲が飛び出してきた。

 

 だが、今回は様子が違った。

 

 先ほどまでのような、フレアを纏った炎の渦ではない―――無数の小規模な隕石が一斉に大気圏に突入したかのような、あるいは巨大な炎の散弾さながらに広がったエネルギー弾が波動防壁弾を何度も強かに打ち付けてくるのである。

 

 一層目、二層目を貫通したエネルギー弾が三層目で辛うじて止められ、ヤマトはそこで事なきを得た。

 

 もし波動防壁弾を三重に展開させていなければ、今頃ヤマトは船体に大きな損傷を受けていただろう。

 

 敵旗艦を討つつもりなのか、ヤマトが進路を変更するや加速を始めた。メインエンジンから橙色の炎を吐き出し、かつてイスカンダルまでの往復航海を成功させたヤマトが空へと上がっていく。

 

 目指すは敵のメダルーサ級―――おそらくは艦隊旗艦と思われる敵戦艦。

 

 殴り込みをかける長女(ヤマト)の背中を、次女(ムサシ)三女(シナノ)は静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惑星表面では一体何が起こっている?」

 

 錯綜する情報に苛立ちを募らせながら、前期カラクルム級戦艦『ガノイア』の艦橋でメーザーは部下に問いかけた。

 

 急に惑星表面での通信量が増えたと思ったらこれである。混乱する現場のせいで情報は瞬く間に飽和状態になり、何が起きているのか、何をどうするべきか……軍事行動を起こすための情報が、全くと言っていいほど入って来ない。

 

「それが、3隻のテロン艦隊がワープで突入してきたと」

 

「3隻? たったのか」

 

 聞き間違いではないのか、と念を押すが、しかし部下は「間違いありません」と返答する。

 

 それを聞き、メーザーは嘲笑した。

 

 疾風の戦士、イスラ・パラカス……ヤマト(ヤマッテ)への復讐に燃える男が、しかしたった3隻のテロン艦隊に何を手こずっているのか、と。

 

 その程度で艦隊に大損害を被るから、そしてそんな采配をしてしまうからこそ貴様は二級品の指揮官なのだ……所詮は辺境の指揮官、この程度が限界であろう。

 

「救援に向かわなくてよろしいので?」

 

指揮官殿(・・・・)からは手出し無用と命じられている」

 

 メーザーは口元に笑みを浮かべながら言った。

 

「我々はここに布陣、指揮官殿に万が一の事があった場合にのみ動く。よいな?」

 

「は、はぁ」

 

 自分から艦隊司令の座を奪った事への報復の機会を得て、メーザーは上機嫌だった。先ほどまで胸中を渦巻いていた憤りも、もはや無い。

 

 だがしかし、それも長くは続かなかった。

 

「……6時方向、本艦隊後方に跳躍反応」

 

「なに?」

 

 はて、このタイミングで増援は手配していただろうか……記憶を探っている間に、それは姿を現した。

 

 何もない宇宙空間が、まるで水面に生じた波紋の如く歪み―――そこから武骨な宇宙戦艦の舳先が、勢いよく突き出してきたのである。

 

 通常空間に飛び出した船体から氷が剥がれ、太陽の光を受けてキラキラとダイヤモンドダストさながらに光を放った。

 

 明らかにそれは、ガトランティス軍のものではない。

 

「どこの部隊だ?」

 

「これは―――!」

 

 血相を変えた観測員が、メーザーの方を振り向いて報告した。

 

 

 

 

「て、て、テロン艦隊です!」

 

 

 

 

 ついに来てしまったのだ。

 

 

 

 

 

 ”悪魔”が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ワープアウト》

 

 第三十七即応艦隊、通称『ガトランティスぶち殺し艦隊』旗艦【アマテラス】の艦橋に、搭載されたAIの無機質な電子音声が響き渡る。

 

 やはりワープの感覚は苦手だ、と速河艦長は思った。あの平衡感覚をとにかく狂わせてくる感じには慣れる事はないだろうし、それが連続ワープともなれば猶更だ。我ながらよく嘔吐しなかったものだ、と彼は思う。

 

 冬眠明けのヒグマの如くシートから身体を起こす。メインパネルには既に敵艦隊の無防備な後ろ姿が映し出されており、エンジンノズルから発せられる蒼い輝きも艦橋の窓から目視できるほどの距離だった。

 

《敵艦隊、超弩級戦艦6、巡洋艦25、駆逐艦38。戦艦はいずれも未確認艦です》

 

 すっ、と速河艦長は目を細めながら、口元に笑みを浮かべた。

 

 ”敵”がそこに居る。

 

 殺すべき”敵”が。

 

 もはやガミラスに、家族の仇討をする機会はない。

 

 ならばこの恨みはどこへ叩きつければいいのか?

 

 答えは決まっている、敵だ。

 

 そしてそれは決まっている、ガトランティスだ。

 

 半ば八つ当たりのような感情に、しかし速河艦長は躊躇しない。

 

 八つ当たりの何が悪いというのか。

 

 こんな怒り狂う男の前に、無防備な尻を向けている敵艦隊が悪いに決まっている。

 

「戦闘準備完了」

 

 若い戦術長の報告に、速河艦長は獰猛な笑みを浮かべながら命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぶち殺せ」

 

 

 

 

 

 

 

 





速河力也

身長
・180cm
体重
・100㎏
年齢
・32歳
出身地
・日本、北海道
階級
・大佐(アマテラス艦長)

 南部重工と並ぶ軍需産業、ハヤカワ・インダストリーの長男。2171年生まれの獅子座。ガミラス戦役時、宇宙巡洋艦『テンリュウ』砲手として戦闘に参加、第一次火星沖海戦ではガミラス艦に損傷を与えた事で知られるが、乗艦を撃沈された事により左足を切断。ムサシ艦長の栗田は当時のテンリュウ艦長であり、彼とはガミラス戦役からの付き合いがある(ヤマト計画にて砲術員として招集がかかっていたが、左足切断のためヤマト乗艦は叶わず)。
 遊星爆弾により妻子を亡くしており、心には常に大きな傷がある。その恨みを晴らすかの如く、ガミラスとの合同演習においては乗艦『アマテラス』と共にガミラス艦隊の防御陣形を幾度も突破、艦隊を分断に追い込む手腕をみせる。ガミラス側からつけられた渾名は『悪魔』。

 なお、北野(兄)とは士官学校時代の同期である。




速河信也

身長
・173cm
体重
・68㎏
年齢
・24歳
出身地
・日本、北海道
階級
・技術中尉

 南部重工と双璧を成す軍事企業、ハヤカワ・インダストリーの次男にして次期CEOの最有力候補。特に異星文明の技術解析においては高い関心を持っており、ガトランティスとの戦端が開かれてからはガトランティス艦からの技術収集、解析を行っていた根っからの技術屋。テレザートへの航海においてはガトランティスとの交戦が避けられない状況である事を受け、真田からのスカウトを受けてヤマトの航海へ同行する事となった。
 力也は実の兄であり、優秀な軍人であった兄が壊れ、落ちぶれていく姿を間近で見ていた事から、ガミラスに対しては彼ほどではないにしても恨みを抱いており、しかし私情と仕事を分けて考える理性も持ち合わせている。

 




ハヤカワ・インダストリー

本社所在地
・北海道
専門分野
・先進技術全般及びソフトウェア開発

 南部重工と双璧を成す巨大軍事企業。特に波動エネルギーや異星文明の技術を取り入れた先進技術の解析、開発やソフトウェア開発に強みを持っており、波動砲艦隊構想には波動砲システムや戦闘補助AI開発、火器管制システム開発などの形で深く関わっている。
 南部重工よりも歴史の浅い新興企業であり、世間では南部重工とシェアを奪い合っていると噂されているが、実際は『信頼性の南部、先進性のハヤカワ』といった具合に棲み分けが出来ており、歩兵用の小銃から宇宙戦艦、民間用のPCに至るまで南部重工との”合作”として世に出た商品は数多い。

 裏ではガミラスに産業スパイを送り込んでいるという黒い噂もあるが、実態は■■■■■■■■■■■■《※検閲により削除されました》


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