さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
”それ”が転送される寸前、モニターを見ていた真田は違和感を覚えた。
惑星シャンブロウでの戦闘時、火焔直撃砲の転送時のデータはヤマトのメインシステムにも記録されている。同型艦である以上は同じ反応を示すはずであり、目の前に表示されているデータも同じものであった。
データは同じ―――しかし、何とも言えぬ不安が、言語化する事の出来ぬ嫌な予感が背筋を冷たい感覚となって伝う。このままでいいのか、今までの敵と同じと見て良いものか。
そこで真田は気付く。
転送の波形こそ同じだが―――転送されてくる対象、火焔直撃砲のビームそのものの波形が微妙に異なっている事に。
彼が「いかん、古代!」と声を張り上げたのと、ヤマトと火焔直撃砲の光の間に3つの”光の傘”が並んだのは同時だった。
蒼い光を放ちながら花びらいた3つの蒼い防壁。直後、空間を引き裂いて転送されてきた火焔直撃砲の奔流―――ではなく、炎の散弾さながらに降り注いだフレア状のエネルギー弾が、蒼い光の表面を立て続けに乱打した。
その猛攻に一層目、二層目が立て続けに砕け、残る最後の三層目が辛うじて受け止める。
「波動……防壁弾……?」
そう呟きながら、古代は視線を艦橋の窓の下へと向けた。
波動防壁弾が飛来したのは遥か下方、第十一番惑星の陸地からだ。見てみるとそこには生存者の救助作業を行っている同型艦のムサシの姿があり、艦首に波動砲の代わりに埋め込まれた波動共鳴装置は、稼働状態の合図である蒼い光を漏らしているところだった。
波動防壁弾は、母艦に搭載された波動共鳴装置とセットで運用される。発射された飛翔体が周囲にフィラメントを展開、その状態で波動共鳴装置を起動する事で波動防壁がフィラメントに沿って展開され、その状態で飛翔体を回転させることによって任意の座標に波動防壁を展開させる―――艦隊を守る盾である。
ムサシはそのテストヘッドとして、波動砲を未搭載の状態で就役したヤマト級4隻の中で唯一の”防御型”だ。火力こそ他の姉妹に劣るものの、防御力と他の艦に対するサポート能力では他の追随を許さない。
もし今、ムサシの栗田艦長が機転を利かせて波動防壁を緊急展開、それも3枚重ね掛けしていなければどうなっていたか―――波動防壁弾をも砕くエネルギー弾だ、いくらヤマト本体の波動防壁でも完全には防ぎきれまい。
栗田艦長の洞察力と直感の鋭さには脱帽であるが、それよりも、だ。
「火焔直撃砲が……拡散した……?」
南部が絞り出した言葉こそ、艦橋にいる全ての乗員たちの総意だった。
見間違いなどではない―――火焔直撃砲が拡散、炎の雨さながらに広範囲に飛来したのだ。
古代はそこで、先ほどの速河の警告を思い出す。火焔直撃砲という兵器の存在が明るみになってから今年でもう4年、対策も生み出された以上、ガトランティスも無策で火焔直撃砲を連発するはずがない。
その対策に対する対策があれなのだ。
従来の火焔直撃砲ではなく、拡散させることで攻撃範囲を拡張。一撃の破壊力よりも敵に確実に損害を与える方針へと舵を切った改造を受けたに違いない。
一撃の威力は落ちたとはいえ、相手が宇宙戦艦クラスであれば十分な威力がある。ガミラス側からのデータ開示では、バラン星の一件でガミラス本星へ帰還する事も出来ず宇宙を彷徨うばかりだったバンデベル艦隊がガトランティス艦隊と遭遇した際、火焔直撃砲が周囲に纏うフレアですらデストリア級を貫通して航行不能、擱座に追いやる程の威力があったという。
それを受ければ、ヤマトとてひとたまりもあるまい。
「なんて凶悪なものを……!」
「古代、今の拡散タイプ……”拡散火焔直撃砲”だが、転送されてくるエネルギーの集束率に大きな違いがあった」
パネルを弾きながら言う真田に、古代は視線を向ける。
「とはいえ転送の直前でなければ分からない。今まで以上に余裕をもって回避するしかないぞ」
「分かりました」
「しかし、転送のタイミングだってギリギリなんです。これ以上余裕をもって回避するって言ったって……!」
島の言う事も最もだ。
火焔直撃砲の最も厄介な点はそこにある。いきなり目の前に高エネルギーのビーム砲が
シャンブロウでの戦闘時にヤマトが編み出した火焔直撃砲対策も、今ではデータの洗練により転送座標の特定は7割から9割にまで確率が上がっているとはいえ、それでもギリギリだ―――これ以上余裕をもって回避せよと言われると、それはもはや未来余地の領域に脚を突っ込まない限り不可能な次元の話になってくる。
「徳川さん、エンジンに負荷をかける事になりますが……」
「なあに、心配するな」
キリシマの機関長でもあった徳川は、その程度ならば問題はないと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「
歴戦の機関長の力強い返事に、古代は首を縦に振った。
「波動防壁解除、最大戦速!」
「機関長!」
「任せろ、波動防壁とショックカノンのエネルギーも全て推力に回す!」
シャンブロウでダガーム艦隊の旗艦”メガルーダ”を追撃する際に使った手だ―――波動防壁とショックカノンに伝達するエネルギーさえもカットして、全てのエネルギーを機関推力へと回すのである。
ドン、とヤマトのメインエンジンのノズルがまるで爆発したかのような火を吹いた。第十一番惑星の翡翠色の空に、荒々しい一条の黒煙が流星さながらに刻まれる。
火焔直撃砲の回避が難しいならば、やることは一つだ。
―――次を撃たれる前に、突っ込む。
いくら火焔直撃砲は連射が利くとはいえ、それはあくまでもあのクラスの決戦兵器と見た場合だ。さすがにアンドロメダ級のショックカノンのように、バカスカと破砕エネルギーをばら撒く事は出来ない。
事実、地球防衛軍が鹵獲に成功したメダルーサ級でもそれは判明している。砲撃後、砲身冷却のプロセスが必須なのだ(あれだけの熱量を放っているわけだから、冷却プロセスが無いのはむしろおかしい)。
ヤマトの全速力ならば、それまでに間に合うかどうか……。
しかし今、打てる一手はそれくらいのものだった。次もムサシの波動防壁弾に頼るわけにはいかない。今、ムサシがアレを使うべきなのは自らを守るためであり、それが生存者の命を救う事に繋がるからだ。
「火焔直撃砲が来ます!」
雪が叫ぶ。
レーダーには火焔直撃砲の火力転送座標が表示されていた。
しかし今、ヤマトは加速を始めたばかりの状態だ。今更回避できるはずもない―――あの大火力が転送されてくる前に、射線上から飛び出すしかないのだ。
だが―――。
敵の攻撃は、古代や島、真田たちの予想をあっさりと裏切った。
火焔直撃砲が転送されてくる。
だがそれは、転送されてきた座標は―――ヤマトよりも遥かに高高度だった。
ヤマトの頭上で橙色の光が迸る。太陽から吹き上がるフレアを思わせる、強烈な炎の奔流だ。ガトランティスと交戦経験がある船乗りであれば皆が知っている、集束タイプの火焔直撃砲。
それを見て、古代は訝しんだ。
ヤマトを沈めるならば今が絶好のチャンスだった筈だ。拡散火焔直撃砲をもう一発撃てば、撃沈までは追いやる事が出来なくとも船体に大きなダメージを与える事が出来た筈。今のヤマトは波動防壁も展開できない、丸裸同然なのだから。
そんな好機をみすみす逃して、一体何を狙って―――。
その答えを告げるように、古代たちの―――ヤマトの頭上で、眩い光が瞬いた。
「!!」
火焔直撃砲の標的は、ヤマトなどではなかった。
―――第十一番惑星の衛星軌道上に浮かぶ、ガミラスの人工太陽。
翡翠色に輝くそれを、煉獄の如き炎の奔流が盛大に殴りつけたのである。
やられた、と古代は目を見開いた。
「機関停止!」
徳川機関長が唇を噛み締めて報告する。艦橋内部の照明が落ち、非常電源へと切り替わった。けたたましい警報と共に紅い非常灯の光が、全ての乗員に焦燥感を抱かせる。
「予備電源に切り替え!」
「主翼展開!」
操縦桿を握る島は、しかし非常事態でありながらも取り乱す事なく、今できる事を全力でやっていた。
大気圏内飛行用の主翼を展開、更に機関を停止して落下していくヤマトの船体を大きく起こして空気抵抗を受け、落下速度を少しでも落とそうと努力している。
機関復旧まで延命できればそれで良し―――復旧が叶わなくとも、高速で地表に叩きつけられるよりはマシな結果にはなる。
ヤマトに何が起こったのか―――それは被弾したガミラスの人工太陽が引き起こした、”波動共鳴反応”が原因だった。
元々、ガミラスのあの人工太陽はこの第十一番惑星を前哨基地として開発するために設置されたものだ。しかし旧式のそれは出力が酷く不安定であり、何らかの刺激を受けると波動共鳴反応を引き起こしては周辺を航行する宇宙艦を航行不能に追い込んでいたという。
この第十一番惑星ではなく、冥王星に前哨基地が建造されたのもそれが理由だ。
しかし今ではガミラスによる徹底的な改修作業により信頼性は回復。巨大隕石の衝突や波動砲クラスの決戦兵器でもぶち当てられない限り、波動共鳴反応を引き起こす事はない、とガミラスの技術士官は豪語していた。
ガトランティス側は、その欠点を把握していたのだろう。
これが敵の作戦だったのだ―――最大の脅威となるヤマトは、必ず反撃に打って出るために高度を上げてくる。ならば高度を上げたタイミングで太陽を撃ち波動共鳴を引き起こして、ヤマトを航行不能に追い込んでしまえばよい、と。
ヤマトが地表に墜落して潰れるならばそれで良し。まだ生きているならば残存艦隊を差し向けて止めを刺せば、いずれにせよそれでヤマトはおしまいというわけである。
「機関復旧まだか!?」
《配線が焼き切れてます!》
機関室に詰めている山崎の悲痛な報告に、徳川機関長は歯を噛み締めた。
このままでは……いずれ訪れるであろう最悪の未来。
しかし、次の瞬間だった―――ごぉん、と巨大な金属の塊がぶつかるような音と共に、落下していくヤマトの艦首がふわりを上を向いたのは。
何が、と状況を把握しようとする古代に、雪が間髪入れずに報告する。
「シナノ、接触!」
「なに!?」
古代は耳を疑った。
波動共鳴をもろに受け、エンジンを強制停止させられて墜落していくヤマト。そのヤマトを救おうと、航空管制と支援砲撃を行っていた筈のシナノが急上昇して
何という無茶を、と口にしたところで、徳川機関長が目を見開いた。
「む、エンジン出力が……?」
今度は何が起きたのか―――考えるまでもなかった。
遥か下方、第十一番惑星の地表で救助活動を行うムサシの艦首に搭載された波動共鳴装置―――それが強烈な蒼い光を発した状態で、ヤマトの方へと向けられているのである。
波動共鳴装置が可能とするのは波動防壁弾の展開だけではない。同じ波動エンジンの活性化を促す事も可能であり、事実上のエネルギー供給も可能としている。
ムサシからの波動共鳴を受け、人工太陽から発せられるパルスで機能を停止していたヤマトの波動エンジンに、再び火が燈る。
「波動エンジン再起動!」
「島!」
「最大戦速!」
支えてくれていたシナノから、再び力を取り戻したヤマトの巨体がゆっくりと離れていく。
今の波動共鳴でヤマトが動けぬうちに仕留める算段だったのだろう、左右から挟み込む形で数隻のククルカン級駆逐艦が、緑色のビームを射かけながら突っ込んでくる。
今のヤマトは全てのエネルギーをエンジン推力に回している―――だからショックカノンも撃てなければ、波動防壁も使えない。
しかし緑色のビームがヤマトを撃ち抜くよりも先に、横合いから飛来したショックカノンの閃光が、ククルカン級2隻をまとめてぶち抜いた。
ヤマトを支え、再び飛び立つ長女の姿を見守るシナノからの支援砲撃だった。
それだけではない。
遥か下方、岩塊と氷が聳え立つ大地から放たれたショックカノンの閃光が、捻じれながらやがて1つの光となるや、ヤマトに体当たりする覚悟で突っ込んできたであろうラスコー級の船体を下方からぶち抜いた。
思い切り突き上げられ、爆炎と化すラスコー級。
その炎を引き裂いて―――ヤマトは飛ぶ。
目指すは敵旗艦、ただ一隻。