さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
軌道上に、点滅する光が見えた。
夜空に浮かぶ星の1つのように見えたそれは、見る見るうちに大きさを増し、やがて全長460mにも及ぶ巨大な宇宙戦艦の姿を成す。
艦首に2門(内部にドレッドノート級のような波動スプリッターが備えられているため実質4連装なのだそうだ)も設けられた波動砲の発射口を持つその艦を、古代は何とも言えぬ表情で見つめていた。
彼らのおかげで第十一番惑星の奪還は成功―――背面の脅威を引き受けてもらったおかげで、この戦いは勝利できた。
しかし命令を無視して地球を飛び立っておきながら、早くも地球防衛軍の力を借りる羽目になってしまった事に、古代は何とも言えない情けなさを感じていた。
そういうところでは、自分はまだ子供だったのかもしれない。あの時ヤマトをアンドロメダで止めに来た、山南指令の方がよっぽど大人だ―――そうやって自分を責める古代の横顔を、島はこの士官学校の頃からの友人になんと声をかけるべきか悩みながら見つめるしかなかった。
ヤマトへと接近してくる灰色の宇宙戦艦は、傍から見ればアンドロメダ級のように見えた。艦底部のエアインテークを思わせる波動砲冷却システムや、ステルス性を重視したと思われる特徴的な艦橋とレーダーシステム、艦尾にある4基のケルビンインパルスエンジンから伸びるフィン状の構造物など、アンドロメダ級の特徴となる意匠を持つ。
が、異なる部分も多かった。
艦首には巨大な衝角が設けられたほか、ショックカノンの数が異様に多いのだ。
艦首プレートには【E.F.C.F AAAX-0001-2203 AMATERASU】の記載がある。
改アンドロメダ級―――別名『アマテラス級戦艦』の一番艦、宇宙戦艦アマテラス。
ムサシの栗田艦長からの進言を受け要請した、地球からの増援艦隊の旗艦であった。
複数のドレッドノート級や防御型アンドロメダを従えてヤマトへ接近してきた艦には、傷一つない。他の艦も同様で、損傷している艦の姿は見受けられなかった。
「艦長、アマテラスより入電です」
「メインパネルに」
相原がパネルを操作すると、艦橋のメインパネルにヒグマのような体格の、がっちりとした巨漢の姿が映し出された。艦長用のコートと軍帽を身に纏い、顔には大きな古傷がいくつか刻まれている。さながら数多の死闘を潜り抜けてきたような獣を思わせる、何とも威圧的な男だった。
古代が敬礼をすると、向こうも表情を変えずに敬礼を返してきた。
「宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進です。救援感謝します」
『こちらは宇宙戦艦アマテラス艦長、速河力也。お互い無事で何よりだ』
速河、という名前で古代は、あの時速河が気まずそうな顔をしていた理由を察した。彼はハヤカワ・インダストリーの息子。そして彼には歳の離れた兄がいる―――ガミラス戦役から戦い続けている、生粋の大砲屋の兄が。
それがこの男なのだろう。
その姿に抱くイメージは、弟とは真逆だ。優しそうで、喧嘩は弱そうで、根っからの技術屋といった風貌の信也とは違い、兄の力也はまるで肉食獣のようだった。目の前に立ち塞がる者全てを叩き潰してきたような、そんな獰猛さが眼光から覗える。
だが顔の輪郭などは似通っていた。
やはり兄弟なのだ―――そんな感想を抱いていたところに、丁度よく艦橋のエレベーターの扉が開くや、データファイルを抱えた速河が足を踏み入れてきた。今回の戦闘で遭遇した敵艦の放った拡散タイプの火焔直撃砲について、分析結果を真田に報告しに来たのだろう。
そんな彼の目が、メインパネルに向けられるやメガネの奥で丸くなった。
それはそうだろう。こんな太陽系の外れにある星で、何気なくメインパネルを見上げたらそこにでかでかと身内の顔があったなど、人生でそう経験する事はない筈である。
力也は口元に少しだけ笑みを浮かべると、視線を再び古代の方へと向けた。
『君たちの働きのおかげで、第十一番惑星を連中に明け渡さずに済んだ。礼を言わせていただく、ありがとう』
「いえ、こちらこそ。今回の結果は、速河艦長が背面の脅威を押さえて下さったからこそです。我々だけではきっと対処しきれなかったでしょう」
『……謙虚だな』
命令違反をしてまで出撃したくせに、もう軍に泣きついたのかという嫌味の一つでも言われるものと覚悟していた古代は、しかしそう言ったところに一切触れてこないどころか、逆に礼を言われた事に困惑した。
逆に不気味でもある。何か裏があるのではないか―――そんな深読みをしてしまい相手を信じられなくなっているのは、精神が疲れ切っている証拠だ。古代はそっと息を吐くや、肩の力を今になって抜いた。
『それより、見たまえ』
メインパネルの速河艦長が映像を転送してくる。
彼の顔とは別にウィンドウが開き、そこに第十一番惑星の衛星軌道上にあるガミラスの人工太陽の姿が映し出された。
既にその輝きには陰りが生じている。艦橋の窓の向こうが薄暗くなり、船外気温が急激に下がっているのもその影響だ。太陽の表面には巨大なクレーターが穿たれ、その向こうからはハニカム構造となっている人工太陽の発熱パネルや内部の機械類の溶解した姿が覗いている。
ガトランティスの火焔直撃砲を受けた結果だった。
『ガミラスの人工太陽は機能を停止……やがて、この星は氷に閉ざされるだろう』
第十一番惑星の気温が地球より少し肌寒いくらいだったのも、そして大気も呼吸に十分なレベルだったのも、全てはあの人工太陽の恩恵があってこそだった。太陽の熱が地中の氷を溶かし、植物の繁殖に適した気温に整えていたからこそ、地球ほど恵まれてはいないものの、人類の生存に適した環境となっていた。
しかし人工太陽が機能を停止してしまった今、その恩恵はもうなくなる。
大地は凍てつき、植物は枯れ果て、第十一番惑星は再び氷に閉ざされた無人の星に姿を変えるだろう。
人工太陽の修理も簡単なものではない。単純な技術力の問題もあって地球では修復不可能となっており、更にはガミラス企業との法的な関係からメンテナンスはガミラス企業に依頼しなければならず、『人工太陽の分解禁止』が地球側では厳命されているのだ。
然るべき手順を踏んでいる間にも、第十一番惑星は氷に覆われていくだろう―――そして戻っていくのだ、開発初期の頃に。
『この星にはもう人は住めん。生存者はこちらで保護し、地球に送り届けよう』
「感謝します」
生存者の扱いに、少々困っていたところだった。
回収した空間騎兵隊はまだしも、中には基地関係者の家族や入植者も含まれている。そしてそれは地球人だけではなくガミラス人も含まれており、民間人をテレザートに同行させ死なせたとあっては国際問題になりかねない。
生存者を地球へ送り届けるという速河艦長の申し出は、最悪の場合ヤマトを地球へ引き返させるという選択肢も用意していた古代にとってはありがたい事この上なかった。
『ああ、それと』
「はい」
少し恥ずかしそうに頭を掻き、速河艦長はそっと告げる。
『……ウチの弟を、よろしく頼む』
「はい、お任せください」
古代の返事を聞くや、速河艦長は真田の隣で恥ずかしそうにしている信也に笑みを向け、交信を終わらせた。
思ったよりもまともな人だったな、と隣で島が言うと、信也はどこか安堵したような表情で頭を掻いていた。やはり兄弟なのだろう、細かい仕草が似通っている。
同様の連絡がムサシにも行われたのだろう。ムサシの艦底のハッチが開くや、早くも連絡艇が地球艦隊へと向けて飛び立っていく姿が見えた。回収した生存者を地球艦隊に預けようというのだろう。
その時だった。
ムサシを飛び立った1機の連絡艇が、進路を変えヤマトの方へと向かってきた。
「古代艦長、着艦許可を求めているようですが」
「許可すると返答してくれ」
いったい何があったのか、と古代は首を傾げたが、しかし艦橋のすぐ近くを通過していった連絡艇の窓に空間騎兵隊の制服を身に纏った兵士たちが見えた事で、全てを理解した。
一応、基地の生存者は地球へと送り返す事になっている。それは一緒に回収した基地守備隊や、空間騎兵隊も例外ではない。
しかし、とりあえずはヤマト艦隊の責任者という事になっている古代の元へ直接やってきたという事は……。
しばらくして、艦橋のエレベーターのドアが開いた。
分厚いドアの向こうから姿を現したのは、やはり空間騎兵隊の兵士たちだった。ヒグマのような巨漢に率いられた兵士たちが、鋭い眼光でヤマトの艦橋内をぐるりと見渡す。
柄が悪いな、と島が呟いた。
それも無理もない話である―――ガミラス戦役の頃から、空間騎兵隊は荒くれ者という事で知られていた。命令違反も多く、軍内部では愚連隊のような扱いを受けていたと聞いている。
それらを束ねていた桐生前隊長のカリスマ性が、今になって痛感できるというものだ。
「艦長はどいつだ?」
先頭に立っていた一際大きな男が、目覚めたばかりの熊が唸るような声で言った。
「俺だ」
臆さず、古代は後ろを振り返り名乗り出る。
「宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進」
名乗ると、ヒグマのような巨漢は敬礼をしながら同じく名乗った。
「空間騎兵隊隊長、斉藤始大尉だ。救援感謝する。おかげで部下と、それから多くの命が救われた」
踵を揃える動作をしたその時、ちゃり、と薄い金属のプレートがぶつかり合う音が聞こえたのを古代は聞き逃さない。
おそらくは兵士の識別表、ドッグタグの音だろう。戦死した部下のそれを回収し、ポケットに詰め込んでいるに違いない。
部下の命が救われたと言った斉藤だが、しかしそれ以上に多くの部下が戦死を遂げたのだろう。
彼の部下だけではない。第十一番惑星の航空隊は全滅、基地も司令部も壊滅し、司令官だった更科指令も艦砲射撃を受け戦死したという報告を聞いている。
「それで頼みがある」
やはりな、と古代は思う。
荒くれ者の兵士たちだ―――助かったとはいえ、これほどまでに攻撃を受けて、黙って地球に帰るほどヤワな連中ではないだろう。
「ガト公にやられっぱなしじゃあ、とても地球には帰れねえ」
憎しみを滲ませた声で、斉藤はポケットからドッグタグの束を引っ張り出した。肉刺と擦り傷だらけの手の中で、戦死者たちのドッグタグが金属音を奏でる。
「―――アンタら、テレザートとかいう星に行くんだろう? 栗田の親父さんから聞いた……だったら俺たちみたいな歩兵も必要じゃねえのか」
それはそうである。
テレザートのある方向は、白色彗星の接近してくる方角と一致する。そしてガトランティスが、地球へ度重なる攻撃を仕掛けてくる方向とも一致しているのだ。
支配地域となっている可能性も高いだろう。もしそうだった場合、ヤマトはガトランティスの駐留艦隊を突破してテレザートへ上陸、惑星を制圧しなければならなくなる。
航空隊や艦隊の砲撃だけでは、惑星の制圧は難しい……最後の詰めは小回りの利く歩兵が必要不可欠だった。
艦の保安部や手の空いている乗組員を臨時の陸戦隊にする予定だった古代だが、斉藤の申し出は彼等からすればありがたいものだった。
ヤマト艦隊としては、優秀な歩兵が欲しい……それも実戦経験が豊富で屈強な兵士たちが。
そして空間騎兵隊としては、仲間の無念を晴らしたい。
両者の利害は一致していた。
島と真田の方に視線を向けた古代は、頷いてから斉藤の目を見つめた。
第一、彼等を回収したムサシの栗田艦長がヤマトへ向かう事を許可した時点で、栗田艦長の考えも容易く想像できるというものだ。
空間騎兵隊は、今のヤマト艦隊にとって必要なピースだった。
「分かった。隊長、ヤマトへの乗艦を許可する」
「ありがてえ、恩に着るぜ古代艦長」
大きな手を差し出し、笑みを浮かべる斉藤。
こうしてテレザートへの航海に、空間騎兵隊という心強い仲間が加わった。
修理を終えたヤマトを見送るアマテラスやアルフェラッツの姿が、どんどん小さくなっていく。
やがてそれは第十一番惑星に浮かぶ小惑星のようなサイズになり、豆粒になり、やがて翡翠色の星の背景に呑まれて見えなくなった。
死闘を制したヤマト、ムサシ、シナノの3隻は、戦いが終わり凍てつく星へと戻っていく第十一番惑星を後にし、テレザートへと進路をとる。
ヤマトの新たな航海は、まだ始まったばかりだった。
そして、白色彗星の脅威は着実に地球へ迫りつつあった。
第二章『死闘、第十一番惑星』 完
第三章『溶岩惑星シュトラバーゼ』へ続く