さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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第二の復讐者

 

 見慣れぬ天井と薬品の臭い。

 

 身体に力を入れようとすると、まるで全身を打ちのめされたかのような痛みに呻き声を漏らす。それを聴きとったのだろう、この薬品の臭いと微かなアルコール臭が漂う医務室の主が近付いてくるのが、足音で分かった。

 

「おお、良かった。目が覚めましたか」

 

「……佐渡先生?」

 

 ということは、ここはヤマトか。

 

 はっきりしていく意識の中、それと逆行するように土方は記憶を辿り始める。自分は確か第十一番惑星へ赴任していく最中、ガトランティスの攻撃を受け、乗っていたゆうなぎは大破し漂流……それから……それから……。

 

 玉のような鮮血が浮かぶ、重力制御すらもダウンした艦橋の中。爆発で飛び散った破片から身を挺して守ってくれた藤村艦長や艦橋の乗組員たちの顔がフラッシュバックして、土方は胸の中に水銀でも溜め込んでしまったかのようなずっしりとした重さを確かに感じた。

 

「……そうか」

 

 ―――俺だけが生き残ったのか。

 

 その言葉を、土方は口には出さず呑み込んだ。

 

 ゆうなぎの乗員だけではない。はるさめやはつづきの乗員たち……彼らの犠牲の上に、今の土方の命はあった。

 

 自分は果たして犠牲になった部下たちの、勇敢な彼らの犠牲に見合う男なのだろうか。この老いさらばえたちっぽけな1つの命に、そんな価値はあるのだろうか。

 

 そんな彼の胸中を察したのだろう、佐渡は傍らにあった一升瓶を手に取るや、無言で椀へとそれを注いで土方へと差し出した。

 

 怪我人に酒を飲ませるのか、と視線で抗議しても佐渡は譲らない。良いから飲め、と言わんばかりに射抜くような視線を向けてくるものだから、さすがの土方も酒を受け取らざるを得なかった。

 

 頑固者で知られる土方だが、上には上がいるとはよく言ったものだ。事実、医務室にいる間に限っては佐渡には誰も逆らえない。

 

 きっと沖田もそうだったのだろうな、とかつてこの(フネ)を指揮し、前人未到のイスカンダルへの航海を成功へ導いた友人に思いを馳せる。彼もなかなかの頑固者で知られていたが、そんな沖田でも根負けするほどの頑固者がこの佐渡だった。

 

 椀を片手に、部屋の中をぐるりと見渡す。

 

 ヤマトが地球に戻ってきてから、沖田の葬儀に土方も立ち会った。

 

 その筈なのに―――友人はもうこの世にいないと頭で解っている筈なのに、このヤマトにはまだ沖田が乗っているような、そんな錯覚を覚えた。

 

 彼の魂が宿っている、というべきだろうか。

 

「……佐渡先生」

 

「なんじゃい」

 

 勤務時間中だというのに豪快に一升瓶を煽る佐渡は、顔をうっすらと赤くしながら応じた。

 

「ヤマトは……今、誰が指揮を執っている?」

 

「古代ですよ」

 

「古代……あいつが」

 

 古代進。

 

 あの真っ直ぐで、馬鹿正直で不器用な若造が今―――沖田に代わってヤマトを指揮している。

 

 いや、ヤマトだけではない。ヤマト、ムサシ、シナノ―――ヤマト級3隻からなる臨時編成の艦隊、テレザート遠征部隊を指揮しているのだ。

 

 確かに適任ではあるだろう。沖田の元で戦い方を学び、イスカンダルへの航海で人間としても成長した古代であれば。

 

 が、しかし。

 

(……これは荷が重いぞ、古代)

 

 地球を救ったヤマトという(フネ)を預かるという重責に、果たして耐えられるか。

 

 それだけではない。

 

 古代も同じく、波動砲艦隊構想には反対の立場だった。だからなのであろう、太陽系外縁部での戦闘でも波動砲は一切使わなかったという(単純に使える状況ではなかった可能性もあるが)。

 

 今の古代は縛られているのだ。

 

 イスカンダルとの約束に。

 

 2199年の、あの呪いに。

 

「土方さん」

 

 天井をじっと見つめながらそう思っていた土方に、佐渡は一升瓶を片手にまるで独り言のように言う。

 

「―――この(フネ)の連中はまだ若い。支えになる大人が必要だ……そうは思いませんか」

 

「……」

 

 佐渡が何を言いたいのか、土方には分かる。

 

 確かにそうなのだろう、その通りなのだろう。今のヤマトの乗員は若く、更に沖田のような精神的支柱がない。古代がその代わりたらんと奮闘してこそいるものの、いつまでその重責に耐えられるものか。

 

 自分一人のために犠牲になった部下たちの顔を思い浮かべ、土方は弱々しく呟く。

 

「……俺は、負けた男だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すいすいと進んでいくムサシとシナノに比べ、ヤマトは出遅れていた。

 

 そのメインエンジンから燈る炎は不規則に点滅しており、今にもオーバーロードを起こして爆発するのではないか、と危惧するシナノ乗員もいるほどだ。

 

 波動エンジンの調子がおかしい、と徳川機関長から報告が入ってそろそろ30分になる。現在は機関科総出で原因究明と復旧に当たっているとの事だが、復旧する見込みははない。

 

 巡航速度の維持も難しくなり、今ではムサシとシナノに減速し足並みをそろえてもらう事で、何とか艦隊から落伍せずに済んでいるというのが現状だった。

 

《ダメです、波動エンジン出力が60%から上がらない》

 

《何か見落としてるところはないか。システムチェックどうなってる》

 

《ダメです、システム診断でも引っかかるところはありません。ただ波動エンジンの出力だけが上がらない》

 

 徳川機関長の席から聴こえてくる、機関科要員たちのやり取りに古代は焦燥感を覚えた。

 

 思い当たる節は―――ある。

 

 第十一番惑星での戦闘時、ヤマトは敵の放った火焔直撃砲によって刺激された人工太陽からの波動共鳴をもろに浴びている。その際に波動エンジンが停止、一時は惑星へ墜落するかと思われたが、シナノの機転とムサシのサポートにより波動エンジンの再起動に成功、窮地を脱していた。

 

 だがしかし、もちろんそれが波動エンジンにとって良くない後遺症を残すものであろう事は想像に難くない。

 

 波動共鳴で停止した波動エンジンを、外部からの別ベクトルの波動共鳴で強引に活性化させ再起動させたのだ。しかも念入りにテストを重ねて正常作動の保証がついているならばまだしも、今のヤマトは出撃を急ぐあまり改装後に満足なテストも行えていない。

 

 それらの要因が重なり合った結果が、今の波動エンジンのエラーを誘発したのだろう。

 

「古代、”惑星シュトラバーゼ”に向かおう」

 

「惑星シュトラバーゼ?」

 

 聞いた事のない星の名前に、古代は真田に対しオウム返しに聞き返した。

 

 コンソールを操作し、メインパネルに星の映像を投影する真田。そこに映し出された星の姿に、艦橋に居た乗組員たちの全員が息を呑む。

 

 何とも禍々しい星だった。紫色の毒々しいガス雲を身に纏うその星は、赤々と燃えている。地表には陸地のようなものも見えるが、地球でいう海に相当する部分は全てマグマのようだった。

 

 それだけではない。

 

 ガス雲よりも、地表を覆うマグマよりも遥かに異質なのは、その星の南極と北極から杭のように大きく突き出た巨大な結晶だった。

 

 さながら惑星サイズの結晶の槍で、星を串刺しにしたようにも見える。南極及び北極から突き出ている結晶の高さはおよそ2000㎞―――月の半径よりも巨大なそれは、明らかに自然発生したとは思えない代物だ(自重で折れてしまう)。

 

 【溶岩惑星シュトラバーゼ】―――それが異質極まりない、あの惑星の名。

 

「なんです、あの星は」

 

「結晶が生えてる……というか、刺さってる?」

 

「サイズは地球とほぼ同等、大気も地球と同じレベルだ。宇宙服無しでも呼吸ができるし有害物質もない」

 

「有害物質もない? あんなマグマだらけの星に降りたら黒焦げになりますよ」

 

 島が疑問をそのまま口にすると、真田は「まあ聞いてくれ」と続けた。

 

「あの惑星は奇妙な事に、大気圏内の熱量とあの結晶の質量を隣接次元に保存している」

 

「つまり、どういう事です?」

 

 今の説明で理解できなかった太田が問うと、真田は何と説明するべきかと少し頭を悩ませてから、より噛み砕いた言葉で説明した。

 

「あの惑星の大気圏内に放出される熱量も、そしてあの巨大な結晶の質量も、絶えずこの次元とは違う別の次元に飛ばされているという事だ。だから大気圏内も大して熱くはないし、あの結晶だって自重で折れることはない」

 

「そんな惑星が自然に誕生したっていうんですか?」

 

「いや、ガミラス側の資料ではアケーリアス文明により改造された星であるという見解だ」

 

 アケーリアス文明には謎が多い。

 

 この大宇宙に生命の種を撒き、今となっては宇宙の片隅にその痕跡だけを遺す古代の超文明アケーリアス。惑星を改造しうる技術を持った彼らが、いったい何の目的であの星を作り変えたというのか。

 

 疑問は尽きないものである。

 

「あのガス雲があれば万一敵から襲撃を受けた際も身を隠せるし、惑星の環境も安全だ。あそこに着陸して、波動エンジンの本格修理をするべきだと思うのだが」

 

「そうですね……そうするのが一番か」

 

「それに、あの惑星は地球とガミラスを結ぶ定期便(・・・)の中継地点でもある。ちょうど今、ガミラスの地球駐留軍に派遣される艦隊とキイがこっちに向かっているという話だ」

 

「キイが?」

 

 ヤマト級四番艦、キイ。

 

 就役はヤマトがバラン星の亜空間ゲートに突入した辺りだとされており、ヤマト級四姉妹の中では最後発となる。

 

 それ故に資源供給が安定してきた地球において次期戦闘艦のテストヘッドとして試験運用され、アンドロメダやドレッドノート級で採用されている新技術の多くがキイによりテストされたものであるという。

 

 そのキイは今、ガミラスに派遣されている。技術交流の他、関係がギスギスしている地球・ガミラス両国の関係改善のための一環だというが……。

 

 かつて長女が辿った航路を往復し、帰りはガミラス艦隊同伴となるキイの心境はいかほどか。

 

「うまく行けば、キイから共通規格の部品を分けてもらえるかもしれませんね。特にエンジン回りとか」

 

 そう言う相原に、口元に笑みを浮かべながら徳川が言った。

 

「それがな、キイとヤマトのエンジンは規格が違うんじゃ」

 

「え、同型艦なのに?」

 

「キイのエンジンはアンドロメダの縮小版のようなものでな。補助エンジンに至ってはヤマトのような核融合エンジンではなく、アンドロメダやドレッドノート級のケルビンインパルスエンジンじゃ。だから部品の規格が共通となっている部分を探すのが大変でな……」

 

「それじゃあ、ムサシやシナノから分けてもらった方がいいって事ですか?」

 

「まあムサシじゃろうな。ムサシとヤマトは初期ロット、シナノとキイは設計を見直した後期型だから……」

 

「同型艦でも違いってあるんですねぇ」

 

 相原がエンジン回りに疎いのも無理はない。彼の専門は通信関係で、エンジン規格等については門外漢なのだ。

 

 それに、エンジンの予備パーツはまだ在庫に余裕がある。機関部は戦艦の心臓部であるが故に、トラブルに対応するために在庫には余裕をもって準備しておいたのだ。少なくとも、まだ同型艦からパーツを分けてもらうレベルではない。

 

 今のヤマトに必要なのは予備パーツよりも、敵から身を隠しながら安心して修理できる環境だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《なんと無様な!》

 

 メインパネルにでかでかと映るゲーニッツに叱責され、メーザーは思わず身を竦ませた。

 

 それも仕方のない事である―――背後からの地球(テロン)艦隊の奇襲に怯え、我先にと戦場から逃亡を図ったのである。戦って死ぬことこそが最高の栄誉とされているガトランティスにおいて、戦場からの逃亡は臆病者の烙印を押されても仕方のない選択といえた。

 

《貴様、大帝よりお預かりした艦隊を撃ち滅ぼされたばかりか戦場から逃げおおせただと? 恥を知れ! それでもガトランティスの将か!!》

 

「も、申し訳ありません、ゲーニッツ閣下!」

 

《分かっておるのか、メーザー。貴様の行為は大帝の栄光に泥を―――》

 

《―――よい、そこまでにしておけゲーニッツ》

 

 重々しい、威厳に満ちた声がゲーニッツの叱責を遮った。

 

 その声にメーザーの背筋が一気に冷たくなる。鳩尾に鉛でも溜め込んだかのような重さが生じ、顔には脂汗が浮かんだ。

 

 顔を上げると、そこにはゲーニッツに代わって大帝―――【ヴロド・ズォーダー】の顔があった。

 

《メーザーよ、貴様に執念はあるか》

 

「は……?」

 

《復讐に生き、ガトランティスの戦士として戦に準じたパラカスのような執念はあるか?》

 

 思い起こされるのはあの目だ―――復讐のために地獄の縁から蘇り、戦いの中で死んでいったあの男の目が。

 

 臆病者、腑抜けと蔑まれていたメーザーの心の奥底に、小さな火が燈る。

 

 やがてそれはどんどん燃え広がり、彼の身体を、理性を突き動かした。

 

「―――はい、願わくばもう一度」

 

《―――よかろう。ゲーニッツ、増援を手配しろ。ガミロン共から鹵獲した例の兵器(・・・・)も一緒にな》

 

《はっ、直ちに》

 

《……メーザーよ、貴様の覚悟、見届けさせてもらうぞ》

 

「はい、必ずやヤマト(ヤマッテ)を討ち果たしてご覧に差し上げます」

 

《よろしい。メーザーよ、ガトランティスに殉ぜよ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たな復讐者の矛先は、静かにヤマトへと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

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