さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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溶岩の星

 

「なんだよあれ、本当に惑星なのか?」

 

 ヤマト艦内のモニターに映し出された異質な星―――溶岩惑星シュトラバーゼの映像を目にした篠原が、思わずそう呟いた。

 

 篠原がつい呟いてしまうのも無理はない。惑星のほぼ全体がマグマに覆われ、その南極と北極を薄紫色の巨大な結晶に刺し貫かれた状態で、闇色のガス雲の中に紛れている惑星を見て不気味だと思わない人間など居ないだろう。

 

「あんなところに降りて大丈夫なのかねぇ」

 

「惑星の大気は地球と同レベル、推定気温は27℃だそうですよ」

 

 そう言ったのはフライトジャケットを羽織った山本だった。航空隊詰所のロッカーに寄り掛かりながら、支給されたコーヒーを口へと運びつつモニターの中のシュトラバーゼの映像を紅い瞳でじっと見つめている。

 

 だがしかし、彼女の説明でも篠原は納得いかないようだった。

 

「でもさぁ、大気が同レベルってのはまだ分かるけど、あんな熱そうな見た目してるくせに気温が27℃ってどういう事だよ?」

 

「真田副長の話聞いてなかったのか?」

 

 腕を組んでいた加藤が、ここで口を開いた。

 

「あのマグマが発する膨大な熱量も、そしてあの結晶の質量も全部、絶えず隣接次元に転送して保存しているんだそうだ」

 

「つまり?」

 

「あー、だからつまり、アレだ……アレだよホラ」

 

 なあ、と視線を山本に投げかける加藤に、山本は少し呆れた。

 

 きっと真田副長の受け売りだったんだろうな、と真相を察しながら、山本が捕捉する。

 

「熱量も質量も、我々とは違う別の次元に常時転送、そこで保存しているんです。だからあのマグマの発する熱もほぼゼロ、結晶の質量も実体がないに等しいレベルなんです」

 

 さすがにマグマに沈んだら危険ですが、と付け加える山本に、篠原は納得した様子で「へー、すっげえ星もあったもんだな」と呟いた。

 

 航空隊の面々が未知の惑星シュトラバーゼに興味を示す中、加藤は幼少の頃、寺の住職だった父親から何度も聞かされた話を思い出していた。

 

 地獄と極楽浄土の話だ。善人は極楽浄土に導かれ、罪人は地獄へと落とされ煉獄の炎で焼かれ続ける―――そしてその責め苦は、永遠に終わる事が無いのだ、と。

 

 さながらあの惑星は地獄の炎だ。もしそうならば地獄の鬼もまた存在するのだろうか。ふととこまで思い至り、首を横に小さく振る。

 

(俺たちが何をしたってんだ)

 

 かつては地球を守るために戦い、そして今はどこかで救いを求める誰かのために司令部の反対を押し切ってまで出撃してきたのだ。地獄に落とされ、煉獄の中で永遠の責め苦を味わう謂れはない。

 

 あの星が禍々しく見えるのも、きっと頭のどこかで昔聞いた話を思い起こしているからだ―――そう思い、加藤は目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安定翼を展開したヤマトが、メインエンジンから迸る光を明滅させながらも降下を始めた。目指すは溶岩の海、その一角から伸びた巨大な結晶の塊だ。

 

 長女たるヤマトの降下を見守るように、上空でムサシとシナノも固唾を呑んでヤマトの着陸を見守る。

 

 操縦桿越しに感じられる振動に、島の額には脂汗が滲んだ。

 

 波動エンジンの調子は時間が過ぎれば過ぎるほど悪化しているようだった。先ほどは60%までの出力しか出せないと報告を受けていたが、今となっては30%までその上限が落ち込んでいる。もはや機関科や徳川機関長の技量を以てしても復旧の見込みがない事から、シュトラバーゼに着陸して波動エンジンを停止、エンジン全体の総点検と復旧作業を行う事となったのである。

 

 艦底部のスラスターを何度も吹かして減速、艦首をやや上空へと向けて空気抵抗も利用した減速に転じると、ヤマトの降下速度は目に見えて緩やかになっていくのが分かった。

 

「着岸まで5、4、3、2、1……」

 

 着岸、と島が報告するや、下から微かな衝撃が感じられ、そのままヤマトは結晶の大陸の上にふわりと降り立った。

 

「船体各所、異常なし」

 

「さすがだな、島」

 

「ふぅ……」

 

 心臓に悪いよ、と脂汗を拭いながら呟く島ではあったが、彼の技量あってこその着陸成功とも言えた。波動エンジン出力を30%まで制限された状態で、ヤマトの船体に傷をつける事無く、しかも溶岩の海に浮かぶ結晶の大陸へ正確に着陸することがどれだけ困難な事かは想像に難くない。

 

 さすがです島さん、と彼の技量を称える西条の隣では、徳川機関長が席から立ち上がり「わしは(かま)を見てくる」と言って、小走りでエレベーターへと乗り込んでいった。

 

 復旧までの時間がどれくらいなのか、それはまだ分からない。だがあまり長引かせるわけにもいかないのは確かだった。テレザートで何が起こっているのか、テレサはなぜヤマトを呼んだのか、わからない事があまりにも多すぎる。

 

 第十一番惑星での一件が尾を曳いている事に、古代は後悔を覚えていた。

 

 第十一番惑星救出作戦を実行するべき、と強く進言し艦隊の方針として決定まで持ち込んだのは他でもない自分だ。だから今回のエンジントラブルも、自分の責任なのだ。

 

 そこまで思い至ったところで、頬にひんやりとした感触を覚えて古代は身体をびくりと震わせた。

 

 見てみると、そこには冷たい飲み物を手にした雪がいた。

 

「はいどうぞ、艦長代理(・・・・)

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

 笑みを浮かべ、隣に座る島にも飲み物を配る雪。艦橋の乗組員全員に飲み物が行き渡ったところで、容器のストローを差していた島が古代にしか聞こえないような声で言う。

 

「全部お見通しってわけか。さすがだねぇ」

 

「……雪には敵わないな」

 

 きっとそうなのだろうな、と思う。

 

 古代が何を考えているのか、きっと雪も―――そして隣に座る島も、見透かしていたのだ。どうせ今回のエンジントラブルで艦隊の足を引っ張ったのは自分の生なのだろう、と、また責任を自分一人で背負い込もうとする古代の悪い癖。

 

 顔に出てるのかな、と思ったところで、レーダー担当を西条とバトンタッチした雪が報告する。

 

「レーダーに感―――惑星上空、11時方向に艦影多数」

 

 まさかガトランティスか、と艦橋の空気が一気に張り詰めた。

 

 もし仮に今、ガトランティスの襲撃を受けたらひとたまりもない。幸いヤマトの補助エンジンは生きており、最悪の場合は修理を切り上げて発進する事も出来るが、そうなればショックカノンも波動防壁も使えず、多くの選択肢を封じられた状態での戦闘を強いられる事となる。

 

 戦闘配置を命じるべきか、しかしまだ艦種の特定が済んでいないと考えたところで、雪が幾分か力の抜けた安堵を感じさせる声で報告した。

 

「ガミラス艦隊です」

 

「―――例の定期便(・・・)か」

 

 メインパネルに、薄紫色のガス雲を越えて降下してくるガミラス艦隊の姿が投影される。

 

 機動艦隊のようだった。航空戦の要となるガイペロン級空母を中核に、ケルカピア級とクリピテラ級という機動力に優れた中、小型艦で固めたガミラス機動艦隊。

 

 その陣形の中央に位置するガイペロン級には、見覚えがあった。

 

(あれは……)

 

 装備が大きく変わっているものの、あの紫色のガイペロン級には見覚えがある。

 

 かつては七色星団で一度、ヤマトと砲火を交えた元ドメル艦隊所属のガイペロン級、その生き残り―――幸運艦『ランベア』だ。

 

 という事は、あの艦隊の司令官は……。

 

「艦長、ガミラス艦隊より入電」

 

「メインパネルに」

 

 相原の報告にそう返すや、メインパネルに今度は見覚えのあるガミラス人の男の顔が映し出された。

 

 目つきは鋭く、軍人というよりはゴロツキのような出で立ちではあるものの、しかしその身には数多の死闘を潜り抜けてきた歴戦の猛者にしか宿らぬ貫禄がある。

 

《久しぶりだな、古代》

 

「バーガー、お前だったのか」

 

《地球に行けって命令されてな》

 

 シャンブロウでの共闘以降、バーガーは凄まじい勢いで実力を伸ばしていったと古代は聞いている。今では大佐に昇進、ついには”バーガー戦闘団”と呼ばれる艦隊まで任される程となり、一部では『ドメルの再来』とまで言われているのだそうだ。

 

 遠く離れた地球にまでその噂話が聞こえてくるのだ、今や彼と彼の率いる艦隊はガミラスの大きな力の一翼を担っていると言っていいだろう。

 

 旧友との再会は嬉しかったし、地球で共にガトランティスと戦ってくれる事に頼もしさを感じる古代ではあったが、その一方で不安にも思っていた。

 

 ガミラスが虎の子のバーガー戦闘団まで地球に派遣する事の意味を思えば、無理もない話である。

 

 ガトランティスの侵攻を挫くためには、今のガミラス地球駐留軍だけでは力不足―――だからバーガー戦闘団も地球に展開させる。そうでなければガトランティスには太刀打ちできないという判断に違いない。

 

 ガミラスはガトランティスについて、何かを掴んでいるのだろうか。

 

 そして、ガミラスの目論見はそれだけではあるまい。

 

 日々増強を続ける地球の波動砲艦隊―――それに対する牽制、あるいは抑止力の意味合いもある筈だ。少なくともガミラスは、地球の軍拡にあまり良い顔をしていない。

 

 とはいえ一部ではデスラー政権崩壊に伴う混乱で版図を持て余しており、その持て余した領土を地球に肩代わりさせるという意味で地球の軍拡を歓迎する一派も居る事から、ガミラス側も一枚岩ではないらしい。

 

 バーガーとの通信が終わったところで、古代はガミラス艦隊の中に1隻、明らかに違う艦が混じっている事に気付いた。

 

 ランベアの傍ら、クリピテラ級3隻と一緒に航行する黒い宇宙戦艦。

 

 その様子がメインパネルに映し出されると、艦橋の乗組員たちが目を丸くした。

 

「……キイだ」

 

 やっとの事で呟いたのは真田だった。

 

 宇宙戦艦キイ―――地球の切り札として建造されたヤマト級宇宙戦艦、その4番艦として就役し実験艦として生まれ変わった、ヤマト級4姉妹の末妹。

 

 大まかな船体の形状は就役時のヤマトと似通っていた。しかし得意なのはその艦上構造物と艦尾のエンジン部のレイアウトであろう。

 

 ヤマトの船体の上にアンドロメダ級の主砲と艦橋を乗せている―――キイの外見を一言で言い表すなら、まさにその通りだった。

 

 艦橋はヤマトのようにごつごつとした、どこか大昔の戦艦を思わせるものではなく、ステルス性を重視したのっぺりとしたものとなっており、艦橋の周囲を取り囲む対空火器も全て艦内に収納する隠匿式となっていた。だからなのだろう、大まかなシルエットはヤマトよりもさっぱりとしたようになっている。

 

 主砲は4基12門。それもヤマトの48cm砲ではなくアンドロメダの40.6cm砲だ。エネルギー増幅システムがアンドロメダのものより大型化しており、古い型である事が分かる。

 

 そしてもう一つの分かりやすい外見的特徴がその艦尾だ。

 

 ヤマトは補助エンジン2基の上にメインエンジンを配置したレイアウトとなっているが、キイのものは徳川が「ヤマトとは規格が違う」と言っていた通り、似ても似つかぬレイアウトとなっている。

 

 メインエンジン1基を4基の補助エンジン―――アンドロメダと同型のケルビンインパルスエンジンが取り囲むという、ヤマト級というよりはアンドロメダ級寄りのレイアウトとなっているのだ。

 

 総じて”ヤマトとアンドロメダを足して2で割ったような艦”とでも言うべきだろうか。

 

 それもそのはず、アンドロメダで採用されている技術の多くはキイがテスト運用したものであり、アンドロメダを思わせる姿をしているのもヤマト級からアンドロメダ級へと発展していく過渡期にあったからに他ならない。

 

「ヤマト級4隻揃い踏み、か」

 

 ぽつりと南部が呟いた。

 

 今思えば、ヤマト級の4姉妹が仲睦まじく一堂に会した事はないのではないか―――就役した時から一度も、だ。

 

 4隻並んだらきっと壮観なのだろう、と古代は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸の奥に、炎が燈る。

 

 この敗北を忘れるな―――屈辱を忘れるな、とでも言うかのように、胸中に生じた炎は敗北の屈辱となってメーザーの内面を焼き続けた。

 

 これが復讐に囚われる、という事なのだろう。

 

 そしてその復讐を果たさぬ限り、この胸を焼き尽くすような感情から解放される事は無いのだ、決して。

 

「―――全艦前進! 目標、惑星シュトラバーゼ!」

 

 メーザーが大帝から与えられた命令はただ一つ。

 

 パラカスを退けた地球(テロン)(フネ)―――ヤマト(ヤマッテ)を撃沈する、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 そしてそれは彼の復讐目標とも、合致していた。

 

 

 

 

 

 

 

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