さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
ヤマト級戦艦が一堂に会する機会は、実はそれほど多くはない。
イスカンダルへと旅立ったヤマトと、長女不在の間地球の守りを担い、いざとなれば人類脱出のための箱舟として常にヤマト計画の保険としてイズモ計画を担う事となっていたムサシ及びキイ、そして次世代戦闘艦開発の礎となるべく様々な新技術のテストヘッドとなったキイ。
それぞれ目的が異なったが故にこうして舳先を並べた機会は驚くほど少なく、特に単独行動の機会が多いキイの乗員たちにとってそれは貴重な瞬間に映った。
長女ヤマトに寄り添うように降下していくムサシとシナノ。双方の操縦士の腕がいいのだろう、波動エンジンの修理に入ったヤマトの傍らに、ふわりと2隻の同型艦が降り立つ。
「ヤマト、ムサシ、シナノの3隻が並んでいるのは壮観の眺めだな」
メインパネルに投影された同型艦たちの雄姿を見ながら、やっとの事でガミラスとの技術交流から帰還を許されたキイの西村艦長はそう言った。
ガミラスの技術交流―――両国の関係強化のためと言えば聞こえはいいが、実際は地球政府からすれば技術交流を通じてガミラスの技術を得るのが目的であり、地球帰還に際してはハヤカワ・インダストリーがガミラス側へ産業スパイとして送り込んでいた工作員の回収も目的の一つであった。
地球人がガミラスに潜入するためのハードルは、実はそれほど高くはない。確かに純然たる青い肌のガミラス人として潜入するならば、相応のハードルの高さがあろう。だがしかしガミラスへの隷属の歴史が長く外見的特徴に地球人との共通点が多いザルツ人としてであれば、その気になればいくらでも地球人を送り込めるのだ(実際にヤマトの乗組員が惑星レプタボーダでザルツ人に間違われたりした事例がある)。
ハヤカワ・インダストリーはそこにつけ込んだのである。
腹黒い企業、というのが西村艦長の評価であった。
そしてガミラスもガミラスで、地球から遥々やってきたキイにガトランティス戦への参戦を要請したり、挙句の果てには資源採掘基地のある浮遊大陸の
ちょっとした宇宙旅行気分だった乗員たちも、今回の地球・ガミラス両国の思惑の間で翻弄され、随分と疲弊しきっていた。
二大星間国家の腹の内に沈殿した汚泥の如き闇に晒されれば、こうもなるだろう。
だからそういった思惑とは無縁の場所で、あるいはそういった雰囲気の漂わない宇宙の片隅で、自分たちの乗る艦の同型艦と舳先を並べるのは一種の気を休められる時間、休息と言ってもいい瞬間であった。
「ようし、我がキイもあの隣に着陸だ」
「はっ!」
船体各所のスラスターを吹かしながら、キイも結晶大陸へと降下していく。
キイはヤマト級の末席に名を連ねる艦ではあるが、しかしその船体部品の多くは他の姉妹たちとの互換性がない。
ヤマト級からアンドロメダ級へと発展していく最中、様々な新技術がキイに搭載され、その仕様を変化させていった事による結果だった。確かに船体そのものはヤマト級に似通っているが、艦橋やエンジンのレイアウト、武装といった一目で分かる部分から細かい部分に至るまで、独自規格の試験用パーツや試作パーツが使用されているため、同型艦でありながら部品の互換性を失うという今の時代では考えられない事態に陥っている。
だが、中には使える予備パーツもあるだろうし、実験艦という性質上データ収集要員や技師も多く乗艦している。彼らをヤマトに派遣すれば波動エンジンのちょっとしたアップグレードや、より効率的な修理を行えるだろう。
既に技師の派遣はヤマト側に申し入れてある。
安定翼を展開、艦首を起こすようにして空気抵抗を味方につけたキイが、波動エンジンの修理に入ったヤマトの傍らにふわりと降り立つ。
キイに慣れた西村艦長から見ると、ヤマトは就役時のヤマト級の姿を色濃く残していた。
格納庫の拡張により船体は拡幅されどっしりとしており、増設されたパルスレーザー砲塔や主砲の増加装甲などを見れば、就役時のスマートさは失われ、その重厚感はどちらかというと大昔に戦没した戦艦大和のそれを思わせる。
しかし次世代艦のテストヘッドとして改修を受けた他の姉妹艦よりも、純然たる戦闘艦として第一線で戦い続けてきたこの老兵こそが、ヤマト級の最初期の原型を留めているのも確かな事だった。
そしてその英雄たちの
遥か宇宙の彼方、女神テレサが眠るという言い伝えのある伝説の惑星、テレザート。
防衛軍上層部の命令を無視してまで旅立った彼らは、そこで何を成すつもりなのか。
できることならばそれを見届けてみたい―――そんな思いが、微かに西村艦長の胸中に渦巻いた。
ヤマトの改装で手が入ったのは、武装の増設や格納庫の拡張だけではない。
第一艦橋の真下にある第二艦橋にもまた、真田の手により大規模な解析システムが追加されており、天体や敵兵器の解析を行うための設備が新設されている。
そしてそこは今回の航海にスカウトされた技術者の1人―――速河信也がずっと詰めていた。
「これはすごい……真田副長、この惑星はまさに未知の技術の宝庫ですよ」
そう言いながら彼は座席に座ったまま、目の前にあるコントローラーを操作している。
新型解析システム(アンドロメダ級の準同型艦、惑星探査艦『ラボラトリー・アクエリアス』の惑星探査システムの一部を流用したものだ)のパネルには、先ほど船外へ射出したドローンからの映像が映し出されている。今回の航海の際、可能であればテレザートでの調査のために使いたいと速河が
スティック状のコントローラーを操作するや、ドローンが移動しつつ結晶の柱をズームアップした。それと同時に画面の右上に数値が表示され、凄まじい勢いで更新され始める。
「あの結晶、本当に質量がない。隣接次元への質量転送も確認されています。信じられませんよ副長、月の半径とほぼ同等でそれだけの質量があれば存在できないサイズなのに、あのサイズで質量がほぼゼロ……結晶だけではありません、あのマグマもそうです。マグマそのものが持つ熱は確かにありますが、大気に放射される熱が途端に隣接次元へと絶えず転送されているんです。見てくださいこれ、船外温度がたった26℃しかありません。ここからマグマの海までは目と鼻の先だというのに……一体どんな技術を使えば、いや、一体何のためにこんな惑星を作ったのか……アケーリアス文明の真意が気になるところですね」
「そ、そうだな……」
少年のように目を輝かせる速河の熱量に、第二艦橋を訪れた真田は少し引いていた。
彼も根っからの技術屋でもある。ヤマトの改装にも深く関わっているし、イスカンダルの航海の際にも技術解析を行い前人未到の航海の成功に大きく貢献した。
そんな彼が今回の航海に役立つだろうと目をつけ、スカウトしてきた速河信也という男は、おそらくは一度興味を持つと周りが見えなくなるタイプの人間なのだろう……それこそ、一度研究室に詰めればそれ以外の私生活が破綻しかねないレベルの、だ。
早口で紡がれる彼の私見を、要所だけ拾い他は聞き流しながら、しかし真田も彼と似たような興味を抱いていた。
―――この惑星は、本当に何なのか。
この惑星に突き刺さっている結晶の柱がどうやって存在しているのか、そしてこれだけマグマに近い場所に居るというのに殆ど熱さを感じず、地球と同等の大気の恩恵で宇宙服無しでの行動も出来る惑星―――あまりにも異様な天体は、アケーリアス文明が遺した改造惑星であるという説が有力である。
既に何度も述べられているが、あの結晶の柱が自重で折れずに大気圏外まで伸びる事が出来ているのも、そしてマグマの熱が殆ど感じられないのも、全ては質量と熱が絶えず隣接次元に転送されそこで保存されているためだ。だから結晶の柱の質量はあの見た目に反してほぼゼロ、マグマからの輻射熱もほとんどゼロに近いのである。
(しかしいったい何のためにアケーリアス文明はこんな惑星を……?)
顎に指をあて、しばし思考に耽る。
アケーリアス文明―――今の大宇宙に存在する、全ての人型知的生命体の創造主とされる存在。それによると地球人もガミラス人も、そして他の惑星に生きる知的生命体も総て、アケーリアス文明によって大宇宙にばら撒かれた”種”であり、起源を同じくする兄弟のような存在であるのだという。
この惑星を改造したのがアケーリアス文明であるというのならば、しかしそれでも疑問は残る。
隣接次元へのエネルギーの転送―――この技術は何のためのものなのか。
レトラヴズ教授という異星文明学者が地球で活動している。以前に読んだ彼の論文によると、『アケーリアス文明は滅んだのではなく、肉体を捨て去り、精神だけの存在となって更なる高次元へと旅立った上位生命体である』という説が提唱されており、学界では笑いものにされたようだが今に限っては真田はその説を支持していた。
高次元―――そこがどういう空間なのか、至った事のない人類には想像もつかない。
しかし、もしそこではこの宇宙で手に入る物質や資源が容易に手に入らず、常にこちら側の次元からの物質やエネルギーの補充を必要とするのであればどうか。
この惑星で行われている質量や熱エネルギーの転送は、つまるところ隣接次元―――いや、彼らの住む次元とは別の次元空間へと資源とエネルギーを転送するための、一種の
そこまで考えが思い至ったところで間近から浴びせられた「副長?」という問いかけの声に、真田の意識は己の内から外へと呼び戻された。
キョトンとした顔で、速河がこちらを見上げている。
彼も一度興味のある事に没頭すると周りが見えなくなるタイプの人種のようだが、それは自分も変わらないらしい―――すっかり周りが見えていなかったことを恥じながら、「ああすまない、少し考え事をな……」と応じた真田は、ドローンから送られてくる映像に目を通しながらデータの記録を続けるのだった。
「技師団の派遣に感謝します、西村艦長」
メインパネルに映る艦長のコートを羽織った長身痩躯の男―――西村艦長に、古代は敬礼しながら礼を告げた。
キイとヤマトのエンジンに互換性はない。が、長年最新技術に触れてきたキイの技術要員たちが波動エンジンの修理の応援に派遣された事もあって、機関室での修理作業は捗っているようだ。
徳川機関長からの中間報告では、回路の焼損や短絡、それからその他の電気的なトラブルが主な原因であるのだという。波動共鳴により回路が焼き切れた事、そして各所の設定値などのデータが狂った事などの要因が重なって今回の故障に至ったのではないかという見解であり、それはキイから派遣された技術団からの報告とも合致している。
《礼には及ばんさ。船乗りたるもの、海で溺れている相手には手を差し伸べるものだ》
それが何者だろうとな、と告げる西村艦長の顔には、船乗りの矜持と自らの感情の間で揺れ動くような複雑さが垣間見えた。
おそらく彼も多くの防衛軍の軍人―――ガミラス戦役を生き延びたベテランの軍人と同じなのだろうな、と古代は思う。ガミラスとの戦いが終わり同盟関係となっても、地球人類を滅亡の縁へと追いやり全てを奪っていった彼らを赦す事など、簡単にできることではない。
実際に彼らと接する機会があったヤマト乗組員一同ならばともかく、地球で滅亡の時に怯えながらその日その日を生き、あるいはガミラス艦隊との絶望的な戦いに身を投じた軍人であれば猶更だ。
事実、西村艦長も第一次内惑星戦争からガミラス戦役時までは駆逐艦を指揮し戦っていた、生粋の船乗りであるのだと聞いている。
ヒグマを思わせる栗田艦長と比較すると痩せていて、どこか疲れ切ったような表情が浮かぶ西村艦長だが、しかしその眼光から鋭さは失われていない。その黒い瞳が見据えるのは地球の未来か、それとも自らから全てを奪った敵の幻影か。
いずれにせよ、キイや他のガミラス艦隊との合流は無駄ではなかったらしい。
この調子であればすぐに再び飛び立ち、テレザートへの航海を再開できるであろう―――タイムスケジュールを頭の中で組む古代であったが、しかし現実とは常にそう上手くいかないものである。
「―――艦長、レーダーに感! ミサイルです!」
「!!」
緩んでいた身体に、一瞬で力が入った。脱力していた意識に緊張が宿り、古代はすぐに命令を飛ばす。
「警報鳴らせ! 対空戦闘!」
艦内に響き渡る警報音。それに追い立てられるようにパルスレーザー砲塔群や煙突に搭載された複合ミサイル防空システムが、補助エンジンからの動力を受けてアクティブになった。
慌ただしくなるのはヤマトだけではない。エンジンに特に異常があるわけではないムサシやシナノ、それからキイも戦闘態勢に入ったようで、キイの艦橋両脇にあるハッチが展開、そこから隠匿式のパルスレーザー砲塔が顔を出す。
エンジン修理の隙を突かれた―――おそらく敵は、ヤマトの不調を知っている。
ならば第十一番惑星から追ってきた敵ではないか―――そこまで思い至りつつも、古代は続けて命令する。
「―――撃ち方始め!」