さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「敵襲!?」
ランベアの艦橋内が一気に騒がしくなる中、バーガーの目は一気に鋭くなった。それはまるで獲物に狙いを定めた猛禽類のようだ、と艦橋に用意された専用席に腰を下ろしていたミケールは思う。
地球とガミラスを結ぶ定期便、その中継地とされている溶岩惑星シュトラバーゼ―――惑星表面の環境もそうだが、惑星を包み込む闇色のガス雲はレーダー機能を阻害する効果を持つ。一説にはガス内部に含まれている星間物質の作用だそうだが、敵の襲来をこのタイミングまで気付けなかったのはそのためであろう。
定期便の中継地、その隠れ蓑として機能していたガス雲が、ここに来て仇となった。
「全艦戦闘配置、砲雷撃戦用意!」
「艦長、航空機を出しますか?」
副官からの意見具申に、「いや」とバーガーは首を横に振った。
その視線の先にあるのは、シュトラバーゼの不気味極まりない空だ。闇色のガス雲で覆われた空が、大地を埋め尽くすマグマの赤黒い光に照らされて、さながら燃え広がるかのように禍々しい色に染まっている。
視界は最悪だ。それに加え、あのガス雲の中ではレーダーも使い物にならない……パイロットとしてヤマトと戦った男であるからこそ、バーガーは危惧しているのであろう。視界の悪いガス雲の中、レーダーも使えない状態で飛ぶことの危険性を。
「あのガス雲は航空隊にとって危険だ。艦砲射撃で応戦する」
「はっ!」
「敵ミサイル、ヤマトへ向かっています!」
「迎撃だ、撃ち落とせ!」
彼等の任務はここでガトランティスと戦う事ではない。地球駐留軍と合流し、対ガトランティス戦線の一翼を担う兵力として戦う事が任務である。ならば、ここで不要な戦闘を行い徒に兵力を損耗させることは慎んで然るべきだ。
が、しかし。
ちらり、とバーガーの視線がヤマトの方を向いた。
今のヤマトの状況は、バーガーもミケールも部下からの報告で承知している。第十一番惑星でガトランティスの侵略軍と一戦を交えたヤマトは、勝利こそ収めたもののそこで波動エンジンに損傷を被り、今はキイから派遣された技術団と共にエンジンの修理を行っている。
飛び立てないわけではない。ヤマトは補助動力として核融合炉を2基搭載しているので、最悪の場合は補助エンジンを使用し離脱する事も可能だ。だがその場合、波動防壁もショックカノンも、そしてもちろん波動砲も使用できず、実弾兵器のみでの応戦を余儀なくされる事となるだろう。
(クソッタレ、選択しろってか)
バーガーは歯を食いしばった。
ヤマトとは縁がある。確かにドメルを始め、多くの仲間や上官の命を奪った憎たらしい敵ではあった。だがしかし、惑星シャンブロウの一件を経て今となっては頼もしい味方であり、あの艦の式を執っているであろう古代も戦友と呼べる間柄となっている。
友の窮地を救いたい、という個人的な感情がある一方で、しかし軍人としての理性がそれに待ったをかける。
先ほども述べた通り、バーガー戦闘団の目指すべき場所は地球だ。可能な限り戦力を温存し、地球の月に駐留する地球駐留軍、その本部たる第三バレラスへと向かわなければならない。
ここでガトランティスと一戦交え、無駄な損耗を被る事だけは避けなければならないというのも実情であった。
友人の命を救うか。
それともガミラス軍人としての使命に殉ずるか。
偶発的とはいえ発生した悪魔の選択。その板挟みに苦しむバーガーだったが、しかしランベアのメインパネルに映し出されたヤマトからの通信が、彼を2つの選択肢からの呵責に苛まれていた彼を救う事となる。
緑色のメインパネルに映し出されたのは、古代の顔だった。
「古代」
《バーガー、俺たちの事はいい。君たちは一刻も早く地球へ》
「しかし、今のヤマトじゃあ……」
《敵の狙いはあくまでもヤマトだ》
言われてみれば、確かにそうだ。
ランベアの左舷にある対空火器が紅い閃光を放ち、ガス雲の向こうから矢継ぎ早に放たれるガトランティスの対艦ミサイルの一群を迎撃していく。
しかしその破壊の牙は、1発たりとも矛先をガミラス艦隊には向けていない。いずれも地球艦隊、それもエンジン不調で飛び立てないヤマトだけを狙って放たれているようにも見えた。
間違いない、敵の狙いはヤマトなのだ。ガミラス艦隊には目もくれていない。
《ここは我々が囮になる。ガミラス艦隊は直ちに地球へ向かわれたし。第三バレラスからの誘導があれば、ここからでも月軌道にワープアウトできるはずだ》
地球圏へワープアウトする事は困難を極める。
それは地球が侵略を受けた場合に、敵勢力がいきなり地球の目の前にワープアウトしてくる事を防ぐため、太陽系各所にワープ阻害装置を展開しているためだ。そのため太陽系内では司令部からの誘導が無ければワープできず、無理にワープしようとすれば全く別の星系にワープアウトするか、最悪の場合異層次元へと迷い込んでしまう恐れすらある。
ヤマトが地球脱出後、ワープで直ちに太陽系を離脱できなかった理由がそれだ。
そしてそれはガミラス地球駐留軍も同様の措置を行っており、ガミラス艦隊が太陽系内でワープをするためには第三バレラスにある駐留軍司令部からの誘導が必須となる。
「バーガー大佐、既に大使館を通じ司令部からの許可を取りつけました」
凛とした声でクラリスが告げる。
いつの間にか、艦橋内の通信設備を拝借し司令部とコンタクトを取っていたらしい。行動の速さに驚くバーガーであったが、こうもなればやるべき事は決まっている。
「……死ぬなよ、古代」
《……ああ》
メインパネルから戦友の顔が消えた。
「―――よーし、全艦シュトラバーゼより離脱! 衛星軌道上でワープ準備に入る!」
ランベアがスラスターを吹かし、重武装ユニットの搭載で重くなった船体をゆっくりと回頭させながら、ガス雲目掛けて重々しく上昇を始める。他の艦もそれに続き、ガミラス艦隊の舳先が頭上のガス雲を睨んだ。
先ほどミサイルが抜けてきたガス雲の一角を、さながら肉食昆虫の群れの如くカブトガニのような航空機たちが突破、ヤマト目掛けて突進していく。
デスバテーターだ―――ガミラスや地球の航空機のような軽快さはないが、重装甲と強力な武装でそれを補っている。
離脱を促されはしたものの、しかし敵をみすみす見逃す理由もない。上昇する間もガミラス艦隊の対空火器やミサイル、陽電子ビーム砲は火を吹き続け、デスバテーターの一団のうちいくつかの機体が火球と化した。
だがそれでも、ガトランティス航空隊はガミラス艦隊を一瞥すらしない。
脅威と見ていないのではない―――ヤマトを最優先目標としているのだ。
敵の動きをそう分析するミケールは、視線をヤマトへと向けた。
(ヤマト……地球とガミラスをデスラーから救った英雄の
見せてもらおうか―――相手を見極めるような目で、ミケールはそう胸中に思うのだった。
「ガミラス艦隊、離脱を開始」
メーザー艦隊旗艦『ガノイア』の艦橋に、無機質な、しかし微かに殺気を滲ませた報告の声が上がる。
「捨て置け」
ぴしゃりと言いながら、メーザーは血走った眼をメインパネルへと向けた。
先行させた航空隊は既にガス雲を突破、ヤマト艦隊と交戦を開始している。ガミラス艦隊の妨害で既に何機か損害が出ているようだが、彼にとってそれは些細な事だった。
戦の中で死ぬ―――ガトランティスの兵として、あるいは将として、これ以上の誉れはあるまい。その死が壮絶であればあるほど、鮮烈であればあるほど、その武勇はこの大宇宙に未来永劫語り継がれるのだ。
この大宇宙こそ我が故郷。であるならば、この大宇宙こそが戦士たちの墓標でもある。
第十一番惑星から逃げ延びたメーザーの元へと大帝から派遣された戦力は、カラクルム級6隻とナスカ級3隻、ラスコー級2隻、ククルカン級11隻……サーベラーからの話が本当であれば、他の宙域での戦線で戦から逃亡した”懲罰艦隊”であるという。
今の自分と同じだな、とメーザーは自嘲の笑みを浮かべた。
ならばこの不名誉を、戦で注ぎ落すしかあるまい。戦って戦って、この命ある限り戦い尽くして最期は戦の中に散る―――それこそがガトランティス人の本能、戦と共に一族の栄達を重ねてきた、ガトランティスという種族の
元より生きて帰るつもりなどない。一度とて戦場に背を向けたこの不名誉、戦の中での名誉ある死で飾らねば一族には末代に至るまで汚名がついて回るであろう。
「全艦発進、大気圏に突入し
腕を振るいながら命じるや、旗艦ガノイアのエンジンノズルに蒼い光が燈った。
それと連鎖するように、他の艦も次々にエンジンノズルから蒼い炎を吹き上げて、巨大な船体を前へと進めていく。
最後尾に続くナスカ級空母3隻も同様だった。既に彼らの格納庫には、残った航空機は1機もない。攻撃隊は全てヤマト攻撃へと差し向けた―――後は残された武装と、その船体の質量を武器に戦う事となる。
もはや彼らに帰るべき場所など無かった。
還るべき場所があるとしたらそれはきっと、戦士たちが眠る場所なのだろう。
「急速上昇! 全砲門開け、砲雷撃戦用意!」
《急速上昇、全兵装アクティブ。砲雷撃戦用意》
キイのAIの復唱を受けながら、西村艦長は艦橋の窓の向こうを睨んだ。
ヤマトもとんでもない相手に狙われたものだ、と常々思うが、それも仕方のない事だ。なにせヤマトは単独でイスカンダルへの航海に挑み、地球人類どころかガミラス人まで救って帰ってきた文字通りの英雄の
「主砲をエアバーストモードに切り替え。目標、敵航空隊。一機たりとも通すなよ」
《
「撃ち方始め!」
「撃ちーかたー始め!!」
いち早く上昇したキイが、ガトランティス攻撃隊の矢面に立つ格好となった。
前部甲板に搭載された2基6門の40.6cm三連装陽電子衝撃波砲塔―――アンドロメダ級に搭載されているショックカノン、その原型となった主砲が旋回するや、すらりとした騎士の槍を思わせる砲身から蒼い閃光を迸らせる。
空間へと突き入れられるように鋭く飛翔した6つの閃光が、微かに捩れながらもガトランティス航空隊へと向かっていく。
デスバテーターのみで構成される彼らのパイロンには、対艦ミサイルだけがあった。空対空ミサイルの類はなく、あくまでも対艦攻撃のみを想定した装備であるのだろう。直掩機の姿もなく、捨て身の攻撃である事はすぐに分かった。
しかしそんな不退転の覚悟で戦場へ躍り出る彼らの目の前で蒼い閃光が弾けた途端に、その覚悟も総てが無駄になる。
航空隊の目の前まで飛来したショックカノンの砲撃が、唐突に炸裂したのである。
蒼い爆炎と衝撃波をもろに浴びたデスバテーターが機体正面の装甲を引き剥がされ爆弾。ミサイルも立て続けに誘爆を起こし、瞬く間に火達磨と化す。
後続の機体も同じ末路を辿った。回避しようと旋回したデスバテーターのどてっ腹がショックカノンの閃光で焼かれ、ミサイルも装甲も融解して新たな火球が産み落とされる。
ショックカノン、エアバーストモード。
目標との距離を計測、それに基づいてエネルギー集束率を変化させ対象の至近距離で炸裂させる事で航空機やミサイルを迎撃する、ショックカノンの対空戦闘モード。キイでテストされたそれは地球防衛軍の全艦に搭載されているほか、ヤマト級にもそのデータがフィードバックされている。
アンドロメダ級に迫る勢いで矢継ぎ早に放たれるショックカノン、エアバーストモード。シュトラバーゼの空が青い閃光で塗りつぶされ、それが炸裂する度にガトランティスの航空機が火球と化し、あるいは煮え滾るマグマの中へと墜落していく。
中には苦し紛れにキイ目掛けてミサイルを放ってから力尽きるデスバテーターもあったが、一矢報いようと放ったそれもキイには当たらない。波動防壁を使うまでもなく、着弾前に対艦ミサイルは隠匿式のパルスレーザー砲塔の火線に絡め取られるや、紅い炎の華と化していたのだから。
《敵航空隊、全滅を確認》
「ヤマトはどうなっている」
《エンジン修理継続中。復旧まで推定20分》
20分―――ヤマトの熟練の機関士とキイから派遣された技術団を以てしてもそれほどかかるとは、ヤマトも相当重大な故障を抱えてこの星までやってきたらしい。
結晶大陸を離陸したシナノがキイの隣についた。その後方、ヤマトを庇うようにムサシが展開したのを確認した西村艦長は、艦橋の窓の向こうに広がる闇色のガス雲を睨む。
ガス雲を突破したガトランティスの大艦隊が、そこまで迫っていた。
「さあて―――3隻で仲良く