さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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反撃の狼煙

 

「くそ、何故だ?」

 

 キイから派遣された技術団の1人、中野が思わずそんな声を漏らしたのも無理はない。

 

 波動エンジンの異常の原因は特定し、ヤマト機関科と共同で修理作業を済ませた。突貫工事ではあったものの異常の原因は取り除き、テスト結果も問題なし……しかし今、彼等の頭脳や経験を以てしても理解できぬ異常にぶち当たっている。

 

 ヤマトの波動エンジンが、正規の手順での立ち上げを図っているにも関わらず、システムが立ち上がっていかないのである。

 

 各システム単独での動作は問題なく、しかし他のシステムと連動しての起動手順の最中に何らかのエラーが発生している……ならば問題が生じているのはハードウェアではなくソフトウェアの方なのではないかと判断した中野が、部下たちと共にシステム面や電気的な面での精査を始めてから既に10分が経過していた。

 

 しかし、その原因が分からない。

 

 監視の目が行き渡らない部分は自動走査プログラムを各システムに走らせてチェック、末端の部分にまで目を光らせているが、一体どこが原因だというのか全く見当もつかないし、システムチェックの結果も問題なしという結果が出ている。

 

 いっそのこと、波動エンジンを分解して新しく組み直した方が良いのではないか―――技術屋にとっての敗北宣言じみた思いが頭に募るが、しかしここは惑星シュトラバーゼ。ワープが出来なければ地球へ帰還する事も難しく、ましてや今はヤマトが敵に狙われている状態だ。ここで波動エンジンが直らなければ、待っているのは宇宙の塵となる破滅の未来だけである。

 

「新沼、もう一度システムチェックだ」

 

「了解です」

 

 額の脂汗を拭い去り、波動エンジンの制御端末に有線接続した携帯端末の画面をタップしたその時だった。

 

 ガン、ガン、と何やら足元の床を下から蹴り上げるような音が聴こえ、中野と新沼は顔を見合わせる。まさか部品の脱落か、原因はそれなのではないか―――そこまで考えが至るが、しかし次の瞬間中野が手にしていた携帯端末の画面に『接続成功』の表示が踊り、2人はまたしても目を見開いて顔を見合わせた。

 

 これはどういうことか―――困惑する2人の目の前でシステムが立ち上がり、正常に動作していく波動エンジン。徐々に甲高い音へ変化し回転速度を上げていくそれを見つめていると、2人の足元、その後方にあるメンテナンス用のパネルが開き、中から油まみれになった徳川機関長がひょっこりと顔を出した。

 

 手には同じく、機械油に塗れた古いスパナとラチェットがある。

 

「と、徳川機関長?」

 

「アンタら、システムばかりに目を向けすぎだ」

 

「え」

 

 そう言いながら口元に笑みを浮かべ、徳川は右手に持った年季の入ったスパナを小さく掲げてみせる。

 

「訓練学校じゃあ、スパナの使い方も習わんかったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《古代艦長、こちら徳川。波動エンジン復旧、いつでも飛べるぞ》

 

「了解しました」

 

 これでやっと自由に動ける―――操縦桿を握る島の視線がそう言っているように思えた。

 

 艦橋の窓の向こう、闇色のガス雲が広がる空を睨む。先行し迎撃戦を開始したキイからの情報では、敵はやはりガトランティス艦隊であるという。それもムサシからの追加情報では、敵は第十一番惑星で戦った艦隊の生き残りである可能性が高いとの事だった。

 

 ヤマトを執念深く襲ってくるのは、敗北の屈辱を晴らすためか。

 

 ならば徹底的に叩かなければ、この追撃戦は決して終わらないのではないか。

 

 対話での事態収拾が可能な段階は、もうとっくに過ぎている―――ここから先はやるかやられるか、だ。

 

「―――これよりヤマトも戦闘に参加する。砲雷撃戦用意、ショックカノンの照準を敵艦に合わせ」

 

「波動エンジンバイパス接続。主砲へのエネルギー伝達、終わる!」

 

「ヤマト発進!」

 

 どう、とメインエンジンが朱色の光を放った。

 

 艦底部のスラスターを吹かしながら、全長333mの巨体が上昇を開始。ガス雲を背にミサイルや緑色のビームを射かけてくるガトランティス艦隊を、ヤマトの舳先が睨む。

 

 ショックカノンの有効射程範囲へ敵艦隊の前衛が収まるか否か、というタイミングに差し掛かった時だった。

 

「―――敵艦隊後方に大型反応!」

 

「なに?」

 

 増援か、と問いかけた古代に応えるように、メインパネルに”それ”が投影される。

 

 傍から見れば、黒塗りとなった巨大なピストルの弾丸を思わせた。つるりとした弾頭部はそれだけでちょっとした小惑星、あるいは小型の衛星のようなサイズがあり、後端部にはその巨体を前進させるためのエンジンノズルが規則的に並んでいる。

 

 見覚えがある、などと言うものではなかった―――イスカンダルへの16万8千光年の航海、苦難の道を共にした仲間であれば、そしてヤマトの出航を見守った防衛軍関係者であれば脳裏に強烈に焼き付いた、ガミラスの対惑星殲滅兵器。

 

「あれは……まさか」

 

「惑星間弾道弾……!?」

 

 そう、ガミラスの惑星間弾道弾だった。

 

 かつてヤマトがイスカンダルへと旅立つ際、それを察知したガミラス側が冥王星の前線基地からヤマト目掛けて放った超大型ミサイル。ICBMが大陸を跨いで飛んでいく長射程ミサイルであれば、ガミラスのそれは星々を跨いで飛んでいく戦略兵器である。

 

 何故ガトランティスがそんなものを、とは誰も言わなかった。

 

 ガトランティスは他文明の兵器を模倣して運用する。戦闘の際に技術者を生け捕りにして『科学奴隷』として奉仕させることで、急速に技術力を伸ばしてきた勢力だ。ガミラス側と交戦を始めて既に久しく、であればガミラス側の兵器も模倣していてもおかしくはない(事実、火焔直撃砲の転送システム周りや次元潜航艦もその一環で生まれたものだ)。

 

「主砲、照準を敵艦から大型ミサイルに変更。撃たれる前に迎撃を―――」

 

 撃たれる前に破壊するしかない―――そう判断した古代の命令を、しかし艦橋の後方から響いた鋭い声が遮った。

 

「―――待て!」

 

 振り向くと、そこには土方の姿があった。司令官用の黒いコートを羽織っており、頭には国連宇宙軍時代の古い軍帽もある。眼光も第一線で指揮を執る艦隊司令のそれであるが、しかし本調子ではないのだろう。空間騎兵隊の斉藤と永倉の肩を借り、何とか立っているような、そんな状態だった。

 

「土方さん……」

 

「待て、古代。迎撃してはならん」

 

「何故です。今やらなければヤマトが―――」

 

周り(・・)に被害を出してはならん、分からんのか!」

 

 ハッとした。

 

 ゆっくりと降下してくる惑星間弾道弾―――その脇を上昇していくのは、バーガー率いるガミラス艦隊だった。

 

 もし今ここで迎撃を行い、あの惑星間弾道弾を撃ち抜いてしまえばどうなるか。ヤマトへの被害はないだろうが、しかしその近くを離脱していくガミラス艦隊は、波動防壁を持つ改ガイペロン級(※古代は知らぬ事だがガイペロン級の重武装ユニットには波動防壁システムがある)以外は消滅してしまうであろう。

 

 ガミラス艦隊の存在を失念していた―――己の視野の狭さを恥じる古代に、土方は続けて命じる。

 

「島、波動エンジンを一時停止。波動防壁へのエネルギー伝達も切って補助エンジンだけで航行しろ。高度を上げず、マグマの上を這うように進め」

 

「しかしそれでは……」

 

「敵の狙いはヤマトだ」

 

 その言葉で、島は土方の狙いを察したらしい。それ以上は反論せず、息を呑んでから復唱した。

 

「了解。上昇中止、補助エンジンだけで航行します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤマト(ヤマッテ)が動きました」

 

 副官の報告に、メーザーは眼光を鋭くした。

 

 メインパネルには確かに、結晶の台座の上から動き出したヤマトの姿がある。だがしかし、その動きは第十一番惑星で見た時よりも遥かに緩慢で、死にかけの負傷兵が無理をしながらなんとか立ち上がって逃げ出そうとしているような、何とも滑稽な光景に思えた。

 

(メインエンジンが点火していない……?)

 

 メーザーが続けて注目したのは、ヤマトの艦尾に備わるエンジンノズルだった。

 

 ヤマトは2基の補助エンジンの上に1基のメインエンジン、大口径ノズルを備えるレイアウトとなっている。もちろんメインエンジンが推力の大半を担い、補助エンジンは文字通りの補助的な運用、あるいは何らかのトラブルでメインエンジンが使用不能となった場合の非常用推進システムとして備えられている。

 

 ヤマトの艦尾で必死に火を吹き、船体を推し進めているのはメインエンジンではなく、補助エンジンのようだった。

 

 そこまで考えが至り、メーザーは笑みを浮かべる。

 

 ―――神はこのメーザーめを見捨ててはいなかった!

 

 なんという僥倖か、とメーザーは思う。

 

 忌々しいヤマトはまだ本調子ではないのだ。第十一番惑星での傷を癒すためにこのシュトラバーゼに立ち寄ったはいいが、メーザー率いる懲罰艦隊の熾烈な攻撃にたまらず修理を中断、強引に発進し離脱を図り始めた……つまりはそういう事なのだろう。

 

 ならば、ヤマトを沈めるのは今しかない。

 

「全艦、照準をヤマトに合わせ! あの魔の船を沈めるのは今ぞ!」

 

 命じるや、懲罰艦隊の砲門が一斉にヤマトを睨んだ。瞬く間に緑色のビームが矢継ぎ早に撃ち出され、結晶の大地やマグマの海を撃ち抜いていく。

 

 土砂降りさながらに降り注ぐビームの集中豪雨。ヤマトに随伴する姉妹艦たちが必死にバリアのような兵器を傘のように展開しヤマトを守ろうとするが、その労力がいつまで続くか。

 

 このまま押し切れば、ヤマト共々マグマの海に沈める事も不可能ではなかろう。それに、彼等にはガミラスから鹵獲した惑星間弾道弾もある。

 

 勝利の女神は、メーザーに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『勝利の女神など私は信用しない』―――そう言い放ったのは、若き日の沖田だった。

 

 勝利の女神など、誰にでも笑みを向ける。そしてそれを信じる者から死んでいくのだ、と。

 

 土砂降りのように降り注ぐビーム砲の集中豪雨。船体のすぐ脇を掠めたビームが、眼下のマグマの海に着弾するや、真っ赤な飛沫を生じさせる。

 

 ヒュン、とヤマトの頭上を掠める一発の波動防壁弾。ミサイルからフィラメントが伸びるやドリルのように回転を始め、頭上に蒼い波動防壁の傘を広げた。

 

 案の定、敵はヤマトばかりを狙ってきた。

 

 これが土方の狙いだったのだ。

 

 敢えて補助エンジンのみで飛び立ち、波動防壁もショックカノンも用いずに迎撃戦闘、おまけに低空を飛行する事でエンジンの不調を見せかける―――ガトランティスにとって脅威となるヤマトが死にかけともなれば、敵はヤマトにのみ攻撃を集中させてくるだろう。

 

 そうやってヤマトで敵の攻撃を誘引する事で、敵艦隊と惑星間弾道弾をガミラス艦隊から遠ざけたのだ。

 

 艦橋に上がってきてからのわずかの間に、そこまで考えた土方の洞察力の鋭さに、古代は息を呑んだ。

 

 この人には周りが良く見えている。

 

「土方指令」

 

 そっと席を立った真田が、斉藤と永倉に肩を貸してもらい立っている土方を真っ直ぐに見た。唇は固く結び、立つ両脚にも力が入っているのが分かる。

 

「……ヤマト副長として、貴方に本艦の指揮をお願いしたい」

 

 それは真田だけではない―――艦橋に居る乗組員全員の思いでもあった。

 

【―――この(フネ)の連中はまだ若い。支えになる大人が必要だ……そうは思いませんか】

 

 そんな佐渡の言葉が、土方の頭の中でリフレインする。

 

 確かに今のヤマトには、精神的な支柱となる”大人”が居ない。イスカンダルへの航海でそうだったように、ヤマトには沖田という大きな精神的支柱があった。沖田が居たからこそ、若手の乗組員たちは一つに纏まる事が出来た。

 

 果たして今の自分に、その役割が担えるのか?

 

(俺は……)

 

 俺は、負けた人間だ。

 

 そんな負け犬が、沖田の席に座るなど許されるのか?

 

 艦長席に掲げられた沖田のレリーフを見上げた。かつての戦友の顔を精巧に再現したそれは、しかし当然ながら何も答えない。

 

 そう思う一方で、土方にも今のヤマトを危ういと思う気持ちもあった。

 

 ここに居る古代や島も、土方のかつての教え子だ。彼の元を巣立っていったとはいえ、出来る事ならば支えてやりたい。

 

 とん、と誰かが背中を押したような、そんな錯覚を覚えた。斉藤や永倉ではない。確かな意思の宿った、強く真っ直ぐな、そんな感覚だった。

 

(沖田……?)

 

 まだこの艦には、沖田が乗っているような気がしてならない。

 

 背中を押された感触を覚えながら、土方は少しばかり目を瞑った。

 

「―――分かった。非常事態だ、引き受けよう」

 

 胸の前に腕を掲げるヤマト式の敬礼をしてから、真田は自分の席に着く。

 

 隊長、と斉藤に言うや、土方は2人の手を借りながら艦長席の脇に立った。

 

(沖田……借りるぞ)

 

 そっと艦長席に腰を下ろす。

 

 一度負けた男―――ならば、次は勝ちに行く。それだけの事ではないか。

 

 土方のどこか諦めたような、褪せたような瞳に―――再び闘志が宿る。

 

「ガミラス艦隊の位置は?」

 

「惑星間弾道弾、予測加害範囲圏外です」

 

「よし、波動エンジン点火!」

 

 どう、とエンジンノズルが朱色の炎を吐き出した。

 

 もう手負いのふりをしなくてもいい―――十分に耐えたのだ、ここから先は存分に殴り返して良い時間である。

 

 反撃の狼煙さながらに、メインエンジンが盛大に火を吹き上げる。低空飛行していたヤマトの船体が加速を始め、文字通り息を吹き返した。

 

 

 

 

「急速上昇! ヤマトはこれより反撃に転じる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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