さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
昔、シュルツと
ザルツ人であったシュルツは
遠い太陽系での勤務を労うミケールに対し、シュルツは地球艦隊の事をこう評していた。
『戦い方が巧い』と。
弱者には弱者の戦略がある―――技術力においても、そして艦隊の兵力においても何枚も上手なガミラス艦隊に、しかし地球艦隊は後退を続けてこそいるが予想以上の粘りを見せている、と。
事実、火星沖での戦闘ではガミラス側に予想外の大損害が出た事で知られ、その一度だけとはいえ後退を余儀なくされたというニュースに、当時のミケールも驚かされたものだ。
【追い詰められたネズミは巨人を殺す】―――地球でいう「窮鼠猫を噛む」という言葉に相当する、ガミラスの諺がある。袋小路に追い詰められ、絶体絶命のピンチに陥れば、ネズミのように矮小でとるに足らない小動物であっても巨人を殺すほどの力を発揮するのだ、と。
地球艦隊の奮戦はまさにその言葉の体現のように思えた。
シュルツから送られた作戦データを元に当時の戦況を分析したミケールも、その戦いぶりには感嘆するほどだった。
あれほどまでに技術格差がある艦隊戦力でよくここまで食い下がるものだ、と。
例えるならば馬車とスーパーカーを比べるようなものだ。地球とガミラスには、それほどまでに絶望的な技術格差があった。
しかしそれほどの差がありながらも必死に食い下がり、一度だけとはいえガミラス艦隊を後退に追い込むその実力は、決して単なる弱者のそれではない。もしこれが仮に、双方が同じレベルの技術力を有していたのだとしたら―――ガミラスはもっと早期に痛手を被り、最精鋭戦力を太陽系に送り込む決断を強いられていた筈だ。
その強さを、ミケールは目の前で見せつけられている。
ガス雲の遥か下方で繰り広げられる戦闘の様子を、手元のコンソールにあるミニパネルでチェックするミケール。ガトランティス艦隊が熾烈な砲撃をヤマトに加えるが、しかしヤマトはそれに動じない。同型艦に波動防壁を展開してもらいながらもマグマの上を這うように航行している。
そのメインエンジンに、いつもの輝きはない。
修理を中断して飛び立ったのか、と思った。
既に第十一番惑星での戦闘が原因で、ヤマトの波動エンジンが不調だという話は聞いている。この惑星に立ち寄ったのも、この濃厚なガス雲を隠れ蓑にしてエンジンを修理するためである、と。
しかしガトランティス艦隊の予想外の追撃に、補助エンジンのみでの逃走を余儀なくされてしまったのではないか―――そんな味方をしたミケールだが、しかし別の角度から物事を見るとその意味が、ヤマトの指揮を執る艦長の決断、その輪郭が朧げに見えてくる。
(ヤマトは囮になったのか?)
先ほどからヤマトばかりを狙う敵の異常さは、ミケールも気付いていた。
逃走するガミラス艦隊には目もくれず、ガトランティス襲撃艦隊はよりにもよってガミラスから鹵獲、あるいは複製したと思われる惑星間弾道弾を携えて、まるで親の仇のようにヤマトを狙っている。
惑星間弾道弾の破壊力はミケールも良く知っている。親衛隊のギムレーが、惑星オルタリアの反乱鎮圧のために数発を撃ち込んで、その地表を焦土と化したのは記憶に新しい(その非道さにはミケールも表立って批判の声明を出していたからよく覚えている)。
そんなものをここで起爆、あるいは迎撃すればどうなるか。
惑星間弾道弾を背に布陣するガトランティス艦隊もろとも、逃走するガミラス艦隊も巻き添えにしてしまう恐れがある―――だから敢えてヤマトの弱みを敵に見せつける事で敵艦隊を誘引、惑星間弾道弾の加害範囲からガミラス艦隊が抜けるまでの時間稼ぎをしているのではないだろうか。
そう見たミケールの読みは、正しかった。
観測員が「惑星間弾道弾、加害範囲外に出ました」と告げたのとほぼ同時に―――ヤマトのメインエンジンに朱色の光が燈ったのである。
どう、と重々しい音を響かせて、ヤマトの黒い船体が上昇に転じた。ガミラスどころか現代の地球でも珍しい、水上艦をベースとした形状のヤマトの船体が、スラスターの噴射に持ち上げられながら重々しく上昇、波動エンジンの爆発的な加速力を得てスピードを上げていく。
わずか数秒で、その舳先がガトランティス艦隊を睨む。
「ヤマトが撃つ」
その呟きに、バーガーが視線を向けた。
もし自分だったらそうする―――砲撃のタイミングは今だ。
どうやら、ヤマトの艦長とミケールは同じ考えだったらしい。次の瞬間にはヤマトに備え付けられた48cmショックカノン砲塔が文字通り火を吹いた。
3つの閃光が互いに絡み合う大蛇の如く、赤黒い空へと伸びていく。やがて3つの光は1つの巨大な光の槍へと転ずるや、威勢よくヤマトへ緑色のビームをばら撒いていた敵の大戦艦―――カラクルム級のうちの1隻、その艦首を勢いよくぶち抜いた。
堅牢な装甲は、しかし瞬く間にショックカノンの貫通を許してしまった。最も被弾する確率が高い事から分厚くされている正面装甲(ゼルグート級も同じ設計思想だ)でさえも、改修で威力の向上したヤマトの主砲を受け止めるには至らない。
艦首を融解させた主砲は、しかしそれでも勢いを衰えさせずに貫通を継続、傍から見れば角張ったシーラカンスのようにも見えるカラクルム級の全長555mの船体を、艦首から艦尾までぶち抜いてしまったのである。
蒼い光を発していたエンジンノズルが、噴射炎に代わってヤマトの蒼いショックカノンを吐き出した頃には、その巨大な船体には幾重にも小さな爆発が生じていた。船体の融解によってエネルギーが行き場を失い、艦内で派手に暴れているのだ。
何度か爆発を繰り返したカラクルム級が大爆発を起こし、闇色のガス雲をぼんやりと照らし出す。
惑星シュトラバーゼ上空に生じた火球に、ミケールは納得感を覚えた。
なるほど、あれがヤマトなのか……と。
ガミラスの攻撃を払い除け、ドメル艦隊までもを打ち破り、そして結果として地球・ガミラスを救った
道理で勝てぬわけだ……そんな思いが、ミケールの胸にはあった。
「”メルカザル”、爆沈!」
バカな、という言葉すらメーザーの口からは出てこなかった。
ヤマトは虫の息、風前の灯火だった筈だ。メインエンジンに不調を抱え、逃走も反撃もままならぬ死にかけの状態―――それがなぜ、こうも反撃してくるのか。そしてなぜ圧倒的有利だったはずのメーザー艦隊は、早くも虎の子のカラクルム級を1隻失っているのか。
頬を冷や汗が伝う不快な感触も、しかし今のメーザーには感じ取る余裕がない。
(騙されていたというのか!?)
おそらくはそうなのだろう。
ヤマトは機関部の不調を装い、その攻撃全てを自身に誘引した―――結果としてガトランティス艦隊はガミラス艦隊を取り逃がし、そして死にかけの状態を
つまりメーザーは、目の前に垂らされた餌にホイホイと誘われ狩場に誘い出されてしまった、というわけだ。
狩る側はメーザーたちなどではなく、最初からヤマトだったのである。
だがしかし、状況が悪化しても退却という選択肢はない。
元より彼らに、帰る場所などないのだ。
ぎり、と歯噛みしながらも、メーザーは命じる。
「臆するな、全艦前進! 体当たりしてでも
「ヤマト、上昇します」
報告を受け、ムサシの栗田艦長は艦橋の窓の外に目を向けた。
おそらく土方の作戦だったのだろう―――補助エンジンのみでの航行も、あんなマグマのすれすれを這うような低空飛行も、そしてガミラス艦隊が惑星間弾道弾の加害範囲外に出ると同時に始まった反転攻勢も、全ては土方の作戦通り。
あの人らしい、と思うと、自然に口元に笑みが浮かんだ。
息を吹き返したヤマトが、同じように上昇に転じるムサシの右舷を通過していった。
ヤマトの煙突状のミサイル発射管、その後方にあるマストに、唐突にZ旗が掲揚される。
無論、通常の旗ではない。ホログラムで投影された立体映像だ。地球の宇宙艦艇にはあのようなホログラムによる投影装置がマストやフィンアンテナ類などに標準装備されており、星間物質や戦闘時での被弾による通信設備不調の際に、有視界による指揮を行うための設備だ。
今のヤマトもムサシも、そして他の姉妹たちも通信システムに異常は生じていない。それでも掲揚されたホログラムのZ旗には、命令伝達というよりは士気高揚のための意味合いがあるのだろう。
少し遅れて、ヤマトのマストに他の旗も掲揚される。
メインパネルに拡大投影されたそれを見て、ガミラス戦役で戦った経験を持つ栗田艦長は思わず苦笑いを浮かべる。
何と懐かしい事か。
あれは地球防衛軍の前身、まだ地球艦隊が”国連宇宙軍”と呼ばれていた頃に用いられていた信号旗である。
意味は『全艦我ニ続ケ』―――。
ニッ、と笑みを浮かべ、栗田艦長は命じる。
「よーし、ヤマトを援護する! ヤマトに続け、勝つぞ!」
「敵艦隊、加速!」
雪が報告するや、土方が艦橋に響く声で命じる。
「古代、南部、接近してくる敵を優先的に狙え!」
「はっ!」
「主砲第二射、接近中の敵巡洋艦、及び敵駆逐艦に照準合わせ!」
ガトランティス艦隊はミサイルを護衛するつもりなのだろう、惑星間弾道弾の眼前に艦隊を布陣させている。まだ惑星間弾道弾は射程距離外だが、しかし敵艦隊の前衛は既にショックカノンの射程距離に収まっていた。
先ほどの大戦艦―――カラクルム級爆沈を受けて焦ったのか、ガトランティス艦隊が捨て身の突撃を敢行してきた。戦艦も巡洋艦も、駆逐艦も空母も関係ない。まるでヤマトに対する体当たり攻撃を狙っているかのように、舳先をヤマトへと向けて真っ向から突っ込んでくるのだ。
「主砲、撃ちーかたー始め!」
古代の号令で、ショックカノンが火を吹いた。
粘りつくような音と共に、旋回した主砲塔から蒼い陽電子ビームが撃ち出される。空間を引き裂き、捻じれ、そして1つの閃光と化したそれが、ヤマトへ突撃を敢行したラスコー級巡洋艦の艦首左側、ちょうど前方へと伸びた衝角の付け根をぶち抜いた。
真っ白な衝角が融解、緋色の爆炎を芽吹かせながらラスコー級が炎に包まれる。
続けて旋回した第二砲塔が、別の角度から急迫するククルカン級に照準を合わせた。
それにも臆さず、小口径のビーム砲を射かけるククルカン級。しかしククルカン級がその舳先をヤマトへぶち当てるよりも先に、無情にも巨大な陽電子ビームの束が船体下部、緑色に塗装された扁平な部分の右側を深々と抉っていた。
ガトランティスの駆逐艦だろうと戦艦だろうと、ヤマト級のショックカノンの前では紙風船も同然だった。命中さえすれば一撃で轟沈に追い込めるし、そして何よりその砲術長は大砲屋を自称、確かな技量を持つ南部だ。一発たりとも外しはしない。
だが、ここで敵艦が粘りを見せた。
炎上し爆発する船体下部を切り離し、上部の葉巻型の船体だけになりながらもヤマトに向かって突進してきたのだ。
ぎょっとしながらも、古代は「近接戦闘!」と命令を飛ばす。
アクティブになった右舷のパルスレーザー砲塔群が、立て続けに紅いパルスレーザーを射かけた。ククルカン級の船体に凄まじい勢いで穴が開き、小さな爆発が幾重にも生じる。
バヂッ、と蒼い閃光が踊った。右舷を掠める形で、ククルカン級の船体が微かにヤマトの船体―――その外周部を覆う波動防壁に接触したのだ。
それに弾かれるように、火達磨になったククルカン級が落ちていく。後部砲塔でなおも砲撃を続けるククルカン級だったが、それも眼下に広がるマグマの海へと墜落するやぴたりと止まった。
砲撃を始めたのは、ヤマトだけではない。
ムサシも、シナノも、そして最後尾に位置するキイも砲撃を開始していた。ヤマト級のショックカノンが土砂降りのように放たれ、特攻を試みるガトランティス艦隊が次々に爆散、肉薄する事すらままならない。
ムサシのショックカノンで撃ち抜かれたカラクルム級が船体を真っ二つにへし折られながら墜落していき、シナノのエアバーストモードに切り替えたショックカノンで、接近中だったククルカン級が2隻まとめて火達磨になる。
そして空母でありながらも前に出てきたナスカ級を、ヤマトとキイが同時に放った合計6発のショックカノンが盛大に殴りつけた。船体も、飛行甲板も、そして艦載機格納庫も見事にぶち抜かれたナスカ級は瞬く間に火達磨になると、船体をやや沈み込ませてから爆沈、シュトラバーゼの空へと散った。
「前方、敵旗艦を確認!」
雪の報告に、土方は目を細める。
メインパネルに投影された、白と灰色で塗装されたカラクルム級―――あの艦には見覚えがある。
第十一番惑星に赴任した際に遭遇した、ガトランティスの新型艦だ。
あの旗艦が率いる敵艦隊の猛攻で、土方の艦隊は彼を残し全滅した―――だから土方にとってみれば、あの艦は仲間の仇という事になる。
復讐心が芽吹くが、しかし理性がそれを抑え込んだ。こんなところで暑くなってどうするのだ、と。
艦長は艦の司令塔だ。いつでも冷淡に、冷静でいなければならない。
「古代、敵旗艦を狙え」
「了解、敵旗艦を狙います」
敵の旗艦を沈めれば、敵艦隊も烏合の衆と化すだろう―――惑星間弾道弾は、その後に処理すればよい。
土方の命令を受け、ヤマトのショックカノンが敵旗艦―――メーザーのカラクルム級『ガノイア』へと照準を合わせた。
ホログラム投影装置
この世界の宇宙艦艇に標準装備されている装備。マストやフィン状のアンテナ類に簡便な投影装置を組み込んでおり、信号旗を投影する事が可能となっている。こうした装備は時代遅れに思えるかもしれないが、星間物質による通信への影響や戦闘時の被弾による通信システムのダウンのリスクは大きいため、そうしたトラブルの影響下にあっても友軍艦に有視界で指示を伝えるための設備として搭載が義務化されている。
特に日本軍区所属の宇宙艦隊においては、指示の伝達以外にも艦隊の士気高揚や勝利祈願といった意味が強く、本来の意味以外で用いられる事の方が多いという。