さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
ヤマトのショックカノンが火を噴いた。
粘りつくような轟音と蒼い輝きを発しながら、3つの閃光が大蛇さながらに絡み合い、やがて1つの光となるや、白と灰色で塗装されたカラクルム級―――メーザー艦隊旗艦『ガノイア』の前部甲板右側を深々と抉った。
被弾の直前、敵艦の艦長は回避運動を命じたのだろう。スラスターが蒼い光を放ち、背t機関の巨体が微かに傾いだ。直撃していれば艦橋の根元までもを深々と抉っていた筈の一撃は、しかし前部甲板右側を焼き潰して艦橋の右側を通過、特徴的なフィン状構造物を蒸発させて敵艦後方へと抜けていた。
致命傷とは言えない。
負けてなるものかと、カラクルム級の艦橋に据え付けられた艦橋砲も火を噴いた。ごく短い砲身から緑色の光を迸らせるや、さながら土砂降りのような勢いで緑色のビームを射かけてくる。
地球艦隊の主砲が「強力な一撃を精密に撃ち込む」ものならば、ガトランティス艦隊の主砲は「低精度な速射をばら撒く」機関銃のそれだ。交戦距離が遠ければ制度の悪さが足を引っ張り、命中する事は殆どない(その代わり火焔直撃砲のような決戦兵器が飛んでくる)。だがしかし、両者ともに接近している状態での掃射となればその脅威度は段違いだ。
豪雨の如きビームの掃射が、ヤマトの船体を捉えた。しかしその装甲までは届かない―――被弾するよりも先に、ヤマトの船体を覆う蒼い波動防壁に弾かれて、あらぬ方向へと逸らされているのだ。
それでも負けじとビームを射かけるカラクルム級。艦橋砲だけでなく、前部甲板に据え付けられた大口径回転砲塔と、船体各所に据え付けられた中口径、小口径回転砲塔もそのお椀のような砲塔を回転させ、ヤマトを全力で砲撃している。
しかしそれを真っ向から受けながらも、ヤマトは止まらない。
波動防壁で砲撃の一切を弾きながら、逆にショックカノンを放つ。
旗艦ガノイアが再度スラスターを焼き付かせんばかりの勢いで吹かした。敵艦の艦長と操舵手は優秀らしく、大きく傾いた船体はまたしても死神の鎌を躱した。艦首から艦尾までを串刺しにするはずだった無慈悲極まる一撃は、しかし敵艦に回避された事で艦首左舷の安定翼を吹き飛ばすにとどまり、致命傷には至らない。
「波動防壁、最大出力!」
土方艦長の命令に呼応し、ヤマトの波動防壁が一際強い光を放った。
敵艦との距離は近い。パルスレーザーの射程距離に入る程にだ。このまま互いに前進しながら殴り合っていれば、やがてはお互いの舳先が激突するだろう。
ヤマトの副砲がショックカノンを放ち、カラクルム級戦艦『ガノイア』の前部甲板にある大型回転砲塔を吹き飛ばした次の瞬間だった。
波動防壁―――現代のセントエルモの火を纏ったヤマトの艦首が、なおも接近してくるカラクルム級の艦首と真正面からぶち当たった。バヂッ、とスパークの光が幾重にも生じ、カラクルム級の艦首装甲の表面が微かに黒く焼け焦げる。
激しい振動がヤマトを襲っていた。びりびりと足元から突き上げてくる激震に、艦橋でヤマトの戦いぶりを見守っていた空間騎兵隊の斉藤は唇を噛み締めながらも微かに笑みを浮かべる。
(なんだこりゃあ……まるで大怪獣の殴り合いじゃねえか)
幼少の頃、地球の映画感で見た怪獣映画を思い出していた。大都市を破壊し尽くした大怪獣が、しかしそれでも飽き足らず他の大怪獣と壮絶な死闘を繰り広げ、やがて互いに死闘を繰り広げながら深海の海へと沈んでいく……彼の記憶が正しければ、そういうストーリーだった筈である。
空間騎兵隊が戦う歩兵同士の戦闘と、宇宙戦艦同士の全力の殴り合い―――そのスケールの大きさに、斉藤はついそんな記憶を重ねてしまったのかもしれない。
戦艦と戦艦の殴り合い―――レーダーとミサイル技術の発展で一度は廃れたそれが、この大宇宙時代に最新の技術で蘇っていた。
ヤマトとカラクルム級の押し合いに、しかし変化が生じる。
微かに、ヤマトが押し負け始めたのだ。
それも無理のない話である。ヤマトが全長333mの宇宙戦艦であるのに対し、カラクルム級は全長555m。サイズも質量も向こうが上となれば、単純な押し合いに勝つのはどちらか言うまでもあるまい。
「機関出力全開!」
「いや待て。機関長、機関出力を少し落とせ。島、左回頭45度」
「え」
予想外の命令に、操縦桿を握る島は思わず聞き返した。
しかし艦長席に座る土方の目は真剣そのものだ。まるでこれから獲物を確実に仕留めにかかる猛禽類を思わせる。
きっとこれは勝利の一手なのだ―――艦長を信じ、島は命令通りにヤマトを左へと回頭させる。
艦首のスラスターが光を放つや、力比べの様相を呈していた両者の均衡は面白いほど一気に崩れた。横倒しにしたバリカンを思わせるカラクルム級の艦首が回頭を始めたヤマトの艦首を押し退けて滑るや、右脇腹を晒す形となったヤマトに勢いよくぶち当たる。これまで以上の衝撃にヤマトの船体は激しく揺れ、斉藤と一緒に環境で戦いぶりを見ていた永倉も思わず投げ出されてしまいそうになる。
が、しかし。
戦術長の役職に戻った古代は、今になって土方の狙いを理解した。
今、ヤマトはカラクルム級との力比べに押し負けて敵艦へ右脇腹を晒している。しかしそれは敵艦に対し、ヤマトの全ての主砲と副砲、それから右舷のパルスレーザー群を向けられる事を意味していて……。
ダメ押しと言わんばかりに敵艦の艦橋砲が火を噴くが、しかしヤマトの波動防壁は今なお健在だ。損傷を与えるまでには至らない。
これが狙いだったんですね、と言わんばかりに土方の方を振り向くと、土方はニヤリと口元に一瞬だけ笑みを作った。
押してもダメなら引いてみろ―――つまりはそういう事である。
「―――全砲塔、近接射撃! 一斉射!」
「撃てぇッ!!」
ぐるりと旋回した主砲と副砲が、古代の命令で一気に火を噴いた。
至近距離での一斉射。その無慈悲極まる攻撃が、カラクルム級に対し牙を剥く。
ショックカノンの連続射撃が前部甲板を深々と抉り、艦橋砲を吹き飛ばした。先ほどまで土砂降りの如く火を噴き続けていたカラクルム級が立て続けの被弾で沈黙し、火達磨になった。
牙を剥くのは主砲だけではない。右舷、艦橋の両側を固めるように配置されたパルスレーザー砲塔群がその矛先をカラクルム級に向けるや、一斉に赤いレーザーを放った。
戦艦クラスに損傷を与えるものではないが、しかしレーダーやセンサー、あるいは小型の武装など細々とした艤装を破壊するにはうってつけだ。
戦艦ガノイアの装甲表面にパルスレーザーで穿たれた焦げ跡が幾重にも刻まれ、装甲の繋ぎ目や艦橋周りのセンサーが次々に被弾、小さな爆発を起こしていく。
悪足掻きにカラクルム級の艦橋砲が火を噴くが、しかし波動防壁に弾かれ、闇色のガス雲の中へと消えていった。
「島、エンジン最大出力!」
「ようそろー!」
どう、とメインエンジンが強烈な光を発した。
ガリガリとカラクルム級の艦首を波動防壁で焼き切りながら、ヤマトがカラクルム級の艦首から離れていく。
ショックカノンとパルスレーザーで散々に打ちのめされたメーザー艦隊旗艦ガノイアは、もはや死んだも同然だった。全長555mの船体を火達磨にされ、そのままシュトラバーゼの重力に引かれて、マグマの海へと高度を落としていく。
ここまでやればいいだろう。
他の艦の状況を土方は確認した。ムサシも、シナノも、そしてキイもガトランティス艦隊を始末し終えたらしい。ヤマトの周囲に集合するや、長女を先頭とした単縦陣の陣形をとった。
ヤマト級4隻で構成された単縦陣。その右側には、シュトラバーゼのガス雲を突き破って落下してくる惑星間弾道弾がある。
「これより主砲の統制砲撃を以て、惑星間弾道弾を迎撃する。全艦、照準は旗艦ヤマトの諸元に合わせ」
「右砲戦用意。仰角27度、距離15万宇宙キロ」
土方の命令と南部が叩き出した諸元に基づき、ヤマトの主砲が右へと旋回していく。
ヤマトだけではない。ムサシ、シナノに据え付けられた48cmショックカノン砲塔と、最後尾のキイに搭載された40.6cmショックカノン砲塔も同じように右へと旋回、ゆっくりと迫りくる惑星間弾道弾の鼻先へと照準を合わせる。
発射タイミングを推し量りながら、古代はあの時を―――ヤマトが初めて飛び立ったあの時を思い出していた。
あの時もそうだった。冥王星基地から発射された惑星間弾道弾がヤマトへ迫っていて、飛び立ったばかりのヤマトはそれを迎撃してから地球を後にしたのだ。
そして今、ヤマトは同じようにこの星を飛び立とうとしている。
「―――撃てぇッ!!」
土方の号令と、古代の復唱。
砲口が強烈な蒼い光を放った。ヤマト、ムサシ、シナノ、キイ―――4隻の同型艦から、同時にショックカノンが迸った。
捻じれ、絡み合い、1つの閃光となったショックカノンの群れ。巨大な惑星間弾道弾と比較すれば羽虫の如き小ささに思えるかもしれないが、しかしそれらの一発一発は大型の獣すら噛み殺す毒蛇の如き獰猛さがある。
捻じれ、空間を引き裂きながら飛翔した4つの閃光が、惑星間弾道弾の黒い表面へとぶち当たった。
表面に塗布されたミゴウェザー・コーティングなど無いも同然だった。瞬く間に蒸発させられ、装甲表面を直撃した4発のショックカノン。その被弾部位を起点として、融解した装甲が粟立ちながら赤々と染まっていく。
次の瞬間だった。
網膜を焼き尽くさんばかりの閃光が、シュトラバーゼの上空に生じた。
それはまるで太陽の誕生の如き光で、大気圏内で生じた衝撃波が惑星を閉ざす闇色のガス雲を大きく吹き飛ばす。宇宙空間からも視認できるほどの爆風と巨大なキノコ雲。抉られたガス雲から赤々と燃え盛る惑星表面が覗き、早くも惑星を一周した衝撃波に結晶の柱がびりびりと震えた。
そんな凄まじい衝撃からも、しかし波動防壁はヤマトを、ムサシを、シナノを、そしてキイの4隻を完全に守り抜いていた。
「すごい……」
戦闘の様子を小型モニターで見ながら、ミケールは思わずそう漏らしていた。
なるほど、あれならばドメル将軍が敗北してしまうのも頷ける、と。
今のところ、ミケールにはヤマトにどうやったら勝てるかという作戦が全くと言っていいほど思いついていなかった。自分ならばこうする、という作戦が、しかしヤマトの圧倒的火力と防御力を前にことごとく粉砕されてしまい、勝利のビジョンが全く見えてこない。
興味深い、と顎に手を当てながら考えるミケールをちらりと見たバーガーは、この男も昔と変わっていないな、と戦友の仕草に安心しながらも命令を発した。
「よし、ここまで離れりゃあ十分だ。全艦
既に月面の第三バレラスから、地球までのワープに必要な誘導は受けている。これならばワープ阻害装置に座標を狂わされ、別星系まで吹っ飛ばされることもないだろう。
ランベアの船体がぐんぐん加速していく。メインエンジンが赤々と禍々しい光を放ち、船体を更に加速させていった。
やがて前方に、紅い空間の裂け目が生じる。それはさながら地獄の門の如く恐ろしいものに見えたが、しかしガミラス艦隊は躊躇しない。各々の目の前に生じた空間の裂け目へと、次々にその深海魚を思わせる舳先を突き入れるや、空間跳躍していく。
ランベアも空間の裂け目へと舳先をぶち込み、ワープしていった。
大きく円形に切り取られた、惑星シュトラバーゼの空。
そのはるか彼方では、紅い光が幾重にも瞬いていた。星のようにも、あるいは流星群のようにも思えるが、違う。アレはガミラス艦隊だ。バーガー戦闘団が無事にワープに入った光なのだと古代は理解した。
ガミラス艦隊に損害はなく、そしてヤマトにも無用な損傷はない。強いて言うならば機関にやや負荷がかかった事くらいではあるが、ガトランティス艦隊を相手に無傷で勝利を収める事が出来たのは奇跡と言っていいだろう。
改めて、古代は土方の方を振り向いた。
あの人が―――土方が艦長の役目を買って出てくれたからこそつかめた勝利だ。
自分たちだけでは、きっとどうしようもなかった筈である。
まるで古代の胸中を見透かしているかのように、土方は優しい目をしていた。
「―――待ってください。敵艦……まだ生きています!」
しかしそんな勝利の余韻も、雪の報告により霧散する。
艦橋に居る全員が驚愕に息を詰まらせた。
ヤマト級4隻の単縦陣、その左舷―――先ほど炎上し、マグマの海へと高度を落とすばかりだったカラクルム級戦艦『ガノイア』。惑星間弾道弾の爆風に焼き尽くされ、すっかり黒焦げとなったそのエンジンノズルには、確かな蒼い輝きが蘇っていた。