さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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今回はオリジナルパートです。


ヤマト級四番艦 実験艦『キイ』

 

 広大な宇宙の中、翡翠色のガス雲に覆われた中に、”それ”はあった。

 

 無数の岩塊を張り付けて形成されたような、氷と岩石の集合体。遠くから見れば金平糖のような形状にも見える。

 

 ”ガミラシア7”と名付けられたその浮遊大陸は、ガミラスにとっては資源採掘用の天体の成りそこないであった。そこで採掘できる物質”ガミラシウムB-2”はガミラス人にとっての化石燃料のようなものであり、民間から軍用まで幅広い用途がある。

 

 ガミラス本星や周辺の衛星での採掘量が減り方向に転じ始めたことから、版図の維持のために欠かせぬ資源を、ガミラスが惑星の外へと求めるのは当然の事であった。

 

 暖房の燃料から魚雷の炸薬まで幅広い用途があるガミラシウムB-2。それを大量に含有する浮遊大陸が発見されたのが今から2年前で、急ピッチで採掘プラントの建造が始まり、採掘が始まったのが2ヵ月前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてガトランティスの襲撃を受けている、という通信を最後に音信不通となったのが、つい3日前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワープ酔いには慣れないものだ、と艦長席に座る西村は常々思う。

 

 艦橋に居る僅か4名の乗員たちは皆、ワープが可能な艦に慣れているだろうが、ガミラス戦役よりも前、それこそ第一次内惑星戦争の頃には駆逐艦の乗員だった西村にとっては、空間を飛び越えるワープ航法というものがどうも苦手だ。

 

 船酔いにも似た気分の悪さを覚えつつも、いつも通りに問いかける。

 

「船体に異常は?」

 

《船体各所、および機関部に異常は認められず》

 

 彼の問いに返答したのは、艦長席から見て左前方に座る機関長……ではない。機関長の席の代わりに用意されたドーム状の端末、そこに搭載されたAIだった。

 

 寂しいものだな、と西村は思う。

 

 彼らの乗る宇宙戦艦”キイ”はヤマト級の4番艦だ。全部で4隻建造されたヤマト級の中では最後発であり、冥王星基地陥落の知らせが届く頃に就役したムサシとシナノに対し、キイが処女航海として月面までの往来を行ったのはヤマトがバラン星の突破に成功した頃である、とされている。

 

 当初はヤマト級の設計に改善を加え、三番艦シナノと共により効率を高めた”後期型”として就役する予定だったキイであったが、2199年、より強力な宇宙戦艦を求めた国連宇宙軍本部の方針変更により、次期艦隊旗艦―――”前衛武装宇宙艦”、いわゆるアンドロメダ級のためのテストヘッドとして設計変更されたという経緯がある。

 

 だからなのだろう、キイの形状はヤマトとアンドロメダを足して2で割ったような、同型艦の中では特異な形状をしていた。

 

 船体の大まかな形状は変わらないが、主砲はヤマトの48㎝衝撃砲から、今ではアンドロメダ級の主砲として採用された40.6㎝衝撃砲に変更されている。ヤマトの主砲は圧倒的な威力を誇るが、しかし敵艦に対しては威力過剰であると判断され、ある程度威力を落とし効率化と速射性の向上にキャパシティを割り振ったものだ。

 

 キイでテスト運用されたこれにエネルギー増幅用のコンデンサを搭載するなどの改良を加えたものが、アンドロメダ級の今の主砲である。

 

 ヤマトの船体、アンドロメダ級の主砲、そしてその後方に聳える艦橋はアンドロメダ級のものに近い形状をしていた。ヤマト級の艦橋よりも凹凸が少なく、のっぺりとした形状をしているそれは、ステルス性を重視したものであるとされている。

 

 艦橋の後方にはヤマト級の煙突―――8連装ミサイル発射塔がある。

 

 補助エンジンはヤマト級のものからアンドロメダ級のケルビンインパルスエンジンに換装されており、速度そのものはヤマト級の中でも随一を誇る。

 

 このキイでテストされた要素がアンドロメダ級へと引き継がれた―――つまるところ、キイは実験艦だった。

 

 西村に無機質な声で報告してくるこのAIもそうだ。特にガミラス戦役では、地球とガミラスの戦力差が絶望的なレベルであり、多くの熟練の船乗りたちが宇宙に散っていった。

 

 今の地球は急速に復興を進めているものの、どれだけ宇宙戦艦を量産しても、どれだけビルを建造しても、戦争で失われた命だけはどうしようもない。熟練の乗員を育成するのにも時間がかかり、かといって若手をそのまま戦闘に出す事も許されない。

 

 人材不足に喘ぐ地球が見出したのが、AIによる省人化、あるいは完全無人化である。

 

 キイにはそのテスト用のAIも搭載されており、ヤマト級でありながら乗員は僅か94名、艦橋要員に至っては艦長含め僅か5名という少人数での運用が可能となっていた。

 

 無論このAIも、アンドロメダ級には標準装備となっている。

 

《―――レーダーに感、敵艦隊を捕捉。距離、10万宇宙キロ》

 

 来たか、と思うと同時に、西村の目が鋭くなった。

 

「キイ、艦種識別」

 

 副長の川内が問うと、キイに搭載されたAIは間髪入れずに返答する。

 

《ラスコー級巡洋艦10、ククルカン級駆逐艦34、ナスカ級空母6。艦隊前方、未確認の敵艦を確認。メインパネルに投影します》

 

 頭の良い(フネ)だ―――腕を組みながら感心していると、未確認の敵艦とやらがメインパネルに投影される。

 

 確かに見た事の無い艦だった。キイのAIがメインパネル右下に類似の艦であるラスコー級を表示するが、大まかな形状は似ているにせよ相違点が多い。

 

 比較的スマートな姿をしているラスコー級だが、その未確認の艦は違った。ずっしりと重厚で、武骨な形状をしている。緑色に塗装された船体の前方からは上下に白く塗装された衝角……いや、おそらくそれはミサイルなのだろう。下手な駆逐艦よりも大きなミサイルが2基、艦首に取り付けられている。

 

 対艦ミサイルにしては大きい―――おそらくだが、要塞などの拠点攻撃用の兵器に違いない。

 

《兵装を確認中……誘導弾(ミサイル)多数確認、ミサイル艦と推定》

 

「新型か」

 

「いや、まだ我々が遭遇していなかっただけなのかもしれん」

 

 船体のほぼ全体にびっしりと搭載されたミサイルの山。ガトランティス人の辞書に、加減という言葉は無いらしい。

 

「総員戦闘配置」

 

《了解、総員戦闘配置》

 

 AIの無機質な応答に続き、艦内に戦闘配置を意味する警報が鳴り響いた。

 

 アンドロメダ級もそうだが、キイは乗員の省人化に成功した分、多くの部分をAIによる管理に頼っている。砲塔も、機関出力の調整も、そして索敵に至るまでAIが担当しており、時折AIが人間の乗組員の承認を求めて自ら戦術を提案してくる事さえある。

 

 人間の乗組員がする事と言えば、AIの提案に対する承認とダメージコントロール、そして自動化された設備のメンテナンス程度。省人化の恩恵もあって居住性も充実しており、元々のヤマト級が長期航海を前提とした設計である事も手伝って『ホテル』と揶揄される事すらある。

 

 日頃の任務は安全な地球の勢力圏内での航海と新型兵装のテスト、およびAIの育成―――そんなキイに下された任務は、ガミラスとの技術交流のためにガミラス星へ向かう事であった。

 

 そして行き先であるガミラスに向かう前に地球を挟んで依頼されたのが、この”ガミラシア7”を占拠するガトランティス艦隊の殲滅である。

 

 捕虜の生存は絶望的―――ガミラス軍の艦隊司令から伝えられた言葉を思い出し、艦長席に座る西村は苦い表情を浮かべる。

 

 ガトランティス人は、地球人ともガミラス人ともメンタリティが異なる。人命を尊重する地球人やガミラス人とは異なり、ガトランティス人の思考回路はまさに”蛮族”のそれだ。地球やガミラスが”最低限の損害で勝利する”事を良しとするのに対し、ガトランティスは”戦場での死こそ最高の名誉”と考えていると聞く。

 

(まるで大昔の武士ではないか)

 

 戦国時代―――戦って死ぬことが美徳とされた時代は地球にも確かに存在した(ガミラスにもあったのだろう)。しかしそれは遥か昔の事であり、地球もガミラスも既に通過した道である。

 

 違うのは、ガトランティスはそれを敵にも強要する傾向がある、という事だ。

 

 彼らが捕虜を取るのは技術者くらいのもので、戦いの役に立たない女子供は皆殺しが当たり前―――実際、ヤマトがイスカンダルからの帰路で遭遇したガトランティスも『和睦は有り得ぬ』と断じた上で、技術者以外は皆殺しにしようとしたとの事だ。

 

 そしてあのガミラシア7にいるのは、ガミラス本星やザルツからやってきた出稼ぎの労働者たちばかり。採掘に関する知識を持つ者は居るだろうが、果たしてそれがガトランティスにとって生かすべき存在と判断されるかどうか。

 

 捕虜の生存は絶望的―――それはすなわち、浮遊大陸ごと吹き飛ばせ、という指示に他ならなかった。

 

(まさかこんな汚れ役をやらされるとは)

 

 これがガミラス人の本性か、と胸中で悪態をつき、西村は命じる。

 

「―――拡散波動砲を以て、浮遊大陸諸共敵艦隊を殲滅する!」

 

《了解。【試作拡散波動砲】、エネルギー注入用意》

 

 AIが復唱すると同時に、キイの艦首にある波動砲の発射口―――そこに刻まれたライフリングが、渦巻くようにぐるぐると回転を始めた。

 

 キイに搭載されているのは通常の波動砲とは異なる。

 

 拡散波動砲―――アンドロメダ級やドレッドノート級に搭載されているそれの試作型(プロトタイプ)だった。圧倒的な質量を持つ天体や敵要塞への攻撃を想定した集束波動砲よりも攻撃範囲が広く、敵艦隊を一挙に殲滅できる兵器として研究され、最初に実用化されたモデルである。

 

 発射口のシャッターが解放され、発射態勢が着々と整っていく。

 

 先ほども述べたように、キイは設備の自動化により省人化を実現したヤマト級である。波動砲の発射準備も、そして照準も、一部を除いてほとんどAIが行ってくれるため、そこに人の手が入る事はほとんどない。

 

 これはアンドロメダ級も同様だ。

 

《波動砲への回路、開きます》

 

《非常弁全閉鎖。強制注入器作動》

 

《ライフリング回転速度、650rpmで安定》

 

《最終安全装置、解除します》

 

「……承認する」

 

《承認を確認、最終安全装置を解除》

 

《薬室内、タキオン粒子圧力上昇》

 

 解放されたシャッターの向こう、回転を続けるライフリングの奥に、蒼く輝く光の粒子が集束し始める。

 

 エネルギー充填率を示すバーが溜まっていくのを見守っていると、索敵担当のAIが警告を発した。

 

《警告、敵ミサイル艦が加速。本艦へ向け接近中―――敵艦、ミサイル発射》

 

 こちらに敵も気付いたらしい。視線を上げると、メインパネルにはキイに向かって突進する例のミサイル艦が、全身に搭載された無数のミサイルを斉射しているところだった。波動砲を撃たれる前に決着をつけようと焦っているのか、艦首に搭載された大型のミサイルまで発射している。

 

《波動砲発射を中止、回避を提案》

 

「構うな、そのまま準備を続けろ」

 

《了解》

 

 キイにミサイルが着弾する前に、試作拡散波動砲を撃てれば勝負はつく―――ミサイルの着弾と波動砲の発射準備、どちらが速いかは既に結果が見えている。

 

《エネルギー充填、80%》

 

 AIの無機質な声が告げる事には、艦首の発射口は蒼い閃光を発していた。今にも漏れ出さんばかりの勢いで充填されたタキオン粒子が、発射の瞬間を今か今かと待ち受けているかのようだ。

 

《エネルギー充填、120%》

 

《姿勢制御……艦首、軸線に乗りました》

 

 他の艦であれば、既に戦術長の手元には拳銃の形をしたコントローラーがある事だろう。

 

 波動砲の引き金を兼ねたそれは、就役当時のキイにも搭載されていた―――今ではその役割すらもAIが担当している。

 

《対ショック、対閃光防御》

 

 キイの艦橋の窓が、通常モードから遮光モードへ切り替わる。煤を塗りたくったように薄暗くなる窓の向こうから、うっすらとミサイルの噴射炎が迫ってくるのが見え、副長の川内が目を見開いた。

 

 

 西村が遮光ゴーグルを装着した頃には、手元のミニモニターには波動砲の発射準備を終えた旨の表示があった。

 

《波動砲発射準備完了》

 

「試作拡散波動砲―――発射ぁっ!」

 

 艦長席の西村が吼える。

 

 彼の命令を音声として聞き取ったキイのAIは、それを淡々と実行した。

 

 機関室内部にある突入ボルトが薬室へと衝突し、充填されていたタキオン粒子が荒れ狂う。

 

 獣の唸り声とも、巨人の金切り声とも例えようのない甲高い音―――限界まで充填されたエネルギーの”枷”が外れる音だった。

 

 回転するライフリングの中でスピンしていた波動エネルギーが、ついに解き放たれた。

 

 余剰次元の爆縮―――生まれる筈だった可能性の宇宙、その圧倒的なエネルギーが、捻れながら前方の空間へと伸びていく。

 

 渦巻きながら猛進するそれは、キイへと迫っていたミサイル群をあっという間に飲み込んだ。いや、呑み込んですらいない。圧倒的な熱量にミサイルは直撃する寸前に融解、蒸発し、爆発すらこの世に残さず消滅していく。

 

 そしてガトランティス艦隊の眼前まで迫ったそれが―――唐突に、弾けた。

 

 蒼い輝きが白色へと変わっていく。

 

 まるで間近に太陽が生まれたかのよう―――しかしそれから生まれたのは、全ての命に恵みをもたらす光などではない。

 

 万物へと平等に死を与える、粛清の光だった。

 

 発射口で回転していたライフリングによって遠心力をかけられた波動エネルギーが、敵艦隊の眼前で集束を維持できなくなったのだ。やがてそれは膨れ上がり、甲高い炸裂音と共に、敵艦隊へと無数のエネルギー弾の雨となって襲い掛かった。

 

 ガガガッ、とミサイル艦―――前期ゴストーク級の船体に無数の穴が開く。ショックカノンよりも小さい礫のような攻撃ではあったが、問題は一発一発の威力よりも、土砂降りのようにばら撒かれたそのエネルギー弾の数だった。

 

 さながら波動エネルギーの集中豪雨、スコールである。

 

 無数に降り注ぐエネルギー弾の前に、ガトランティス艦は次々に蜂の巣へと姿を変えていった。

 

 浮遊大陸に隠れようとするガトランティス艦も居たが、試作拡散波動砲の豪雨はそれすら許さない。降り注ぐエネルギー弾は浮遊大陸の岩盤すら射抜き、隕石もろともガトランティスの駆逐艦を蜂の巣にした。

 

 船体をこれでもかというほど撃ち抜かれた敵艦が次々に爆散、轟沈していく。

 

 ガミラシア7の周囲は、あっという間に紅い閃光で彩られた。

 

《敵艦隊、8割の殲滅を確認》

 

「……掃討戦に移る」

 

《了解。ショックカノン、発射用意》

 

《キイ、最大戦速》

 

 メインエンジンに朱色の光が燈り、キイはゆっくりと加速していく。

 

 地球の思惑とガミラスの思惑、その両方に踊らされる現状に不満を感じながらも、西村は任務を全うする決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 キイ1隻の奮戦でガミラシア7のガトランティス艦隊が殲滅されたのは、それから30分後だった。

 

 

 

 

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