さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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ガトランティスの執念

 

 艦内は地獄絵図だった。

 

 損傷は船体だけではなく、塔のように聳え立つ艦橋の内側にまで及んでいる。

 

 火災は消火の見込みはなく、非常灯に切り替わり禍々しい紅い光が照らす艦橋の中には血の臭いと肉の焦げる臭いが充満し、そこかしこで苦し気な呻き声が上がっていた。

 

「おのれ……おのれ、ヤマトぉ……!」

 

 割れた額から溢れ出る血を拭い去り、メーザーは操舵手が握っていた操縦桿へ手を伸ばす。

 

 操舵手は既に息絶えていた。鎧を思わせるガトランティス製のアーマー、その胸元を爆発で飛び散った巨大な破片が、大剣さながらにぶち抜いているのだ。

 

 動かなくなった操舵手の亡骸を払い除けると、操舵手の亡骸は重力制御のダウンした環境の中をふわふわと漂い、そのまま機能を停止し砂嵐を表示するばかりとなったサブモニターに激突して、そこで漂流を終えた。

 

 血まみれの手でコンソールをタッチし、艦の状況を確認する。

 

 酷い有様だった。前部甲板全損、全砲塔大破、エネルギー電動管断裂―――聞きたくないダメージ報告が濁流の如く押し寄せてくるが、しかし機関部だけは無事だ。少なくともこの艦は、前期カラクルム級戦艦『ガノイア』はまだ沈んでいない。

 

 断裂した回路を予備回路に切り替え、損傷地点をバイパスするよう指示を出し、メーザーは操縦桿を引いた。

 

 火達磨になり、マグマの海へと墜落するばかりだったガノイアの艦底部姿勢制御スラスターに蒼い光が燈るや、ぐんっ、と武骨な艦首が上を向いた。

 

 艦から脱落した装甲や安定翼の一部をマグマの海にばら撒きながらもなんとか高度を上げるガノイア。やがて右舷のまだ無事だったスラスターが火を吹いて、全長555mの巨体を急速回頭させていく。

 

 その舳先のはるか向こうには、まるで勝ち誇ったかのように航行するヤマト艦隊の艦列があった。

 

「……!」

 

 センサーに新たな反応が生じる。

 

 ワープ反応―――惑星間弾道弾の大爆発で円形に切り取られた、惑星シュトラバーゼの空。その向こうで紅い光が幾重にも瞬き、そして消えていった。

 

 ガミラス艦がワープしたのだ。

 

 ガミラス本星へ帰還したわけではない―――ここは地球に向かうガミラス艦隊が中継地点として立ち寄る惑星だ。逆もまた然りだが、あれほどの重装備の艦隊がガミラスに引き返すとは思えない。

 

 おそらく、地球へワープを行ったのだ。

 

 ならば―――そのワープ航跡をトレースすれば……!

 

 にぃっ、とメーザーの口元に笑みが浮かぶ。

 

 この艦では、もはやヤマトを沈める事は叶わないだろう。

 

 仮に全速力で特攻したとしてもその前に撃沈されるだろうし、もしヤマトに激突したとしてもあの波動防壁がある以上は無傷で乗り切られてしまう。

 

 そんな犬死には御免だ。

 

 ならば―――ならば、一矢報いるにはこれしかない。

 

 死体の漂う艦橋の中、同じく血まみれになった副長が今にも途切れそうな声で言う。

 

「閣下……お供いたしますぞ……!」

 

「じゃあ……征こうか……!」

 

 最期の戦に。

 

 最期の旅路に。

 

 カラクルム級が一気に加速していく。敵艦の再起動に気付いたヤマト艦隊が凄まじい勢いでショックカノンを掃射してくるが、しかしガノイアはもう止まらない。安定翼を吹き飛ばされ、後部艦橋を破壊され、装甲板を融解させられようとも、その歩みにはもはや迷いがなかった。

 

 やがて、ガノイアの舳先の前方に蒼く輝く幾何学模様にも似た空間の裂け目が生まれる。幾何学模様を、何度も何度も角度を変えて1つに重ねたようなトンネルにも見えるそれは、間違いなくガトランティス艦のワープの予兆だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦、ワープしました」

 

 雪の報告に、ヤマトの艦橋は騒然とした。

 

 敵艦を逃がした―――それだけであれば、別に取るに足らない事だ。しかし今は状況が違う。

 

 なぜ敵艦はこのタイミングでワープしたのか。それを考えれば、唐突な敵艦のワープの意味も見えてくる。

 

 ワープによる逃走の直前、シュトラバーゼの衛星軌道上でガミラス艦隊が一斉にワープをしていたのである。目的地はもちろん、地球。彼らは地球駐留軍の新たな一員として対ガトランティスとの戦列に加わるべく、地球へと向かっていたのだ。

 

 地球圏へのワープには、地球防衛艦隊司令部、あるいはガミラス地球駐留軍総司令部『第三バレラス』からの誘導が必須となる。それも無しにワープを強行すれば、ワープ阻害装置による妨害を受けてワープアウト先の座標が狂い、全く別の星系までワープしてしまう恐れすらあるのだ。

 

 しかし、誘導を受けた艦隊の空間航跡をトレースしてワープすればどうなるか。

 

 司令部からの誘導がなくとも、地球圏へのワープが可能となる……そしてあれだけの質量を持つ大戦艦が、あれだけの速度で地球へ向かえばどれだけの被害が生じるか……!

 

「艦長!」

 

 思わず古代は自分の席から立ち上がった。

 

「地球へワープしましょう! 今ならばまだ―――」

 

「―――落ち着け、古代」

 

 しかし土方は冷静だった。だから何だ、とでも言いたげな目で、古代を見つめている。

 

「しかし艦長!」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 さらりと言う土方に、なおも食い下がろうとする古代。

 

 だが土方はそんな彼を制するように、信頼を込めた声で言った。

 

「―――地球には”彼”がいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球だ。

 

 暗黒の海の中に浮かぶ蒼い星。かつてデスラーが我が物としようとした、太陽系の惑星。

 

 ワープアウトしたガミラス艦隊が、ゆっくりとその衛星である月へと進路を取り始めた。彼らの母港は地球ではなく、月の裏側に築かれたガミラス地球駐留軍総司令部、通称『第三バレラス』。ヤマトの波動砲に代わって建造された、ガミラスの新たな拠点だ。

 

 ガミラス共和国からすれば飛び地のような場所であり、ここでは地球の法ではなくガミラスの法が適用される。

 

「第三バレラスより入港許可出ました」

 

「全艦、ポイント3-2へ進路変更。綺麗にやって見せろ、バレル指令に笑われるぞ」

 

 第三バレラスで指揮を執るのは、ガミラス軍の名将『ローレン・バレル中将』。地球駐留軍全軍を指揮する智将であり、今のガミラス軍を支える将校の1人だ。

 

 そしてミケールにとっては、縁のある人物である。もしかしたらミケールは扱いやすい人材である以外にも、バレル中将との相性を考慮して選出された人選だったのかもしれない―――そう思いながら、ミケールは土産の一つでも持ってくればよかったなと少し後悔した。一応、クラリスにはポルメリア産の紅茶の茶葉をいくつか、手土産として持たせているのだが。

 

「―――ん」

 

「どうした」

 

 観測員の1人が、モニターに生じたグラフの変化に訝しむような声を上げた。

 

「いえ、本艦後方にワープアウト反応が」

 

「なに?」

 

 ワープに遅れた間抜けでもいるのか、とバーガーは周囲を見渡したが、しかしバーガー戦闘団は全艦揃っている。中核となる重武装ユニット搭載型ガイペロン級も、護衛のケルカピア級やクリピテラ級も、1隻たりとも欠けてはいない。

 

 では一体何が、と考えが至ったところで「ワープアウト、来ます」と観測員が報告する。

 

 直後、後方の空間に純白のガスのようなものが浮かんだ。

 

 まるで白色彗星のようにも見える純白のガス。やがて雛鳥が卵の殻を突き破って生まれてくるかのように、ガスを突き破って火達磨になった巨大な船体が姿を現した。

 

 それは地球の戦艦とも、ガミラスの戦艦とも違う姿をしていた―――ゼルグート級を除いて、ガミラスにあんな大型戦闘艦は存在しない。

 

 ―――ガトランティスだ。

 

「全艦回避!」

 

 ガイペロン級やケルカピア級、クリピテラ級がスラスターを全力で吹かして進路変更する。直後、ごう、と空間を切り裂く音を立てながら、火達磨になったガトランティスの大戦艦―――カラクルム級戦艦『ガノイア』がガミラス艦隊の陣形を掠め、通過していった。

 

 敵艦はボロボロだった。砲塔の多くが吹き飛び、あるいは熱で歪み、船体部品の多くが脱落している。もし仮に船体側面の大型安定翼が無かったならば、今頃ランベアは安定翼に引っ掛けられ大破、最悪轟沈していただろう。

 

「ガトランティス艦だと?」

 

 バーガーは度肝を抜かれた。

 

 地球圏にワープアウトした、ガトランティスの戦闘艦。

 

 おそらくではあるが―――バーガーたちがワープした際の空間航跡をトレースされたのだ。確かにそれならば、司令部からの誘導がなくとも正確に地球へワープできるだろう。

 

 だが、ガトランティスにそんな高等技術があったとも思えなかった。敵を見くびったツケが、予想よりも遥かに最悪な形で巡ってきたのである。

 

【敵を侮るな】

 

 かつて、ガトランティスとの戦いを指揮していたドメル将軍の言葉が脳裏に蘇る。あれから4年、バーガーも艦隊司令として成長したつもりでいたが、若かりし頃の悪癖はまだ抜けていなかったらしい。

 

 俺のせいだ、と拳を握り締め、バーガーは命じた。

 

「進路変更、入港中止! これより敵艦を追撃する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の裏側―――影の中から、巨大な舳先が躍り出る。

 

 ステルス戦闘機を思わせる艦首。その下には水平二連散弾銃を思わせる巨大な砲口―――波動砲の発射口が並び、その巨大な船体には地球の最先端技術の粋を集めた武装ばかりが詰め込まれていた。

 

 地球防衛艦隊総旗艦『アンドロメダ』。

 

 宇宙戦艦ヤマトに代わる、新たな地球の守護神である。

 

「敵艦、ワープアウトを確認」

 

「ポイントG-3からT-6、全戦闘衛星展開完了」

 

 戦術長からの報告を受け、艦長席に腰を下ろす山南は静かに首を縦に振った。

 

 地球本星への敵の侵入を許すなど、ガミラス戦役後からはこれまで無かった事態だ。脳裏にガミラス艦隊や艦載機の空襲、遊星爆弾による爆撃といった苦い記憶がフラッシュバックして、山南は静かに唇を嚙み締める。

 

 スラスターを吹かし、迎撃ポイントへ集合してくるのはコマのような姿をした戦闘衛星たちだ。宇宙の沿岸砲とも言える彼らにはヤマトと同等の48cm3連装陽電子衝撃砲が10基も搭載されており、搭載された波動エンジンから武装へとダイレクトに伝達されるエネルギーの恩恵もあって、その一撃はヤマトの主砲をも上回る。

 

 それだけではない。

 

《波動砲搭載型衛星、迎撃ポイントへ到達》

 

 スラスターを吹かしながら重々しく展開してきた衛星の中には、ショックカノンを搭載しない代わりに巨大な砲口を先端部に持つ大型の戦闘衛星もあった。

 

 波動砲を搭載したタイプの戦闘衛星だ。生産数こそ少ないが、波動砲による超遠距離砲撃を行う事が可能な、強力な防衛兵器である。

 

「全衛星、火器管制システム連動」

 

《全基連動を確認》

 

「ポイントZ-11、戦艦”アイアース”ワープアウト」

 

 氷の砕けるような音を響かせてワープアウトしてきたのは、同じくアンドロメダ級戦艦―――波動砲を持たぬ代わりに波動共鳴装置を2基搭載した、防御型アンドロメダ級戦艦『アイアース』だった。

 

「ポイントX-12、戦艦”アガメムノン”ワープアウト」

 

 アイアースに遅れ、アンドロメダの右舷へとワープアウトしてきたのは、同じくアンドロメダ級の11番艦であり防御型に名を連ねる戦艦『アガメムノン』。アンドロメダより一歩引いた距離に展開したアイアースとアガメムノンが、早くも波動共鳴装置を動作させ、アンドロメダと戦闘衛星たちにエネルギーの伝達を開始する。

 

 前衛の戦闘衛星たちが砲撃を開始した。凄まじい数のショックカノンが、まるでスコールのような勢いで接近中の敵戦艦―――カラクルム級戦艦『ガノイア』へと容赦なく襲い掛かる。

 

 数発が被弾、ただでさえ火達磨になっていたガノイアの船体にさらに火の手が上がるが、それでもガノイアの勢いは衰えない。死を覚悟した獣の如く、猛スピードで地球へと向かっていく。

 

「波動砲発射用意!」

 

《エネルギー充填、60%……90%……120%》

 

 防御型アンドロメダ級2隻からのエネルギー供給を受けている事もあって、波動砲のエネルギーチャージにはそれほど時間を要さない。

 

 あっという間に120%に達したエネルギー充填率。アンドロメダの艦首波動砲発射口から、限界を超えた蒼い光が漏れる。

 

 そしてそれは、周囲に展開する波動砲搭載型戦闘衛星も同様だった。

 

《拡散波動砲から収束波動砲へ》

 

「目標、接近中の敵戦艦。対ショック、対閃光防御!」

 

 敵艦を睨みながら、山南は命じた。

 

 

 

 

「波動砲―――発射!!」

 

 

 

 

 カッ、と蒼い光が迸った。

 

 突入ボルトにより解き放たれた膨大な波動エネルギー、その塊が、前方の空間へと強引に押し込まれていく。それは空間が上げる断末魔、宇宙の悲鳴にも似ていた。

 

 蒼い稲光の如くスパークを纏いながら飛翔していく波動砲。共に戦闘衛星から発射された波動砲と結びつき、絡み合いながら巨大化したその閃光が―――地球への特攻を目論むガノイアを、真正面から呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 己の無力さに、メーザーは絶望していた。

 

 生まれた時から彼は栄光の中にあった。父の指揮していた艦隊を預かり、参戦した戦には常に圧勝していた。これまでに重ねた武勲は数えきれないほどで、自らこそがガトランティスの矛、偉大なる白色彗星帝国の戦士であるという自覚もあった。

 

 しかし、この無様な戦はいったい何事か。

 

 第十一番惑星では逃げおおせ、シュトラバーゼ追撃戦ではヤマトに欺かれた挙句手も足も出ない。

 

 そして決死の覚悟で地球への特攻を試みても、敵本星への肉薄すらままならない。

 

 これが自分の実力だったのか。自分は父の、親の七光りに縋っていただけなのか。

 

 認めたくない現実と共に、死の光が迫ってくる。

 

 その理不尽に、現実に、冷徹極まる運命に、メーザーの口からは呪詛の言葉が迸っていた。

 

 

 

「な……何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 蒼い閃光が、全てを拭い去っていく。

 

 光が消えたそこには、いつも通りの静寂があった。

 

 

 

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