さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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今回オリジナルパートです。


第三バレラスにて

 

 

 ―――第三バレラス。

 

 ガミラスの首都バレラス、そしてデスラーが落下させようとした第二バレラスに続く、バレラスの名を冠した第三の拠点だ。それはちょうど月の裏側、地球からは見えない巨大なクレーターの内側に沿うように建造されており、第三バレラス上空にはこれ見よがしにガミラスの国旗がホログラムで投影されている。

 

 地球・ガミラス安全保障条約に基づき、地球側がガミラス軍駐留のために貸し与えたガミラスの太陽系方面の領土―――つまるところ”飛び地”だ。

 

 バレラスの名を冠しているものの、厳密に言えばそれは都市というよりはガミラス地球駐留軍の拠点、鎮守府が置かれた軍事基地と言えた。一応は地下に軍人たちの家族が住まう居住区や商業区も設けられており、そこだけを見れば確かに都市のように見えるのかもしれない。

 

 先導するメルトリア級に続いて第三バレラス鎮守府付近の宇宙港へ、重武装ユニットを搭載した3隻のガイペロン級が降り立っていく。艦橋の床越しに感じる微かな振動と浮遊感の消失に、ミケールはそっと気を引き締めた。

 

 ここからはあの、かつてデスラーが欲し、そして今はガトランティスの標的となる蒼く美しい星は見えない。それはまるで、ガミラスが地球から目を背けているようにも、あるいは最初から袂を分かつ運命にあったようにしか思えず、ミケールは少し悲しくなった。

 

 だが、彼女の目的はこんな太陽系の辺境までやってきて、地球とガミラス両国の対立を憂う事などではない。地球駐留軍の一員として、ローレン・バレル中将の元で戦うためにやってきたのである。

 

「バーガー大佐、長旅ご苦労様」

 

「いえいえ、昔の戦友(・・・・)のよしみですよ」

 

 お互い、かつてはドメル将軍の元で戦った戦友同士だ。共に戦った時間は短かったが、それでも互いに背中を任せられる相手と認識している。

 

 よく知っている戦友と共に戦えることが、ミケールにとっては救いなのかもしれない。

 

「じゃあ、私はこれで」

 

「ええ、お気をつけて少将殿」

 

「ご主人様、こちらに」

 

 副官であり専属のメイドでもあるクラリスに促され、ランベアの艦橋を後にするミケール。親しげな笑みを浮かべる小さな戦友の背中を、バーガーもまた親し気な笑みで見送った。

 

 ガイペロン級の艦内の通路を通り、ハッチから外へ出る。

 

 ランベアのハッチから外へ一歩踏み出すや、幼少の頃から慣れ親しんだ空気がそこにはあった。

 

 ガミラス艦の機関部、その冷却システムが排出する排気の混じった空気―――幼少期を過ごしたリガロヴィッチ邸は宇宙港からほど近い場所にあり、外で遊べばよく排気交じりの風が流れ込んできたものである。

 

 最近は艦隊勤務が多く空調の利いた室内や艦橋で過ごす事が多かったから、久しく忘れていた感覚だった。

 

「―――これはこれは、ミケール少将」

 

 まるで芝居のような声が、宇宙港の一角に響いた。

 

 声の聞こえた方を振り向くと、そこには2体のガミロイド兵を従えた1人の男が立っていた。肌の色は青くはなく、一瞬地球人のように思えたが違う。クラリスと同じザルツ人だ。

 

 体格はさながらヒグマのようで、筋骨隆々と言っても差し支えない。しかしガミラス軍の軍服の袖から覗く手には、ごく普通の人間には無いメタリックな輝きがある。

 

 義手だ―――彼は両腕が義手、機械なのだ。

 

 軍服の上着、肩にはガミラスの惑星間弾道弾を象ったエンブレムがある。

 

 『ガミラス戦略ミサイル軍』のものだ。

 

 海軍とも陸軍とも、空軍とも異なる部署。その役目は戦略兵器である惑星間弾道弾と、ある兵器(・・・・)の運用を一手に担う事であり、この第三バレラスとその近郊に配置された合計490基にも及ぶミサイルサイロと惑星間弾道弾及び秘密兵器の発射スイッチは全て彼の手中にあると言ってもいい。

 

 そしてその狙いは、おそらく地球へ向けられているのだろう―――地球とガミラスの仮初の友情が終わり、再び戦端が開かれたその時に真っ先に手を汚すのはミケールではなく、きっと彼なのだ。

 

「―――久しぶりだね、”パウエル”大佐」

 

 パウエル、と呼ばれた男はミケールの返答を聞くや、旧友と再会したかのような笑みを浮かべた。

 

 彼とも面識がある。昔、何度か一緒に仕事をした事がある。地球侵攻のために建設された冥王星基地へ、惑星間弾道弾の搬入を行った際の責任者こそがこのパウエルで、ミケールは惑星間弾道弾を牽引していく彼の艦隊をバラン星の亜空間ゲートまで護衛した事があった。

 

 彼も汚れ仕事ばかりで苦労しているのだろう、以前こうして顔を合わせた時と比較すると、幾分か目元のクマが酷くなっているように思える。

 

「そういうお前は全く背が伸びてないな、ミケール少将殿?」

 

 ちゃんと牛乳飲んでるか、とからかうように言うパウエルに、クラリスがわざとらしく咳払いをした。ミケールの前で身長をからかっていいのは彼くらいのものである。

 

「パウエル大佐、バレル中将はきっと首を長くしてお待ちしている筈です」

 

「おう、それもそうだ。こちらへどうぞ、少将閣下」

 

 言外に「早く案内しろ」と凄むクラリスすら受け流し、パウエルはガミロイド兵を従えて歩き始めた。そのまま奥に待機していた軍用車に乗せられ、第三バレラス鎮守府へと案内される。

 

 車の窓の向こうに見える宇宙港には、当たり前だが多数の宇宙艦艇が停泊していた。デストリア級やケルカピア級といったガミラスでもよく目にする艦から、ガイデロール級やハイゼラード級、急遽増産に入ったゲルバデス級まで多種多様で、奥の方には山のように巨大なゼルグート級の船体も見える。

 

 あれが地球駐留艦隊の総旗艦だ―――バレル中将が乗る艦なのであろう。

 

 やがて鎮守府の前で車が停まった。

 

 後部座席のドアを開けてくれたガミロイド兵に礼を言いながら降り、パウエルに案内されながら鎮守府内へ足を踏み入れる。

 

 注目の的、というのが一歩足を踏み入れた率直な感想だった。

 

 『無敗の天使』と呼ばれたミケールがここにやってくる事は、地球駐留軍の将兵たちの耳にも届いていた筈だ。しかしそれでも向けられる物珍しそうな視線は、きっとミケールの異名とその容姿のギャップに起因するものなのだろう。

 

 無敗の天使―――あらゆる激戦において部下を死なせず、そして負けない戦いをするガミラス軍の名将。それがこのようにも中性的で小柄、可憐な容姿を持つ存在と誰が予見したであろうか。

 

 敬礼と共に向けられる視線に少しばかり恥ずかしさを覚えながらも、エレベーターに乗り込んだ。

 

 10階へと至ったところで、「俺はここまでだ」とパウエルは言いながら壁面のボタンを押した。

 

「じゃあごゆっくり」

 

「案内どうも」

 

 旧友にそう言い、ミケールはクラリスとモニカを伴ってエレベーターを降りた。

 

 コンコン、と部屋のドアをノックすると、『入りたまえ』と懐かしい声が聴こえてくる。拒む理由もなく、失礼しますと一声かけながらドアを開けたミケールの視線に飛び込んできたのは、ガミラス軍の将校用の軍服に身を包んだ大きな背中だった。

 

 ローレン・バレル中将―――ガミラス地球駐留軍を指揮する、この第三バレラスの最高司令官である。

 

 そしてまた、ミケールとも縁のある人物だった。

 

 踵をそろえ、敬礼しながらミケールは声を張り上げる。

 

「ミケール・リガロヴィッチ少将、クラリス・リューゲンシュタイン中佐、モニカ・スタンレー大佐、ヒス首相の命令により地球駐留軍へ着任いたしました」

 

「うむ」

 

 ゆっくりと、バレル中将がこちらを振り返る。

 

「―――15点」

 

「……はい?」

 

 軍人というよりはまるで、近所にいる優しいおじさんのような笑みを浮かべるバレル中将。いったい何の採点なのかと発言の意味を察しかねていたミケールに、バレル中将は追い打ちをかける。

 

「忘れたかね? キミの士官学校時代の射撃訓練の成績だよ」

 

「……あ、ああ」

 

 昔の苦い記憶が蘇る。

 

 実家の父親の意向もありガミラス軍へ半ば強制的に入隊させられたミケール。戦術面や戦略面など、指揮を執る事に対しては定評のあるミケールだが、拳銃を用いた射撃訓練の成績は散々なものだ(陸軍ではなく海軍に回されたのもこれが遠因であるかもしれない)。

 

 クラリスにも「どうしてこれでガミラス軍に入隊できたんです?」と真面目に問われた事を思い出して苦笑いしつつ、そっと敬礼する手を降ろした。

 

「相変わらず容赦がありませんね、バレル教官(・・・・・)

 

 かつての士官学校時代の恩師―――これからミケールは、彼の元で戦う事となる。

 

「敵が嫌がる事を、敵が嫌がるタイミングで、敵が嫌がるくらいのさじ加減でやるのが戦いの基本だ」

 

「それは敵に向けてやってほしいものです」

 

 教え子にやらなくても、と続けたところで互いに笑みがこぼれた。

 

「まあ……色々と話もあるが、キミも遠路はるばる思い出話をするためにここへ来たわけではあるまい」

 

「ええ」

 

 ―――波動砲搭載艦の受領。

 

 ここであればイスカンダルの目も届かない。さすがにガミラス本星での波動砲の運用はイスカンダルとの関係もあって憚られるが、しかし太陽系の辺境にあるここならばその限りではない。

 

 軍拡を続ける地球を牽制する意味でも、ガミラス版の波動砲艦隊の増強は急務であった。ミケールはその嚆矢となるべくここへ来たのである。

 

「ついてきたまえ、案内しよう」

 

 そう言い、バレル中将は踵を返した。

 

 ミケールの新たな剣―――それがこの月面で、主の到着を待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞く話によると、その艦は地球の時間断層内で建造された後に月面へ回航され、第三バレラスで艤装の搭載を行っている段階なのだそうだ。

 

 同型艦は4隻―――ガミラス側の動きに、地球政府側はあからさまに嫌そうな顔をしたという話をバレル中将から聞かされ、それはそうだろうなとミケールは思う。

 

 地球としては、波動砲を搭載した宇宙戦艦は自分たちだけで独占しておきたいというのが本音であろう。しかしそこに時間断層の利用権を持つガミラスが割り込み、自分たちにも波動砲搭載艦を建造させろと言い出せば嫌な顔もする。

 

 地球政府からの圧力と政治工作をのらりくらりと躱し、あまつさえ同型艦を4隻も無事に就役へ漕ぎ着けさせたのは、バレル中将の政治的手腕によるものなのかもしれない。昔からこの人はそういう人だ。軍内部でも、政治でも。

 

 宇宙港の地下で、”その艦”は待っていた。

 

 網膜認証、指紋認証、声紋認証をパスして案内されたのは、宇宙港の地下に広がるドックだった。水上艦艇の整備を行う乾ドックさながらに、大小さまざまなサイズの作業用クレーンアームを搭載したプラットフォームが船体を左右から挟み込む構造になっていて、艦の頭上には主砲の砲塔を吊り下げた大型クレーンがある。

 

 作業を行ってるのはガミロイド兵たちだった。

 

「これは……」

 

 既に偽装を終え、後は細かな調整を待つばかりとなった一番艦の姿を見たミケールは目を疑った。

 

 それは従来のガミラス艦と比較すると、外見の様式こそガミラスのものとなっているが、しかし船体の構成や大まかな形状は地球のアンドロメダ級に酷似していたからだ。

 

 戦闘機のように鋭い艦首と、その下に2つ並ぶ大きな砲口。おそらくあれが波動砲の発射口なのであろう。今までのガミラス艦には無い絶大な火力が、あの艦にはある。

 

 前部甲板には艦首から伸び、せり上がったヒレのようなフィン状構造物と、40.6cm陽電子カノン砲の砲塔が並ぶ。周囲には副砲なのだろう、20.3cm3連装陽電子カノン砲の砲塔群があり、既にほぼ完成している1番艦のみ船体側面に4つの目玉がある。

 

 船体後部には4基の補助エンジンと1基のメインエンジンがあり、その周囲には四方へと伸びるフィン状の安定翼があった。

 

 波動砲搭載艦はそれだけではない。

 

 その周囲にあるドックでは、複数のガイデロール級が改造されているところだった。特徴である多数の魚雷発射管が塞がれ、冷却システムのようなものを組み込まれている。そして艦首にある特徴的な開口部は大口径のビーム砲の発射口へと変貌を遂げているようだった。

 

 おそらくあれは波動砲だろう。

 

 ガイデロール級に、強引に波動砲を搭載しているのだ。

 

 その【改ガイデロール級】とも言える艦が、見える範囲だけで少なくとも14隻―――波動砲艦隊の第一陣としては、かなりの数と言えた。

 

 イスカンダルの願いを反故にしてまで建造に踏み切った、対ガトランティス―――そして対地球のための切り札。

 

 肥大化した暴力の象徴―――ミケールの目には、新たな剣などという崇高なものよりも、そのような禍々しい代物に見えた。

 

 

 

 

「―――”ランダルミーデ級攻勢型重戦艦”、1番艦【ランダルミーデ】。あれが今日からキミの艦だ」

 

 

 

 




改ガイデロール級戦艦

武装
・330mm3連装陽電子カノン砲×3(前部甲板及び艦底)
・280mm連装陽電子ビーム砲塔×1(艦尾)
・単装対空レーザー機銃×32
・四連装対空レーザー機銃×8
・ゲシュタムウォール(試作波動防壁システム)
・艦首強制冷却システム(魚雷発射管から換装)
・波動砲

 ガイデロール級を改修した波動砲搭載艦。ガミラスが地球に対抗するべく提唱したガミラス版波動砲艦隊構想の中核を成すワークホースとして、状態の良いガイデロール級からの改修や新造予定のガイデロール級をこの仕様で建造し数を揃えている。
 波動砲の強引な搭載のせいで艦の冷却システムが追いついておらず、魚雷発射管をすべて撤去し空いたスペースに強制冷却システムを後付けするなど完成度の低さが露呈しているが、性能だけでは地球のドレッドノート級に匹敵するとされる。

 なお、のちのガルマン・ガミラス帝国におけるデスラー砲艦の前身とされる説もあるが、ガトランティス戦役の混乱で多くが失われたため詳細は不明。




ランダルミーデ級攻勢型重戦艦

武装
・3連装40.6cm陽電子カノン砲塔×4
・3連装28.3cm陽電子カノン砲塔×12(うち4基は舷側砲)
・艦首魚雷発射管×4(艦首)
・艦尾速射魚雷発射管×6(艦尾)
・ゲシュタムリフレクターシステム×4
・拡散レーザー機銃×2(艦橋側面)
・隠匿式拡散レーザー機銃×16(1番艦のみ32基)
・艦対空ミサイル防護システム
・連装波動砲

同型艦
 ランダルミーデ(1番艦)
 ヴェム・ハイデルン(2番艦)
 デルス・ガドラ(3番艦)
 ゼイラギオン(4番艦)

 地球による波動砲艦隊の増強に危機感を抱いたガミラス政府が、地球駐留軍へ建造を命じたガミラス版波動砲艦隊の旗艦クラス。工作員が持ち帰った地球艦隊の技術と、ガミラス本星でテスト運用していた波動防壁システムなどの最新技術を惜しみなく搭載した艦であり、時間断層工廠で建造された後、月面まで回航されそこで艤装の搭載を受けた。その建造にはアンドロメダ級を参考にしたと言われている(※地球側ではアンドロメダ級の亜種と見做されている)。
 なおこのランダルミーデ級に対し、アンドロメダ級の建造を担当した南部重工とシステム面を請け負うハヤカワ・インダストリーは『あからさまな模倣である』として抗議の声を挙げているが、ガミラス側は『必要な機能を突き詰めた結果偶然に通ってしまったものであり模倣の事実はない』としてこれを否定している。

 なお、ミケールに与えられた1番艦『ランダルミーデ』のみ目玉が4つある。


 



パウエル・リキールベルト

身長
・180cm
体重
・100㎏
年齢
・28歳(地球基準換算)
出身地
・ザルツ、バランベルグ県
階級
・大佐
性別
・男性

 ガミラス戦略ミサイル軍に身を置くザルツ出身の軍人。ザルツ人でありながら異例の出世を果たしている1人であり、ガミラス陸軍特殊作戦軍を経てガミラス諜報軍を転々としてきた叩き上げの軍人。かつてヤマトに向け発射された冥王星基地の惑星間弾道弾は彼の部隊が運搬したものとされている。
 明るく飄々としていてジョークと酒と煙草を愛する軍人らしからぬ男だが、その裏には数々の汚れ仕事に従事してきた複雑な感情を秘めている。両腕は義手であり、過去の汚れ仕事の際に失われたのだという。

 なお既婚者であり、ガミラス本星に妻子がいる。
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