さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
あの時、”彼”は己の死を悟った。
そのような結末は到底認められぬと、理不尽極まりない現実に、そしてその結果に憤りと屈辱を感じながらも、眼前まで迫った死を直視し悟った―――悟らずにはいられなかった。
全ては愛する彼女のため、スターシャのため。
こんな結末をもたらし、計画を破綻に追い込んだ
人生で初めての身を焦がすような敗北の屈辱に、彼は焼かれながら逝った。
そして何より―――最愛の人を、スターシャを遺して逝く事が何よりもの心残りだった。
―――その筈だった。
大帝は全能であり、多くのガトランティス人が知り得ぬ事を知っている。
だからこそ指導者としてはこれ以上ないほど頼もしく、この宇宙を統べる王としてこのお方に勝る者はおるまい、というのがガトランティス人たちの共通認識である。
それ故に、その気まぐれさに多くの将校は振り回される事が多々ある。
宴にふさわしい美味い酒がある星があると知るや侵略を命じるし、ガトランティスの版図を荒らしまわる賊を将として採用せよなどというのは、長年仕えてきたサーベラーからすればまだ可愛い方だ。
宴には酒が必要で、それが不味ければ兵の士気も下がる。それはいい。
ダガームなどという賊を静謐の星の確保へ向かわせたのも、賊に適切な褒美を与えれば制御できるのではないかという一種の実権とガミラスの攪乱、そして運よく静謐の星を確保できれば上々、という3つの目的を兼ねたものであるというのも理解しているからこそ、それもまあいい。
だがしかし―――今回ばかりはどうも、サーベラーは理解も納得も出来ない。
それはラーゼラーも、ゲーニッツもそうだった。
―――ガミラスの王に艦隊を与えよ。
ガトランティスにおいて、力こそ正義であり弱さは罪である。
故に強き者だけがその存在を認められ、弱き者は淘汰されて然るべき―――それがガトランティスという種族全体の共通認識であり、常識だった。
幼少の頃からそれに慣れ親しんだサーベラーにとって……いや、幕僚たちにとって、玉座の間にマントを翻しながら現れた男はこれ以上ないほど信用ならない存在だった。
―――なぜ、今になって。
―――あれは敵の王ではないか。
―――離反したら大帝はどうなさるおつもりか。
―――第一あやつは
―――屍同然で宇宙を彷徨っていた男に何が出来よう?
鎧に身を包み、剣を掲げ、微動だにしない儀仗兵たちの隊列。その真ん中を悠然と歩いてやってきた、青い肌の男。
粗野なガトランティス人とは違う、漂う雰囲気は貴族然とした、どこか高貴なものだ。酒を飲み肉を喰らう蛮族たちの巣窟には相応しくない高貴さが、彼からは漂っている。
負け犬め、と侮蔑するような視線を向けるサーベラーを、ズォーダーは睨んだ。
「サーベラー、一国の王には敬意を払え」
「……申し訳ありません」
幕僚たちの気持ちも、ズォーダーには分かる。
なぜこのような男を―――ヤマトとの海戦に敗れ、亜空間を艦と共に彷徨っていた屍同然だった男を拾い、治療し、生き返らせたのか。
彗星内部へと運ばれてきた頃の、この男の眼。
医療カプセルの中、治療用ナノマシンが充填された培養液の中でも常にズォーダーを睨んでいたこの男の眼。
その目の奥底には、消える事がないであろう炎が揺らめいていた―――ズォーダーにはそう見えていた。
デスラーが跪くなり、ズォーダーは頷いて立ち上がった。
ゆっくりと階段を降り、デスラーの前に立つ。
幕僚たちは目を疑った。
あの大帝が―――ヴロド・ズォーダーともあろうお方が、客人を前に玉座を降りた。
客人と同じ高さの場に立った―――それはすなわち、相手を対等な関係と見ているという何よりもの証。
ガトランティスの王が見せた、ガミラスの王に対する最大の敬意。
「デスラー総統」
名を呼ばれても、彼は―――デスラー総統は顔を上げようともしない。
貴様、と憤るラーゼラーを、ズォーダーは手で制した。
良い―――この程度の無礼、私は笑って赦そう。胸中でそう思いながら、右手をかざす。
空中に投影された立体映像。そこには第十一番惑星で、そしてシュトラバーゼで戦う地球の戦艦の姿があった。
ヤマトだ。
「貴殿のその屈辱を晴らす機会を用意した」
ぴくり、とデスラーの肩が震えた。
忘れぬはずだ。忘れるような事など無い筈だ。
彼に決して消える事のない屈辱を与えた相手を。
「どうだろうか。貴殿の戦士としての血―――実に滾るであろう?」
そこでやっと、デスラーは顔を上げた。
やはりその眼には、復讐の炎が滾っていた。
「―――感謝の極み」
第三章『溶岩惑星シュトラバーゼ』 完
第四章『デスラー総統の罠』へ続く