さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
復讐のデスラー
無限に広がる大宇宙。
静寂に満ちた世界。
死に行く星もあれば、生まれ来る星もある。
そうだ、宇宙は生きているのだ。
生きて、生きて……。
―――故にこそ、実にままならぬものである。
暗黒の海原を、どこかバリカンを思わせる重厚な舳先が切り裂いた。
漆黒に塗装された分厚い正面装甲。その後方に続くのは全長730mにも達する巨大な船体だ。甲板上には4連装の陽電子ビーム砲塔が複数備え付けられており、恒星風を受けても意に介さず大宇宙を征くその姿は、さながら”動く要塞”といっても過言ではないだろう。
ガミラス軍のゼルグート級だ。
漆黒に塗装された船体には、だがしかしガミラス軍のエンブレムはない。
厳密に言うと、ガミラス軍のエンブレムは上から強引に『×』印で上書きされており、その艦が既にガミラス軍の所属を離れたものである事を示している。
地球に供与されたものではない―――第一、ゼルグート級は優秀な大型戦艦ではあるものの、波動防壁未搭載である事や波動砲を搭載していない事、何より鈍足で艦隊運動の足枷になる事が懸念され、地球側が導入を断ったという(この決定にゼルグート級の売り込みに消極的だったガミラス政府は笑顔になったとの事だ)。
では、いったいどこの所属か。
特徴的な円盤型の艦橋の中に居るのは、しかしやはりガミラス人だ。だがその服装はガミラス正規軍のものと比較すると違和感を感じるものとなっている。
ガミラス軍の軍服は、どこか高貴で貴族的なものだ。エーリク大公時代の様式がほぼそのまま残っていると言ってもいいだろう。
ゆえに軍服は高官や側近の兵士たちにとっての一種のステータスシンボルであり、常に清潔に保つのが当たり前だ。ガミラス兵は新兵の段階で、軍服に皺ひとつ残すような事が無いよう徹底的な教育を受ける。
しかし彼らはどうだろうか。
身に纏う軍服には皺や汚れが目立つ。袖や裾には綻びが目立ち、あるいはボロボロで、何日も雨風に晒され続けたかのように薄汚れているのだ。
艦橋の中央部に立つ指揮官と思われる男の服装も、特に違和感を感じるものだった。
身に纏う鶯茶の軍服はガミラス本星仕様のものではなく、植民星軍のものだ。背中にある筈のマントは取り払われ、代わりにすっかりボロボロになった軍旗が代わりに結び付けられている。
彼らはガミラス正規軍ではない―――『ガミラス破壊解放軍』を名乗る、いわゆる叛乱軍であった。
「PG663、機関部で火災」
観測員からの報告に、”導師”と呼ばれる小太りの老人は視線を右側へと向けた。
叛乱軍旗艦の右舷を航行していた黒色のクリピテラ級。コバンザメを思わせるそのうちの1隻がエンジンノズルから朱い炎を芽吹かせるや、装甲の繋ぎ目から轟々と火を吹き錐揉み回転に入った。
艦の制御を失ったのだ。
そのまま艦隊を離れていくと、やがて暗黒の海原で一瞬だけ瞬く星となった。
乗員救助に動く艦は、いない。
皆、そんな余裕がないのだ。
ガミラス叛乱軍の目的は現政権の打倒と、ガミラス貴族主義の復古。デスラーによる独裁政権を経て民主政権へ舵を切った今のガミラスを腑抜けと断じ、一握りの貴族が星を統べていた”強いガミラス”を再び取り戻す―――それが彼らの行動原理であり、そのためにガミラス人でありながらガミラスへ牙を剥いている。
だがしかし、その懐事情は深刻だ。
慢性的な資金不足と、それを原因とした保有艦艇の整備不良。規格に合う部品も手に入らず、撃破した敵艦の残骸を漁るか、共食い整備をするか、自作したパーツでお茶を濁すのが精一杯というのが実情だった。
このゼルグート級もそうだ。ガミラスの植民星のドッグで、デスラー政権崩壊の混乱を受けて未完成のまま放置されていたゼルグート級を強奪、整備して戦力に加えたまでは良い。しかし元々生産数の少ないゼルグート級であるが故に予備パーツの入手は困難を極め、戦闘で破損した主砲のジェネレータやコンデンサはデストリア級のものを流用している有様だ(おかげで機関出力にコンデンサが耐えきれず回線破断や電気火災を頻繁に起こす)。
今しがた爆沈したクリピテラ級も、おそらくは整備不良が原因で沈んだのだろう。
そんな、軍とすら言えぬ彼らがこんな有様に陥ったのは、ガミラス補給基地の攻撃に先ほど失敗し撃退されたばかりだった事が原因だった。
補給物資確保と後方攪乱のため、物資が備蓄されている補給基地を襲ったまでは良い。が、整備も行き届かず、練度も低い叛乱軍の艦隊が、ガトランティスとの度重なる戦闘で実戦経験を積んだ精強なガミラス艦隊に勝てるはずもない。
案の定、1隻、また1隻と陽電子ビーム砲に射抜かれ、20隻ほどいた艦隊は僅か8隻まで数を討ち減らして逃走する羽目になったのである。
物資も手に入らず、貴重な艦隊を失うばかりの惨状に、誰もが希望を失いつつあった。
―――天は我らを見放したのか。
杖をつく両手に力を込めた。
こんな惨状では、ガミラスの解放など―――貴族主義の復古など夢のまた夢ではないか。
夢から覚める時間だというのか―――認めたくない現実に、しかし冷徹極まる現状が首を縦に振るよう迫る。
これからどうすればいい……唇を噛み締める導師に、更なる報告が届く。
「ど、導師!」
「何事だ」
「前方12時方向、ワープアウト反応」
「なに」
友軍―――では、ないのだろう。
ここにある艦隊が動かせる艦隊戦力の全てだ。もう叛乱軍には、結成当時のような艦隊はない。
ならば、今しがたワープアウトしてきた艦隊は……!
「艦種識別―――ガトランティス!!」
「!!」
ガトランティス。
よりにもよってこのタイミングでか、と導師は歯を食いしばった。
泣きっ面に蜂とはよく言ったものだ。ガミラス補給基地の守備艦隊に返り討ちに逢い、命からがら逃走した先で今度はガトランティスの襲撃ときた。
「応戦用意! よいか、一歩も怯むでないぞ! 蛮族共に我らの気概、見せつけてやれぃ!!」
ごうん、と前部甲板に据え付けられた4連装陽電子ビーム砲塔が旋回する。が、第一砲塔はともかく、先ほどの戦闘で被弾していた第二砲塔は不調のようだった。旋回が遅く、砲塔の軸の部分からは火花が散っているようにも見える。被弾で歪んだフレームが旋回装置に接触しているのだ。
しかし彼らには、そのゼルグート級の威力を披露する事も、そして叛乱軍の掲げる崇高な聖戦を見せつける事も許されない。
「て、敵艦より高エネルギー反応―――」
「ぇ」
声を発する事も出来なかった。
次の瞬間には紅い閃光が艦橋の窓の向こうまで迫り―――ゼルグート級と、周囲を航行していたクリピテラ級の一団をまとめて呑み込んだ。
ヤマトのショックカノンを弾くほどの防御力を誇るゼルグート級の正面装甲も、しかし全く役に立たない。許容量を超過して真っ赤に灼けたかと思いきや、次の瞬間には融解して剥がれ落ち、迸るエネルギーの濁流にその通り道を譲ってしまっていたのだから。
ガミラス軍随一の重装甲もまるで役に立たなかった。船体が、砲塔が、艦橋が瞬く間に溶け、燃え、崩れていく。
閃光の中で数秒間だけ影のようになったゼルグート級。その姿が完全に消えた頃には、宇宙には再び静寂が訪れていた。
静かになった暗黒の海を、蒼く塗装された数隻のガトランティス艦を従えた1隻の艦が征く。
ロケット状の船体に、艦首の大型艦隊決戦兵器―――『デスラー砲』を搭載した、他のガトランティス艦とは明らかに設計思想の異なる1隻の旗艦。
【ゼオ・デウスーラ】と名付けられたそれこそが、復讐に燃えるデスラー総統の新たな艦であった。
《敵性艦隊 消滅》
ゼオ・デウスーラに搭載されたAIの報告を、デスラー総統は優雅にティーカップを口へと運びながら聞いていた。
やはり紅茶はポルメリア産のものに限る、とデスラーは思う。この紅茶用の茶葉も、ズォーダー大帝の計らいでデスラーが好んでいた銘柄に近い味のものを用意したと聞いているが、とてもではないがあの味には遠く及ばない。雑味と奇妙な香りは、とてもいつもの味とは言い難いものだ。
しかし、そんな事は気にはならない。
今のデスラーは大帝から与えられた力
ワープアウトからの、搭載されたスーパーチャージャーによる間髪入れぬデスラー砲の奇襲。以前のデウスーラでは不可能だった戦法には、新たな可能性を感じずにはいられない。
彼に与えられた艦―――”ゼオ・デウスーラ”は、ガミラスから乗ってきたコアシップを核とし船体及び武装を外付けする形で建造された旗艦だ。
艦首にはデスラー砲と瞬間物質移送機、それから対空砲や魚雷を搭載した艦首重武装ブロックを搭載し、船体の両舷には3連装33cm陽電子カノン砲及び3連装33cm陽電子ビーム砲塔をそれぞれ4基ずつ搭載した砲戦ブロックを、船体を左右から挟み込む形で追加装備。機関部も延長され、対空火器の増設や機関の増強などが行われ、デウスーラⅡ世ほどの派手さはないが必要な装備が手堅く纏まった艦として仕上げられている。
ゼオ・デウスーラの『ゼオ』は”0”を意味するガミラス語だ。
今のデスラーには何もない。かつての地位も、名誉も―――何もかも。
何とも虚ろで、ヤマトに対しての復讐心だけが生き甲斐と化している今の彼にはうってつけの名前ではなかろうか―――紅茶を飲み干しながらそう思う彼に、傍らに立つガトランティス人の青年が語り掛ける。
「お見事でした、デスラー総統」
賞賛の言葉が薄っぺらく思えてしまうのは、おそらく彼の発する言葉に感情が宿っていないからであろう。
空になったティーカップをガミロイド兵に預けるや、デスラーは彼の方に視線を向けた。
白い軍服に身を包む、ガトランティス軍の情報将校―――『ミル』と名乗った彼はその顔に表情一つ浮かべず、賞賛の言葉を続ける。
「敵艦隊の殲滅、実に鮮やかでした。貴方がガミラス人でなかったなら、ガトランティスの戦士として最高の栄誉を得ていた事でしょう」
「……生憎、この青い肌は捨てるつもりもないのでね」
冷笑を浮かべながら応じるが、ミルはそれを意に介さない。
気味の悪い男、というのがデスラーのミルに対する評価だった。感情もなく、大帝から与えられた「デスラーの監視」という任務を淡々とこなすガトランティス人の青年将校。このゼオ・デウスーラと護衛の艦隊と共に、大帝が与えた人材だった。
ゼオ・デウスーラに乗る人間は、デスラーとこのミルの2人だけ。他は全てガミロイド兵がコントロールしている。だからもし生体センサーでスキャンすれば、艦橋に生命反応が2つしかないという異様な光景を目の当たりにする事になるだろう。
「此度の大戦果、大帝にもご報告させていただきます」
「勝手にしてくれたまえ」
私はヤマトを討てればそれでよいのだ―――その言葉を、しかしデスラーは直前で呑み込んだ。
この復讐心は―――この屈辱は、私だけのものだ。
分かち合う者など、誰も必要ない。この怒りは私だけを焼けば良い。そして私はこの怒りのままに、怨敵ヤマトを討つ。
ガトランティス人にヤマト討伐の手柄をくれてなるものかと、デスラーは心に決めていた。
だからこのミルにしても、そこまで心を許すつもりはない。自分を監視したいというのならば、すればよい。ヤマトとの戦いに水を差さなければそれでよいのだ―――それが今のデスラーの考えであった。
他者を拒絶するような心の壁は、一層分厚さを増したと言ってもいいだろう。
「―――ヤマトは先日、シュトラバーゼを発ったと」
ミルの言葉に、ピクリと瞼が動く。
「順調であれば、この近辺を通過するでしょうな」
「―――それは何よりだ」
口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。
以前までの冷淡なデスラーであれば、決して浮かべる事の無かった笑み。
今の彼は復讐の鬼であった。
ゼルグート級(叛乱軍仕様)
ガミラス破壊解放軍(叛乱軍)が保有する艦隊旗艦。デスラー政権崩壊の際、植民星のドッグにて未完成の状態で放置されていたものを奪取し運用しているとされているが、ゼルグート級の生産数が少なく予備パーツの確保に苦労している事から、主砲のジェネレータやコンデンサにはデストリア級のパーツをやむなく使用している。しかし機関出力がジェネレータの定格出力を超過している事から回線の破断や電気火災が頻繁に起こるなどの問題を抱えており、ガミラス随一の重武装を誇るゼルグート級の姿は見る影もない。
(※武装は原作2202準拠です)
ゼオ・デウスーラ
全長 380m
武装
・3連装330mm陽電子カノン砲×4
・3連装330mm陽電子ビーム砲×4
・3連装対空レーザー機銃×8
・魚雷発射管×12
・瞬間物質移送機×2
・デスラー砲×1
ガトランティスに流れ着いたデスラーのコアシップに、追加武装を搭載した複数のユニットを外付けする形で建造された新たなデスラー艦。デウスーラⅡ世ほどの派手さも巨体もないが、必要な機能をコンパクトに、尚且つ堅実にまとめた艦として就役している。特に機関部の改造によりワープアウト直後にデスラー砲を発射するという離れ業も可能となっており、波動砲搭載艦としては新たな次元へ達した艦と評しても過言はない。
復讐に燃えるデスラー総統の矛として、ヤマト迎撃に向かうが……?
※ゼオ・デウスーラの外見は旧作さらば及び2に登場した二代目デスラー艦をご想像ください。細部が変わってる以外はほぼあのままです。