さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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チェックメイト

 

 熱帯雨林のスコールの如く降り注ぐミサイルに追い立てられ、無数のデスラー機雷に進路を制限されながら、ヤマトと2隻の同型艦が逃げ惑う姿は、ゼオ・デウスーラの艦橋で指揮を執るデスラー総統の心を燃え上がらせていた。

 

 自分の計画を―――全てを台無しにされ、ガミラスからも実質的に追放された今となっては、自分の顔に泥を塗ったあの地球(テロン)(フネ)、ヤマトを沈める事が今のデスラーの生き甲斐だった。

 

 それが、もう少しで果たされようとしている。

 

「……デスラー総統」

 

 一歩引いたところから戦いを見物していたミルが、相変わらず抑揚のない声で言う。

 

 全く感情の入っていない、機械のようなミルの声はデスラー総統の神経を逆撫でするのに十分すぎた。ガミロイド兵ですら、もう少し人間らしさ(・・・・・)を見せるというものだ……それが、機械ですらない生身の人間が機械のような喋り方をするというのはいったい何の冗談なのか。ガトランティスは感情のない殺戮機械にでもなりたいというのか。宇宙全ての知的生命体の殲滅を目的とし、感情をノイズとして嫌悪する殲滅兵器だとでもいうのだろうか。

 

 そんな得体の知れない彼の態度が気に食わない―――結局のところは未知の存在に対する警戒心の一種なのだろう、と冷静に断じる余裕がある事を確認し、デスラーは視線だけをミルへと向けた。

 

「攻撃がヤマト(ヤマッテ)ばかりに集中しているようですが」

 

 ミルが指摘するのも無理はない。

 

 最初の攻撃からだ……一番最初に転送したミサイルも、第二波のミサイルも、ヤマトだけを狙っている。

 

「確かに一番の脅威はヤマト(ヤマッテ)ですが、撃沈後も他の2隻が健在とあっては……」

 

「―――ミル君」

 

 紅茶のおかわりを持ってきたガミロイド兵から優雅な動作でティーカップを受け取り、デスラー総統は答える。

 

 ミルはその顔を見て、生まれて初めて得体の知れない恐怖を抱いた。

 

 ズォーダー大帝の血縁者であり、諜報の分野で優秀な結果を叩き出した事で取り立てられ、現代の大帝『ヴロド・ズォーダー』の寵愛を受けていたミルにとって、これまでの人生は「敗北」や「挫折」といったものが全くない、とんとん拍子に進んだものだった。

 

 何か行動を起こせば常に最善の結果が転がり込んでくるし、敗北もない。それはミル自身の優秀さに起因するものだが、逆に未知なるものへの恐怖を倍増させる要因ともなっていた。

 

 デスラー総統の顔に張り付く、冷たい笑み。

 

 彼の内に秘めた狂気が、ほんのわずかな感情の亀裂から滲みだした―――それだけの事なのだろう。

 

 しかしその冷たく、底の見えない深淵のような笑みは、ミルに言いようのない恐怖を与えるに十分すぎた。

 

「―――私は”ヤマト”と戦っているのだよ」

 

 言外にヤマト以外の2隻は眼中にない、と告げるデスラーだったが、その意図がミルに届いているかどうかは怪しいものだった。

 

 だがそれでも、どうでもよい。

 

 今のデスラーにとっては、ヤマトさえ撃沈できればそれでいいのだ。

 

 自分に屈辱を与えたヤマトを沈める―――デスラーは、そのためだけに生かされている。

 

「全艦に伝えたまえ。”この程度では生温い、敵はあのヤマトなのだ。撃って撃って撃ちまくれ”とね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方に大型構造物」

 

 メインパネルに映し出されたそれを見て、第一艦橋に居たクルーたちはきっと同じ感想を抱いたに違いない。

 

 長大な棒状の小惑星―――長さからして4、5㎞はあるだろうか。その小惑星に対して縦にこれまた巨大な穴が、それこそヤマト、ムサシ、シナノの3隻が並んで通過できるほどの巨大な穴が、ぽっかりと口を開けているのである。

 

「……まるでちくわだ」

 

 メインパネルを見上げていた太田が、そんな感想を述べた(古代も同じ事を考えていた)。

 

 そう、その小惑星の形状を一言で言い表すならばちくわだ。それも宇宙戦艦数隻が通過できるほど巨大な、見事な円筒状の小惑星なのである。

 

 ごつごつとした巨大なジャガイモを思わせる隕石や小惑星は、これまでに何度も見てきた。隕石の衝突で飛び散ったどこかの惑星の破片なのか、それともこれから新たな惑星が生まれる前触れなのか、それは分からない。

 

 きっと宇宙ではそういった形状の小惑星が当たり前のものなのだろう―――そんな常識があったが故に、その小惑星はあまりにも異様なものと映った。

 

「後方よりミサイル、大型です」

 

「ムサシ、防壁弾を発射」

 

 艦尾にある魚雷発射管から、波動防壁弾を発射するムサシ。やがて弾頭から無数のフィラメントが伸びるやバーニアで急速に回転を開始、波動共鳴装置に反応し、蒼い波動防壁を展開し始める。

 

 傘のように展開した防壁に、後方から飛来した大型ミサイルの一団はお構いなしにぶち当たっていった。対艦ミサイルや、明らかに対要塞戦闘を想定したであろうそれ以上のサイズのミサイルまで、容赦のない飽和攻撃が一発の波動防壁弾に遮られ、遥か後方へと置き去りにされる。

 

 それに呼応するように、シナノも艦尾側に搭載されたランチャーから機雷を投射し始めた。波動防壁弾が役目を終えた後、間違いなく間髪入れずに敵の攻撃があるだろう―――ミサイルの飽和攻撃か、それとも痺れを切らした敵艦隊が直接攻撃に打って出るのか、それは分からないが。

 

 その際に機雷は役に立つ。敵艦隊の足止めも出来るし、ミサイルに対しての物理的な防壁としても機能するからだ。

 

「雪、敵の機雷の散布範囲は?」

 

「1時から5時、及び11時から7時方向。直下及び直上にも感アリ」

 

 ヤマトの進行方向から見て、左右に大量の機雷を転送された事になる。ご丁寧に上下にまで例のホーミング機雷(デスラー機雷というらしい)を展開され、ヤマトの逃げ道は見事に前後に制限されていた。

 

 前方にはちくわのような小惑星が、ぽっかりと口を開けて待ち構えている。

 

 ここまで進路を制限し進むよう強制しているからには罠なのだろう―――それは古代にも分かっている事だ。獲物から逃げ場を奪い、狩場へと誘導するような、そんな手の込んだ真似をしておいて何もなかったでは、肩透かしもいいところである。

 

 必ず何かを仕込んでいるに違いない。ヤマトが通過した途端に爆破でもするつもりなのか、それとも他の何かか。

 

 かといって後方へ無理に進もうとすれば、またどこから飛んでくるかも知れぬ大型ミサイルの飽和攻撃に晒される。強引に突破する事も出来なくはないだろうが、しかし強行策を選択すればその後のテレザートへの航海が……あるいはテレザートからの帰路はより辛いものとなるだろう。

 

 出し惜しみや戦力の逐次投入は戦闘におけるご法度だが、しかし既に地球の勢力圏を抜け補給が見込めない状況となっては、限られたリソースの管理は徹底しなければならないのも実情だった。

 

 無論、左右上下に分厚く展開されている機雷原を突破していくのは論外である。

 

「波動砲であの小惑星を吹き飛ばしましょうか」

 

 南部が提案するが、古代はすぐに却下した。

 

「発射準備中、敵に無防備な背中を晒す事になる。それに攻撃が後方からのみ飛んでくるという確証はない」

 

 ならば、意を決して飛び込むしかないのではないか―――提案の意味を込めて土方艦長へ視線を送る古代に、土方もやむを得ない、といった雰囲気を滲ませながら首を縦に振った。

 

「……最大戦速であの円筒型小惑星を通過する」

 

 島、と隣に座る戦友の方を向く古代。「やるしかないって事か」と操縦桿を握り、島は険しい顔を浮かべる。

 

 ムサシとシナノに小惑星を通過する旨を伝えるや、ヤマト級3隻のエンジンノズルに朱色の光が燈った。後方から迫るミサイルを一気に振り切るように、小惑星の内部へと突入していく。

 

 ちくわのような円筒状の小惑星―――その口に飛び込み、中間部まで到達したその時だった。

 

 小惑星の内外にスパークのような蒼い光が迸り、徳川機関長が血相を変えて報告したのは。

 

 

 

 

 

「―――は、波動エンジン停止!」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 やはり罠だったか、と思う一方で、この現象には見覚えがあった。

 

 第十一番惑星の戦いで、ガトランティス軍の指揮官がヤマトに対し使った戦術―――火焔直撃砲で人工太陽を撃ち抜き発生させた波動共鳴と、それによる波動エンジンの強制停止は記憶に新しい。

 

 『メインエンジン、補助エンジン反応なし!』という機関室からの悲鳴じみた報告に、古代は唇を噛み締めた。

 

 やはり罠だった―――何かしらの仕掛けを用意した小惑星へとヤマトを追い立てて、波動共鳴を発生させその動きを封じたのである。

 

 これでは逃げる事も反撃する事も出来ない。第十一番惑星の時はシナノの時間稼ぎとムサシの波動共鳴装置によるエンジン再稼働に救われたが、今回は違う。3隻仲良く波動共鳴を受け、エンジン停止の憂き目に遭っているのだ。

 

 この無防備な状態を、敵艦隊が見逃すはずもない。

 

 額に嫌な汗が浮かぶ感触を感じながら、古代は艦橋の外を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェックメイト、という言葉が頭に浮かんだ。

 

 こうもトントン拍子に進むと、逆に怖くなってくるものだ―――空になったティーカップをガミロイド兵に預け、デスラー総統は思う。

 

 全ては計画通りに進んだ。

 

 まずヤマトの周囲にミサイルを転送し追い立て、ある程度目標地点に近付いたところで機雷を転送。進路変更を強要する。その間、ヤマトが間違っても反転して引き返すような事が無いよう、後方からはより濃密で念入りなミサイル攻撃を継続する。

 

 そうやってヤマトに前に進む事を強制し、あの円筒状の小惑星へと突入させる―――そのタイミングで小惑星に仕込んでおいたガミラス製の波動コアを遠隔操作し臨界稼働、波動共鳴を発生させてその動きを封じる、という計画だ。

 

 後は煮るなり焼くなり好きにすればいい。

 

「……やはり、あの(フネ)は何も変わっていないようだ」

 

《ザイゼン、ゴルガス、前に出ます》

 

 艦のAIからの報告に、デスラーは眉をひそめた。

 

 後方の補給艦から補給を受けていたゴストーク級撃滅型ミサイル戦艦『ザイゼン』と、ラスコー級巡洋艦『ゴルガス』の2隻が独断で前に出たのである。ヤマトが拘束された円筒状小惑星へと最大戦速で迫るや、小惑星もろとも破壊するつもりなのか、ミサイルやビームを射かけ始めている。

 

「ザイゼン、ゴルガス、退避せよ。まだ攻撃命令は下っていない」

 

 ミルが通信機を拝借し警告するが、2隻の艦長は応答しなかった。

 

 おおかた、欲を出したのだろう―――無理のない話だ。ゴラン・ダガーム率いる一団を壊滅させ、ガミラスのデスラー政権を滅ぼし、第十一番惑星を襲撃した艦隊まで返り討ちにしてしまったヤマトはガトランティスにとっての新たな脅威である。

 

 その首級を討ち取ったとなれば、それは後の世まで語り継がれるであろう武勇として残り続けるであろう。戦に生きるガトランティス人にとって、強敵を討ち取る名誉は山のような金塊ですら掠れて見えるほどのものだ。

 

 ましてや一度は敗北したガミラスの王の指揮下で戦えという命令に、配下の艦隊の艦長たちも鬱憤が溜まっているのだろう。弱さこそ罪とするガトランティスにとって、敗北者の下で戦うことほど不名誉なものはない。それが大帝からの命令であったとしてもだ。

 

「―――デスラー砲、発射用意」

 

 いつものように優雅な声で、デスラーは言った。

 

「デスラー総統、今は射線上に友軍の艦が」

 

 抑揚のない声でミルはそれの制止を試みる。

 

 が、このゼオ・デウスーラにおける最高司令官はデスラー総統その人だ。仮に彼が戦死し指揮権が最高階級の者に譲渡されない限り、艦に搭載されているAIはデスラーの命令意外を一切受け付けない。

 

 エネルギーの充填が始まった旨を報告する音声が流れる中、ミルは続けてデスラーを制止しようとした。

 

「大帝からお預かりした艦隊を諸共に撃つなど―――」

 

「―――ミル君、言った筈だよ」

 

 床が展開し、埋め込まれていたライフル型の大きなコントローラーがせり上がってくる。展開したグリップを握り、安全装置を解除。展開した照準器を覗き込みながら、デスラーは静かに狂気を滲ませた声で言った。

 

 

 

「―――”私はヤマトと戦っているのだ”と」

 

 

 

 

 




※2203のズォーダー大帝の本名は『ヴロド・ズォーダー』です。由来は幅広の剣『ブロードソード』から。

※先代大帝『バスタド・ズォーダー』の口癖は「愛が必要だ」だったそうです。
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