さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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 2024年最後のヤマト更新になります。


ヤマト、波動砲に賭けろ

 

《エネルギー充填、120%》

 

《対閃光スクリーン展開》

 

 AIの淡々とした報告を聞きながら、床から展開しているライフル型のコントローラーの安全装置(セーフティー)を解除するデスラー。本物の銃さながらにコッキングレバーを引くと、メインパネルにはガミラス語とガトランティス語で【デスラー砲発射準備完了】の文字が表示される。

 

 後は引き金を引くだけだ。彼の指が引き金を引くだけで、艦首追加ブロック内に充填されたエネルギーの奔流は前方へと放射される。

 

 過剰に展開した余剰次元―――その爆発的な破壊力は、デスラーの衝動のままに射線上の全てを破壊する事だろう。無粋な真似をした2隻の友軍艦諸共に、ヤマトが囚われた小惑星を吹き飛ばすはずだ。

 

 あの(フネ)には、これまで何度も煮え湯を飲まされた。

 

 大ガミラス主義に基づいた領土拡大も、侵略戦争も、全ては滅びゆく母星からガミラスの民を移住させる星を見つけるため。

 

 そしてバレラス諸共デスラー砲で撃とうとしたのは、イスカンダルに対し強硬手段を取ろうとしていた一部の過激派を粛清するため。

 

 民や軍人、侵略してきた植民地の民たちからの怨嗟も絶望も、全てはこのデスラーだけを責めればよい。死後、その魂は地獄へと引き摺り下ろされ、地獄の炎に焼かれながら永遠の責め苦を味わう事になるだろうが、それでも良い。

 

 そんな覚悟、とうの昔に決めていたのだ。

 

(―――すべては、マティウス兄さんとの約束のため)

 

 しかしそれを、全てを台無しにした。

 

 だからこそ許せない。自分の全てを投げ打ち、汚名に塗れながらも突き進んだ己の道。その全てを破壊し台無しにしたのは、他でもないあの地球(テロン)(フネ)―――宇宙戦艦ヤマト。

 

 こんな事をしている場合ではない、というのは心の片隅で理解している。しかし今、ここでヤマトを撃たなければ、死んでも死にきれない―――その魂は怒りと憎しみの炎で、永遠に焼かれ続けることになるだろう。

 

 復讐が終わるその日まで、だ。

 

 だからこそ、兄との約束を果たすためにも今ここでヤマトを撃ち滅ぼさなければならないのだ。屈辱に塗れた過去を清算し、目標へ、一族の悲願へと一歩を踏み出すそのためにも。

 

 少しだけ、目を瞑った。

 

 兄の顔が浮かぶ。本来デスラー一族を率いる筈だった、幼少期の自分が憧れた兄の顔が。

 

『―――約束だぞ、アベルト』

 

「―――」

 

 そのためにも。

 

 

 

 

 

「―――デスラー砲、発射」

 

 

 

 

 

 

 引き金を引いた。

 

 デスラー総統、と制止を試みたミルの声も、もう彼の耳には届かない。

 

 砲口で辛うじて拘束されていた、爆縮に爆縮を重ねた余剰次元―――溢れ出んばかりの波動エネルギーの奔流が、ついに束縛から解き放たれた。

 

 一気に膨れ上がった、血のように紅い波動エネルギー。稲妻のように拡散するエネルギーの支流を伴いながら宇宙空間を突き抜けるそれは、まるでデスラーの荒々しくも破滅的な胸中そのものを具現化させたようにも思えた。

 

 びりびりと宇宙が震える―――空間へ、無理矢理エネルギーを捻じ込むかのような暴挙を受け、まるで宇宙そのものが苦痛に悲鳴を上げているかのよう。

 

 破壊に飢え、復讐を渇望する男が放った一撃は、小惑星へとミサイルやビームを射かけ続けていた2隻のガトランティス艦―――ラスコー級とゴストーク級にすぐさま追い付いた。

 

 全ては一瞬だった。デスラー砲のエネルギーに触れるよりも先に、ラスコー級とゴストーク級の装甲の表面が融解。甲板上に露出したミサイルが誘爆し、艦尾に備え付けられたエンジンノズルが燃え、溶け落ちていく。

 

 1秒にも満たぬ間に、濁流の如きエネルギーの塊が2隻を呑み込んだ。

 

 爆発すら生じない。瞬く間に装甲を融解させられ、血のように紅い閃光の中で一瞬だけ、艦の形状のシルエットを残すのみだ。

 

 2隻のガトランティス艦を呑み下したデスラー砲は、進路を全く違えずに小惑星へと迫りつつある。

 

 目標は―――宇宙戦艦ヤマト、ただ一隻。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薬室内、タキオン粒子圧力上昇」

 

 機関室から復旧作業を終えて戻った徳川機関長の報告に、まだかまだかと焦燥感を募らせる古代。

 

 まるで獲物を前に荒ぶる猟犬のような気持を、しかし戦術長としての理性で何とか押し留める。今ここで必要なのは、今までこなしてきた作業を当たり前に繰り返せる冷静さだ。その冷静さに、艦と同型艦2隻の運命がかかっていると言っても過言ではない。

 

 落ち着け、落ち着け―――自分の心にそう言い聞かせる古代。その周囲では波動砲の発射シークエンスが着々と進んでいった。

 

「エネルギー充填、80%」

 

「速河、そろそろだ。準備しろ」

 

《りょ、了解》

 

 真田に促され、返事を返す速河。まだ若い彼の声には言いようのない緊張が滲んでいたが、しかし思っていたよりは落ち着いているように思えた。

 

 古代たちは知らぬ事だが、重力アンカーの制御ユニット前で詰めている速河は自分なりの方法で落ち着きを取り戻していたのである。どんな時でも身嗜み―――時を超えた、祖母からの遺言によって。

 

「エネルギー充填、100%」

 

「―――余剰次元の爆縮を確認!」

 

 雪からの報告に、来たか、と古代は目を細めた。

 

 余剰次元の爆縮―――つまり、敵が波動砲を撃ったという事だ。

 

 敵艦との距離は離れている。まだ、落ち着いて作業を続ければ十分に間に合うだろう。

 

「エネルギー充填、120%!」

 

 戦術長の席に、拳銃を模したコントローラーがせり上がってくる。

 

「ターゲットスコープ、オープン。電影クロスゲージ、明度20」

 

 ボルトを模した安全装置を解除、展開した照準器を覗き込んだ。向こう側には倍率の掛かった状態の、ヤマト艦首方向に広がる空間が表示されている。

 

 息を吸い、吐き出した。

 

「発射10秒前! 対ショック、対閃光防御!」

 

 カウントダウンが始まる。

 

 

 

 10。

 

 

 

 9。

 

 

 

 8。

 

 

 

 7。

 

 

 

 6。

 

 

 

 5。

 

 

 

 4。

 

 

 

 3。

 

 

 

 2。

 

 

 

 1。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――発射!」

 

 

 

 

 

 

 引き金を引いた。

 

 コントローラー後部から伸びていたボルトが押し込まれると同時に、ヤマト艦内でも突入ボルトが薬室へと突入、充填され、限界まで加圧されていたタキオン粒子をその呪縛から解き放った。

 

 カッ、と獣の唸り声とも、あるいは巨人の金切り声にも聞こえる甲高い音。

 

 それは呪縛が消え失せ―――”枷”が完全に取り払われた事を意味する音だった。

 

 余剰次元の爆縮―――生まれる筈だった可能性の宇宙、その圧倒的なエネルギーが、捻れながら前方の空間へと伸びていく。

 

 ちくわのような形状の円筒型小惑星。縦に深く穿たれた大穴の内側を掠め、抉り、融解させながら前方へと伸びていく蒼い閃光。

 

 それと同時に、ぐんっ、と身体が後方へと引っ張られる感覚を覚えた。

 

 重力アンカーが発射と同時に解除されたのだ―――座席のシートベルトが腰や両肩に深々と食い込む。

 

 全長333mの宇宙戦艦を、波動砲発射時の反動からその場に縫い付けるための重力アンカー。しかし意図的に機能を解除された今、ヤマトはその本来受ける筈だった反動を全身を以て受ける事となっていた。

 

 果たして、土方の作戦通りに事が運んだ。

 

 波動砲の反動を受けたヤマトの巨体が、ぐい、と大きく後方へ押し出される。それはメインエンジンの全力噴射をも軽く上回る程の推力となり、ロケットアンカーで曳航する形となったムサシとシナノも共に後方へと押し流される形となった。

 

 どんどん加速していくヤマト―――3エスノット、5エスノット、7エスノット……。

 

 もう少しで小惑星の出口へと到達する、というタイミングだった。

 

「敵波動砲、間もなく弾着!」

 

「総員、衝撃に備え!!」

 

 これ以上どう備えろと―――南部のそんな悪態を聞き流しながらも何かに掴まった古代は、艦橋の左側に見えるムサシの艦尾魚雷発射管が開き、そこから1発の魚雷が発射されたのを確かに見た。

 

 いや、単なる魚雷ではない。

 

 波動防壁弾だ。

 

 その弾頭がロケットエンジンを分離し、クラゲよろしくフィラメントを展開しつつ回転したところで、血のように紅い閃光が全てを塗りつぶす。

 

 敵の波動砲が、ついに着弾したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつてイスカンダルは、この波動砲の力を以て大宇宙に覇を唱えていたという。

 

 敵国を惑星諸共吹き飛ばし、向かうところ敵なしだったイスカンダル軍の殲滅兵器、波動砲。

 

 容易く星の1つや2つを消し飛ばす破壊力のあるそれを受け、単なる小惑星が―――惑星の成り損ないごときが耐えられる筈もない。デスラー砲の直撃を受けた小惑星は瞬く間に融解しつつ崩壊を開始、メインパネルの向こう側で無残な骸を晒し始める。

 

「……なんて事を」

 

 抑揚のない声で、しかし目を見開きながら言うミルは、それなりには取り乱しているようだった。

 

 デスラーが、味方の艦もろともヤマトをデスラー砲で吹き飛ばした事が気に食わないのだろう。あるいは、それほどまでに『大帝からお預かりした艦隊』が大切だったのか……しかしデスラーにとってはどうでも良い事だった。

 

 ヤマトさえ、あのヤマトさえ討ち果たす事が出来れば、他はどうでもよい。

 

 そして今、ヤマトへの復讐は果たされた。

 

 波動共鳴を受け、小惑星の内部で身動きの取れぬヤマト。何一つ抵抗らしい抵抗も出来ずに宇宙の塵と化すのは、さぞ屈辱であろう。

 

「この件、大帝に報告させていただく」

 

「好きにしたまえ」

 

 澄ました顔でコントローラーから手を放すデスラー。

 

 全てはどうでもよい事だ―――ミルも、ズォーダーも、ガトランティスも。

 

 生きる事への熱が急激に冷めつつあった、その時だ。

 

「―――む」

 

 ゼオ・デウスーラのAIよりも先に、デスラーはそれに気付いた。

 

 爆発しながら崩壊していく小惑星―――その爆炎を突き破り、奇妙な物体が顔を出したのを。

 

 あれはまさか、と目を見開いた事には、その奇妙な物体―――ヤマトのエンジンノズルを、2隻の同型艦の艦首が追い抜いていった。

 

 ムサシとシナノだ。土壇場で、メインエンジンの修理が終わり波動共鳴から立ち直ったらしい。

 

 波動砲を発射した事でエネルギーを使い果たしたヤマトを助けるべく、2隻の同型艦がヤマトを曳航、メインエンジンから朱色の炎をこれ見よがしに吹き上げながら加速していく。

 

 ワープに入るつもりだ、とデスラーが見抜いた頃には、既にヤマトを曳航した2隻はワープ空間へと飛び込んでいた。宇宙空間に黄金の波紋が広がり、その余韻に宇宙は再び静寂を取り戻す。

 

 生きていた―――ヤマトが。

 

 絶対に逃れられぬよう十重二十重に策を巡らせていたにもかかわらず―――決して逃げられない状況を作り上げたにもかかわらず、ヤマトは生きていた。

 

 生きて、このデスラーの策を撃ち破って見せた。

 

 ヤマト健在―――AIの報告を聞くまでもなく、デスラーは口元を静かに歪める。

 

 大帝にこの戦いの顛末を報告すべく背を向けようとしたミルは、デスラーの肩が震えている事に気付いて足を止めた。

 

 怒り狂っているわけでは、ない。

 

 笑っているのだ。

 

 声を押し殺し、しかし全身全霊で笑っているのだ。

 

「やってくれたな、ヤマトの諸君」

 

 それでこそだ―――誰に向けるでもなく放たれた言葉に、ミルは言いようのない恐怖を感じた。

 

 このデスラーという男ほど、狂気という言葉を体現する者もいないだろう。

 

 それはもう既に、ガトランティス人の理解を超えたものと化していたのである。

 

 

 

 





 2024年のヤマトの更新は以上となります。来年も空いた時間を見つけてコツコツと更新していくつもりですので、リメイクアニメから入った皆様も、旧作から追いかけてきた古参のファンの皆様もお付き合いいただければ幸いです。

 それでは来年またお会いしましょう。皆様、よいお年を!
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