さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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 遅れましたが、皆さま明けましておめでとうございます。

 今年もこちらの2203をエネルギー充填120%くらいで頑張って書いていきますので、お付き合いいただけますと幸いです。今年もよろしくお願いいたします。


死にゆく星の運命

 

 ガミラスの大地から見下ろす空は、いつも外殻大地によって遮られ、丸く切り取られている。

 

 今は春―――同盟国となった地球(テロン)ではまだ冬らしく、向こうにある第三バレラスへ駐留するべく出撃していく艦隊の乗員たちは皆厚着をしている。先遣隊曰く『テロンの冬はガミラスよりも寒い』との事だ。

 

 ガミラスにも一応、四季という概念は存在する。しかし地球ほど極端な気温の変化はなく、冬は少し肌寒い程度で雪など降る事は滅多にない。夏になっても温かくなってきたな、と感じる程度であり、地球人のように海水浴を楽しむような事もない

 

 第一、ガミラスの海のうちいくつかは濃硫酸になっており、海とは危険な場所という認識が一般的なので”海水浴”という文化もないのだ。そのため地球へと駐留しているガミラス兵たちは、夏季休暇で地球を訪れた際、水着姿で海へと飛び込む地球人を見て驚愕したという(実際この異質な光景はガミラス本星でもニュースで少しだけ取り上げられた)。

 

 宇宙港から出撃していったデストリア級3隻の後ろ姿が、外殻大地に開いた大穴の向こうへと吸い込まれていった。やがてエンジンノズルが発する紫色の光も見えなくなり始めた頃に、不意に人の気配を感じ、ガミラス軍高官―――ガデル・タランは右手を腰のホルスターに近付けながら後ろを振り返る。

 

「誰だ」

 

 一応、これでも射撃にはそれなりに自身がある―――頭脳派だった兄とは違い、弟のガデルは肉体派だ。惜しむらくは鍛え上げた肉体と拳銃射撃を披露する機会が、今の地位に上り詰めてからはめっきりと減った事であるが。

 

 しかし何者かが襲ってくるというならば、それを披露する良い機会でもある。心のどこかでそんな期待をしながらも振り向いた先に居たのは、1人のガミラス人の青年だった。

 

 美しい金髪と、高貴なる青とも言われるガミラス人特有の蒼い肌。純血のガミラス人である事は疑いようもない。

 

 どこかの貴族の出身なのだろうか―――身に纏う雰囲気はどこか高貴な身分を思わせるが、しかしそれもアクセント程度。大半は寡黙で冷たく、近寄る者を片っ端から切り裂いてしまいそうな鋭い威圧感が大半を占めており、なかなか気さくに声を掛けづらい雰囲気を醸し出している。

 

 彼の姿を見つめながら、タランは訝しんだ。

 

 身に纏うのは通常のガミラス軍の制服ではない―――諜報軍のものだ。表では動かず裏で暗躍し、政治工作や情報収集を行うガミラス軍の暗部。

 

 地球駐留軍に転属となったパウエル大佐も一時期はここに籍を置いていたという。

 

「―――諜報軍が、私に何の用だ?」

 

 こんなところに呼び出して……そう続けながらも、タランは警戒心を解かない。

 

 視線を周囲へと向けた。こんなバレラスの一角、誰も寄り付かない廃工場にガミラス軍の高官を『デスラー総統に関する情報を掴んだので護衛は付けず1人で来い』だなどと呼び出しておいて、実は暗殺するつもりだったのではあるまいか。

 

 兄とは異なりそういった政争には疎かったガデルも、しかし今になってはそれを警戒した。他人に恨まれたり、疎まれるような事もしていない筈だし全く覚えはない。第一、ヤマトとの戦いで多くの高官が戦死、あるいは失脚し、繰り上げで今の地位についたガデルを恨み消そうなどと目論む物好きなど居る筈がないのだ。

 

 一応、柱の影や捨て置かれた作業機械の影にも人影はない。

 

 だが―――相手の真意が分からない以上、警戒は続けるべきであろう。そう思いながら拳銃をいつでも引き抜けるように構えていると、諜報軍の青年は両手を上げた。

 

 何も持っていない―――よく見ると腰にも拳銃のホルスターどころか、ナイフの類も携行していない事が分かる。全くの丸腰だ。

 

 暗殺の意図はない、と行動で示す相手に、そっとホルスターの近くに置いていた手を離すタラン。

 

 それを合図に、青年は口を開いた。

 

「……ガデル・タラン将軍」

 

「貴様は何者だ?」

 

「私は”クラウス・キーマン”少佐。見ての通り、諜報軍の者です」

 

 さすがに身分証は見せなかった。

 

 仕方のないことだろう、とタランも納得する。諜報軍の任務の中には敵地への潜入任務も含まれている。とにかく機密性の高い任務が多いため、素性を探られるような情報はなかなか提示しないし持ち歩かないものだ。そしてそれは味方に対しても例外ではない。

 

 おそらく先ほどの名前も偽名なのだろうな、とタランは勘繰る。

 

 諜報軍のスパイは優秀だが、同時に”本当の自分”を見失う者も多いという。潜入のやめの役作り(・・・)や偽りのプロフィール、偽りの思想に偽りの人格―――何度も何度も自分の内面を作り変えるものだから、元々自分はどういう思想で動くどういう性格の人間だったのか、という事が分からなくなるのだ、と。

 

 実に恐ろしいものである。決して他人に侵される事のない自分という概念が、霞のようにぼやけて消えていくというのは。

 

「例の件か」

 

「はい」

 

 ―――アベルト・デスラーは生きている。

 

 幾重にも暗号化されたメールを見た時、嘘ではないかと思った。デスラー親衛隊の情報工作か、あるいはよほど手の込んだイタズラであろう、と。

 

 しかしその30分後、根拠となる情報も添付されたメールを見て彼も確信するに至ったのだ。

 

 ガミラス軍の補給基地襲撃に失敗し敗走するガミラス叛乱軍。それを一撃で消し飛ばしたのは他でもない、ガミラス軍のコアシップを旗艦に頂くガトランティス艦隊であった、と。

 

 ノイズが入っていたが、19秒ほどの短い映像は確かにそうだった。

 

 そしてノイズを可能な限り除去して拡大した画像には、コアシップの艦橋にいるデスラーらしき姿と、その傍らに控えるガトランティス人らしき人影。

 

「―――叛乱軍から情報を吸い上げていたら、偶然手に入れたものです」

 

「総統は裏切ったのか?」

 

 デスラー総統が生きている、という事だけでも信じられないというのに、その上ガトランティスに身を寄せている……これはいったいどういう事なのか。

 

「それは分かりません」

 

 ぴしゃり、とキーマンは言う。

 

「しかしそれは問題ではありません」

 

「なに」

 

「私は貴方に依頼したい」

 

「何をだ」

 

「デスラー総統を―――再びガミラスに連れ戻してほしいのです」

 

 我が耳を疑った。

 

 デスラー総統をガミラスへ連れ戻す―――正気か、と。

 

 ヤマトがバレラスへ突入した帝都動乱の際、デスラーがガミラスに対して行った仕打ちを忘れたわけではあるまい。軌道上に浮かぶ第二バレラスの一部区画をガミラスへ落とそうとし、ヤマトにより阻止されるや今度はデスラー砲を撃ち込もうとしたのである。

 

 デスラーの理想に共感し、祖国に対し奉仕した臣民たちへの明確な裏切り行為―――少なくともこの時点までは、タランの眼にはそう映っていた。

 

「何を馬鹿な事を―――」

 

「あれを」

 

 廃工場の壁に開いた大穴からキーマンが指差す先には、崩壊したまま撃ち捨てられているバレラスタワーの巨大な影があった。

 

「バレラスタワー……あれがなんだというのだ」

 

「元々、あれはイスカンダルを攻撃するための巨大兵器……波動砲を搭載した巨大砲台でした」

 

「イスカンダルを……? なぜ」

 

「―――ガミラスの寿命は、尽きかけている」

 

 抑揚のない―――というよりは、あまり物事に興味がないかのような喋り方をしていたキーマンの声。しかし本題に入り始めたからなのか、その声には微かに熱が込もり始めた。

 

 ガミラスの寿命が尽きかけている―――嘘だ、と漏らすと、キーマンは追い詰めるように「いいえ、揺るぎない事実なのです」と言い切った。

 

「そこでガミラス貴族の一派はこう考えた……”イスカンダルを恫喝し、コスモリバースを手に入れ星を救うべし”と」

 

「そんなことが……!」

 

 あっていい筈がない―――その部分は、言葉にはしなかった。いや、出来なかったというべきだろうか。

 

 あまりにも多すぎる情報の濁流に、頭が混乱している。

 

「しかしコスモリバースは、人工的に滅びに瀕した星を救う事は出来ても、寿命を終え死に行く星を救う事は出来ない。デスラー総統はそれを知っていた……しかし過激派はそれの強行を試みた」

 

「だから……だから撃とうとしたのか! ガミラス臣民諸共に!」

 

「そうです」

 

 思わず頭を抱えた。

 

 つまりはそういう事だ―――寿命が尽きかけているガミラスをどうにかしようと、一部の過激派はイスカンダルを恫喝するべく波動砲を搭載した巨大砲台を建造、イスカンダルへ砲口を向けようとしていた。

 

 しかしデスラーはそれを知り第二バレラスを建造、段々とヒートアップし手の付けられなくなった過激派を粛清しようとしたのだ。

 

 イスカンダルを―――スターシャを守るために。

 

「あの人は、全てを背負うつもりだった。ガミラスを撃ち、臣民諸共に粛清する罪さえも」

 

「……」

 

「ですが、こうしている間にもガミラスの寿命は迫っています。もう猶予はない」

 

「だからデスラー総統を連れ戻せ、と」

 

「そうです。貴方にお願いしたい」

 

 そう言いながら、携帯端末を取り出すキーマン。円形のレンズから映し出された立体映像には、今では使われていない宇宙港に集結するガミラス軍の艦隊(青く塗装されているから親衛隊のものだろう。払い下げられたのだろうか)が映っている。

 

「既に人員と艦隊は、私の手が回せる範囲でかき集めました」

 

 ”私の”手の回せる範囲、という言葉に違和感を覚える。

 

 映像を見る限りでも、旗艦運用を前提としたと思われるゲルバデス級1隻にケルカピア級1隻、クリピテラ級3隻という編成の艦隊である。それを少佐の身分の彼が1人で用意できるものなのだろうか、と。

 

「キミはいったい……?」

 

「すべては私の父(・・・)の願いでもある」

 

 星空に浮かぶイスカンダルを背に、キーマンは口元に微かな笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

 

 

 

「―――どうか、叔父(・・)をよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ヤマトに逃げられたか》

 

 ゼオ・デウスーラのメインパネルには、禿頭の険しい顔つきの男が映っていた。酒杯を片手に、あからさまにデスラーを侮蔑するような雰囲気を発しながらこちらを見下ろすガトランティス人―――ゴーランド将軍を前に、しかしデスラーは薄ら笑いを浮かべたまま眉ひとつ動かさない。

 

《あれだけ大口を叩いておきながら、やはりその程度だったか。所詮は敗軍の将、負け戦には慣れていると見える》

 

 侮辱されながらも顔色を全く変えないデスラーが、しかしそっと手を握ったのをミルは見逃さない。耐えているのだ―――この屈辱に。

 

 ガトランティスに身を寄せるほど落ちぶれた現状だけでも耐えがたいものであろう。そのうえガトランティス人から敗軍の将と馬鹿にされれば、いつ堪忍袋の緒が切れてもおかしくはない筈である。プライドの高い彼であれば猶更だ。

 

 しかしそれでも、デスラーは決して表に出さない。

 

《まあ良い、いずれ奴らはテレザートにもやってくるであろう。その時はこちらで始末するが、それで良いかな?》

 

「―――構わないが、果たしてそう上手く行くかねゴーランド君?」

 

《なに?》

 

 やっと、デスラーは顔を上げた。

 

「あれは手強い。努々見くびらぬ事だ」

 

《……ふん》

 

 面白くなさそうに通信を切るゴーランド。静かになった艦橋の中で、デスラーは息を吐きながら肩をすくめた。

 

「……デスラー総統、ゴーランド将軍はガトランティスの誇る猛将です。いくらヤマト(ヤマッテ)でも彼を突破する事は―――」

 

「―――力量を見誤り、そう言いながら散っていった者が果たして何人いるか想像できるかね、ミル君?」

 

 ミルの言葉を遮りながら言い切ると、デスラーは無限に広がる大宇宙を見上げながら言葉を紡いだ。

 

「断言しよう。ヤマトは必ずテレザートへたどり着き、また戻ってくると」

 

 再び対峙する機会があるとすれば―――。

 

 そこまで思い至ったその時だった。ゼオ・デウスーラのAIが、無機質な声で警告を発したのは。

 

《警告 周囲にワープアウト反応》

 

 む、と目を細めた頃には、既に周囲の空間が傷口のようにぱっくりと裂け、紅い光を晒していた。

 

 そこを突き破るようにして、青い塗装の艦が数隻飛び出してくる。

 

 いずれもガトランティスの艦艇とは異なる形状だった。特徴的なのは黄色く輝く目玉のような部位だ―――そのせいなのだろう、いずれも禍々しい深海魚を思わせる異質な姿をしている。

 

 そのうちの1隻は双胴型で、武装を満載した大型艦―――ゲルバデス級だった。

 

 甲板が展開、ずらりと武装が満載された砲戦甲板が露になるや、砲門が一斉に旋回を始め―――紅い陽電子ビームの束が、周囲を航行するガトランティス艦を射抜いた。

 

 ガミラス艦隊だ。

 

 ガミラス艦隊がやってきたのだ。

 

 

 

 

 

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