さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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急襲、ガミラス艦隊

 

 亜空間から通常空間に出る。

 

 ぱっくりと開いた禍々しい紅い空間から舳先を突き出すのは、青く塗装された双胴型の航空戦艦のものだ。

 

 ゲルバデス級―――構造の複雑さ、そして戦艦として運用しても空母として運用しても中途半端な性能になってしまう事から少数建造で製造がストップしてしまった悲劇の艦。全体を青く塗装された親衛隊仕様のそれが、1隻のケルカピア級と3隻のクリピテラ級を引き連れ、ガトランティス艦隊の周囲にワープアウトしたのである。

 

 唐突に出現したガミラス艦隊―――ヤマトを取り逃がし、次の作戦の指示を待っていたガトランティス艦隊は、その急襲に大いに混乱した。

 

 ガミロンの青虫共がなぜここに……そう言いながら目を見開くラスコー級の1隻の艦長の目に飛び込んできたのは、飛行甲板をくるりと回転、陽電子ビーム砲が無数に備え付けられた砲戦甲板を展開して、今まさに紅い光を解き放たんとしているゲルバデス級の姿だったのである。

 

 既に特徴的なその”目玉”は、通常モードを意味するピンク色から、戦闘モードを意味する赤みを帯びたオレンジ色へと変色していた。

 

「撃ち方始めぇー!!」

 

 艦隊を指揮するタランの号令で、ゲルバデス級航宙戦闘母艦『グレイグレル』の砲戦甲板に搭載された陽電子ビーム砲、そして前部甲板、後部甲板に備え付けられた陽電子カノン砲が一斉に火を吹いた。

 

 口径は巡洋艦クラスのビーム砲ではあるものの、攻撃力にリソースを割き防御を軽んじたガトランティス艦には十分な威力だった。最初の斉射で放たれた紅い陽電子ビームの束がデスラー艦の周囲を航行するラスコー級の1隻に突き刺さるや、その薄い装甲を瞬く間に融解させて貫通、いとも容易く串刺しにしてしまう。

 

 初撃をもろに受けたラスコー級の船体が歪み、折れ、燃え盛る中で崩れていく。誘爆が機関部にも及び大爆発するや、ゲルバデス級『グレイグレル』に随伴していたケルカピア級1隻とクリピテラ級3隻からなる水雷戦隊が動いた。

 

 エンジンノズルから紫色の炎を吐き出すや、数で勝るガトランティス艦隊へと果敢に切り込んでいったのである。

 

 左舷へ砲戦を継続するゲルバデス級『グレイグレル』の右舷から回り込み、艦首側へと舵を切った水雷戦隊たち。その動きはまるで軽巡洋艦と駆逐艦ではなく、魚雷を搭載した雷撃機のそれだった。

 

 戦隊行動に一切の躊躇いがない。

 

 親衛隊はあくまでも占領地域の治安維持や反乱分子の弾圧を主な任務としており、戦闘の練度だけで言えばガミラス正規軍のそれと大きく劣る、と言われている(実際正規軍の将校からは「弱い者苛め用の軍隊」と陰口を叩かれている)。

 

 しかし、クラウス・キーマン少佐の手引きでタランへと預けられた彼らは違った。

 

 弾圧を主な任務とするデスラー親衛隊、その中にあって数少ない『実戦専門の部隊』である。

 

 武力行使に出た反乱分子の撃破、あるいは正規軍不在の間に版図へ侵入した敵性勢力への対処など、他の親衛隊よりも実戦経験を積んだ彼らは正規軍と遜色ないレベルの練度を誇っており、特に人事の入れ替えもなかったことから戦隊での連携はまさに阿吽の呼吸であった。

 

 そんな部隊が、デスラー政権崩壊後のゴタゴタで持て余されていたのである。それを見逃すキーマンでもなく、来たるべき時に備えて自分の配下に置いていたのだ。

 

 グレイグレルからの熾烈な砲撃に、ククルカン級1隻が横腹をぶち抜かれて沈んでいく。

 

 その爆炎を頭上に頂き、火を吹きながら爆沈していく敵艦の真下を潜り抜けるようにして接近したケルカピア級が、デスラー艦『ゼオ・デウスーラ』の直掩に回らんと寄り添い弾幕を張るゴストーク級ミサイル戦艦に狙いを定めた。

 

 艦首の魚雷発射管から魚雷を発射、後続のケルカピア級たちもそれに倣い次々に魚雷を放つ。

 

 彼らの下方からの奇襲に気付いたゴストーク級の艦底部小型回転砲塔が火を吹いた。接近してくる魚雷を緑色のビームで撃ち落とさんとするが、しかし唐突な奇襲とあっては正確な狙いも何もあったものではない。

 

 撃ち漏らした2発の魚雷が、ずん、と左舷のスラスターに穂先を突き立てた。爆発にゴストーク級の船体が煽られ、大きく軋む音を響かせながら右舷へと弾き飛ばされていく。

 

 ゼオ・デウスーラの直掩に回らんがために密集していたゴストーク級。そのまま撃沈すれば誘爆がゼオ・デウスーラにも及ぶ可能性を危惧したケルカピア級の艦長は、即座に雷撃の目標を船体下部のミサイルから左舷の第二エンジンへと変更、それを見事命中させた結果だった。

 

 大きく弾かれるようにゼオ・デウスーラから離れたゴストーク級。そこに後続のクリピテラ級から放たれた魚雷たちが、2発、4発、6発……立て続けに突き立てられていく。

 

 ごう、と4隻の水雷戦隊が、破壊の牙を撃ち込まれ余命幾許も無いゴストーク級の右舷を掠めるように上方へと抜けていく。

 

 遅延信管を用いた魚雷が爆発、ゴストーク級の船体が巨大な火球へと転じたのは、その直後だった。

 

 勝ち誇るように離脱、そのまま次の目標へと狙いを定めていく水雷戦隊たちの背後を、巨大な爆発が彩る。

 

 この一連の攻撃の間、水雷戦隊たちは一切通信での連絡を取り合っていない。

 

 全ては先導役のケルカピア級の働きと、それを見て各自で判断したクリピテラ級の艦長たちによる連携が成し得る技だった。

 

 水雷戦隊を食い止めんと、ククルカン級たちが舳先を重そうに持ち上げて回転砲塔からビームを発射、弾幕を張ってくる。

 

 だが、その脆弱な船体にグレイグレルからの容赦ない陽電子ビーム砲が突き刺さり、1隻、また1隻と炎の華へ姿を変えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ミサイル艦”グレリア” 通信途絶》

 

《駆逐艦”ガリアデ” 轟沈》

 

《巡洋艦”ガランバラグ” 戦闘能力喪失―――爆沈を確認》

 

 淡々と損害を読み進めるAIに、ミルは焦燥感を感じていた。

 

 ガミロンの青虫―――たかが1隻の宇宙戦艦に、それも死にかけの星から出撃してきた戦艦相手に敗北した負け犬共の軍隊に何をしているのか、と。

 

 果敢にビームを射かける艦もいるが、練度が違う。

 

 敵の航空戦艦と殴り合おうとすれば主砲の命中精度と射程距離の関係でアウトレンジ攻撃に晒され、突撃しようとすればその無防備な腹を水雷戦隊に魚雷で殴りつけられる。かといって水雷戦隊を始末しようにも航空戦艦からの砲撃は無視できず、結局どちらに対応しようにも待っているのは死のみである。

 

 が、焦燥感の原因はそれだけではない。

 

「……っ」

 

 ―――この男だ。

 

 ミルの目の前で、ガミロイド兵が持ってきたティーカップを受け取るや、優雅に紅茶を飲んでいるこの男こそが、ミルの内に抱えた苛立ちの原因だ。

 

 全知全能たる大帝から預かった艦隊が、1隻、また1隻と失われている。それも相手はガミロンの青虫、負け犬たちだ。だというのに攻撃命令すら下さないどころか、配下の艦隊が嬲り殺しにされているのを茶をすすりながら優雅に見守るのみとは何事か。

 

「デスラー総統!」

 

 思わず、声を張り上げた。

 

 無機質な声で喋っていたミルの余裕が、その仮面が剥がれ落ちた瞬間だった。

 

「今すぐ反撃を命じてください。このままでは我が艦も―――」

 

「……ミル君」

 

 ミルの剣幕を意に介さず、眼中にないと言わんばかりに背を向け続けるデスラー。しかしそんな態度とは裏腹に、彼の声にはどこかサーカスを楽しむ無邪気な子供を思わせる感情が滲んでいて、その異質さにミルは息を呑んだ。

 

「我が大ガミラスの兵士諸君が始めたショーだ。そんな無粋な声で、邪魔をしないでくれたまえ」

 

 ―――狂っている!

 

 胸中でミルはそう断じた。

 

 この男はガミラスの王―――大帝は「一国の王には敬意を払え」と言っていたが、しかしこの男は違う。

 

 確かに国を背負う王なのだろう、そのための器も持っているのだろう。しかし目の前に立つこの男は、アベルト・デスラーという男は違う。まるで古今東西あらゆる”狂気”という概念がヒトの形に固まって歩いているような、そんな男だ。

 

(殺すべきか?)

 

 ミルの脳裏にそんな選択肢が浮かび上がる。

 

 彼の腰にはホルスターがあり、大型拳銃もある―――ガトランティス軍で採用されているものだ。着弾すると高圧ガスを噴射、接触した装甲を融解させながら貫通するという、拳銃にあるまじき威力を持つ代物が。

 

 生身の人間が耐えられるものではない。これを突きつけ、引き金を引くだけで事足りる。如何にアベルト・デスラーだろうと―――ガミラスの王(狂気の塊)だろうと、銃弾の前には無力である筈だ。

 

 ……もっとも、そう言い切る事の出来ぬ威圧感がその背中には宿っているのだが。

 

 艦橋の窓の外で、艦首の大型ミサイルに魚雷を撃ち込まれたゴストーク級が巨大な火球へと姿を変えた。折れ曲がった艦尾のエンジンノズルが、文字通り「火を吹きながら」斜め下へと墜落するように飛び散っていく。

 

 爆炎に顔を照らされながら、デスラーは優雅な声で言った。

 

「ゼオ・デウスーラによるガミラス艦隊への一切の攻撃を禁ずる」

 

「な……っ!?」

 

《了解しました ゼオ・デウスーラによるガミラス艦への攻撃を禁止します》

 

「デスラー、貴様っ!!」

 

 デスラーの命令に、思わずミルは拳銃を抜いた。

 

 銃口をデスラーへと向け、彼の背中を睨みつける。

 

「取り消せ、デスラー! 今すぐにだ!」

 

「―――ミル君」

 

 ティーカップをガミロイド兵に預け、振り向きもせずにデスラーは艦橋の窓を見上げた。

 

 ちょうど頭上を、艦尾を火達磨にされたククルカン級が斜めに落ちていくところだった。

 

 

 

 

「何度も言わせないでくれたまえ。私はヤマトと戦うためにここへ来た―――何もガトランティスに与してまで戦う必要はないのだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最大戦速! これより本艦は敵旗艦へ接舷する!」

 

 どう、とグレイグレルのエンジンノズルに紫色の光が燈った。青い艦首の先には、周囲の艦隊が次々に血祭りに上げられているにもかかわらず一切反撃してこないどころか、進路も変えず逃げる素振りも見せず、ただただ傍観を決め込むコアシップと思われる艦―――ゼオ・デウスーラの巨体が迫る。

 

「陸戦隊、白兵戦装備で待機せよ。接舷後は敵艦内部へ突撃、デスラー総統を救出する!」

 

「敵駆逐艦、前方から来ます!」

 

 戦術長からの報告と共に、艦橋の脇を緑色のビームが掠めた。旗艦への突入を許してなるものかとククルカン級がグレイグレルの前方へ割り込んだのだ。敵艦の艦長はさぞ勇敢で肝の据わった武人であるに違いない―――タランはそう思いながら砲撃を命じる。

 

「主砲斉射ァ!!」

 

 号令一下、グレイグレルの艦首方向を指向可能な全ての砲塔が火を吹いた。スコールのような陽電子ビーム砲の土砂降りがククルカン級の船体を滅茶苦茶に打ち据える。砲塔を抉られ、艦橋を吹き飛ばされ、艦首を砕かれ火達磨になりながらもなお突っ込んでくるククルカン級。

 

 航海長の号令を待つまでもなく、グレイグレルの左舷スラスターが焼き付かんばかりの全力噴射。艦橋が大きく右へと傾いたかと思いきや、火達磨になったククルカン級がグレイグレルの艦橋左側面を通過、背後で派手に爆沈した。

 

「続けて敵巡洋艦!」

 

「そのまま撃ち続けろ!」

 

 ククルカン級が宇宙の一角に描いた黒煙を、ラスコー級の上下に連なる鋭角的な衝角が貫いた。

 

 半円状の砲塔を景気良く回転させ、ビームをばら撒いてくる。

 

 数発のビームがグレイグレルの船体を掠め、あるいは命中したものの、装甲表面のミゴウェザー・コーティングが致命傷を防いでくれる。

 

 負けじと陽電子ビーム砲が火を吹いた。先ほどのような斉射ではなく各砲塔の判断での交互撃ち方ではあるが、甲板から放たれるビームは休む気配を知らない。

 

 ラスコー級の船体で幾重にも火の手が上がったが、しかし人命軽視の設計で装甲が薄いとはいえ腐っても巡洋艦。質量の関係なのか、それとも敵艦のダメコンが的確なのかは定かではないが、既に3発ほど命中弾が出ているにもかかわらず沈む気配がない。

 

 お互いに有効打を出せぬまま、ラスコー級は炎を芽吹かせながらもグレイグレルの右舷を掠めた。

 

 直後、頭上から逆落としに突っ込んできた水雷戦隊の魚雷がまとめてラスコー級を直撃。前部甲板に4発、艦橋に1発、機関部に2発も叩き込まれたラスコー級はたまらず炎を芽吹かせながら大爆発を起こし、装甲の破片を周囲へと撒き散らした。

 

 これで敵艦隊は殲滅した。

 

 残るは敵旗艦―――コアシップと思われる旗艦ただ1隻のみ。

 

 

 




ゲルバデス級航宙戦闘母艦『グレイグレル』

※武装、諸元等は原作のゲルバデス級準拠であるため割愛

 
 ガミラスで建造されたゲルバデス級のうちの1隻。親衛隊へ配備された艦であり、本来の運用思想と噛み合うであろうと期待されていたが、親衛隊のギムレーはついにこの艦を実戦投入する事は無く、グレイグレルドック内で最低限の整備を受けながら放置されていた。その間にデスラー政権は崩壊、親衛隊もそれに伴って解散と相成り行き場のなかったこの艦を諜報軍のキーマンが確保、デスラー捜索の機を窺っていた。
 現在ではキーマンの手引きによりタランへ配下の艦隊と共に与えられ極秘裏に出撃、デスラー総統の身柄を確保するため彼の元へと向かう。

 なお、艦名のグレイグレルはガミラス語で『人狼』を意味するとの事。
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