さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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総統の背中

 

 やはり見間違いなどではなかった。

 

 コアシップと思われる敵旗艦―――ゼオ・デウスーラ。ガトランティス艦隊の中にあってただ1隻、ガミラスの気高き青を纏う異形の艦は、艦首や船体側面、機関部などのブロックが増設され大型化していたものの、それらの追加ブロックに取り込まれる形で中央に座す船体は紛れもなくコアシップそのものだった。

 

 敵艦へ突入する陸戦隊の兵士たちに緊張が走る。中にはヘルメットのバイザーの中で呼吸を整える者からレーザー突撃銃の安全装置を確認する者まで反応は様々だ。

 

 一応ここに居る陸戦隊の兵士たちも、反乱分子の乗る宇宙艦の拿捕や制圧任務で活躍した精鋭ぞろいと聞いている。実際、装備品を装着する手際の良さからも実戦慣れしている事が窺い知れたが、しかし今回に限って緊張するのも無理もない話だった。

 

 何せ、これから乗り込むのはあのデスラー総統が乗っているかもしれない艦である。かつての大ガミラスの指導者、デスラー総統。政権が崩壊し民主化へと舵を切ったガミラスとはいえ、未だデスラーを支持するガミラス人の数は多い。バレラス諸共国民を撃とうとした暴挙を見てもなお、だ。

 

 接舷後に敵艦へ乗り込むため、タランもエアロックの近くで待機していた。ヘルメットのバイザーを降ろし、レーザー拳銃の安全装置を解除。呼吸を整えその時を待つ。

 

 タランもまた武人肌の軍人だ。兄が後方で指揮を執りつつ技術開発を主導する男ならば、タランは前線で部下たちを鼓舞しつつ指揮を執る猛将、と言っていいだろう。

 

 そんな彼でもやはり、突入前は緊張する。

 

 これから突入する艦が他でもないデスラー総統の座乗艦ともなれば猶更だ。

 

 拳銃のグリップを握る手に滲む不快な汗の感触。いつの間にか整えていた呼吸がまた乱れていて、タランはそんなだらしない自分に苛立ちながらももう一度深呼吸した。

 

 船体が軋む音がエアロックに響いたかと思いきや、《エアロック解放10秒前》と通信が入る。今の軋むような音はおそらく、デスラー艦にグレイグレルが接舷した際の音なのだろう。

 

 という事は、この分厚いハッチとエアロックの向こうにデスラー艦が待ち構えている、という事だ。

 

 エアロック解放、と艦橋にいるクルーの声が通信越しに聴こえるや、エアロック内が真空状態になった。続けて船外へと続く分厚いハッチが解放され、その向こうに広がる青い船体を陸戦隊の前に晒し出す。

 

 行くぞ、とタランが先頭を切ってグレイグレルの装甲を蹴り、デスラー艦へと飛んだ。

 

 既に周囲での戦闘は終わっており、今では水雷戦隊がデスラー艦を包囲している状態だ。ガトランティスの艦は残骸となって周囲を漂うか、炎上し小さな爆発を何度も繰り返しながら黒煙を吹き出し、その無残な姿を周囲に晒している。

 

 キーマンから提供されたコアシップの詳細な情報を思い起こしながら、デスラー艦へと取り付いたタランは陸戦隊の兵士たちを引き連れて艦橋最寄りのハッチへと急いだ。

 

 コアシップ―――あの時は、こんなものがガミラス総統府内部に隠されているとは知らなかった。遥か昔、それこそガミラス人の祖先たちが母なるガミラスへと渡ってきた際の、旧い伝統的な形状の宇宙船、それを模したモニュメントなのであろうとばかり思っていた。

 

 しかし実際はどうだ。そのモニュメントのような艦は第二バレラス内のデウスーラⅡ世とのドッキングが可能なコアシップ―――知っていたのはタランの兄を含めた、ごく一部の上層部の人間だけ。タランはその中には含まれていない。

 

 亜空間ゲート内でヤマトを追い、その追撃戦の果てに撃沈され喪失したものと思われたコアシップと、よもやこのようなところで再び遭遇することになるとは。それも、その艦橋にデスラー総統を頂く宇宙艦と。

 

 タランは時折思う事がある。

 

 ―――この宇宙には、奇妙な縁が複雑に飛び交っている、と。

 

 【縁の力】―――宇宙の女神テレサは、信者たちにそう嘯くと聞いた事がある。

 

 もしそれが事実ならば、これもまた”縁”だというのか。

 

 ハッチに辿り着くや、陸戦隊の兵士の1人がバックパックからハッキングキットを取り出した。

 

 やはり情報通りだった。追加ブロック分がそうなっているかは不明だが、しかし少なくともコアシップ部分にあるハッチには見慣れた言葉―――彼らの母語であるガミラス語の記載があり、解放したパネルの下から顔を出した整備用の端子もまたガミラス規格のものだ。だからガミラス製のハッキングキットでも問題なく使える(ガトランティス規格だった場合に備えアダプターも用意していたが無用と化した)。

 

『あれ』

 

『どうした』

 

『いえ……セキュリティが』

 

 外部からの強制開放を試みるためハッキングを行い始めた兵士が、間の抜けた声で言った。

 

 画面を見てみるが、しかしこういった電子技術に疎いタランにはそれが何を意味しているのか全く分からない。こういう時に限ってもし兄が生きていたら、隣に居てくれたらと思うものだ。

 

『セキュリティが無いに等しいんです』

 

『どういうことだ』

 

『無防備なんです、外部からの侵入を想定しないない……なんてレベルじゃありません。これじゃあまるで我々を……』

 

 迎え入れているような……という兵士の言葉を、ゴウン、とハッチが開く音が遮った。

 

 エアロック内に突入するやハッチが閉鎖され、艦内から酸素が供給され始める。

 

 狭苦しいヘルメットを外したくなる気持ちを抑えながら、いよいよだとタランは気を引き締めた。

 

 艦内では何が待ち構えているかも分からない。あまり考えたくない事だが、これも罠である可能性も否定できないのだ。細心の注意を払うに越した事はなく、既にタランの右手に握られているレーザー拳銃からは安全装置が外れていた。

 

 ハッチが開くと同時に、兵士たちがレーザー突撃銃を構えて艦内をクリアリングし始める。

 

 やはり重力制御が効いている艦はやりやすい。床に足をつけ、地上にいる時と同じ感覚で歩けるから、母星での陸戦訓練で習った内容がそのまま転用できる。ごく稀に重力制御すらない低レベルな文明の宇宙船を臨検する事もある親衛隊では、無重力下での銃撃戦を想定した訓練もしていると聞いた事があるが……。

 

 遮蔽物から必要以上に身を晒さないようにしながら、艦内の通路を進んでいく兵士たち。しかし敵兵が待ち構えている様子はなく、先頭を進むポイントマンの銃が火を吹く様子は今のところはない。

 

 戦闘開始前まで、タランは艦内にガトランティス兵が待ち構えているのではないかと予想していた。ガトランティス兵はとにかく肉体が屈強で、白兵戦での戦闘力はガミラス兵のそれを軽く凌駕する。『白兵戦を挑んだ兵士が素手で真っ二つに引き千切られた』という事例もあり、正直に言ってガトランティス兵とだけは接近戦はしたくないものである。

 

 加えて生命力も高いものだから、兵士たちが持っているレーザー突撃銃は通常のタイプではなく、より出力を上げた大型のものだ。地球の分類で言うなればアサルトライフルに対するバトルライフルに相当する代物と言うべきだろうか。

 

 しかし、実際はどうだろうか。

 

 艦内にはガトランティス兵どころかガミロイド兵すら出てくる気配がない。先ほどのハッチのセキュリティの甘さと言い、艦内の無防備さと言い、ここまでノーガードであれば確かにタランたちを”招き入れている”と判断されても仕方のないものであろう。

 

 間もなく艦橋へと続くエレベーターが見えてくる、といったところで、先頭を進むポイントマンが左の握り拳を振り上げた。「止まれ」を意味するハンドサインだ。

 

『どうした』

 

『ガミロイド兵です』

 

 レーザー突撃銃に装着したカメラの映像をタランの持つ端末に転送するポイントマン。端末には確かに、2体のガミロイド兵が門番のようにエレベーターの左右に立っている様子が映し出されていた。

 

 が、やはり様子がおかしい。

 

 レーザー突撃銃どころか拳銃、ナイフの類すら身に着けていないのだ。

 

 丸腰のガミロイド兵―――アレは果たして警備と呼べるのだろうか。

 

『……』

 

『将軍!』

 

 意を決し、通路の影から歩み出るタラン。陸戦隊の兵士が制止しようとするが、しかしそれを意に介さず歩みを進めたタランは、エレベーターの前に立つガミロイド兵の前まで歩いた。

 

 ガミロイド兵に敵意はない。

 

《お待ちしていました》

 

 頭部にある発光部を点滅させながら、ガミロイド兵が言った。

 

《デスラー総統がお待ちかねです、タラン将軍》

 

『……』

 

 大丈夫だ、と兵士たちに目配せするや、兵士たちはまだ警戒しながらも通路の影からぞろぞろとこちらにやってきた。

 

 ガミロイド兵に案内され、エレベーターへと乗り込む。ぐんっ、と艦橋へ上がっていくと同時に、タランの腹に何か、重々しい何かが急激に溜まっていく感覚が芽生えた。

 

 重苦しく、息が上がる錯覚。

 

 間違いない、とタランは確信する。

 

 ―――この先に、居る。

 

 大ガミラスの総統が。

 

 ガミラスの真相を知る男が。

 

 新たな星を見つけるという希望を託された、消してはならぬガミラス人類の希望が。

 

 エレベーターが止まり、ハッチが開くと同時に彼らの目に飛び込んできたのは、予想通りの―――頭の中に思い描いた通りの光景だった。

 

 コアシップの艦橋と、漆黒のマントをたなびかせこちらに背を向けて佇む1人の男。顔は伺えないが、短く揃った金髪と大きな背中はガミラスを背負って立つに相応しい優雅さと貫禄を兼ね備えている。

 

 きっと多くの者が口をそろえてこう言う筈だ。『ガミラスの民を背負えるのはこの人しかいない』と。

 

 デスラー総統―――かつてのガミラスの指導者、その大き過ぎる背中が、確かにそこにあった。

 

「総統―――」

 

 安堵するタランだったがしかし視界にはもう一つの”異物”が紛れている。

 

 緑色の肌に、白を基調とした軍服姿。腰には大型拳銃のホルスターがあり、筋骨隆々の獣を思わせる者が多いガトランティス人にしては珍しく細身で華奢な、ある意味では異質な男だった(女かもしれない)。

 

 次の瞬間、突入したガミラス兵たちの姿を認めたガトランティス人―――ミルの右手がホルスターへと伸びるや、引き抜いた大型拳銃の銃口をデスラーへと向けた。

 

 反射的に銃口をミルへと向けるガミラス兵たち。しかしそんな彼らに怯える素振りも見せず、ミルはガトランティス語で言う。

 

「動くな。少しでも動けばこの男の首が飛ぶ」

 

「蛮族め」

 

 兵士の1人が吐き捨てるように言った。

 

 ミルが持つ大型拳銃はガミラスのものの倍近い大きさがある。拳銃、というよりは片手サイズのライフルといったレベルの代物で、特殊金属製の弾丸を対象へと撃ち込むや、それと同時に高圧のプラズマを弾体の周囲に展開させることで被弾部位を大きく融解、そのまま貫通する恐ろしい代物だ。

 

 生半可な装甲服では諸共に撃ち抜かれてしまう―――そんなものを生身の人間が撃ち込まれて、無事で済む道理もない。

 

「銃を捨てろ」

 

 粗暴な語感のガトランティス語―――翻訳機を介した要求に、従うべきか否か困惑する兵士たち。

 

 ふう、と息を吐いた。

 

 身体の余計な力を抜き、周囲の音や匂い、余分な情報の一切合切を締め出して―――。

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、タランの拳銃の銃口が火を吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 早撃ち―――訓練兵の頃から得意としていた拳銃の早撃ちだ。

 

 放たれたレーザーがミルの持つ大型拳銃を横合いから殴りつけるや、甲高い音と共に大型拳銃が弾け飛んだ。その衝撃をもろに受けたミルが右手を抑えながら後退る。

 

 ここぞとばかりに兵士たちが詰め寄り、ミルへ銃を向けた。

 

 いくら身体能力に優れるガトランティス兵といえど、5人の兵士に銃口を突きつけられれば生身での突破は不可能である。成すがままに両手を上げ、降伏するしかミルに選択肢はなかった。

 

 ボディチェックを受けるミルを尻目に、タランはデスラーの前に跪く。

 

「総統、ご無事で」

 

「―――よく来てくれた、タラン」

 

 落ち着いた、まるで宇宙へ語り掛けるような声音。

 

 やはりそうだ。

 

 ここの人は―――アベルト・デスラーという男は民を、そして星を見ていたのだ。

 

「事の次第は諜報軍のクラウス・キーマン少佐より聞き及んでおります」

 

 キーマン、という名前を聞くや、デスラーはぴくりと眉を動かす。

 

「……なるほど、ランハルトか」

 

 ランハルト―――それがクラウス・キーマン少佐の本当の名なのだろう。

 

「ガミラス星の寿命も迫っている―――我らガミラス人の新たな星を探す、その大役を成し遂げられるのは総統、貴方を置いて他におりません。どうか……」

 

 半ば懇願するようなタランの言葉。それは最期の希望に縋るガミラス人の悲鳴のようにも思え、デスラーは目を細めた。

 

「―――私にはまだ、成すべき事がある」

 

 タランの方を振り向いたデスラー。

 

 その顔には―――しかし確かな狂気が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ヤマトを、あの(フネ)を討つのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真田副長の睨んだ通りでした」

 

 第二艦橋に備えられた、速河専用の解析装置。そのメインモニターに表示されたのは何かの波形を意味するグラフのようだ。ピンク色のグラフが大きく波打つように映し出されている。

 

 真田にはそれが波動エネルギーの波形であると一瞬で分かったが、しかし古代はそうもいかない。彼はあくまでも戦術長であり、そういった技術とは全くの無縁というわけではないが、真田や速河ほどの解像度は持ち得ないのだ。

 

「こちらが、ヤマトがガミラス沖で確認した敵の波動砲のエネルギー波形……そして右のモニターに映し出されているのが、先ほどの戦いで確認された敵の波動砲のエネルギー波形です」

 

 似通った形状の波形データ。

 

 まさか、と古代が目を見開くと、真田は首を縦に振った。

 

 手元のパネルを弾くと、両者のグラフが画面の中央で1つに重なる。

 

「類似率99.97%……ほぼ同一のものと言っていいでしょう」

 

「真田さん、これは……!?」

 

「我々人間が指紋で個人を識別できるように、波動エネルギーもその波形でエンジンの個体を識別できる」

 

 顎に手を当てながら、真田は説明を始めた。

 

「どれだけ同一の規格で同一の部品を作り、それらから同一の仕様の波動エンジンを製造しても、どうしても”クセ”と言える微妙な個体差が波動エネルギーの波形に生じるんだ。空間に残留したエネルギーの痕跡を解析する事で、波動エンジンの個体を識別できる。私はこれを”波紋”と呼んでいる」

 

 人間の指紋がそうであるように、波動エンジンもまたそれから生成されるエネルギーの波形、その微妙な違いで個体を識別することが可能である。

 

 例えば戦闘宙域に残った波動エネルギーの残滓を回収し解析にかける事で、その戦場で発射された波動砲がヤマトのものなのか、それともアンドロメダやアマテラス、他の艦のものであるのかが一目瞭然である、という事だ。

 

 新しい個体識別方法として、真田が提唱したものである。

 

「じゃあ……あの時波動砲を撃ってきた敵は、俺たちがガミラスや亜空間ゲート内で遭遇したあのデスラー艦だと?」

 

「その可能性は高い。だが……」

 

 理屈の上では、そうなる。

 

 ガミラス戦役時の敵の波動砲―――デスラー砲とエネルギー波形がほぼ一致したという事はそうなのだろう。敵の正体はあの時のデスラー艦と同一のエンジンを搭載したほぼ同一の艦、という事になる。

 

 しかしそれは、古代たちヤマトクルーに認め難い現実を突きつけるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「デスラー総統が……生きている……?」

 

 

 

 

 

 

 

 苦難の航海に、更なる暗雲が立ち込めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四章『デスラー総統の罠』 完

 

 第五章『接近、魔の巨大彗星』へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

第五章予告(セリフのみ。映像とBGMは脳内補完でお願いします)



パウエル「これよりガミラス政府の命令に基づき、白色彗星への直接攻撃を敢行する!」

北野兄「性懲りもなくまた来たか、侵略者共」

速河艦長「よーし、全艦突撃! 北野艦隊に朝食を摂る時間を作ってやろう!」

尾崎艦長「ようこそ、猛き者たち」

雪「白色彗星が……消えた?」

ミケール「全艦、波動砲発射隊形!」

土方艦長「”艱難辛苦”、か」

古代「これが白色彗星……!」

島「ダメです、このままでは呑み込まれる!!」

土方艦長「機関出力最大! 全力でこの宙域を離脱! 急げ!!」





パウエル「惑星破壊超大型プロトンミサイル、発射ァ!!」






さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~
   第五章『接近、魔の巨大彗星』


近日更新予定 
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