さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
前半……というかオリジナルパートが多くなると思います。ご了承下さい。
鉄壁、北野艦隊
無限に広がる大宇宙。
静寂に満ちた世界。
死に行く星もあれば、生まれ来る星もある。
そうだ、宇宙は生きているのだ。
生きて、生きて……。
―――だからこそ、星の海に戦火は絶えない。
西暦2204年 1月3日 地球時間23:37
太陽系 第十一番惑星沖
蒼く流れる3つの流星が、まるで互いを求め合い、溶け合うかの如く絡みつくや、1つの光の矢となって星の海を駆け抜けた。
星間物質以外に何もない虚空へと無理矢理捻じ込まれていく波動エネルギーの束。周囲に生じるスパークとびりびりとした振動は、さしずめ許容量を超過したエネルギーを捻じ込まれた空間の悲鳴のようだ。
40.6㎝
砲身中間部に搭載された可変出力調節器によって使用可能となったそれは、狙い違わず緑色の艦隊の中央―――今まさに艦載機を出撃させようとしていたナスカ級打撃型空母の飛行甲板をごっそりと、深々と抉り取った。
溶解した装甲が血飛沫さながらに吹き上がり、飛行甲板を真っ二つに溶断された空母が格納庫の弾薬や燃料までもを誘爆させ、随伴していたククルカン級2隻を道連れに巨大な火球と化す。
ガトランティス艦隊も黙ってはいない。
艦列の中から船体各所にスラスターの蒼い炎を吹き上げて、巨体を重々しく持ち上げながら躍り出たるは3隻のメダルーサ級殲滅型重戦艦。既に特徴的な双胴型の艦首には渦輪型のエネルギーウェーブが生じており、船体下部の砲身―――火焔直撃砲で生じた超高エネルギーを敵艦隊へ叩きつける準備は万全と言えた。
カッ、と太陽の如き輝きが3つ、暗黒の海原で瞬く。
どこまでもどこまでも、ひたすらに肥大化する素振りを見せたそれは、しかし次の瞬間には限界まで収縮するや、どこかへと姿を消した。
艦隊から遠く離れた、何も無い宙域。
唐突にそこから蒼い閃光が広がるや、転送されてきた炎の激流―――火焔直撃砲の超高エネルギーがフレア状のエネルギー弾を撒き散らしながら迸る。
火焔直撃砲が矛先として選んだのは、大地に巨大な傷のような渓谷がぱっくりと口を開けた、翡翠色に輝く太陽系最果ての星―――太陽系第十一番惑星を背に布陣する、アンドロメダ級戦艦の13番艦『アルタイル』を旗艦に頂く第十一番惑星防衛艦隊。
通称『北野艦隊』とも呼ばれる、防衛軍の双璧、その片割れだった。
波動防壁の搭載が一般的となったとはいえ、火焔直撃砲の強大な破壊力は常軌を逸している。波動防壁の集中展開などでは、到底耐えられるものではない。
ならば回避しなければならないのだが、しかし躱せば背後の第十一番惑星に被害が及ぶ……ガミラスの人工太陽が機能を停止、大地が氷に閉ざされ人間の居住が不可能となった死の星。されどいつか、またいつの日かは再び入植者たちが足を踏み締めるであろう星だ。来たるべきその日まで、この星を明け渡すわけにはいかない。
次の瞬間、宇宙空間に蒼い光の傘が花びらいた。
十重二十重に展開されたそれに、3つの火焔直撃砲の激流が真正面からぶち当たる。
波動防壁弾―――合計で12発も発射されたそれが、その通り12層にも及ぶ多重の波動防壁を展開、3隻分の火焔直撃砲に真っ向からぶつかったのである。
一番表面の防壁弾が瞬く間に粉砕、続く第二層も無慈悲なまでに破壊され、三層、四層、五層……と次々に波動防壁弾が貫通、粉砕されていく。
しかし破滅的な勢いを見せた火焔直撃砲も、そこまでだった。
数えて9つ目の波動防壁弾を粉砕する頃には、エネルギーをすっかり削ぎ落され、恒星のフレア……いや、ちょっとした小火程度まで勢いを失っていたのである。
10層目の波動防壁弾に無慈悲にも弾かれた火焔直撃砲。周囲に無数の火の粉を散らして霧散するエネルギーの残滓、その向こう側から顔を覗かせたのは、あれだけの集中砲火を真っ向から受けてもなお傷一つない北野艦隊の威容と、その陣形中央に鎮座する艦隊旗艦『アルタイル』の姿だった。
唐突に生じる、ガトランティス艦隊の陣形左右からのワープアウト反応。
空間に生じた波紋と、船体に付着した氷が砕ける甲高い音―――地球艦隊特有のワープアウト時に起こる現象だ。
姿を現したのは巡洋艦1隻に先導された駆逐艦4隻からなる水雷戦隊―――それが二個戦隊。
火焔直撃砲を無傷で防ぎ切った北野艦隊へこれから斬り込みをかけんと、密集隊形を取りつつあったガトランティス艦隊。それを見事に左右から挟撃する形でのワープアウトに、ガトランティス側の艦隊司令は背筋を凍り付かせた。
そして悟る―――地球艦隊の艦隊司令の策に嵌ったのだ、と。
艦隊主力とその旗艦を餌に、敢えて真っ向から攻撃を受け続けガトランティス艦隊を挑発。痺れを切らし突撃をかけようとするタイミングで、水雷戦隊を小ワープで肉薄させカウンターを加える……すべては敵艦隊の司令官の手のひらの上で踊っていたにすぎないのだ。
陣形外縁部のククルカン級やラスコー級が素早く反応、艦隊を傷付けさせてなるものかと果敢に回転砲塔からビームを射かけるが、しかし猛禽類のように高速機動で突っ込んでくる水雷戦隊には当たらない。
巡洋艦の艦首に搭載されていた5連装魚雷発射管から立て続けに空間魚雷が放たれ、後続の駆逐艦たちもそれに倣う。
その直後だった―――第十一番惑星沖で、無数の火球が量産されたのは。
「性懲りもなくまた来たか、侵略者共」
アンドロメダ級13番艦『アルタイル』の艦橋、省人化が図られたが故に閑散としたそこで吐き捨てるように言った北野誠也は、忌々し気に目を細めた。
やっとガミラスとの戦争の傷が癒え始めたかと思えば、これだ。
太陽系外縁部で外周艦隊や警務艦隊と小競り合いを繰り広げる程度だったガトランティス。当初、ガミラスを攻めるその搦め手として地球にも攻撃の手を伸ばし戦力を探っているのではないか、との見方が多かった未知の敵、ガトランティス。しかし昨年末のクリスマス、ついにガトランティスは第十一番惑星へと本格侵略に乗り出した。
そこで防衛軍上層部もやっと危機感を抱いた―――ガトランティスの今の狙いはガミラスではなく、地球であると。
ガトランティスによる地球侵攻開始を受け、時間断層工場は最大稼働に入っている。
計画上ではキャンセルとなっていたアマテラス級戦艦の5番艦『アラハバキ』以降の同型艦も追加建造・増産に踏み切り、その他の艦艇も急ピッチで増産、それどころかこれまでの戦闘で鹵獲したガトランティス艦も一定の改造を施し戦力として組み入れるなど、なりふり構わない様子が見て取れる。
倒した敵の骸を己のものとして取り込み、なおも戦うおぞましさ。
それは一度、滅びに瀕した地球人類のトラウマを呼び起こすものだ。
忘れもしない。遊星爆弾が落とされ、母なる地球は赤く焼け爛れ、大地は未知の放射線に満たされて―――地球の主たる地球人類は地下深くまで追いやられた。
辛酸を舐め、尽きゆく資源を尻目に滅亡の日はいつかと身を振るわせながら待つ事しかできなかった絶望の日々。
それが再び訪れるかもしれない、ともなれば手段を選ばなくなるのも頷けた。
おかげで今の地球は、
あの時の事を思い出すと、時折失った筈の右腕が痛みを訴えかけてくる。
分かっている、もう既に北野誠也に生身の右腕はない―――それどころか、臓器の一部も機械に置き換えられている。身体の4割は機械化されており、その弊害で固形物はもう二度と口にできない身体となってしまった。
戒めてくるのだ。『忘れるな』と言い聞かせるかのように。
忘れたくても忘れられない、苦難の日々。
それを再びもたらそうという侵略者の存在が、北野誠也にとっては許せない。
せっかくヤマトが命懸けで勝ち取った平和を―――やっと訪れた平穏を。
《第一、第二水雷戦隊、敵艦隊へ突入》
メインパネルに敵艦隊へ果敢に切り込んだ水雷戦隊の映像が映し出される。巡洋艦『アストリア』、『ホノルル』を戦隊旗艦とする水雷戦隊は魚雷を敵艦隊目掛けて斉射するや、濃密な弾幕を迂回するように敵陣下方へと潜り抜け、離脱していく。
「司令、敵が密集しました」
「この機を逃すな」
副長の報告を受けるまでもなく、やるべき事は決まっている。
「波動砲搭載艦、前へ」
数隻のアスカ級とアルタイルが波動防壁弾を発射、艦隊の前方に蒼く煌めく波動防壁の傘を開くや、その隙に6隻のドレッドノート級が艦隊の前方へと進み出る。
北野艦隊の動きを見たのか、水雷戦隊を追い回す素振りを見せていたガトランティス艦隊が目標を変更、北野艦隊へビームを射かけてくる。
しかし射程距離外で放った攻撃が当たる筈もなく、命中したとしてもそれは艦隊前方に展開された波動防壁弾の発する蒼いフィールドに弾かれ、防壁表層にほんの少し揺らぎを与えただけで消失してしまう。
メダルーサ級に搭載された5連装大型徹甲砲塔の鋭い一撃も波動防壁弾に突き刺さるが、しかし10層に展開された防壁弾の同時展開の前ではジャブにすらなりはしない。
火焔直撃砲もぶち当たるが、結果は先ほどと同じだった。2層ほどの波動防壁を撃ち破るまでは良いが、それ以降の防壁弾を撃ち抜く事が出来ずに消えてしまう。
ならばと矢継ぎ早に火焔直撃砲を連発するガトランティス艦隊だったが、しかし彼らがどれだけ波動防壁弾を火焔直撃砲でぶち破ろうにも、健在な防壁弾の後方へと新たな波動防壁弾が発射、わんこそばの如く新しい防壁を展開されては成す術がない。
これこそが北野艦隊の強みだった。
護り、護り、相手の攻撃に必死に耐えながら反撃して体勢を崩し、そこから一気に反撃に転じる。攻勢よりも防衛に重きを置いている事は、防御型アンドロメダを旗艦に、アスカ級補給艦(強襲揚陸艦型含む)24隻、ドレッドノート級6隻、それから複数の水雷戦隊で構成されている事からも窺い知れる。
北野誠也―――防衛軍の双璧と呼ばれる男、その片割れ。
アマテラスを預かる速河力也の同期であり、攻勢を得意とする彼とは打って変わって防衛線を得意とするタイプの艦隊司令。
彼との模擬戦での戦績は『10戦5勝5敗』。いつも『速河が攻め切るか、北野が守り切るか』が結果を左右している。
そしてその彼が得意とする防衛重視のドクトリンは、ガトランティスにとっては悪夢のようなものだった。
相手が悪い、と言うほかあるまい。
どれだけ自慢の火力を前面に投射しても、砂漠の砂が水を片っ端から吸い上げていくかのように勢いを殺されてしまい、強固な波動防壁弾と重力子スプレッドを織り交ぜた重厚な防御陣形に成す術がなく攻めあぐねる。
そこに水雷戦隊の奇襲、そして拡散波動砲を用いた反撃が待っているのだ。
それもそれらが差し込まれるのは攻撃の変わり目。陣形を変更したり、攻めあぐねて息切れを起こしたタイミングだ。攻撃が通用しない上に自分たちのペースで戦わせてもらえない……相手にとってこれ以上嫌な事はあるまい。
火焔直撃砲に耐え続ける波動防壁弾の傘のはるか内側。6隻のドレッドノート級戦艦『カノーパス』、『マジェスティック』、『ゴライアス』、『グローリー』、『アルビオン』、『ヴェンジャンス』の艦首に備え付けられた波動砲の発射口へと、蒼い光の粒子が吸い寄せられていく。
やがてそれは整流版の備え付けられた砲口から溢れ出し、エネルギー充填の完了を旗艦アルタイルへと告げた。
「目標、敵艦隊陣形中枢。統制波動砲撃戦用意」
《照準、旗艦と連動》
「対ショック、対閃光防御!」
アンドロメダ級の艦橋の窓に遮光スクリーンが降りる。
それを合図に、艦橋要員たちは手元に用意していた閃光防御用のゴーグルを装着、6隻の主力戦艦による拡散波動砲の斉射に備える。
「5、4、3、2、1……」
カウントダウンがゼロになるなり、北野指令は静かに―――感情のない機械のような声で命じた。
「―――発射」
カッ、と甲高い音と共に、限界まで加圧された波動エネルギーが弾けた。
直列に2基繋げられたドレッドノート級の薬室。右へと旋回する右旋流と、左へとスパイラルを描く左旋流。真逆の向きに回転する波動エネルギーがぶつかり合いながら砲身内を直進、砲口に設けられたスプリッターで分流されるや、限界を超えて砲口から溢れ出し、迸った。
6つの蒼いエネルギーの激流は、艦隊の前面を防護していた波動防壁弾の背後から迫った。
それを察するや防壁を展開していた波動防壁弾が発射された母艦からの自爆信号を受け爆発、波動砲の蒼い閃光の中へと消えていく。
既に放たれていた火焔直撃砲を真っ向から呑み込んだ波動砲の閃光。戦艦すら一撃で蒸発させる火焔直撃砲を真っ向から消滅させてもなお健在だったそれは、敵艦隊の眼前まで迫るや膨れ上がり、爆ぜ、無数のエネルギー弾のスコールとなって哀れなガトランティス艦隊へと降り注いだ。
回避しようとスラスターを吹かしたメダルーサ級の艦首にエネルギー流がぶち当たる。前部甲板の大型徹甲砲塔をぶち抜き、そのまま艦底部の火焔直撃砲の砲身まで貫通され、行き場の失ったエネルギーの暴走を受けて、内外から破壊されていくメダルーサ級。
ナスカ級も飛行甲板から艦底までを串刺しにされ、ラスコー級は船体を真っ二つにされ、逃げ遅れたククルカン級は船体の大半を消し飛ばされ……宇宙艦に叩きつけるにしては過剰な火力を無慈悲にも叩き込まれたガトランティスの艦艇たちは、各々無残な最期を遂げていった。
爆発が爆発を呼び、第十一番惑星沖を無数の紅い炎の華が彩る。
罪人たちを焼く煉獄の炎―――禍々しいそれに照らされたアンドロメダ級13番艦『アルタイル』の艦首が、焼けた鉄のようにぎらりと鋭い光を放つ。
何人たりともここは通さない。
不退転の覚悟を宿し布陣する北野艦隊に、『後退』と『妥協』の二文字はない。