さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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還る者、旅立つ者

 

 西暦2204年 1月10日

 

 地球沖

 

 

 

 

 

 空間に波紋が生じた。

 

 微かな歪みを突き破るかのように、氷塊に覆われた武骨な艦首が亜空間から突き出てくる。船体表面に付着した氷塊を払い落し、舞い散る氷が放つ光に照らされて地球を前にしたのは、全長460mの船体に12基もの3連装ショックカノン砲塔を搭載した重装備の戦闘艦―――アマテラス級1番艦『アマテラス』。

 

 日本の神話に登場する神の名を冠したそれが、後続の防御型アンドロメダ級『アルフェラッツ』、そして複数のドレッドノート級戦艦を従えて地球沖に続々とワープアウトしてくる。

 

「艦隊全艦、ワープアウトを確認」

 

「アマテラス、全艦ステータスチェック」

 

 ワープ酔いを堪えながらも命じる速河艦長。アマテラスに搭載された旗艦用AIが指揮下にある全ての艦のステータスを瞬時にチェック、その結果をメインパネル脇のサブパネルに投影してくる。

 

《チェック完了、全艦異常ナシ》

 

 アンドロメダ級を始めとする艦隊の旗艦として運用される艦には、通常の操縦補助AIの他に旗艦用のソフトウェアも追加でインストールされている。他の艦とデータリンクした際、指揮下にある艦のステータスをリアルタイムで更新する事でどの艦がどういう問題を抱えているか、どこに被弾したか、戦闘続行は可能か否かを瞬時に把握できる、というものだ。

 

 幸い第三十七任務部隊、通称『速河艦隊』または『ガトランティスぶち殺し艦隊』所属の艦に、ワープの際に異常が生じた艦はいないらしい。

 

 現在、速河艦隊は北野艦隊と交代で第十一番惑星の守りを担っている。

 

 北野艦隊が休んでいる時に速河艦隊は地球へと帰還、艦の整備を行っている間に乗員は休暇を摂って、終わり次第再び出撃し北野艦隊と交代……というローテーションを組んでいる。

 

 通常、こういったローテーションは少なくとも三個艦隊で分担するのが一般的だ。

 

 艦隊Aが任務中、艦隊Bが休暇、艦隊Cが即応体制……と言った感じに3つのグループに分けてローテーションを組ませるのが一般的だが、しかし今の防衛軍は慢性的な人手不足に苦しんでいる。

 

 特に山南や土方、そしてエンケラドゥス守備隊を指揮している尾崎のようなベテラン層もそうだが、速河や北野といった中堅層が特に少ないのだ。

 

 上の世代、つまるところ山南たちがガミラス戦役で戦死した多くのベテランの穴埋めのために繰り上げで艦隊司令へ引き抜かれていったため、速河や北野と言った中堅層もそれにつられる形で繰り上げられたのである。艦隊を預かる重責に耐えかね、軍を辞めていった同期も多い。

 

 かといって無人艦隊に任せるわけにもいかず、やむを得ず第十一番惑星を北野と速河が交代で守り続けている、というわけだ。

 

 これで3セット目……昨年、2203年のクリスマスからずっとこのローテーションが続いている。

 

 しかも持ち場に就けば、待ってましたと言わんばかりにガトランティス艦隊が湧き出てくるのだからたまったものではない。あんな氷に閉ざされた星を守って何になるんだか、と悪態をつきたい速河であったが、そんな言葉を発すればすぐに北野の『第十一番惑星における主権を主張する政治的意義の重大さ』の講義が始まりそうで、その悪態はずっと胸に仕舞い続けている。

 

(にしても、北野も変わらんなぁ)

 

 相変わらずお堅い、というのが速河の評価だが、それは向こうも逆に思っているだろう……速河が雑過ぎるのだ、と。

 

 事実、興味の持てる分野以外は必要最低限しかやらない性格の速河だ。周りから雑と見られてもおかしくはない。

 

「艦長、前方から接近する艦あり」

 

「メインパネルに投影」

 

 命じるや、メインパネルに1隻のパトロール艦を従えた大型の戦闘艦が映った。

 

 アンドロメダ級のようだ―――艦首にある特徴的な連装波動砲の発射口はハッチで塞がれてる。防御型のアンドロメダだろうかと思う速河たちアマテラス艦橋クルーだったが、しかしその推測は艦橋を見た瞬間に崩れた。

 

 接近中のアンドロメダ級は、既存のアンドロメダ級と艦橋の形状が大きく異なっていた。

 

 第二砲塔の後方には大きなグラスドームらしきものが配置されており、そこから段々と積み重ねるように大きな艦橋構造物が続く。それはステルス性を重視しのっぺりとしたアンドロメダ級の艦橋とは大きく趣が異なり、優美で、まるで西洋の歴史的建造物を目にしているかのよう。

 

 艦橋が前後に大きいからなのだろう、従来型のアンドロメダ級ならば第三砲塔のある辺りにまで達しており、主砲の砲塔は1基分減らされているように見えた。

 

《艦種識別。”ラボラトリー・アクエリアス”です》

 

 パシフィック級パトロール艦に先導され、戦闘衛星の間をすり抜けるようにして上昇してくるラボラトリー・アクエリアス。

 

実家(ウチ)で造ってる(フネ)じゃあないか)

 

 向こうも地球へと帰還しようとするアマテラスに気付いたらしい。

 

 進路を変更、これから未知の航海へと旅立たんとする遠距離惑星探査船に道を譲らんとするアマテラスに【アリガトウ、行ッテキマス】と発光信号を送ってくるラボラトリー・アクエリアス。

 

 報告を受けるや、速河艦長はすぐさま発光信号を返すよう命じた。

 

 やがて、すれ違いざまにアマテラスの艦橋でライトが点灯される。

 

 ―――【行ッテラッシャイ、気ヲ付ケテ】。

 

 発光信号と共に、速河艦長は席から立ち上がり、左舷を通過していくラボラトリー・アクエリアスへと敬礼をしていた。

 

 ラボラトリー・アクエリアス―――アンドロメダ級戦艦の派生艦、『アクエリアス級』の1番艦だ。

 

 元々は艦橋構造物を大型化、より高性能なAIを搭載し処理能力を強化する事で、大規模な無人艦隊を一手に制御する”中枢コマンド艦”としての役割を期待され建造されたという経緯を持つ。

 

 しかしガミラス戦役も落ち着き、アケーリアス文明研究の第一人者、ロバート・レドラウズ教授が提唱したアケーリアス文明調査の計画に軍が興味を示した事で建造計画が変更。1番艦アクエリアスを設計変更し遠距離惑星探査船に作り変え、アケーリアス文明の痕跡を調査する長期航海へ投入する事となった。

 

 そのため自身は名をラボラトリー・アクエリアスへと変更、本来の名を2番艦『アクエリアス』へと受け継がせ、今日こうして長期航海へ旅立つ事となったのである。

 

 ガミラスの亜空間ゲート、惑星シャンブロウの正体、そしてヤマトが立ち寄った惑星シュトラバーゼ……その技術を持ち帰り解析する事が出来れば、技術水準の更なる向上が見込める。

 

 軍拡の真っ最中で猫の手でも借りたい状態の軍が、よく虎の子のアンドロメダ級を探査船に造り替えたものだと思うかもしれないが、アケーリアス文明の技術を持ち帰る事が出来れば軍にも旨みはあるのだ。

 

 だが、おそらくラボラトリー・アクエリアスの艦橋に乗り込んでいるであろうレドラウズ教授はそんな技術や利権云々には興味がない筈だ。

 

 彼は1人の学者として、この遍く大宇宙にヒューマノイドの種を撒いたアケーリアス文明の痕跡を追い、謎を解き明かしたいだけなのだから。

 

 先導役のパトロール艦がコースを変更、速河艦隊の後に続く形で戦闘衛星群を通過して、大気圏突入コースへと入る。

 

 速河艦隊の遥か後方―――ワープの蒼い閃光が煌めく。

 

 閃光を背に、戦を終えた艦隊は蒼い星へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな、速河」

 

「はっ」

 

 出迎えてくれた山南に敬礼をすると、山南は口元に柔和な笑みを浮かべた。

 

「フッ……やっぱりお前、軍服姿の方が似合ってるよ」

 

 酒浸りよりはるかにマシだ、と言葉を続けられ、速河は少しばかり恥ずかしくなった。いくらガミラスに復讐する機会を失い、安酒に溺れる毎日であったとはいえ、そんな無様な姿をこうして事ある毎に話のネタにされてはたまったものではない。

 

 しかし山南の言っている事も事実だ。ああやってアルコール漬けの身体になっていくよりは、軍服に袖を通し、地球のため―――そして未来を担う若者のために命を燃やす方が遥かに有意義ではある。

 

 それに復讐を果たせなかったストレスを込めて思い切り殴りつけて良い都合のいいサンドバッグ(ガトランティス)も居る。状況としては悪くないのだろう。

 

 事実、山南は見抜いていた。

 

 今の速河の目には、光がある。

 

 暗い部屋の中、安酒を浴びて過去に囚われていた男の虚ろな目ではない―――理想を抱いて軍に入隊した頃のような、いや、そんな青臭いものではない。現実を知ってもなお歩みを進めようとする、確かな信念を宿した目だ。

 

「ともあれ休暇だ、しっかり身体を休めるように」

 

「ハッ」

 

「それとアルコールの過剰摂取には気を付けろよ」

 

「ハッ、善処いたします」

 

 はっはっは、とお互いに笑みが零れた。

 

 失礼します、と挨拶し、踵を返す速河。

 

 その視界の中に一瞬だけ―――”土星防衛線構想”と手書きで記載された手帳が映り、目を細めた。

 

 土星防衛線―――おそらく、対ガトランティス戦を睨んだものだろう。もし連中があのまま地球を目指して進撃してくるのであれば、真っ先に矛を交えるのは自分と北野、それから航海に旅立ったヤマトに違いない。

 

 あの大艦隊を土星沖まで誘引して撃滅するのだろうか、と推測を立てながらも防衛軍の艦隊司令部を後にした速河は、再軍備の象徴としてまだ新築の匂いが残る司令部の外でタクシーを捕まえ、後部座席へと乗り込んだ。

 

 妻子はもう、この世にいない。

 

 だから休暇を貰ったところで特にする事はないのだ。

 

 だが今回は少し日程に余裕がある。さて、どうしたものか。

 

(墓参りして……そうだな、久々に実家に顔を出すか)

 

 実家のある北海道―――ハヤカワ・インダストリー本社に顔を出せば、父も喜ぶだろう。長男は艦隊勤務で首都メガロポリスの宿舎で過ごすか、アマテラスに乗って太陽系の再果てまで赴き砲火を交える。そして次男はヤマトと共に未知の惑星テレザートへ旅立ったとなれば、きっと寂しい思いをしているだろうから。

 

 それに、北海道には母の墓もある。

 

 仏壇に線香でもあげてこよう―――予定が決まるや速河はタクシーの運転手に「宿舎までお願いします」と注文を付けつつ、携帯端末を取り出してリニア新幹線の時刻表を調べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《間もなく3番線に10:39分発、やまと103号、札幌行きが10両編成で参ります。危険ですので黄色い線の内側まで―――》

 

 宿舎の自室の片付けは断念した。

 

 洗うのをサボり溜まりに溜まった食器の山、汗ばみ脱ぎ捨てたままの衣類、床を埋め尽くす安酒の酒瓶の山。あれを全て片付け、少なくとも人間が住めるレベルにまで戻すとなれば業者を雇うか、今回の休暇全てを使い潰す覚悟をしなければだめだろう。

 

 酒に溺れ現実から逃げ続けたツケが、こんなどうでもいいところで回ってくる事に速河は何とも言えない脱力感を覚えた。もし妻の咲弥(サクヤ)が生きていたら、マルチ隊形からの波動砲斉射が可愛く見えるレベルの雷が落ちていたに違いない。

 

 そういう意味では、彼の妻は怖い女だった。

 

 しばらくして、新都メガロポリス駅の3番線に黒と赤のツートンカラーのリニア新幹線がゆっくりと入線してくる。上半分が軍艦のように黒く、下半分が喫水線から下の赤い塗装をモチーフとしているのだろう。

 

 軍内部では『ヤマトカラー』などとも呼ばれている塗装パターンだ。

 

 イスカンダルから無事に帰還し、地球を救ったヤマトの活躍にあやかっているのだろうな、と速河は思った。今やなんでもかんでもヤマト、ヤマトである。公園を見れば子供たちがヤマトのおもちゃを手に元気に遊んでいる微笑ましい光景が日常となった―――あの頃では考えられない事だ。

 

 函館までの切符をポケットに収め、視線を肩に下げているペット用のゲージに向けた。中では1匹のハクビシンがすんすんと鼻を鳴らしながら、ビー玉のようにくりくりとした目で速河を見上げている。

 

 ”ミカ”と名付けたペットのハクビシンだ。地下に追いやられていたあの頃、動物の絶滅を防ぐためにあらゆる動物たちのオスとメスが地下都市へと連れ込まれ、種の保存のために飼育されていた。

 

 このハクビシンはそんな施設から脱走した個体だ。あの頃は小さな幼獣だったが、今ではすっかり大人の獣となっている。

 

「よーし……ミカ、いいな。静かにしてるんだぞ」

 

「ぴっ」

 

 幸い、ハクビシンは頻繁に鳴く動物ではない。

 

 ゲージを肩に下げ、リニア新幹線へと乗り込む速河。

 

 新都メガロポリスから函館まで1時間と20分。

 

 鉄道を利用するなんていつぶりだろう―――幼少の頃、初めて乗る新幹線にはしゃいでいたあの時を思い出して懐かしくなりながら、一度壊れた男は久しぶりの長旅を満喫する事にした。

 

 

 

 

 

 

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