さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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テレサに導かれし艦、その名は『ヤマト』

 

「なんだ古代、酒が進んでないじゃないか」

 

 手にした酒杯にはまだ、半分以上も酒が残っていた。ここに雪と一緒に遅れてやってきた時、島が注いでくれた1杯目の酒だった。

 

 再生した地球環境で生み出された酒ではない。まだ地球がガミラスからの遊星爆弾による影響で赤く爛れ、地球人類が地下に追いやられていた頃に製造された合成酒―――できる限り味を似せた代用品だ。

 

 コスモリバースシステムの恩恵で地球環境が回復したとはいえ、未だに全てが元通りになったというわけではない。農作物も例外ではなく、文字通り”リセット”された地球環境で、以前と変わらぬ品種を生み出すのに多大なコストがかかっていると聞いている。

 

 だからこういった”代用品”にも未だに需要があった。

 

 これを飲むと地獄のガミラス戦役の頃を思い出すからと、こういう品を嫌う者は少なくない。しかし真田も古代とはそれなりに長い付き合いで、彼がそういう理由で酒を忌避するような男ではないという事もよく知っている。

 

 では何か別の理由があるに違いない―――そう思って問いかけると、酒杯に映る月をじっと見つめていた古代は、戸惑うような素振りを発しながらも言葉を発した。

 

「いや……変な話になるんですが、夢を見たんです」

 

「夢?」

 

「ええ……女の声が聞こえて……宇宙の彼方から何か、真っ白な彗星が迫ってくる夢を……」

 

 何とも要領を得ない、頭の中に思い起こされた情報を断片的に出力したような言葉であった。

 

 こんな事で考え込んでいるなんて、と古代は自嘲する。しかも話をした相手はあの真田志郎、根っからの科学者である。夢で見たなど、そんな話を信用する相手とも思えない。

 

 どうせ鼻で笑われるさ、と苦笑いを浮かべた古代だったが、しかし顔を覗き込んでいる真田の表情には、予想に反して驚きのような色が浮かんでいた。

 

「もしや、彗星が地球に迫ってくる夢か?」

 

「ええ」

 

「……実は俺も、そのような夢を見た」

 

「真田さんも?」

 

 予想外の返答に、今度は古代が驚きの表情を浮かべた。

 

「古代、その夢なら俺も見たぞ」

 

「俺も見ました……」

 

「島……南部、お前たちもか」

 

 真田に島、南部だけではない……まるで伝染病が急激に広まっていくかのように、ヤマト乗組員へとその驚愕の輪は広がっていった。俺も見ました、俺も、という声が次第に広がっていき、古代と真田は互いに顔を見合わせる。

 

 これは単なる偶然と呼べるのだろうか。

 

 何名か欠員は出ているが、かつてイスカンダルまで旅をした戦友たちが同じ夢を見るなど……。

 

「確かその声の主は……テレサ、”テレザートのテレサ”と」

 

 ノイズがかかったような声で、必死に何かを伝えようとしていた謎の女―――テレサ。

 

 真田の顔をじっと見つめながら、古代は彼女が伝えようとしていた言葉を思い出す。

 

 『巨大な彗星』、『宇宙の危機』、『遠い星の戦士たち』―――もしそれが、彼女から地球へと発せられたSOSなのだとしたら?

 

 そしてあの時見せられた夢が、未来の地球を待つ結末なのだとしたら?

 

 テレサという存在が古代たちに見せた夢では、その戦いの結果は語られなかった。地球が勝利したのか、それとも彗星が地球を呑み込んだのか……その結末は、誰も分からない。

 

 しかし同じ夢を見たのがもしヤマトの乗組員だけなのだとしたら、その夢はもう一つの意味を持つ。

 

 

 

 ―――未来を変えられるのは、ヤマトのみ。

 

 

 

(俺たちは呼ばれているのか……?)

 

 最初はただの夢だと思っていた事が、しかし同じヤマトの乗組員たちも同じ夢を見た、という事実によって、急激に実態を持ち始める。

 

 テレザートのテレサ―――彼女は呼んでいるのだ。

 

 ヤマトを。

 

 ”遠い星の戦士たち”を。

 

 ごう、と風が変わった。

 

 海から吹きつけてくる潮風の旋律に、重々しく暴力的で、しかし機械的なエンジンの唸りが加わった。第二世代型の波動エンジンか、と久しぶりの日本酒に顔を赤く染めていた徳川が顔を上げながら呟く。

 

 エンジン音だけで波動エンジンの形式まで言い当てる彼の知識に驚きつつも、古代たちは顔を上げた。

 

 いつの間にか、空には光り輝く船体があった。全長は444m―――ヤマトよりも一回り大きな、かつてのイージス艦を思わせる角張った船体。ステルス戦闘機のような艦首の下には、2つの巨大な波動砲の発射口が顔を連ねている。

 

 『E.F.C.F AAA-0001-2203』と記載された艦名プレートが見える程の低空で、英雄の丘の真上を飛び去っていったのは―――地球復興の象徴と持て囃されている戦艦、アンドロメダ。

 

「アンドロメダ……」

 

「テスト航海から帰ってきたんだわ」

 

 雪が傍らでそう言うと、すっかり酔いの回った誰かが、飛び去っていくアンドロメダへと向けて「バカヤロー!!」と叫んだのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球連邦の首都には、地下深くまで穿たれた竪穴がある。

 

 マントルを穿ち、地球のコアにまで到達するほどの深さなのではないか、とそれを覗き込む度に古代は思う。

 

 その深淵の奥深くからは、3分に1隻のペースで艦艇が吐き出されてくる。地球の護衛艦、巡洋艦、駆逐艦、パトロール艦―――主力戦艦たるドレッドノート級まで。

 

 中には『アンドロメダ級が出てきた』というレアなケースを目にした仲間もいるというが、古代は未だにアンドロメダ級がこの竪穴から出てきたところを見たことが無い。

 

 いったいどのクラスの(フネ)がどれだけ就役しているのか、古代にはもう数える術がなかった。いったい地球防衛軍の上層部のうち、何人がそれら全てを把握しているのか。そう思いながらぼんやりと竪穴のある方を見つめていると、緑色の船体に黄色い眼玉が特徴的なガミラスのデストリア級が2隻、仲良く竪穴から顔を出し、独特なエンジン音―――ゲシュ=タム機関特有の駆動音を地球の空へと刻みながら上昇していった。

 

 エンジンノズルの周囲で回転する部品がここからもよく見える。

 

「すまない、遅れた」

 

 警備兵に身分証の提示を行っていた島が小走りでやってきたのを見て、古代も歩みを進める。

 

 小銃を背負いながら警備を続ける兵士に敬礼をしてから、島と共にエレベーターへと乗り込んだ。コンソールにIDカードを通し、パネルをタッチしてやっとエレベーターが目を覚まし、2人を竪穴の奥底へ―――無数の宇宙戦艦を吐き出す”秘密工場”へと下ろしていく。

 

 非番だった彼らを呼び出したのは、他でもない真田だった。

 

 この竪穴のそこにある”秘密工場”で、彼は今、ヤマトの大改修の指揮を執っている。

 

 地の底へ落ちていくかのような感覚が消え、エレベーターの扉が開いた。外に出てすぐに、数名の警備兵に守られた検問所がある。小銃を背負った警備兵にいちいち身分証の提示を求められるのには嫌気が差すが、しかしやらない事にはここから先へは進めない。

 

 諦めろ、と視線で告げながら、一足先に島が身分証を提示した。

 

 少し遅れて古代も身分証を呈示し、そこで彼は気付いた。

 

 小銃を背負い、ボディアーマーに防弾ヘルメットまで装着しているこの警備兵は人間ではない―――ガミロイドだ。ガミラスで開発された、人の姿をしたロボットの兵士なのだ。

 

『ドウゾ、オ通リクダサイ』

 

 地球の言語でそう告げたガミロイド兵に訝しむような視線を向けつつ、古代は島と共に奥へと進んだ。

 

 さすがにこれ以上は身分証の提示は求められないだろう、と思う古代の視線の先に、やがて奇妙な形状の物体が見えてくる。

 

 ガラス張りになった通路の外側を取り囲むかのように、紅く輝くリングが幾重にも回転しているのだ。古代たちがガラス張りの通路を通過すると、まるで2人の事を探知したかのように、紅いリングは蒼く変色していった。

 

 ”スケールシリンダー”と呼ばれる、ガミラス製の装置なのだそうだ。

 

 あれを通過しない限り、ここから先へは入れない―――強引に入ろうものならば、身体が環境の変化についていけなくなる。

 

 通路を越えた先に、眩い光が見えた。

 

 手で光を遮りながら通路を抜ける。

 

 光の向こうには、ここが地底深くである事を忘れさせてしまうほどの広大な空間が広がっていた。古代と島が降りて来た、地上と地下を繋ぐ巨大なエレベーターの束―――地下から見れば、さながら空を支える柱の如きそれを中心に、放射状に分厚い隔壁が木の根さながらに伸びている。

 

 よく見ると、その隔壁に挟まれた巨大な溝のような空間は、戦艦を組み立てるためのドックになっているようだった。天井を走るクレーンの音に、装甲板が接合される音。それが幾重にも重なり合い、広大な空間の中に巨人の唸り声のような、気味の悪い音を響かせている。

 

 しかし、それよりも2人の目を奪うものがはるか向こうに見えた。

 

 地上へのエレベーターよりも遥かに巨大な物体が、無数に広がるドックのはるか向こうに見える。

 

 白い機械部品で構成されているが、その中央には見覚えのある物体が埋め込まれているのがここからでも分かった。地球ともガミラスとも、そしてガトランティスとも意匠の異なる、オレンジ色の流線型の装置。側面には覗き窓のような部分があり、そこからは蒼い煌めきが漏れ出ている。

 

 機械でできた巨大な砂時計、とでも言うべきだろうか。

 

 そう、コスモリバースシステムだ。

 

 イスカンダルからの帰路、ヤマトに波動砲の代わりに搭載された、地球環境回復のための命綱。

 

 ヤマトから取り外されたそれが、巨大な機械の柱の中枢に取り込まれる形で設置され、今なお稼働を続けているのだ。

 

 これを見たら、イスカンダルは……スターシャはどんな顔をするのだろうか。そう思うと何とも情けなく、恥ずかしく、申し訳ない気分になってしまう。

 

 この空間は『時間断層』と呼ばれている。

 

 地球防衛軍の秘密工場―――確かにその通りだ。しかし、地球の復興と並行した大規模軍拡は、いくら地球がガミラスの助けを得ていると言っても到底できる事ではない。

 

 このままでは10年、いや20年はかかると見積もられた地球の再軍備であったが、コスモリバースシステムの解析中に発見された”思わぬ副作用”により、その不安は一挙に解消される事となる。

 

 特定の波形で波動エネルギーを注入し続ける事により、コスモリバースシステムのコアは地球環境回復の際に見せた急激な”時間の逆行”とは真逆の作用を見せる、という事が判明したのである。

 

 つまりどういう事かというと、この空間の中においては『外の空間よりも速い速度で時間が経過する』という事だ。

 

 外の空間での1日は、時間断層内部での1年、というわけである。

 

 先ほど島と古代の2人が通過してきたスケールシリンダーは、その急激な時間の流れの変化に肉体を適応させるための装置だ。

 

 この空間の内部で戦艦の建造を行っているからこそ、毎日のように大量の宇宙戦艦が就役している、というわけである。

 

 とはいえコスモリバースシステムも常時稼働しているわけではない。稼働限界も存在するため、限界を迎えたら休止させてやらなければならない、というのがネックではある。

 

「こっちだ」

 

 端末で現在位置を確認した古代は、凄まじい数の未完成艦たちを見下ろす島を案内していく。

 

 艦艇の種類や所属ごとに、建造エリアは分けられているようだった。最も大きな面積を占めているのはやはり地球防衛軍で、全体の8割を使用し艦艇の建造や改修を行っている。

 

 残りの2割はガミラスのものだ。彼らは地球側に使用料を支払う代わりに、ここで兵器の建造を行っているのだ。

 

 ヤマトもまた、ここで大規模改修を受けている。

 

 艦首ブロックと船体を繋ぎ合わせられていくアンドロメダ級6番艦(艦名プレートには”アークトゥルス”と記載されている)の前を通過して少し進んでいくと、やがて見慣れた艦橋が見えてきた。

 

 他の艦とは異なり、水上艦を思わせる形状の船体に艦首。上半分が黒く塗装され、喫水線より下は赤く塗装された、全長333mの船体。そしてその上に聳える艦橋と煙突型のミサイル発射塔。

 

 見間違うはずもなかった。

 

「ヤマト……」

 

 イスカンダルへの航海を成功させたヤマト級1番艦―――宇宙戦艦ヤマト。

 

 無数の宇宙戦艦が産声を上げるドックの片隅で、しかしヤマトは静かに牙を研いでいた。

 

 まるで、新たな航海が始まる事を予見していたかのように。

 

「だいぶ変わったな、ヤマト」

 

 イスカンダルへの航海の時と違った印象を受けるのは、その”大規模改修”とやらのせいであろう。

 

 細身だった船体は拡幅されたのか、悪く言えば「太った」ようにも、よく言えば「がっしりした」ようにも見える。第二次世界大戦終盤、無数の航空機を相手に戦った戦艦大和を思わせる、どっしりとした船体になっていた。

 

 全体的にパルスレーザー砲塔が増設され、艦橋から煙突周りだけでなく、第二、第三砲塔の上にも2基ずつ搭載されているのが分かる。

 

 その主砲の砲塔も形状が変わっていた。イスカンダルへ向かった時の角張ったような形状から、戦艦大和の46㎝砲塔のような形状に変わっているのだ。印象を大きく変えている原因は、砲塔側面に追加された増加装甲のせいだろうか。

 

 そして何より―――。

 

「……」

 

 古代の視線の先にあるのは、拡張された波動砲の発射口だった。

 

 もう、今のヤマトにコスモリバースシステムはない。

 

 波動砲の再装備―――ヤマトもまた、地球防衛軍の掲げる”波動砲艦隊構想”の一翼を担うべく、近代化改修を受けた上での戦列復帰が決定しているのだ。

 

「早かったな、古代」

 

「真田さん」

 

 数名のメカニックを引き連れた真田に声をかけられ、古代は彼の方を振り向いた。

 

 今日にもヤマトの最終チェックを終わらせ、時間断層から海底ドックへ移送する予定なのだという。そのチェックの監督に来たのだろう。

 

 だが―――古代たちが彼に呼びつけられた理由は、他にもある。

 

 いや、むしろそちらがメインの目的……と言うべきか。

 

「話したいことがある。ついて来てくれ」

 

 真田はそう言うと、メカニックたちに作業内容を指示してから別れ、ヤマトへと乗り込んでいく。

 

 彼の後を追い、古代たちもヤマトへと乗り込んだ。

 

 

 

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