さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
《戦艦アマテラス、ワープアウト》
翡翠色の大地を持つ第十一番惑星を背に展開する北野艦隊。その前方の空間に波紋を生じさせ、船体に氷を貼り付けながら姿を現したのは、地球防衛軍の中でも異色・異形のアマテラス級だった。
速河艦隊旗艦、戦艦アマテラス―――地球に帰還した折、急遽予定にないアップデートを受け大きく変容したその船体は、こうして見るととても地球の戦艦とは思えない。地球とはどこか別の星、あるいは次元の遥か彼方で高度な文明を築き上げてきた異星人の戦艦なのではないか、と北野はついそう思ってしまう。
そのカラーリングは防衛軍の規定とは大きく異なるものだ。黒を基調とし、船体の各所に紅いアクセントが警告色さながらに散りばめられている。艦橋の窓はオレンジ色の光を発しており、人間が乗っている艦とはどこか思えない、無機質さを発している。
《アマテラスより入電》
「メインパネルに」
アルタイルのAIに命じながら顔を上げると、メインパネルに見慣れた戦友の顔が映し出された。強面で、船乗りというよりは空間騎兵隊に行った方が似合うのではないかと思ってしまうほどの筋骨隆々の巨体。しかしその眼光にはどこか虚ろな一面があり、身に纏う雰囲気もいつものような威圧感は無い。
どこか疲れ果てたような、あるいは燃え尽きたような、そんな感じだった。
《
残敵、とは何か。
いつもであればそう問い返していただろう。あれは逃げた敵であり、そこまで深追いする必要はない。エネルギーの無駄だし、もしワープアウトした先に敵の救援要請を受けて駆け付けた大規模な増援が待ち構えていたらどうするつもりか―――防大14期生の同期として、友人を咎める言葉が湯水のように湧き上がってくるが、しかしそれを一言として今の彼にかける気にはなれなかった。
速河と付き合いの長い北野には、判る。
今の彼は危うい。なんとか抑え込んでいた心の傷が開き、押し込めていた精神的苦痛に苛まれている状態だ。そんな状態の戦友に追い打ちをかけるような言葉を投げかけるなど、そんな人の心の無いような真似はできない。
では何と言葉をかけてやればいいのか―――考えても良い案は浮かばず、無難に「了解した、ご苦労」と短く簡潔に言葉を紡ぐ事しかできなかった。
もしや地球に戻ったら首を吊るのではないか、あるいは拳銃で自殺するのではないか―――そんな危うさが感じられて、北野は目を細める。
如月艦長に続き、彼まで失うわけにはいかない。
《艦隊司令部より優先通信》
「繋げ」
艦隊司令部から、という事は山南司令からであろう。そう思い至るや、北野はAIに通信を繋ぐ用に命じつつ艦長席から立ち上がった。
速河の顔が表示されたウインドウが画面左端へと追いやられ、今度は山南司令の顔がメインパネルに表示される。
北野、速河、そして同じ通信を受信しているアクエリアスの尾崎も山南司令へと敬礼をすると、メインパネルの中の山南も彼らに敬礼で応じた。
《―――北野、速河、尾崎。第十一番惑星防衛任務、ご苦労だった》
「はっ」
《色々話もあるが……それよりも、今後の防衛体制について大きな変更があった》
大きな変更、とは何か。
よもや第十一番惑星を放棄、より内側の宙域で防衛ラインを再構築するつもりか―――そんな予想が北野の脳裏を過る。
有り得ない話ではない。以前、速河も『山南司令は有事の際に土星沖を決戦の舞台とし、それ以遠の宙域を捨て石にする計画なのかもしれない』と発言していた(実際、山南の部屋には”土星沖海戦構想”というメモが置いてあった事もある)。
それに加え、第十一番惑星は速河と北野、2つの艦隊で何とか成り立っている状態だ。背伸びをして現場に負担を強いながら守るよりは、冥王星を最前線として再設定し、第十一番惑星には宇宙機雷を敷設して撤退せよという流れになっても不思議ではない。
が、山南の口が紡いだのはその予想を良い意味で―――速河にとっては悪い意味で覆す内容だった。
《今後、第十一番惑星は北野、速河、それからガミラス側から派遣される”ミケール艦隊”の3個艦隊での防衛体制となる》
《待ってください》
口を挟んだのは速河だった。
《ガミラスが来るんですか、ここに?》
《ああ、そうだ》
《確かに我々に戦力の余裕はない……しかしここは我々地球人の領海で、地球の軍隊が守るべきです。私にはとても……》
《……確かに、お前の気持ちもよく分かる。が、このまま2つの艦隊で無理な体制を続けていれば、続く連戦でどちらも緩やかに壊れていくのが目に見えている。違うか、速河?》
《それは……》
昔の速河であれば、「それでも俺はやります」くらいは言っただろう。
しかしこれ以上食い下がらなかったのは、彼も指揮官として成長したからに違いない。指揮官の方針に部下は従わざるを得ず、指揮官が過酷な運命を選択すれば最初に血を流すのは部下たちなのである。
戦争は決して1人でするものではない―――自らの後ろに立つ部下たちの事を慮ってそれ以上食い下がらなかったのであれば、彼もまた一歩成長したという事だ。
「艦長、ワープアウト反応来ました」
「識別は」
「ガミラスです」
次の瞬間、第十一番惑星沖に紅い光が生じた。
空間の裂け目―――宇宙の傷だ、と北野は思った。人間が皮膚を切り刻まれれば紅い血を流すように、宇宙も空間を割くような真似をすればあのように傷を開くのだろう。しかしそこから溢れ出たのは鮮血などではなく、緑色に塗装された船体と、ぎょろりとした”目玉”を思わせるパーツが特徴的なガミラスの宇宙戦艦たちだった。
デストリア級やケルカピア級、クリピテラ級に護衛され、ガイデロール級と思われる大型戦闘艦が続々とワープアウトしてくる。ガイデロール級だけでも合計24隻を数え、北野は思わず息を呑んだ。
ガミラス戦役時から、ガミラスの艦隊編成は基本的には変わらない。
中小規模の艦隊であればデストリア級、あるいはメルトリア級が艦隊旗艦を務め、それなりの大規模艦隊であればガイデロール級が艦隊旗艦となるというのがガミラスの基本的な艦隊運用だ(火星沖海戦、メ号作戦で地球艦隊と交戦したガミラス艦隊もそうであった事は脳裏に焼き付いている)。
そう、ガイデロール級は中、大規模艦隊の旗艦として1隻から2隻配備されるのが普通なのだ。
それが、目の前の艦隊には24隻も―――それがどれほどの異常な編成なのかは言うまでもないだろう。
(ドクトリンに大きな変化でもあったのか?)
そこで北野は気付く。
ワープアウトを終え、スラスターを吹かして回頭を始めたガイデロール級が通常のガイデロール級とは異なるという事に。
「あれは……」
艦首や前部甲板、艦底部にびっしりと搭載された特徴的な魚雷発射管が、殆ど撤去されているのである。
代わりに搭載されているのは小型の放熱フィンを備えた冷却装置と思われる何かだ―――そして艦首の開口部はより大型化され、まるで何かの発射口のような物々しさを醸し出している。
「14時方向、未知の大型艦がワープアウト。数4」
先にワープアウトした艦隊に遅れて、更に大型の戦艦がワープアウトする。
それを目にした北野、尾崎、速河の3人は目を見開いた。
何の冗談か―――その姿は、アンドロメダ級にしか見えなかったのである。
《アンドロ……メダ……?》
そうとしか思えなかった。
確かに緑色に塗装された船体と、船体側面の黄色く発光する目玉(1隻だけ目玉が4つある艦があり、それが旗艦であると分かる)というガミラス艦共通の意匠はあるし、形状も全体的にガミラスナイズされたものとなっているが、艦首やその下に波動砲の発射口を2つ並べたレイアウトや艦橋の形状、主砲の配置に艦底部の大型フィンとその両脇のタンク状構造物―――それらは確かに、アンドロメダ級の外見的特徴と言えるものだ。
《あいつ、この前見た奴だ》
速河の声に、北野は眉間に皺を寄せた。
以前、速河が言っていた―――月の周囲で見慣れないガミラス艦がうろうろしている、と。
そしてその形状はアンドロメダ級に酷似していた、と。
間違いない、あの艦がそれなのだ。
ガミラス相手に、開発元の南部重工とハヤカワ・インダストリーがライセンス生産を許可したという話は聞いた事が無い。
つまりあの艦は……。
「……アルタイル、艦種識別」
《―――アンドロメダ級と63%の類似が認められますが、該当するデータはありません》
AIからの返答を聞き、北野の眉間の皺が更に深くなったその時だった。
メインパネルの右下に新たなウインドウが表示され―――そこにガミラス人の顔が表示された。
あの艦を預かる指揮官のものなのだろうが、しかしその顔つきは若い……というより、”幼い”という表現が適切であろう。
まだ子供といっても一切違和感を覚えないほど幼く、しかしその眼光は歴戦の艦隊指揮官のそれだ。攻め時と引き際を弁え、無理な賭けは避け、勝てる勝利を確実に拾いに行くような強かさが、その銀色の瞳の中にはある。
ガミラス艦隊の指揮官がガミラス式の敬礼―――ではなく、地球式の敬礼をしたのを見て、北野と尾崎はそれに応じた。
《こちらはガミラス地球駐留艦隊第一主力打撃艦隊旗艦”ランダルミーデ”、艦隊司令の”ミケール・リガロヴィッチ”少将です》
ミケール・リガロヴィッチ―――名前は聞いた事がある。
ガミラス軍の艦隊司令であり、模擬戦や実戦で今まで一度も敗北を経験した事が無いが故に『無敗の天使』と呼ばれているという。
元ドメル艦隊所属の艦隊司令を地球駐留軍が呼び寄せたのも、ガトランティスに対応するためだけではないだろう。将来的な地球との冷戦状態、あるいは開戦に向けた威嚇のつもりか。
《第十一番惑星防衛任務、お疲れ様でした。以降は我々が引き継ぎます。北野艦長、速河艦長は地球に戻り補給と休息を》
「……お気遣い感謝します、リガロヴィッチ少将」
幼い見た目に反して、冷静で紳士的な物腰だ。
ガミラスの艦隊司令といえば高圧的で傲慢で、あからさまに地球人を下に見ている―――そんな印象があったが、このミケールはそういった他の艦隊司令とは明らかに違う。
裏に何か抱えている様子もなく、第一印象は良好だった―――あのアンドロメダ級に類似した艦を除けば、だが。
速河は無言で敬礼で応じて通信を切り、北野も何か一言告げてから通信を切ろうとしたその時だ。
「前方に空間振―――ワープアウト反応、ガトランティスです!」
《奴らは我々が》
ミケールの声は静かだが、しかし力強い意思が宿っていた。
《我らの同盟国を侵させはしない》
「敵艦隊ワープアウト。戦艦16、巡洋艦28、駆逐艦多数」
「航空戦力が見られませんね」
観測員からの報告を訝しむクラリスに、ミケールは静かに応じた。
「砲撃戦を主体とした強行突破、か。連中も焦っていると見える」
通常、惑星の制圧には複数の段階がある。
艦隊による惑星防衛戦力の突破、続けて航空機による惑星表面の制圧と陸戦隊の降下、敵拠点の制圧―――そこまでやって惑星を制圧できる、というのがガミラス軍の教本にも記載されているセオリーである。
しかし敵艦隊の編成を見るに、砲撃戦を重視した艦ばかりが含まれている。
第十一番惑星の地表が壊滅状態であり、航空機や陸戦隊による制圧は不要と断じての事か、それとも再三にわたる侵略失敗に痺れを切らし、単純な打撃力だけを頼りに殴り込みをかけてきたか。
恐らく後者だろうな―――そう断じるミケールに、ランダルミーデに搭載されているAIが《司令部より入電》と短く告げる。
立ち上がりメインパネルを見上げると、そこにバレル中将の顔が映し出された。
《ミケール君。分かっているとは思うが、本国が欲しがっているのは波動砲の実戦データだ。艦隊の完成度を高めるためにも、必ずデータを》
「はっ、承知しております」
―――やはり、政治は嫌いだ。
幼い頃から、ミケールは大人に翻弄されてきた。
ガミラス貴族、リガロヴィッチ家当主とザルツ人のメイドの間に生まれてしまった庶子という出自を、人知れず何度呪った事か。こんな半端に薄く青い肌がどれだけ恨めしいと思った事か。
だがしかし、そんな事も言っていられない。軍とは政治で動くものであり、自分は1人のガミラス軍人でしかないのだ。
軍服に袖を通さず、書物に囲まれた部屋でゆっくりと紅茶を飲む生活が出来ればどれだけ幸せか―――そんな遥か彼方の蜃気楼の如き夢を抱きながらも、ミケールは母星ガミラスの罪を背負い戦うしかない。
「―――全艦、波動砲発射隊形!」
命じるや、ランダルミーデのAIが全艦に命令を伝達した。
上下に展開したランダルミーデ、ヴェム・ハイデルン、デルス・ガドラ、ゼイラギオンの4隻を中心に円を描くように、リング状の陣形へと再編されていくガミラス波動砲艦隊。
その波動砲発射口に紅いエネルギーが充填されていく様は、ガトランティス人には恐怖を―――そしてそれを間近で見ている北野、速河、尾崎たちの心には小波を抱かせた。
ガミラス波動砲艦隊(ミケール艦隊)
編成
・ランダルミーデ級×4
・改ガイデロール級×24
・デストリア級×8
・ケルカピア級×6
・クリピテラ級×24
合計66隻