さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
ミケール艦隊到着と同時刻
月面 第三バレラス
「しかしまあ……中将閣下も人が悪い」
執務室の壁に寄り掛かりながらガミロイド兵の持ってきたティーカップを口へと運びつつ、パウエル大佐はフランクな口調でそう言った。
ガミラス軍内部、特に地球駐留軍内部では彼はお調子者で通っている。飄々としていて冗談を好み、礼節や規則は徹底するが上官に対してもフランクな態度は崩さない。それ故に友人も多く人脈も極めて広いのだ。彼は既に
だが、バレル中将は彼をよく理解している―――その飄々とした態度は、内に秘めた本性を覆い隠すための仮面である、と。
ガミラス諜報軍に所属する諜報員たちは、”任務のために己を殺す”事すら厭わない。潜入任務のために言語を変え、口調を変え、思考を変え、性格すらも変える。徹底して自分の内面を作り変え、潜入先の組織に溶け込むためだ。しかし自分がガミラス軍人であるという事だけは決して忘れない。
そんな
パウエルもそんな1人で、今の飄々とした性格は惑星ザルツ潜入の際に定着してしまったものである、との事だ。
それでもきっと、眼光は変わらなかったのだろう―――諜報軍、特殊作戦軍、そして戦略ミサイル軍。政治と密接に関わり、汚れ仕事ばかりをこなしてきた彼の眼光は、一般の兵士には無い鋭さとどす黒さがある。
「見ましたよ、
「だろうな」
今の地球とガミラスの同盟は危うい。
今まで散々地球を攻撃し、多くの人命を奪い、絶滅寸前まで追い詰めてきた侵略者と急に「さあ今から仲良くしましょう」と言ったところで、従う人間はそう多くはない筈だ。従ったとしてもそれは利権絡みのビジネスライクな関係が大半で、地球人の多くはガミラス人を快く思ってはいない。
何かきっかけがあれば瞬く間に決裂してしまいそうな関係を、地球ガミラス友好条約という惑星間、国家間の取り決めで辛うじて繋ぎ止めている状態である。言わば結界寸前のダムのようなもので、その内側には地球側の反ガミラス感情がぎっしりと詰まっているのだ。
「ソイツと艦隊のローテーションを組ませ、よりにもよって目の前で波動砲艦隊のお披露目……テロン人からの第一印象は最悪でしょうな」
「仕方ないだろう、本国からの命令だ」
そう言いながら、バレル中将は執務室の机にある小型モニターでミケール艦隊の映像を見始める。
ちょうどワープアウトを終え、ガトランティス艦隊の前方に立ちはだかるところだった。
「本国も焦っているのさ」
「まあ、俺たち軍人はいつも政治で動くわけですからね。そりゃあ仕方ない」
ですが、と続け、パウエルは紅茶を飲み干した。
「……あまり、
「……ああ、善処する」
着任早々にこれである。ミケールも気苦労が絶えないのだろう―――第十一番惑星沖で戦っている親友に想いを馳せるパウエルに、今度はバレル中将が口を開いた。
「で、どうだった」
どう、という言葉が何を求めているものなのか、パウエルはすぐに理解した(というよりその成果を報告するためにここにやってきた)。
「―――結論から言うと、ハヤカワ・インダストリーはクロです」
端末を執務室のモニターと同期させ、撮影した画像や映像をバレル中将の目の前にある大型モニターに投影するパウエル。モニターにはハヤカワ・インダストリー本社ビルに入っていく白いスーツ姿の女や何かの図面らしきもの、それから時間断層工廠内部で謎の技術を用いたアップデートを受けるアマテラス級の写真が映し出される。
「2200年辺りから、連中は”タンプル財団”とかいう組織と接触しています」
「そのタンプル財団とは?」
「テロンの欧州軍区、旧フランス地区を中心に活動する財団……という触れ込みですが、調べてみたところ実体がない。本部所在地とされている場所も探りを入れてみれば雑居ビルの一室という事になっています」
「―――
「ええ。おまけに何をするにしても複数のペーパーカンパニーを挟んで行動しています」
ガトランティスによる第十一番惑星侵攻を隠れ蓑に、パウエルは単身地球へと降り、諜報活動に精を出していた。
目的は地球内部の情報収集―――特に最近、目覚ましい技術進歩を果たしているハヤカワ・インダストリーと、それに資金提供と技術提携を行っている謎の組織”タンプル財団”の調査。
「こちらが、連中の会談内容の盗聴記録です」
そう言い、音声ファイルを再生し始めた。
《……ええ、我々■■■■■としても、今ここで
《そんな事になれば、あなた方も存在が危うくなる……そういう事ですな》
《その通りです。それに我々は貴方がたの■■、■■に救いの手を差し伸べるのは当然の事》
《ありがたい。こちらもご期待に応えられるよう、全力を尽くしましょう。とはいえ無断出撃したヤマトをそちらに引き渡せなかったのは我々の失態ですな……》
《いえいえ、お気になさらず。それについては
《我々もあなた方のおかげで、波動エネルギーの持つ危険性に気付く事が出来た。今後は計画通り、段階的に波動エネルギーの放棄と”位相エネルギー”への移行を―――》
位相エネルギー、という聞き慣れない単語に、バレル中将は眉をひそめた。
「位相エネルギーとは?」
「聞いた事がありません。波動エネルギーに代わる新しいエネルギー、という触れ込みのようですが」
「それと、音声記録中に強烈なノイズが混じっているようだが」
バレル中将が指摘すると、パウエル大佐は申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません、何度もノイズキャンセリングを実施したのですが……どうしても、”何らかの組織名の入っているであろう場所”だけ強烈なノイズがかかっていて」
「……」
何らかの新技術なのか。
いずれにせよ、この記録は地球駐留軍だけで抱えておけるものではない―――地球側が波動エネルギーに代わる新たな隠し玉を入手したとあっては、ガミラスとしても最大限に警戒せざるを得ないだろう。
「分かった、ご苦労。この記録は本国へ上げておく」
「はっ」
「……それとパウエル君、早速だが次の任務だ」
「何なりと」
薄々感じていた。
今、
ミケール艦隊の注目は、パウエルにとっては絶好の隠れ蓑である。
「本国からの命令だ……君には、接近中のあの白色彗星に接触、攻撃を試みてもらう」
スラスターの蒼い炎がちらほらと芽吹くや、ランダルミーデの艦首が接近中のガトランティス艦隊を睨んだ。
ミケール艦隊旗艦ランダルミーデを中心に、輪形の陣形をとるガミラス艦隊。艦隊中心には4隻のランダルミーデ級が並び、その周囲に改ガイデロール級が展開。縦輪形陣の外周部を、デストリア級やケルカピア級、クリピテラ級が固める。
やがて、艦首の波動砲発射口に紅い光が燈り始めた。
「全艦、波動砲へエネルギー充填!」
「”ゲシュタムリフレクター”、発射!」
モニカ艦長が命じるや、ランダルミーデ艦首にある魚雷発射管から2発の大型魚雷が発射された。
ロケットモーターの燃料を使い果たすや、推進部を分離。弾頭部のみになりながら慣性飛行を敢行したかと思いきや、弾頭部のスラスターを吹かして減速、それと並行して弾頭部を”傘”のように展開する。
「ゲシュタムリフレクター、目標座標に展開」
「エネルギー充填、20%」
ガミラス艦隊に搭載されている波動砲の色は、地球艦隊のそれとは異なる。
地球艦隊が母星の海の如く蒼い波動砲を発射するのに対し、ガミラス艦隊は血のように紅い波動砲を発射する。
本来であれば”デスラー砲”と呼ばれるのが正しいのだろうが、デスラー政権が崩壊し侵略を推し進める大ガミラス主義とデスラー関係の名称が禁忌となった今の民主制ガミラスにおいて、デスラー砲という名称もまた問題視された。
そのような経緯もあり、本来デスラー砲と呼ばれるべきそれは波動砲と名を変え、ランダルミーデ級に搭載されている。
《最終安全装置、解除》
《薬室内、タキオン粒子圧力上昇》
《エネルギー充填、100%》
《ゲシュタムリフレクター、座標誤差修正。ゼク
《エネルギー充填、120%》
《ゲシュタムリフレクター、拡散モードから反射モードへ》
《艦首、軸線に乗りました》
「総員、対ショック・対閃光防御」
ミケールの命令と共に、艦橋の窓にスモークの掛かったような黒いフィルターが降りた。遮光フィルターだ―――あれで波動砲の閃光を大きく軽減してくれるのだ。
既に波動砲の発射口では、紅いエネルギーが迸らんばかりに溢れつつあった。何かきっかけがあれば容易く破裂し、全てを飲み込んでしまうであろう破壊のエネルギー。それを力場という枷で強引に抑え込み、何とか制御している状態である。
他の艦も同様だった。ランダルミーデ級も、改ガイデロール級も艦首に紅いエネルギーの塊を抱え、敵艦隊を睨んでいる。
そのエネルギー反応にガトランティス艦隊は警戒したのだろう、密集していた艦隊の陣形を変更し間隔を空け始めた。
だが、そんな事をしても無意味である―――敵がそう動くであろう事も、ミケールは想定済みだ。
「
カッ、と紅い光が瞬いた。
艦橋の窓を隔てていても、分厚い戦艦の装甲越しでもなお轟く轟音に、艦橋に居たミケールも、クラリスも、モニカ艦長も―――ガミラス人クルーたち全員が驚愕した。
陽電子カノン砲では決して有り得ない、耳を聾するような……いや、頭の中で直接打ち鳴らされるかのような轟音。
それは単なる砲声ではない。
宇宙空間で爆発的に展開される余剰次元、生まれる筈だったかもしれない可能性の宇宙。疑似的に連鎖するビッグバンの連なり―――本来あるべきだった宇宙の静寂、それをあからさまに無視して空間を引き裂くが如き暴挙に、この大宇宙が金切り声を上げているようだ。
ランダルミーデ級4隻と改ガイデロール級24隻から放たれた28隻分の波動砲。それらは大蛇の群れ、あるいは神話に登場するヘビの怪物の如く絡み合うや1つの巨大な閃光と化し、射線上に展開されたゲシュタムリフレクターを真っ向から呑み込んだ。
変化が生じたのは、その時だった。
濁流の如く押し寄せる波動エネルギーの塊が―――塗りたくられた油面に垂らされた水滴の如く弾かれ、受け流され、その進路を大きく右へと変更したのである。
1つ目のゲシュタムリフレクターで反射した波動砲は、予定通りに2つ目のゲシュタムリフレクターを直撃。ここでも同じように進路を変更し、真正面からの攻撃を警戒して散会したガトランティス艦隊に左斜め上の変則的な角度から襲い掛かった。
ゲシュタムリフレクター……波動砲の開発に合わせて計画された、”波動エネルギー偏向システム”。
地球では『空間磁力メッキ』とも呼ばれる技術を用い、一度だけ波動砲の反射、あるいは集束率の変更による拡散を実現させることが可能な、波動砲のための補助装備。
言うなればかつての反射衛星砲のような運用を、波動砲で可能にしたというわけだ。
そのような初見殺しの一撃をお見舞いされたガトランティス艦隊に回避する術はなく―――あっという間に、紅い閃光が全てを飲み込んだ。
ククルカン級が閃光の中に影を落とす事なく消滅し、ラスコー級もそれに続く。艦隊に殺到した閃光はスラスターを吹かして離脱を試みるメダルーサ級や前期カラクルム級、ゴストーク級ミサイル戦艦を呑み込み、装甲を焼き、溶かし、引き剥がし、塵すら残さず宇宙へ消していく。
ゲシュタムリフレクターが反射角を変えた。
波動砲の閃光が、光の大剣さながらに薙ぎ払われる―――波動砲の掃射というあるまじき運用を想定できるはずもない。運よく射線から逃れていたククルカン級やラスコー級の一団も光に呑まれ、さしたる抵抗も出来ずに宇宙の塵と消えた。
紅い光が消えた頃には、何も残らない。
あるのはただ、波動砲の発射口から微かに紅いスパークを発するガミラスの波動砲艦隊だけだ。
「ゲシュタムリフレクター、消滅」
「敵艦隊の全滅を確認……ミケール少将、我々の圧勝です」
観測員の声に、艦橋の中の乗組員たちが歓声を上げる。
さすがは新兵器、さすがは波動砲、さすがは無敗の天使―――波動砲とミケールを称賛する声がいたるところから聴こえてくるが、しかしクラリスは表情を変えなかった。
彼女には分かるのだ―――ミケールの心の中が。
ちらり、と紅い瞳でミケールの方を見るクラリス。
いつもは柔和な笑みを浮かべるミケールの顔には、苦い色があった。
ゲシュタムリフレクター
ランダルミーデ級に搭載されている装備。艦首、または艦尾の魚雷発射管に装填し使用する。弾頭は一定距離を飛行後に推進部から分離、設定された距離で制動をかけ傘状のパネルを展開。パネル内に塗布されたゲシュタムリフレクターにより、後方から飛来する波動砲を一度だけ反射する。
ガミラス波動砲艦隊と並行して研究、開発が行われた波動砲補助兵装であり、『反射衛星砲の拡大・発展型』をコンセプトに開発された。なお、リフレクターという名前ではあるが波動砲の反射以外にも指定した散布界への波動砲の拡散もモード切替によって可能であり、これにより波動砲による広範囲殲滅も可能となっている(※ランダルミーデ級、改ガイデロール級の波動砲に収束・拡散モードの切り替え機能は無く、このゲシュタムリフレクターにより疑似的に収束と拡散を切り替えている)。
なお、この技術は地球側では『空間磁力メッキ』と呼ばれており、奇しくも真田志郎が2199年に提唱、個人的に研究していた。理論上はデスラー砲を跳ね返す事が可能であったというが……?