さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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水面下の破壊者、始動

 

 

 

 

 『神よ、神よ、なぜ私は疎まれるのですか』

 

 

 

 『それは貴方の肌の青が薄いからです』

 

 

 

 『神よ、神よ、どうして私は虐げられるのですか』

 

 

 

 『それは貴方が純然たるガミラスの仔ではないからです』

 

 

 

 

 

 ガミラスの絵本『薄青肌の王子様』より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球は雨が降っていた。

 

 カッ、と暗雲を照らす稲光を背に受けて、2隻の艦隊旗艦―――アンドロメダ級戦艦『アルタイル』と、アマテラス級戦艦『アマテラス』の2隻が、後続艦を伴い地表に穿たれた大穴へとゆっくり降下していった。

 

 地球連邦の首都、新都メガロポリスの都心からやや離れた位置にぽっかりと穿たれた大穴。全長444mのアンドロメダ級も、全長460mに達するアマテラス級も、それどころかより大型のゼルグート級すらもすっぽりと呑み込んでしまうほど大きな大穴は、新都メガロポリスに住む住民たちの注目の的だ。

 

 この大穴から、毎日のように宇宙戦艦が飛び立って行ったり、降りて行ったりしている。

 

 今にしても、穴底を目指し降下していく北野・速河艦隊の真下から、数隻の艦が上昇していくところだった。

 

 ドレッドノート級……では、ない。

 

 灰色に塗装され、砲塔や艦橋、その他の艤装を地球仕様のものに改められてこそいるが、葉巻型の船体の下に楕円形の船体を組み合わせたような独特なフォルムのそれは、紛れもなくガトランティス軍のククルカン級襲撃型駆逐艦だった。

 

 他の戦線での戦闘で鹵獲した艦なのだろう。

 

 今の地球艦隊に戦力的余裕はない。時間断層でどれだけ戦闘艦を建造してもすぐに現場へ配備されていくし、無人艦隊の実用化が試験されているとはいえ慢性的な人員不足も足を引っ張って戦力の拡充は遅々として進んでいないのだ。

 

 だからああやって鹵獲した艦すらも貪欲に戦力に組み入れて、辺境の警備などに投入している。

 

 鹵獲型ラスコー級に率いられた鹵獲型ククルカン級たちの一団とすれ違い、北野は目を細めた。

 

 ああやって艤装を地球仕様に改められた鹵獲艦はまだマシな方だ。酷い場合など、塗装も武装もそのままに、操艦システムにアナライザーと簡易的なAIを後付けして、使い捨て同然の運用をする事もある。だから一口に”鹵獲型”と言ってもその扱いには現場によって天と地ほどの差があるのだ。

 

《間もなく”スケールシリンダー”を通過》

 

 アルタイルのAIがそう告げた。

 

 しばらくして、大穴の壁面で紅く発光する菱形の構造物が見えてくる。

 

 血のように紅い光を発するそれが7つ、上下に連なった状態で激しく回転しているのだ。最上段はゆっくりと、それが下段に向かうにつれて回転の速度が速くなっている。

 

 ここが通常空間と、時間断層の時間の流れが変わる”境目”。

 

 地表から流れ落ちてきた雨の雫が、艦隊よりも先に穴の下へと落ちていった。

 

 スケールシリンダーを通過した途端、ぐんっ、と雨水の速度が増し、そのまま穴の底へと姿を消していく。

 

「時間断層内へ侵入します」

 

「操艦は正確に。後続艦との相対速度合わせ」

 

 スケールシリンダーを通過した。

 

 何気なく、北野艦長は腕時計を見た。デジタル表示のそれは異常を来したのか、時刻と日付を意味する数字が凄まじい勢いで変化している。

 

 この時間断層の中では、外の空間よりも早く時間が流れる。

 

 【外の空間での1日は時間断層内での1年】なのだ。

 

 だから時間断層内で兵器の建造や技術開発を行えば、外の空間に住む人間からしてみればすさまじい勢いでの軍拡、技術の発展に見えるのである。

 

 先ほど通過したスケールシリンダーは、急激に変化する時間の流れの変化に万物を適応させるための”調整装置”だ。あれは宇宙艦艇用のものだが、人間用の小型のものも存在する。

 

 あれを通過しなければ、人間の身体は急激に時間の流れが変わる時間断層という環境に耐えられない。

 

 人間や生命体に関わらず、兵器や設備もそうだ。時間の流れが速くなるという事は経年劣化も早くなるという事であり、何も対策を講じなければ建造中に耐用年数を超過して兵器が運用不可能に……という事にもなってしまう。

 

 それを防ぐための調整装置、スケールシリンダーである。

 

 設計、開発はハヤカワ・インダストリーと、その子会社の”土門電子”が担当した設備だ。

 

 やがて、竪穴が横穴へと転じた。

 

「微速前進、0.5」

 

「微速前進、0.5」

 

「ゲートオープン」

 

 重々しくゲートが開いた先には、無数の艦艇が停泊する巨大なドック群が広がっていた。

 

 中心部に位置する巨大な柱のような構造物を中心に、放射状に広がるドック群と円形の広大極まりない空間。ドック内では戦闘で損傷した艦艇が修復作業を受けていたり、鹵獲したガトランティス艦やガミラスから購入したガミラス艦が地球仕様の艤装工事を受けているところだった。

 

 空間の中心に位置する、巨大な柱。

 

 その壁面で蒼い輝きを放っているものは、イスカンダルからの贈り物。

 

 かつて赤く灼けた地球を蘇らせるべく、ヤマトに搭載された大宇宙の奇跡―――コスモリバースシステム。

 

 地球環境の再生という大役を果たし、役目を終えたそれはヤマトから取り外され、今はこうして時間断層のコアとして稼働を続けている。

 

《時間断層管理AIより入港許可が下りました。B-223へ進路変更を打診》

 

「承認」

 

《進路変更、B-223ドックへ向かいます》

 

 アルタイルが右舷のスラスターを吹かし、ゆっくりと進路を変更。そのまま指示されたドックへと降下していくや、ドックから伸びたクレーンアームが船体を優しく支え、そのままガントリーロックの上へと導いていった。

 

 がごん、と重々しい金属音と共に《入港完了》とAIの淡々とした声が艦橋に響く。

 

 息を吐き、北野艦長は部下たちに命じた。

 

「機関停止。所定の作業後、各員の上陸を許可する。上陸期限は1週間だ……各員、ゆっくり休むように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだよありゃあ!」

 

 酒を呷るなり、顔を真っ赤にしながら速河は叫んだ。

 

 新都メガロポリス、艦隊司令部の敷地内にある宇宙軍の宿舎の一室。任務中、速河の後輩が手配した清掃業者の手により徹底的に清掃された彼の部屋は綺麗さっぱりとしていて、逆にどれだけ飲んだくれればあんなに酒瓶が転がる廃墟同然の有様になるのか、と北野は二重の意味で頭を抱えた。

 

 部下たちには既に上陸許可を出した。各々実家に戻り家族と再会するなり、繁華街へ遊びに行くなり好きに過ごしているだろうが、北野はヤマトと共に飛び立った弟意外に肉親は残っておらず、特にこれといった趣味も持ち合わせていなかった北野は、こうして唯一の同期となった速河の愚痴に付き合う事くらいしか休暇の過ごし方が思い浮かばなかった。

 

 旅行しようにも上陸期限は一週間、それが済んだら速河と同じように即応態勢で待機し、更に一週間が経過すれば第十一番惑星でガミラスのミケール艦隊と交代し防衛任務に当たる……過密極まりないスケジュールで、羽を休める暇すらもありはしない。

 

 アルコールがすっかり回った顔で、口からマシンガンのように愚痴を吐き出す同期に相槌を打ちながら、北野も酒杯を呷った。

 

 酒を飲もうにも、機械の身体である。少量であれば酒は飲んでも問題ない、と医者や技師にも言われているが、しかし機械の身体に搭載された異物除去用のフィルターが血液中のアルコールまでも瞬時に回収、分解してしまうものだから、酒に溺れたくても溺れられない。

 

 彼のように、酒に逃げたくても逃げられないというのが、身体の内側まで機械になった北野の辛いところだった。

 

「大体よぉ……おかしいだろ、何でガミラスの青虫どもが俺たちのっ……おれ、おれたちのよぉ、アレだ、ほら、わくせー……任務に関わってくるんだよ!」

 

「その辺にしておけ、呂律回ってないぞ」

 

「波動砲まで見せつけやがって……脅しのつもりか、アイツら」

 

「……だろうな」

 

 そっと速河に水の入ったコップを渡しながら、北野はあのガミラス艦隊の指揮官の顔を思い起こしていた。

 

 艦隊司令という役職にある人物にしては随分と幼く、しかし苛酷な経験をしてきた人物特有の据わった目をしていた。口調も態度も紳士的で、あからさまに地球人を見下した高圧的なガミラス人とは大きく異なる。

 

(肌の色、薄かったな)

 

 ガミラス人、と今では一括りにされているが、地球がそうであるようにガミラスもまた多民族国家としての一面を持ち合わせている。

 

 青い肌のガミラス人に赤みを帯びた肌のオルタリア人、そして地球人とそう変わらない姿のザルツ人―――肌の色はやはり両親の遺伝で決まるようで、あのミケールと名乗った波動砲艦隊司令も純然たるガミラス人の仔ではないのだ。

 

 一応、帰還途中にこれから一緒に戦う事になる戦友(・・)のプロフィールには目を通した。

 

 本名、ミケール・リガロヴィッチ。年齢は24歳、階級は少将。

 

 父はガミラス貴族の”ステパン・リガロヴィッチ”、母親は屋敷で雇っていたザルツ人のメイド……父の不倫の結果生まれてしまった庶子であり、不貞の証、忌み子として幼少の頃から虐げられながらもめげずに努力を重ね、ドメル艦隊を経て自分の艦隊を任されるようになった努力家、叩き上げの軍人。

 

 演習を含めて一度も敗北した事が無い事から『無敗の天使』とも呼ばれる、現在ではバーガー戦闘団と並ぶ最精鋭艦隊であるとされている。

 

(コイツが苦手そうな相手だ)

 

 水の入ったコップを一気に呷り、叩き売りされていた生姜焼きペースト(※ガミラス戦役中に配給されていたペースト状の食品で、現在は安値で叩き売りされている)をつまみ代わりに啜る速河。つまみに焼き鳥や枝豆と言った固形物ではなく、安いペーストを選んだのは、節約と同時に固形物を口にできない北野への彼なりの配慮だったのかもしれない。

 

 少なくとも、ガミラス地球駐留軍に対する心象は大きく悪化したが―――少なくとも、この艦隊司令に関しては話の通じそうな、紳士的な人物であるという印象を抱いた。

 

 それ故に苦労するだろうな、とも北野は思う。

 

 いつの時代もそうだ―――真っ先に擦り減らされ、命を散らしていくのは誠実な”良い人”なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今にして思えば、ミケールも―――地球駐留軍への異動を言い渡された時点で、今の苦労を薄々感じ取っていたのかもしれない。

 

 彼女の経歴はよく知っている。幼少の頃から苦労が絶えず、常に逆境があり、しかしめげずに努力を積み重ね困難を1つ1つ撃ち破ってきたその姿勢は尊敬に値するし、自分には決して持ち得ない芯の強さである、とパウエルは評している。

 

 だからこそ彼女の事は気遣うし、良き友人でありたいと思っている。

 

 そんな友人に対する仕打ちに、彼もまた心を痛めていた。

 

 広大な艦橋の中、計器類をチェックする乗員たちの背中を見つめながら、パウエルは友人の事を想う―――しかし自らの帯びた任務の重要性の事も考え、赦してくれ、と祈った。

 

「パウエル大佐、司令部からです」

 

「繋げ」

 

 腕を組みながら仁王立ちしていたパウエルは、メインパネルにローレン・バレル中将の顔が映し出されるなり片手を挙げるガミラス式の敬礼で応じた。

 

《パウエル君、今後のガトランティスへの対処が左右される重要な作戦だ》

 

「はっ。ガミラス戦略ミサイル軍、初の攻勢ですからね」

 

《そういう意味でも本国はキミに期待している。検討を祈る》

 

ガミラス万歳(ガーレ・ガミロン)

 

 彼の帯びた新たな任務―――。

 

 現在、地球圏へ向けて正体不明の巨大彗星が接近中であるとされている。

 

 任務はその巨大彗星の調査、及び破壊だ。

 

 以前よりこの彗星は、ガトランティス軍の侵攻方向と一致する事や彗星周辺でのガトランティス艦隊の目撃情報が多い事、そして太陽風の方向とは無関係に彗星の尾を伸ばすなど通常の彗星とは異なる特徴を数多く備えている事から、通常の彗星ではないのではないかとガミラス軍内部では囁かれていた。

 

 ガトランティスの兵器の一種なのか、それともアケーリアス文明の遺産か。

 

 いずれにせよ、もしガトランティスの兵器なのだとしたらそれは天体規模という途方もないスケールであり、地球圏への到達を許せば大事になるだろう。

 

 地球の存在は目の上のたん瘤だが、しかし同時に倒れられてはガミラスにとっても不都合だ―――地球が倒れれば、次に矛先を向けられるのはガミラスだからである。

 

 だから地球が決してガミラスと開戦できないよう工作しつつ、しかし簡単に倒れないよう援助するという『生かさず殺さず』の絶妙な匙加減での外交を強いられているのだ。

 

 彗星の正体について調査し、可能であれば破壊する―――未知の存在へ挑むために、ガミラス戦略ミサイル軍は”この兵器”を月面へ持ち込んでいた。

 

 パウエルに預けられた超大型艦、”グスタール級戦略型惑星破壊ミサイル搭載戦闘艦”『パウリア』と、その船体下部に抱え込むように搭載された全長600mにも達する漆黒の超大型ミサイル【惑星破壊プロトンミサイル】。

 

 着弾すればエネルギーが瞬時に惑星内部のコアにまで伝播し反応、コアを崩壊させ惑星を破壊に至らしめるという、ガミラス軍の最新鋭戦略兵器である。

 

 惑星間弾道弾に代わる新たな抑止力として生産されていたそれが、搭載母艦であるグスタール級と共に地球駐留軍へと与えられたのも、元はと言えば地球に対し切り札を突きつけ、開戦の暁にはこれで地球人類を今度こそ根絶やしにするためであった。

 

 しかし状況が変わった―――今はもう、地球人類と睨み合っている場合ではない。

 

「次元潜航開始。次元深度300ゲゼルまで潜航」

 

「了解、次元潜航開始」

 

「次元タンク開け。潜航開始、潜航開始」

 

 パウエルの命令に復唱が何度か続くや、グスタール級惑星破壊ミサイル搭載艦『パウリア』の船体周囲に蒼い波が立ち始める。

 

 次元潜航―――次元潜航艦UX-01のデータを基に発展させた新型次元潜航システムにより、全長750mにも達するグスタール級もまた、異次元の海の中へと潜航する事が可能となった。

 

 惑星破壊ミサイルを抱えた船体が、異次元の波の中へと消えていく。

 

 

 

 

 

 宇宙には、再び静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 





グスタール級戦略型惑星破壊プロトンミサイル搭載戦闘艦

全長
・750m

武装
・530mm3連装陽電子カノン砲塔×1(前部甲板)
・490mm4連装陽電子ビーム砲塔×2(前部甲板、副砲)
・対艦ミサイルVLS×30(前部甲板)
・艦首大型魚雷発射管×6(艦首)
・隠匿式対空レーザー砲塔 多数
・惑星破壊超大型プロトンミサイル×1




同型艦

1番艦 グスタール
2番艦 パウリア
3番艦 ヒュステンヴァルガー(建造中)
4番艦 第704号計画艦(計画中)


 ガミラス軍が建造した、全長750mにも達する超大型の【次元潜航型アーセナルシップ】。ゼルグート級すら上回る巨大な船体に、次元潜航システムと多数の火器を搭載した火力の化身とも言える艦だが、最大の特徴は船体下部に抱きしめるようにして搭載された惑星破壊プロトンミサイルである。これは着弾した惑星のコアと反応しコアを破壊、惑星そのものを崩壊させる新型の戦略兵器であり、このミサイルを運用するために建造されたのがグスタール級である。
 通常時は異次元の底で息を潜め、司令部からの攻撃命令に基づき浮上、惑星破壊ミサイルを攻撃目標へ撃ち込む移動型ミサイル発射基地としての役割を期待されており、肥大化を続けるガミラスが、いずれ遭遇するであろう強大な軍事国家に対し抑止力とする事を目的として建造、配備された。

 なお、1番艦グスタールはガミラス北部方面司令官の”グスタフ将軍”にちなんだものであり、彼の下に1番艦が与えられている。

(※旧作ヤマトⅢのグスタフ艦をご想像ください。あれを2199っぽくリファインしたのがこのグスタール級となります)
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