さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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艱難辛苦

「ご覧の通り、ガトランティス艦の主砲の命中精度はお世辞にも高いとは言えません」

 

 第二艦橋に用意された大型のモニターや各種観測装置、ドローンの操縦システムをパッケージ化された専用の座席に腰を下ろしながら、信也はこれまでの戦闘で得たガトランティス艦のデータを画面に表示した。

 

 第十一番惑星で遭遇したガトランティス艦―――ククルカン級やラスコー級、それから惑星シュトラバーゼで遭遇したカラクルム級の画像が急激にズームアップされ、それらに搭載された回転砲塔の砲口が更に拡大、ノイズ処理を施されクリーンに表示される。

 

 後ろで腕を組んでいた島がぴくりと眉を動かした。

 

 ヤマトの主砲は砲身があるが、ガトランティス艦やガミラス艦の大半にはそれがない。それはともかくとして、ガトランティス艦の主砲の砲口内部を見てみると更に4基のビーム発振器が1つにパッケージングされているのが見て取れる。

 

「4基のビーム発振器を同期させてエネルギーを瞬時に充填、発射する仕組みになっています。威力はガミラスのミゴウェザー・コーディングを撃ち抜くのに十分なものですが、ガミラスのビーム砲と比較するとその一発の威力は巡洋艦クラスでも70~80%程度、地球艦と比較すると60%程度に留まります」

 

「それを補うための速射なのか」

 

「その通りです。”まずまずの威力のビームを矢継ぎ早に撃ち出し敵艦隊を制圧、手傷を負わせる”というのがガトランティスの根底にあるドクトリンなのでしょう」

 

 確かに、ガトランティス艦の砲撃の精度は特に劣悪であると防衛軍内部でも評判である。既に相当数の鹵獲したガトランティス艦が地球仕様へと整備され実戦配備されているが、改装を担当した南部重工の技術者たちは特に火器管制システム周りに対し酷評を続けているという。曰く『原始人が適当に組んだようなシステム』というレベルである、という評価は南部の耳にも入っていた。

 

 古代も太陽系外縁部で艦隊を率いて戦っていた際、幾度となく思ったものだ―――「躱そうと動いた方が被弾しそうだ」と。あの劣悪な命中精度は回転砲塔特有の構造に起因するものなのだろうが、こうしたソフトウェアの問題も命中精度という分野における足を引っ張っている可能性は否めない。

 

 無論、それは距離が離れていればの話であり、ひとたびガトランティス艦隊の接近を許してしまえばそこに待っているのは阿鼻叫喚の地獄、凄まじい速射を恐ろしい密度で叩き込んでくる敵艦隊の火力の本領発揮である。

 

 実際、ガトランティス艦隊との戦闘において壊滅的損害を被った艦隊の多くがガトランティス艦隊の接近を許してしまっており、それはガミラス側の戦闘データとも一致する事から、如何にガトランティス艦隊の接近を許さずに戦闘を推移させるかが勝敗を決める分水嶺である、と古代は結論付けていた。

 

「命中精度の劣悪さは無砲身ゆえの問題か?」

 

「いや、でもガミラス艦の陽電子ビームの精度が悪いなんて話は聞いた事が……」

 

「―――”大砲屋”として言わせてもらうと、砲塔を回転させるという設計そのものが抱えた致命的欠陥ですよ、コイツは」

 

 聞き覚えのある声に古代と島が振り向くと、やはり声の主は南部だった。人差し指でメガネをくいっと持ち上げながら歩み寄るや、信也が操作している装置のメインモニターにこれ見よがしに映し出されているククルカン級の映像を睨み、右舷へとビームを斉射しているククルカン級の砲塔を指さす。

 

「地球で鹵獲艦の図面を見た限りでは、得た動力の一部を大型のベアリングを介して砲塔を回転させていた……確かにビーム発振器の冷却と発砲を迅速化できるという点では画期的だが、稼働部品が増えるという事はそれだけ精度にも悪影響を及ぼす」

 

 小銃と同じですよ、と南部は続けた。

 

 南部重工で製造している製品は宇宙戦艦の主砲だけではない。家電からPC、そして古代たちが腰に提げている拳銃や空間騎兵隊が装備する小銃に至るまで、南部重工が手掛ける製品は非常に多いのだ。

 

 だから南部重工の御曹司でもある彼は、こういった兵器関連の知識に特に強い。

 

「1mm、1㎚程度の誤差でも着弾座標は大きくズレます。稼働部品が多くなればそれだけ誤差は大きくなるし、従来の砲塔とは違い大型のベアリングを用いている関係上、ベアリング自体の酷使による摩耗で旋回角度にまで誤差が生じる……という可能性もある。火力をばら撒くという運用に特化するならば理想的だが、遠距離ではまるで使い物にならない」

 

「手厳しいな」

 

「”大砲屋”としての評価ですよ、島さん」

 

 眼鏡越しに回転砲塔を見つめ、南部は続けた。

 

「俺はあまり好きじゃあないですね、コイツは」

 

 スマートじゃない、と南部は吐き捨てる。

 

 ガトランティス軍の兵器の運用思想は、地球ともガミラスとも大きく異なるものだ。

 

 これだけ広大な宇宙である。様々な文化を育み、様々な思想と信念の下に行動する、様々な価値観の種族が遍く大宇宙―――地球人たる彼らが理解できないものもまた存在するのであろう。

 

 だが、しかし。

 

 そうだと頭の中で理解していても、ガトランティスのそれは異質に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマト艦内の作戦会議室、その床面に広大な航路図が表示される。

 

 アステロイドベルトに恒星、崩壊した惑星のガス帯―――地球上での生活では決して想像できない大宇宙、その一角だけでもこれほどまでに多種多様な天体が存在している。

 

 生まれ来る星、死にゆく星、そして既に死んだ星の亡骸。

 

 しかしそのような光景は、会議室に集まった各部署の責任者たちの眼中には無い。

 

 大宇宙を、暗黒の海原を突き進む”白い闇”。

 

 ヤマトとテレザートの中間に鎮座する巨大な異物―――白色彗星へと、その視線が向けられている。

 

「司令部からの天体観測情報、そしてヤマトからの観測情報を照合した結果、このままの航路で進めばヤマトは8時間以内にこの白色彗星と遭遇、すれ違う事になる可能性が濃厚となった」

 

 白色彗星をマーカーでハイライト表示させながら、副長の真田がいつものように淡々とした声で事実を無駄なく告げた。

 

 白色彗星―――傍から見れば、宇宙を進む単なる天体に過ぎない。

 

 しかし古代は―――いや、テレサの声を聴いたヤマトの乗組員たちは、脳裏に焼き付いてしまったあの光景を思い起こさずにはいられなかった。

 

 テレサの声と共に見た夢。

 

 地球へと迫る白色彗星に立ち向かう波動砲艦隊。

 

 彗星の周囲に展開する、無数のガトランティス艦隊。

 

 ならばあれは只の彗星などではないのではないか―――胸騒ぎにも似た、上手く言語化できない嫌な感覚は古代の胸の中にずっと居座っている。

 

「この白色彗星の大きさは直径150000㎞。木星よりも大型の、過去の記録を見ても遥かに巨大な彗星だ」

 

「彗星の進路は、以前として地球へ接近するコースを?」

 

 何気なく古代が言葉を発すると、会議室に集まった全員の視線が古代へと向けられた。

 

 やはり皆、不安に駆られているのだ―――あの夢が正夢になるのではないか。この白色彗星はガトランティスの兵器か何かなのではないか。

 

 天体規模の兵器などあり得ない、と断じる者は、少なくともイスカンダルへの旅を経験した者の中にはいなかった。あの長大な旅路の中で、色々なものを目にしてきたからだ。ガミラスの技術の粋を注ぎ込んで生み出された兵器たち、亜空間ゲート、そしてアケーリアス文明の忘れ形見。

 

 だからむしろ、天体規模の兵器などあり得ないという思い込みの方が危険である、というのはヤマト乗組員全員の共通認識と化していた。

 

「白色彗星ノ軌道、依然トシテ変化ナシ」

 

 行キ先ハ地球デス、とアナライザーが告げると、古代は鳩尾の辺りに何か冷たく重苦しいものが沈み込んでいくような感覚を覚えた。

 

 結果は薄々勘付いている。しかし心のどこかでそれが何かの間違いであってほしい、未来が変わっていてほしい、と縋るように祈る思いがあるのも事実だ。

 

 そんな願いが、しかし冷酷無比な現実に少しずつ削られている。

 

「地球でも話したが、この白色彗星は通常の彗星とは大きく異なる特徴がある」

 

「例の彗星の尾の話ですね」

 

「そうだ。通常、彗星の尾は恒星や太陽から吹いてくる太陽風の風下へと伸びるが、この白色彗星にはそれがない。常に進行方向の逆側へと伸びている」

 

 すると、それまで話を黙って聞いていた空間騎兵隊の面々の中から、すっ、とヒグマの手を思わせる大きな腕が伸びた。

 

「どうぞ、斉藤隊長」

 

「あー、口出しするようですまねえが……この彗星の何がそんなに問題なんだ? さっきからどいつもこいつも深刻そうな顔をしやがって」

 

「……」

 

 古代も島も、口を噤む。

 

 言っても信じてもらえるはずがない―――『夢で見た』など。

 

「それについては今から話す。速河」

 

「はい、副長」

 

 真田の傍らに控えていた速河は、手にしていた端末の画面を何度かタップして床面のモニターに動画ファイルをアップロードした。

 

 モニターに新しいウィンドウが立ち上がったかと思いきや、ノイズの混じったい映像が表示される。画面の右下には日付のようなものが表示されているが、しかしその文字や数字は地球の文字ではない。

 

 ガミラス語だ。

 

「今から見てもらう映像は、数日前にガミラス側の調査船(・・・)が白色彗星と接触した際の映像だ」

 

 そう一言断りを入れると、速河にアイコンタクトして動画ファイルの再生を促した。

 

 映像はそれなりに編集が入っているようだった。ガミラス側として見せたくない部分(・・・・・・・・)の大部分はカットしているのだろう。映像と共に聴こえてくる低い声はガミラス語のままで、地球語への翻訳すら経ていない。

 

 慌てたような観測員の声と艦長の声。

 

 スラスターを吹かし、大型の調査船(・・・)が進路を反転する。何か不測の事態でも生じ、退避へ移ろうというのだろう。

 

 しかし彗星の発する重力に捕らわれたようで、調査船(・・・)は船体を軋ませながら彗星へと引き寄せられ始めた。

 

 船外カメラの後方映像に切り替わるや、白色彗星の表面を漂うガスの一部が、唐突に触手のように伸びるや、獲物を捕食しようとする蛸のように調査船(・・・)へと伸びてきたのである。

 

 ミサイルのようなものでガスの迎撃を試みる調査船(・・・)。艦長が何かを叫んだところで、映像は途切れた。

 

「……真田さん、あれはいったい」

 

「私にも分からん。が、あの彗星が単なる彗星ではない、という事はこれではっきりした」

 

「ちなみにあのガミラスの武装した……調査船(・・・)によると、彗星の重力危険域からは50宇宙キロほど距離を取っていたそうです」

 

「どういうことだ?」

 

 話を聞いていた土方艦長が、ここでやっと口を開いた。

 

「地球から送られてきた情報をそのまま信じるのであれば、彗星の重力危険域が広がった(・・・・)という事になりますが……」

 

 そうとしか考えられない。

 

 ガミラスの調査船(・・・)は彗星の重力に引き込まれないよう、彗星のサイズと重力から算出した重力危険域から50宇宙キロの距離から観測をしていたという事だろう。しかし唐突にそれが変化した事で彗星に引きずり込まれそうになった……そういう事である。

 

「有り得るのか、そんな彗星が」

 

「……”有り得ないなんて事は有り得ない”、そう思うしかなさそうです」

 

「いずれにせよ、今から8時間後にヤマトはこの彗星とすれ違う。可能な限り彗星の観測を行いデータを地球へと送る事になるが、各員警戒を怠らないように」

 

「白色彗星通過までの間、ヤマト、ムサシ、シナノの3隻は第一戦闘配備を維持。島、何かあっても良いように緊急ワープの準備はしておけ」

 

「了解しました」

 

 会議が終了し、会議に参加していた面々が足早に会議室を去っていく。

 

 自分も第一艦橋へ戻り、北野と交代して第一戦闘配備を発令しようと踵を返した古代は、最後まで会議室に残り白色彗星を睨んでいた土方艦長が、「”艱難辛苦”、か」と呟いたのを聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、なんでガミラスが白色彗星を?」

 

 おかしいじゃないですか、と言う南部の声に、太田も同調した。

 

「しかも武装してたんでしょう? ガミラスの連中、何か知ってるんじゃないですか。その白色彗星の情報を」

 

 実際のところどうなのか、古代にも判別は出来ない。

 

 だが、何かきな臭いというのは確かだった。

 

 地球から送られてきたあの映像は間違いなくガミラスが撮影したものだった。しかし何度見返して見ても、映像の前後に不自然にカットされたような編集の形跡が見られたし、言語もガミラス語のままだった。地球語に翻訳すらされていない。

 

 現在、映像は桐生に翻訳を依頼しているところだ。

 

「やっぱり、白色彗星ってガトランティスの兵器なんじゃないですかね」

 

「……」

 

 有り得るのだろうか、そんな事が。

 

 木星にも匹敵するサイズの”天体兵器”。

 

「きっとガミラスは何か情報を掴んでるんだよ……俺たち地球人の知らない何かを」

 

「噂じゃガミラスも波動砲艦隊を完成させたらしい」

 

「これ、ガトランティスとの戦いが終わったら関係悪化するんじゃないか」

 

「冷戦ってか……嫌だなぁ」

 

「私語は慎め、戦闘配置中だ」

 

 南部と相原に口頭で注意する古代ではあったが、しかしそんな彼も同じ思いだった。

 

 ガミラス地球駐留軍が波動砲艦隊を整備、完成させ実戦投入したという情報は、地球に残った彼の友人たちからの情報で既に把握している。

 

 地球とガミラスの関係は非常に危ういものだ。今はガトランティスという共通の敵を見ているからこそ辛うじて連携を取っているが、もしこの”ガトランティス戦役”が終わればどうなるか。

 

 再び地球とガミラスは、矛を交える事になるのではないか―――そう思わずにはいられない。

 

 そんな不穏な空気の漂う艦橋を、しかし雪の声が更に重々しいものへと変えた。

 

「あれ……?」

 

「どうした、雪」

 

「白色彗星が……消えた?」

 

「消えた?」

 

 そんな馬鹿な、と後ろを振り向く古代。雪も手元のコンソールを操作し再チェックを行うが、得られた結果は同じだったらしい。「間違いありません。白色彗星、反応消失」と報告する。

 

 木星規模の彗星が……消えた?

 

 レーダーの不調か、そもそも白色彗星など最初から存在しなかったのか。

 

 

 

 

 

 

 あるいは、白色彗星がワープでもしたのか。

 

 

 

 

 

 

 ぐらり、と足元の床が揺れるのを古代は確かに感じた。

 

 地震だろうかという思いを、そんな筈がないという常識的な思考がすぐに打ち消す。ここは宇宙であり、ヤマトの第一艦橋だ。地震で揺れるなどあり得ない―――しかしその揺れはまさに地震のそれだ。空間そのものが揺れているような、あるいは本来そこに存在しない、存在してはならない(・・・・・・・・・)ものが強引に捻じ込まれようとしている空間の悲鳴のようにも思えた。

 

「ぜ、前方12時方向……巨大なワープアウト反応!」

 

 雪の声に焦りが滲む。

 

「落ち着け雪! 規模は!?」

 

 土方艦長の声に、雪は声を震わせながら報告した。

 

「戦艦規模ではありません―――天体規模(・・・・)です!」

 

 そんな馬鹿な、と声を発する時間すらなかった。

 

 

 

 

 

 

 ヤマト、ムサシ、シナノの進路上。

 

 

 

 

 

 

 唐突に生じる、蒼い魔法陣を思わせる巨大な幾何学模様。

 

 

 

 

 

 

 リング状に広がったそれの内側に、唐突に生じる白い闇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、白色彗星―――ワープアウト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景は―――ヤマト乗組員全員の心を、折った。

 

 

 

 

 

 

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