さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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苦難の渦の中で

 

 ヤマト(ヤマッテ)です、という報告に、大帝ズォーダーはふと酒杯を煽る手を止めた。

 

 地球(テロン)侵攻の途上、テレザートへ向かっているというヤマト(ヤマッテ)とすれ違う可能性があるという情報は既に耳に入っていた。

 

 ガミラスを下し、赤く焼けた母星を救った地球(テロン)(フネ)ヤマト(ヤマッテ)

 

 武人の端くれとして、願わくば一度目にしてみたいものだという思いはあった。たった1隻でガミラスを叩き潰し、ゴラン・ダガームのグタバ遠征軍をも退けた宇宙戦艦ヤマト、その力は如何程か……と。

 

 玉座の間の真正面にある巨大なモニターに、突然目の前にワープアウトしてきた白色彗星に呑み込まれまいと回頭するヤマト(ヤマッテ)とその同型艦の姿が映し出されるや、大帝は酒杯をサーベラーに預けてその姿を目に焼き付けんとした。

 

 変わった形状の艦だった。

 

 遥か昔、海を征くための水上艦を思わせる形状に、主砲と塔状の艦橋、煙突を象ったと思われる構造物がある。そしてそれらを取り囲むように搭載されているのは、おそらく対空火器の類なのだろう。

 

 艦首に穿たれた開口部は、諜報部からの報告にあった例の”大砲”に違いない。

 

 おお、と幕僚たちが声を発した。

 

「なんと奇抜な(フネ)か」

 

「あれがガミラスを下したテロンの……」

 

「……」

 

 玉座に頬杖を突きながら、ズォーダー大帝はにやりと口端を吊り上げた。

 

 これも何かの”縁”か。

 

 それとも大宇宙の女神たるテレサの導きか―――。

 

「サーベラー」

 

「はい、大帝」

 

ヤマト(ヤマッテ)の力、ぜひ見てみたい」

 

 言うや、サーベラーは深々と頭を下げた。

 

 酒杯を傍らの兵に預け、玉座の間から下へと続く階段を降りていくサーベラー。やがて玉座の間の下層、パイプオルガンを思わせる巨大な鍵盤の前に立つや、その緑色の華奢な指を鍵盤へと走らせた。

 

 玉座の間に響く、荘厳な音色。

 

 無数の結晶で彩られた天井から漏れ出る光を浴び、ズォーダーは興味深そうにヤマトに視線を向ける。

 

ヤマト(ヤマッテ)……ガミラス(ガミロン)を下し、我がガトランティスの矛を打ち払いし地球(テロン)(フネ)。相手にとって不足なし」

 

 立ち上がり、両手を大きく広げた。

 

 

 

 

 

「さあ見せてみよ、ヤマト(ヤマッテ)。その力、その武勇! 持てる力全てをこの”ヴロド・ズォーダー”に示すがよい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが白色彗星……!」

 

 天体がワープする、という現象に前例はない。

 

 宇宙を征く国連宇宙軍、現在の地球防衛軍の一員にあって、宇宙戦艦ヤマトの戦術長の身分にある古代も、その事は把握していた。

 

 ガミラスとの戦争が終わり、両者の交流が始まってからというもの、極めて短期間の間ではあるが【天体も速度次第ではワープする事が可能である】という説が囁かれた事があった(のちにこれはガミラス側の学者により否定された)。

 

 それこそ人工のエネルギー炉でも搭載し、ワープシステムを備えた人工天体でもない限りは……。

 

「機関出力最大! 全力でこの宙域を離脱! 急げ!!」

 

 土方艦長の命令に、島も「転舵反転180度!」と応じるや、大慌てでヤマトのスラスターを吹かし回頭を始めた。

 

 ヤマトに倣うまでもなく、両翼を固めていたムサシとシナノの2隻も焼き付かんばかりの勢いでスラスターを吹かし急速回頭。メインエンジンのノズルから爆発しているかのような勢いで炎を吹き出し、全速離脱に転じる。

 

 如何に彗星といえど、重力の危険範囲というものがある。この木星以上のサイズの彗星であればそれに比例して重力危険範囲も広大で、重力そのものも更に強力である筈だが、逆に言えばそこに入ってしまわない限りは大丈夫だ。十分に距離を取り、彗星の進行ルートから外れさえすればやり過ごす事は容易である。

 

 そうどこか楽観的な考えの古代の希望を、しかしレーダーで重力観測を行っていた雪の報告が見事に打ち砕いた。

 

「重力危険域、増大中!」

 

「なに?」

 

 どういう事だ、と続けて問いかけたが、雪の返答を待たずにヤマトの船体が揺れ始めた。ごぉん、と装甲板の軋む音が艦橋の中にまで響き、隣の席ではすっかり硬くなってしまった操縦桿を島が必死で引き上げようとしている姿が見える。

 

「重力傾斜です!」

 

「馬鹿な」

 

 雪の報告が正しいのだとしたら―――それをそのまま受け取るとすれば、”彗星の重力危険域が広がった”という事になる。

 

 いくら天体とはいえ重力の影響が及ぶ範囲はほぼ一定で、それが変化する事などあり得ない筈だ。

 

 太陽風の影響を受けないガス帯といい、増大する重力危険域といい、この白色彗星は明らかに通常の彗星の特徴を逸脱している。

 

(やはりあの夢は―――)

 

 テレサが見せたあの夢は、未来の地球の光景だったのか―――古代は唇を噛み締めながら、とにかく現状を打破する糸口を探す事にした。現実に打ちひしがれていて事態が好転する事などないのだ。

 

 艦橋の窓の向こうでは、ムサシとシナノも同じように白色彗星の発する強烈な重力傾斜を受け、さながら荒れた海原に放り出された小舟のように翻弄されていた。エンジンノズルから炎を吹き出し、スラスターを全力噴射して姿勢制御に努めるヤマト、ムサシ、シナノの3隻だが、しかし今のところそれらの努力は全て徒労に終わっている。

 

「島、ワープはできないのか」

 

「無茶言うな!」

 

 半ば答えは分かり切っていたが、それでも古代は聞かずにはいられなかった。

 

「こんな重力傾斜の中でワープなんて、座標が定まらない」

 

「緊急ワープは!?」

 

「どこに飛ばされるか分からないんだ、古代!」

 

 分かってるだろう、と言外に告げた島の言う事ももっともだ。

 

 天体規模の、それも常軌を逸したレベルの重力傾斜に晒され、彗星に引き寄せられながらワープを強行すればどうなるか―――狙いの定まらないワープは誤差も大きく、ワープ空間を抜けたら全く別の星系だった、という事も考えられる(第一今の状況では座標が定まらないし、司令部からの誘導も期待できない)。

 

 行き先を定めぬ緊急ワープも同様だ。どこに出るか分からないし、この重力の嵐の中では誤差も大きくなってしまう。

 

 ならばどうすれば、と思考を巡らせたが、しかし彗星は待ってはくれない。

 

「彗星表面に変化あり!」

 

 雪の悲鳴じみた報告と共に、メインパネルに後方の映像が映し出された。

 

 渦を巻く白色彗星表面、純白のガス帯。

 

 その一部が、まるで意志を持っているかのように蠢くや、触手のようにヤマト艦隊へ向けて伸びてきたのである。

 

「真田さん!」

 

「いいや有り得ん、こんな彗星が宇宙に存在するはずが……!」

 

「艦尾魚雷発射管、並びに主砲3番、副砲2番砲撃用意! 目標、接近中のガス帯!」

 

 常軌を逸した現象と、津波の如く押し寄せてくる絶望。

 

 対応が後手に回り更に状況が悪化していく中、しかし土方艦長だけは顔色を全く変えなかった。

 

 沖田艦長とは違う、されど艦橋内によく響く声で命令を発する土方艦長。その声に突き飛ばされるように、古代も「第三砲塔、第二副砲、艦尾魚雷発射管、攻撃用意!」と復唱する。

 

「最寄りのガスから優先的に狙え!」

 

「撃ちーかたー始め!」

 

 ヤマトの後部艦橋に備えられた第三砲塔、そして第二副砲が火を吹いた。

 

 蒼い閃光を迸らせ、粘つくような重々しい音と共に放たれる合計6発のショックカノン。重力傾斜の影響を受け、捻じれながらも飛翔していったそれは後方から伸びてくる白色ガスの触手に命中するや、その腹をぶち抜いて断ち切り、接近を阻む。

 

 続けて放たれた艦尾魚雷発射管の対艦魚雷も負けじと駆け出した。排煙口から噴射炎を立ち昇らせ、発射管を威勢よく飛び出していった魚雷たち。南部の正確な照準もあってそれは百発百中に思えたが、しかしこちらはショックカノンのようにはいかなかった。

 

 狙い違わずガス帯に直撃した魚雷たち―――しかしそれが起爆し、ガスを断ち切るような事は起こらない。

 

 まるで消しゴムに消されたかのように、ガスと接触した魚雷の弾頭部がごっそりと消滅した(・・・・)のである。

 

 メインパネルの最大望遠で映し出されたそれを見て、第一艦橋のクルーたちは息を呑んだ。

 

「魚雷が……!」

 

「ガスに接触した部分が、消滅した……?」

 

 太陽風の影響を受けない白色彗星のガス帯。

 

 真田の分析でも、そして速河の解析でも明らかにそれは通常の成分のガスではない……むしろ”地球人の常識でいうガスではないのではないか”という仮説すら生じている。

 

 いったいあのガスが何なのか皆目見当もつかないが、分かっている事は一つだ。

 

 あのガスに捕らえられれば―――ヤマト艦隊も同じ末路を辿る、という事である。

 

「艦尾魚雷、近接信管から時限信管に切り替え!」

 

 南部に向かって命じるや、南部は眼鏡を指先で持ち上げながら復唱する。

 

 ガスに接触すると消滅してしまうなら、対応策は1つだ。魚雷を近接信管や接触信管から時限信管に切り替え、ガス帯に接触する直前で起爆するよう調整すればいい。

 

 ガスを爆風で吹き飛ばす要領だ。

 

 艦尾魚雷発射管から放たれた第二射は、再び伸びてくるガス帯の眼前に立ちはだかるように起爆した。いくら触れた物質を消滅させる彗星のガスでも爆風までを消し去る事は困難だったようで、暴風に煽られた煙のように吹き飛ばされ、ヤマト艦隊への接近を阻まれる。

 

 ムサシもシナノも、それに呼応するようにガス帯の迎撃を開始した。エアバーストモードに切り替えたショックカノンの空中炸裂弾がガス帯を薙ぎ、魚雷の爆風が触手のようなガスを断つが、しかしそれで状況が好転する筈がない。

 

「ダメです、このままでは呑み込まれる!!」

 

 操縦桿を握る島の悲鳴じみた報告に、しかし古代も危機感を募らせる。

 

 ガスを迎撃してこそいるが、ヤマトら3隻は着実に彗星に呑み込まれようとしていた。このまま迎撃を続けても、彗星の重力危険域から離脱できるだけの推力が足りないのだ。

 

 せめて何か推力の足しになるものがあれば―――。

 

「古代戦術長、この前みたいに波動砲を推力にして離脱すれば―――」

 

「無理だ、あのガスにやられるし、そうじゃなくてもエネルギー充填中に呑み込まれるぞ!」

 

 どうすれば、と南部が漏らしたその時だった。

 

 この前のように―――その彼の何気ない一言で、古代の脳裏に電気が走る。

 

「艦長」

 

 すっ、と戦術長の席から立ち上がり、艦長席を振り向いた。

 

 沖田艦長のレリーフと土方艦長―――二人の艦長の眼が、古代をじっと見つめている。

 

「意見……具申」

 

「……言ってみろ」

 

「―――ムサシの波動共鳴装置でエネルギー供給を受け、波動防壁に回す分のエネルギーを全て推力に回せば脱出が可能と考えます」

 

「正気か古代」

 

 隣に座っていた島が驚いたような顔を向けた。

 

「お前も見ただろう、あのガスを! ノーガードで逃げるっていうのか!」

 

「じゃあこのまま、あの彗星に呑まれる最期を座して待てっていうのか?」

 

「艦長」

 

 古代の感情が入り始めた声を制するように、真田の理性的な声が艦橋に響いた。

 

「この超重力はあの彗星からのものです。ムサシの波動防壁弾で一時的に重力傾斜を遮蔽できるかもしれません」

 

「確証はあるのか」

 

「シミュレーションをしてみましたが、少なくとも20~30%の重力傾斜は軽減できるはずです。防壁弾で背中を護りつつ、後方の迎撃とエネルギー供給をムサシが担当、シナノとヤマトの2隻でムサシを牽引すれば……」

 

 土方艦長に向けていた視線を古代に向けた真田。彼に向かって小さく頷くや、再び視線を土方艦長へと向けた。

 

「100%成功する確証はありません。が、私も古代の意見に賛成です。道半ばで座して死を待つよりは―――」

 

 艱難辛苦―――。

 

 ヤマトには今、大きな試練が降りかかっている。

 

 その航路は決して安全なものではないだろう。危険に満ち、死力を尽くさねば踏破できぬ荒れた海だ。

 

 人間の常識や道理など、その海では通用しない。

 

 だからこそ、苦難の中で足掻くのだ。

 

 それは機械には決して真似できない、人間だけの特権なのだから。

 

「―――艱難辛苦」

 

 視線を下に落とし、ぽつりと土方艦長は呟いた。

 

「苦難の中、死中に活を見出し足掻き続ける。いくら恥をかいても、足掻いて、足掻いて、一縷の望みに全てをかけて足掻き続ける―――それが人間の特権だ」

 

 ぎらり、とその眼孔に力が宿る。

 

 土方艦長の姿に、在りし日の沖田艦長の姿が重なったのを、古代は確かに見た。

 

 今にして思えば、それは彼が”艦長としてヤマトに認められた”瞬間だったのかもしれない。

 

「―――そしてこのヤマトは人間の(フネ)だ。ならばやるべき事は一つ、全力で足掻くぞ!」

 

「了解!」

 

 理不尽や困難が立ち塞がるならば、知力を尽くし、粉砕し、乗り越えていく。

 

 かつてのイスカンダルへの航海もそうだった―――ヤマトはいつだって、悪足掻きが得意な人間の(フネ)なのだ。

 

 

 

 

 

「相原、ムサシとシナノに作戦の詳細を伝えろ!」

 

 

 

 

 

 

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