さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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白き闇を越えろ

 

 艦尾の魚雷発射管から、立て続けに6発の魚雷が撃ち出される。

 

 排煙口から灰色の煙を噴き上げ、噴射炎をこれ見よがしに曳きながら飛翔していく6発の魚雷たち。やがて後端部のロケットモーターを切り離すや外装をパージ、中から躍り出たフィラメントに蒼い光を灯しながら回転して、逃げるヤマト艦隊の後方に蒼い光の傘を幾重にも生じさせる。

 

 波動防壁弾―――任意の座標に波動防壁を発生させる、地球の新たな力である。

 

「共鳴波、最大照射!!」

 

 ムサシの栗田艦長が命じるや、ムサシの艦首にあるハッチ―――その深部に搭載された波動共鳴装置が蒼い光を発した。装甲やハッチの繋ぎ目からも漏れてしまうほどの強烈な光、それに呼応するように防壁弾のフィラメントも一段と光を増し、圧倒的に巨大な白色彗星の前に立ち塞がる。

 

 白色彗星から伸びる純白のガスが、立て続けに波動防壁弾にぶち当たった。

 

 波動エンジンからのエネルギー供給と共鳴装置からの共鳴波を受け、文字通りの最強の盾と化した波動防壁弾。触れた物質を消滅させるとはいえガスの塊でしかないそれらが太刀打ちできるはずもなく、バヂン、とスパークが弾けるような音と共に接触したガスたちは霧散していった。

 

 ぐん、とヤマトとシナノが加速を開始する。

 

 2隻の姉妹艦とロケットアンカーで接続されたムサシもまた、前方へと大きく引っ張られ始めた。

 

 次の瞬間だった。ヤマトとシナノのメインエンジンが、まるで爆発したかのような噴煙を発したのは。

 

 ドン、と空間を振るわせるかのような轟音に爆発的な加速。

 

 波動防壁へのエネルギー供給すらカットして、波動エンジンからのエネルギー供給を全て推力に回した結果だった。ショックカノンという矛も、波動防壁という盾も全てを脱ぎ捨てたヤマトとシナノ。まさに乾坤一擲、やるかやられるかの大博打だった。

 

 いや、違う。

 

 これを”博打”などという確率の話にしてはならない。

 

 一か八かという不確定要素を、勝利という約束された未来へ繋げられるか否か―――それは全てムサシの働きにかかっている。

 

「主砲1番から3番、三式弾を装填! 弾種時限!」

 

「了解、時限信管!」

 

 栗田艦長の命令を受け、仁科戦術長が指示通りに主砲へと三式弾を装填していく。

 

 波動エンジンのエネルギーを全て共鳴装置に回さなければならないのはムサシも同じだ。ショックカノンの一発たりとも撃つ余裕はない。

 

 となれば攻撃の選択肢は自ずと三式弾となるが、実弾ではガスに接触した時点で消滅してしまう―――そうならないよう、時限信管の起爆タイミングを可能な限り短くし、あくまでも”爆風でガスを払う”ように迎撃しなければならない。

 

 ムサシ戦術長である仁科もまた、優秀な砲術員だ。

 

 宇宙防衛大学では『戦術の鬼』と呼ばれた事もあり、実戦ではなく訓練ではあるが、アマテラスの速河艦長が成し遂げた『ガミラス艦の同じ部位に砲火を集中しミゴウェザー・コーディングを貫通させる』という神業めいた芸当を、訓練中一度だけ成功させたことがある。

 

 そんな彼からすれば、接近中の攻撃目標の眼前で実弾を起爆させるエアバーストめいた砲撃など朝飯前だ。

 

「撃てぇー!!」

 

 ドドウ、とムサシの第一、第二、第三砲塔が吼えた。

 

 後方へ火を吹いた第三砲塔と、限界まで後方を旋回させ左右へ砲火を煌めかせた第一、第二砲塔。合計9発の三式弾が飛翔、波動防壁弾を回り込む形でヤマト艦隊を呑み込まんとする白色彗星のガスの鼻先で、砲弾が立て続けに起爆する。

 

 銃弾で障子を撃つようなものだった。撃ち抜いた、撃破したという手応えが感じられない。しかし撃ち漏らす事は絶対に許されない。一発でも撃ち漏らせばたちまちヤマト艦隊は全滅である。

 

「防壁弾、間もなく臨界点!」

 

「第二波、撃てぇ!!」

 

 白色彗星の重力傾斜を遮りつつ、怒涛の如く押し寄せるガスの前に立ちはだかり続けた6発の波動防壁弾。ヤマトをガミラスの執拗な攻撃から守り抜いた波動防壁、その技術を用いた最強の盾を以てしても、白色彗星を受け止めるには至らない。

 

 蒼い防壁の表面には亀裂が生じていた―――中にはフィラメントの一部が負荷に耐えかね断線、歪な形状となってしまった防壁弾も見受けられる。

 

 やがて白色彗星の超重力に引き込まれ、ガスの乱流の中で消滅していく波動防壁弾たち。そんな第一陣と入れ替わるかのように、第二陣が白色彗星の前に立ち塞がる。

 

「田村、共鳴装置は?」

 

「稼働率83%!」

 

 防壁弾が防いだダメージの分だけ、波動共鳴装置にかかる負荷とエネルギー消費は増していく。

 

 つまりただのビームやミサイルであれば問題はないが、これが火焔直撃砲のような大規模ビーム兵器となると、波動エンジンや共鳴装置に降りかかる負荷は相当なものとなるのだ。

 

 だだの一度の防御で17%の消耗。

 

 白色彗星の規格外さを痛感しながらも、栗田艦長は艦橋の窓に見えるヤマトの後ろ姿を見た。

 

(頼むぞヤマト……シナノ……!)

 

 テレザートに行けるかどうか。

 

 その全ては、この難関を越えられるか否かにかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重力傾斜、72%に減少!」

 

 雪の報告に、古代も真田も胸を撫で下ろしていた。

 

 推測の通りだ。ムサシが発射した波動防壁弾が、彗星の発する重力傾斜を遮ってくれている。さすがに完全に遮蔽しているわけではなく、ヤマトもムサシもシナノも未だ彗星の重力影響圏にあるが、28%も重力傾斜が軽減されているのは大きい。

 

 防御すらもかなぐり捨て、推力のみに全振りしたヤマトとシナノの全力噴射もあって、ヤマト艦隊3隻は順調なペースで白色彗星から距離を離しつつあった。

 

 あとはこのまま重力圏を離脱、ワープ可能宙域に到達次第ワープするしかない。

 

「雪、今のうちにワープ可能宙域の確認を!」

 

「了解!」

 

「ガスガ来マス、ガスガ来マス」

 

 電子音を発しながら囃し立てるアナライザー。報告を聞くまでもない、白色彗星から伸びた触手のようなガス帯が、ムサシの波動防壁弾を上下左右から回り込む形で接近している。

 

「主砲三式弾、撃てぇー!」

 

「撃てぇー!!」

 

 南部の復唱と共に、ヤマトの―――そしてシナノにも搭載された48cm砲が火を吹いた。

 

 エネルギー伝導のほぼすべてを推力に回しているのだ、ショックカノンは使えない。

 

 だからこそ、こういう時に波動エネルギーを必要としない三式弾が役に立つ。

 

 時間断層内で改装を受けたヤマトは、艦内構造についても手が加えられていた。

 

 元々、2199年のイスカンダルへの航海の際、三式弾を使用できるのは第一、第二砲塔に限られていた。これは船体前部にある弾薬庫の配置の問題で、第三砲塔も使用できない事はないが、そうなれば重く大きな砲弾を居住区画を突っ切る形で第三砲塔まで運搬するしかなく、運用に大きな制約を抱えていたのである。

 

 しかし今回の大改装で、また以前のような長期航海を想定する必要が薄くなったことを受け、真田主導で船体後部の居住区画を削減。確保したスペースに第三砲塔用の弾薬庫を設置する事で、第三砲塔でも主砲三式弾の運用を可能としていた。

 

 後方への砲撃が必要になる場合、その多くが敵から逃げながらの戦闘になる筈だ。

 

 万一、それがエンジンに問題を抱えていたり、損傷を修理しながらの撤退戦となった場合、波動エネルギーを用いない攻撃手段は艦尾の魚雷発射管しかない、という事になってしまう。

 

 その問題は真田も古代も把握しており、南部の強い後押しもあって改装で実現したという経緯があった。

 

 居住区画を削ってまで捻じ込んだ弾薬庫が、早くも役に立った瞬間である。

 

 大蛇の如く迫りくるガス帯の鼻先で起爆した三式弾が、爆風と破片を周囲に撒き散らす。

 

 破片はガスに触れた途端に消滅してしまったが、しかし物質ではない爆風はどうしようもない。衝撃波にガス帯が吹き飛ばされ、ねじ切られ、大穴を穿たれて霧散していく。

 

「重力傾斜範囲外まで、あと15宇宙キロ!」

 

「堪えろ……堪えてくれ、ムサシ……!」

 

 祈るように声を絞り出す古代。

 

 ヤマトとシナノの盾になりつつ、最後尾で曳航されながらも決死の迎撃戦闘を試みているムサシは、まさに獅子奮迅の勢いで砲火を発していた。

 

 砲塔を可能な範囲で全て後方へと向けるばかりか、ヤマトと異なり副砲の代わりにミサイルのボックス型ランチャーを持つムサシはそれからミサイルも発射して、ガスの迎撃に勤しんでいる。

 

 波動防壁弾が臨界点に達するやすぐに次の防壁弾を矢継ぎ早に撃ち出しつつ、熾烈な砲火で彗星のガス帯の接近を許さない。

 

「あと10宇宙キロ!」

 

 シナノの放った三式弾の爆風が、接近中のガス帯をど真ん中から断ち切った。

 

 霧散するガスが、太陽と白色彗星の輝きを反射してダイヤモンドダストのように輝く。

 

「あと5宇宙キロ!」

 

「島、ワープ準備!」

 

「了解!」

 

「ガスが来ます!!」

 

 メインパネルを見上げた古代は、背筋に冷たいものが走る感覚をはっきりと感じた。

 

 今までは小手調べだったのだろうか―――背後に迫る白色彗星が大きく広がったかのように錯覚してしまうほどの量のガスが、津波のように背後から迫ってくるのである。

 

 ガスの濁流がムサシの防壁弾を一気に呑み込んだ。すぐさま波動防壁弾を続けて発射、展開するムサシだったが、その一瞬の空白の間に重力傾斜が強まり、ぐんっ、とヤマト、ムサシ、シナノの3隻が後方へと引っ張られてしまう。

 

 遅れを取り戻すように加速するヤマトとシナノ。メインエンジンが焼き付かんばかりの炎を発し、全長333mの巨体を前へ前へと押し出していく。

 

 やがて―――白い闇が、晴れた。

 

「重力傾斜、離脱!」

 

「ワープ!!」

 

 号令と共に、島が操縦桿を一気に引き上げた。

 

 前方に生じる黄金の空間の裂け目。メインエンジンが発する炎が朱色から蒼へと転じるや、ワープのタイミングを同期させていたヤマトとシナノがまるで亜空間へと吸い込まれるように一気に加速。それに曳航されていたムサシも、急激に加速に転じる。

 

 やがて、3隻のヤマト級の舳先が亜空間へと飛び込んだ。

 

 暗く、さながら深海を思わせる亜空間。時間の流れも、物理法則もあらゆるすべてが通常空間と異なる亜空間のトンネルを、3隻のヤマト級が突き進んでいく。

 

 ヤマトたちが亜空間へと飛び込んだ直後―――白色彗星のガスが、数秒前までヤマト級3隻のいた空間を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤマト(ヤマッテ)、空間跳躍しました」

 

 観測員の報告に、ズォーダー大帝は驚いたような顔をした。

 

 白色彗星の超重力と重力傾斜、そして”対消滅エネルギー”を用いた白色彗星のガス帯。これまであらゆる星を砕き、呑み込んできた絶対的な力―――それを、地球(テロン)という辺境惑星の、それもたった3隻の宇宙戦艦が振り切って逃げ切るなど、これまでそのような事が果たしてあっただろうか。

 

 いや、ない―――ガトランティスの実に5万年続く永い歴史の中で、この白色彗星から逃げ切った宇宙戦艦など前例がない。

 

ヤマト(ヤマッテ)め、尻尾を巻いて逃げおったか」

 

「違うぞラーゼラー」

 

 ワープして逃げ切ったヤマトを嘲るように言ったラーゼラーに、すかさずズォーダーは反論した。

 

「我が帝星ガトランティスとの戦力差を見極め、逃げの一手を打った……そして目論見通り逃げおおせたのだ」

 

「は……」

 

「確かに背を向けて逃げる事は恥、戦士の風上にも置けぬ。しかし彼奴らは戦力差を把握したうえで逃げの一手を打ち、その通りの結果を手繰り寄せた……戦としては我らの勝利だが、戦略的にはヤマト(ヤマッテ)の勝ちだ」

 

 大帝が―――相手を認めた。

 

 パイプオルガンの演奏をやめ、酒杯を手に玉座へと続く階段を上りながらサーベラーはその事に驚いていた。

 

 ガトランティスの全能なる大帝、”ヴロド・ズォーダー”。生粋の武人であり祖先の代から続くガトランティスの伝統を受け継ぐ彼は、勇猛果敢な戦士には身分に関係なく最大限の経緯を払う。

 

 デスラーがそうであったように、だ(そうでなければ大帝自ら玉座を降り、同じ座に立って話をするような真似はしない)。

 

 それを、それと同じ感情を、大帝はヤマトにも抱いている。

 

「―――面白いとは思わぬか、サーベラーよ」

 

「はい、大帝」

 

 酒杯を受け取るなり、ズォーダーは酒を一気に飲み干した。

 

地球(テロン)、そしてヤマト(ヤマッテ)。我がガトランティスの相手に不足なし」

 

 血沸き肉躍る、とはまさにこの事だろう。

 

 これまでの侵略は些か退屈だった。どの相手もガトランティス相手にあっさりと瓦解するばかりであり、こうして玉座に座り酒を呷るばかりの毎日には飽きていた大帝。しかし今の彼の目には輝きがある―――爛々と滾る闘志の具現が。

 

「サーベラー」

 

「はい、大帝」

 

「今日は気分が良い。ありったけの酒と肉、それから歌い手を用意せい。手の空いている戦士たちも呼べ、宴の準備をせよ」

 

「はい、直ちに」

 

 サーベラーは思った。

 

 ”こんなに楽しそうな大帝の顔を見るのは初めてだ”、と。

 

 

 

 

 

 

 

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