さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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新たな航海

 

 艦橋から前部甲板を見下ろすと、その変化の大きさにはすぐに気付く。

 

 ヤマトの特徴ともいえる主砲―――48㎝陽電子衝撃砲の3連装砲塔、その形状が変わっているのだ。以前の角張った形状から、緩やかに丸みを帯びた追加装甲が搭載されていて、その形状は太平洋戦争末期に沈んだ戦艦大和のよう。

 

 第二、第三砲塔の上部にはパルスレーザー砲塔が追加装備されていて、以前よりも濃密な弾幕を張る事ができるようになっていた。

 

 対空戦闘と言えば、七色星団での戦いを古代は真っ先に思い出す。あの時ヤマトが苦戦を強いられ、大きな損害を出したという実例があるからこそ、アンドロメダ級以降の艦艇では対空兵装が一新されたのだという。

 

 より発達したミサイルシステムに対空兵装、レーダーとより密接にリンクした対空戦闘システム―――ヤマトの場合は、対空兵装を増設して対処するしかない、というのが実情ではあったが。

 

 艦橋に上がってくるまでの間、古代は真田からざっくりとした改装の内容を聞いていた。主砲への追加コンデンサの搭載による威力、射程の向上、レーダーの近代化、そして煙突のようにも見える8連装ミサイル発射塔を改造した複合ミサイルシステム、更には対亜空間兵装の追加装備……イスカンダルへの航海で判明した弱点を補いつつ、更に強みを伸ばした改装である。

 

 しかし古代の顔には、苦い表情が浮かんでいた。

 

 それは真田の話が、通常兵装の話から波動砲の話に移り変わった時から一層苦みを増したようにも、隣を歩いていた島の目には見えていた。

 

 波動砲の再装備―――しかも搭載されているのは、アンドロメダ級の建造で培われた技術をフィードバックし、より効率化しつつ大口径化を成し遂げた新型波動砲。さすがに拡散波動砲との撃ち分けは出来ないが、それでも加害範囲は大きく広がり、ある程度ならば艦隊への攻撃にも投入できるという。

 

 第一艦橋へ上がって来るなり、真田は真っ先に自分の席へと向かった。今日、わざわざ時間断層の下層にまで古代と島を呼びつけたのは改装後のヤマトの姿を2人に見せるためではない。

 

 古代が言った”夢”について、見せたいものがあるからだ。

 

「ヤマトが改装のため、時間断層入りした時から、断続的に不明なデータを受信していた」

 

「不明なデータ?」

 

 聞き返す島に頷きながらも、真田は手慣れた手つきで自分の席にあるキーボードを弾く。

 

 受信したデータはいずれもノイズだらけだった。顔をしかめたくなるほどの電子的な不協和音が再生され、古代も島も不快そうな顔を浮かべる。

 

「最初は何かの異常か、あるいはバグかと思っていた。ヤマトの改装はハードウェアの面だけでなくソフトウェアの面にも及んでいる。火器管制や通信システムの異常かと思って、すぐには削除せず保存し調べていたんだが……」

 

 データの受信履歴の一覧が画面に表示される。1日おきに、しかも時間は決まって午前2時から3時までの間に、ヤマトへと送信されているようだった。

 

 そしてその履歴の羅列は、古代が例の夢を見た日を境にぴたりと止まっている。

 

 これは、と古代が漏らすと、真田は顎に手を当てながら頷いた。

 

「古代の話を聞いた後、私も不振に思ってな……このノイズのような音声を並べ替え、1つにまとめてみた。それがこれだ」

 

 別のウィンドウを開き、真田はその中に1つだけ保存されていた『Unknown:01』とタイトルのついた音声データを再生する。

 

 

《―――私は、テレサ。テレザートのテレサ》

 

 

 スピーカーから流れる女の声に、古代の背筋が冷たくなった。

 

 あの時の声だ。あの、白色彗星が迫ってくる夢の中で、古代に何かを伝えようとしていた女の声―――テレザートのテレサ。

 

 続けて聴こえてくるのは、あの夢の中で聞こえたものと同じだった。ノイズ交じりで途切れ途切れの、何かを伝えようとしている声。

 

「夢で聞いた声と同じだ……」

 

「うむ。それで、データの送信元も調べてみたんだが……」

 

 慣れた手つきでキーボードを弾くと、メインパネルにマップが表示された。地球がアップで表示されたかと思いきや、段々と小さくなっていき、代わりに緑色の線が宇宙の彼方へするすると伸びていく。

 

 やがて、ある惑星のすぐ近くでその線はぴたりと止まった。

 

「ここだ」

 

 ヤマトに対し、謎のデータを送信し続けた惑星―――メインパネルにズームアップされたその惑星の美しさに、古代と島は息を飲む。

 

 地球やイスカンダルと同じように、蒼く美しい水の星だった。いや、陸地の面積は地球よりも更に少ないのだろう。惑星のほぼ全域が、蒼い海に覆われている。

 

 気のせいか、あるいは目の錯覚か―――ほんの一瞬ばかりではあるが、古代にはその惑星を背景に、天へ祈りを捧げる乙女の幻影が見えた。

 

「おそらくだが、ここが惑星テレザートなのだろう」

 

「その……データを送ってきたテレサとかいう女は、こんなデータを送って何を?」

 

「彗星がどうとか言ってましたよね」

 

「うむ……そこも気になってな。ガミラス人の”友人”にも頼んで、天体のデータを色々と取り寄せてもらったんだが」

 

 ガミラス戦役から4年……今では地球とガミラスは同盟国だが、しかし被害者と加害者、という意識は僅か4年で拭い去れるものではない。形ばかりの同盟、と揶揄する者も少なくはない関係の両国ではあるが、しかし時間が経てば新たな関係が構築されるものでもある。

 

 古代にも、ガミラスに友人は居る。七色星団では敵として戦い、惑星シャンブロウの一件では味方として共闘した、元ドメル戦闘団所属のフォムト・バーガーもその1人だ。

 

 昨年の合同演習で、幸運艦ランベアを率いて地球にやってきた時の事を思い出す。

 

 そういった複雑な関係の”友人”が真田にもまた居るのだろう。彼の言う友人という言葉が、本当の意味で気を許せる親しい人間という意味なのか、それとも彼なりの皮肉を込めた表現なのかは、あまり感情を表に出さない真田の顔からは推し量る事は難しいのだが。

 

 データを追加入力すると、再びメインパネルに投影されていたマップが縮小し始めた。

 

 地球と惑星テレザートを結ぶ緑色の線をそのままに、新たに白い物体が追加で表示される。

 

 島と古代は息を飲む。

 

 彗星だ。

 

 真っ白なガスを纏う、白色彗星だ。

 

「真田さん、これはまさか……!」

 

「ああ、そうだよ古代。私たちが夢で見たあの彗星に違いない」

 

 宇宙を突き進み、あらゆる星を蹂躙し続ける謎の巨大彗星。

 

 そして、その彗星と共に姿を現すガトランティスの大艦隊。

 

 この2つに何か関係があるのか、と古代は思う。考えてみれば、ガトランティス艦隊と交戦した宙域はどれもこの彗星の進路上に広がる宙域ばかりで、彼らは彗星が接近してくるであろう方角から太陽系へと攻め入ろうとしているようにも思える。

 

 あの彗星はガトランティスの兵器なのか、それとも……?

 

「それに、この彗星にもおかしな点がある」

 

「おかしな点?」

 

 問いかける古代に対して、隣で考え込む島の方は何となく答えを察している様子だった。

 

 かつてヤマトの舵をとった男である。艦の運行に大きな影響を及ぼす天体や星系の環境については人一倍敏感という事もあるのだろう。イスカンダルへの大航海で鍛え抜かれた島の感覚は、今まさに正鵠を射抜かんとしていた。

 

「彗星の尾が真後ろに伸びてますね」

 

「なんだって?」

 

「古代、あの太陽のある位置を見ろ。彗星から見て何時方向だ?」

 

「……3時方向にある」

 

 答えると、腕を組んでいた真田も首を縦に振った。

 

「通常、彗星のガスというのは太陽から吹く太陽風の影響を受け、太陽のある方向とは逆方向へ伸びるものだ。だから通常なら、この彗星の尾は9時方向へと向かって伸びる筈なのだ……しかしこの彗星はどうなっている?」

 

「……まさか、太陽風の影響を受けていない?」

 

 彗星の進行方向から見て右側に存在する太陽。しかし、白色彗星の尾は太陽風の影響を全く受けていないのか、進行方向の後方へと真っ直ぐに伸びている。

 

 2人からの説明を受け、古代は改めてその彗星の異質さを感じ取った。

 

「ガスの成分が原因なのか、テレザートの太陽が通常の太陽と異なるのか―――あるいは、この彗星が異質なものなのか、それは分からない」

 

「この彗星は地球に向かっているんですか?」

 

「ああ、観測データではそうなっている。しかも限りなく光に近い速度で、だ。しかし地球圏へ到達するのは今から1万年以上も先になる」

 

 ワープでもしない限り遥か先の事だ、と真田は付け加える。

 

 あの夢さえ見ていなければ、その一言で安心できた事だろう。

 

 テレザートのテレサが、ヤマトの乗組員にのみ見せた夢。地球へと向かう彗星、それを迎撃する地球艦隊―――古代と島は、どうしてもこの彗星が今回の一件とは無関係とは思えなかった。

 

「テレサは、この彗星が宇宙の脅威になると言っていた」

 

 そしてそれは、ヤマトの乗組員にのみ伝えられている。

 

「私たちは―――ヤマトは呼ばれているのかもしれん」

 

 顎に手を当てながら、真田は呟く。

 

 真田が技術顧問として改装を手掛けたのはヤマトだけではない。同型艦であるムサシ、シナノの改修に留まらず、アンドロメダ級の6番艦『アークトゥルス』、そして7番艦『アレス』の建造にも関わっている。

 

 技術顧問という職業柄、機密に触れる部分には多く関わっている真田だが、他の艦の通信記録にはヤマトのような不明なデータの受信履歴は無いし、誰かに消去されたという形跡もない。

 

 そう、ヤマトだけだ。

 

 このテレサからのメッセージは、ヤマトにのみ送られているのだ。

 

「俺たちは行くべきじゃあないんですか、ここへ―――テレザートへ」

 

「落ち着けよ、古代」

 

 メインパネルに投影される惑星テレザートを指差しながら言う古代を、慎重な性格の島が窘めた。

 

「言いたいことは分かる。だが、ヤマトの通信記録と乗員だけが見た夢を根拠に行くつもりか? そんな事で防衛軍の上層部が出撃許可を出すと思うか?」

 

「それは……」

 

 十中八九、許可しないだろう。

 

 単なるオカルト話として処理されるだけだ。

 

 それに、今の地球防衛軍は戦力にあまり余裕がない。時間断層をフル活用して戦力増強を図っているが、軍が要求する戦力の規模に供給が全く追い付いていないのである。

 

 ガミラス戦役で運用されていた旧式艦艇の製造ラインを再稼働させて近代化改修し、戦力に加えるべきという意見まで出ている始末である(もっとも、部品の供給や整備性の面から複雑化を招くという理由で却下されているが)。

 

 慢性的な戦力不足に喘ぐ地球が、たった1隻の艦とはいえヤマトを自由に行動させるとは考えにくい。

 

 2ヵ月後、木星宙域でアンドロメダを総旗艦とする地球艦隊の大規模演習が予定されている。それにはアンドロメダ級の同型艦『アルデバラン』、『アポロノーム』、『アキレス』、『アンタレス』、『アークトゥルス』の他、ドレッドノート級20隻が参加すると聞いている。

 

 そしてそれに、改装を終えたヤマトも参加する事となっている。

 

「私は古代の意見に賛成だ」

 

「真田さん!」

 

「技術者として非合理極まりない事を言うが……はっきり言って根拠はない。以前の私であれば考えられない事だ。だが、我々はあの夢を見せられ危機感を抱いている」

 

 一番反対しそうだった真田の後押しを受けた当の古代は、驚きの表情を浮かべていた。

 

 それもそのはず、真田は技術者でもある。論理的に物事を考え、精密機械の如く答えを導き出す事を信条としている。だから古代とも、その兄の守とも真逆のタイプの人間だった。

 

 そんな彼が、根拠はない、というありえない言葉を発しつつも古代の意見に同調してくれた事が、何よりも意外だった。

 

 あの日―――テレサが見せた夢によって植え付けられた危機感は、ヤマトの乗組員たちの中で着実に芽吹きつつある。

 

「分かっていると思うが、2人をここに呼んだのはどうするかを決めるためだ。本当にテレサが呼んでいるとして、なぜ我々とヤマトなのか。そして、これから我々はどうするべきか。2人の意見を聞きたい」

 

「行くべきです」

 

 真田からの問いかけに即答したのは古代だった。

 

「相手が誰だろうと、俺たちは行かなければならない。テレザートに行って、確かめなければならない。地球が直面しようとしている危機を明らかにしなければならないし、もしこれが救難信号だというならば、俺たちも救いの手を差し伸べなければならない」

 

 イスカンダルが地球にそうしたように、という言葉を、古代は吐き出す寸前に飲み込んだ。

 

 今回の航海で波動砲を使わない、という保証はない。ヤマトが出撃したとなれば、進行方向はこの白色彗星の向かってくる方角だ。何故か彗星と共に現れるガトランティス艦隊と、九分九厘砲火を交えることになるだろう。

 

 そうなった時、波動砲無しで乗り切れるという確証が、古代には無かった。

 

 イスカンダルのように救いの手を差し伸べる―――しかしそれは、約束を反故にする事を意味していた。

 

 重く苦しい十字架が心を苛むのを感じながら、古代は苦々しく吐き出した。

 

「……もし沖田艦長が居たら、同じことを言っていた筈だ」

 

「軍が出撃を許可しなかったら?」

 

「その時は反乱を起こしてでも行くさ」

 

「古代、お前……!」

 

 何かを言いかけた島だったが、しかし彼はそれを言葉にはしなかった。引き下がるように言葉を呑み込み、親友を止められない事を恥じるような表情を浮かべる。

 

「……もしそうなら、本当に反乱を起こすつもりなら、俺はテレザートへは行けない」

 

「島……何を言うんだ、島。ヤマトを動かせるのはお前しか……」

 

「分かってる、分かってるんだ。でもな古代、分かってくれ……俺には家族がいるんだ。母さんと弟の事を考えると、一緒には行けない」

 

「島……」

 

 すまない、分かってくれ、と苦々しく言い残した島は、古代の制止を振り切って踵を返した。そのまま艦長席の脇にあるエレベーターの乗り込み、第一艦橋を出て行ってしまう。

 

 島、と親友の名を小さく呼ぶ古代の肩に、真田は手を置いた。

 

「仕方がないさ、あいつにも事情がある」

 

「真田さん……」

 

「私はお前の意見に賛成する。テレザートに行くというのならば、こちらも出来る範囲で手を回しておこう」

 

「……ありがとうございます」

 

 そう言いながらも、古代の視線はヤマトの操縦席へと向けられていた。

 

 古代の席の右隣。

 

 いつも親友がそこに座り、ヤマトの舵を握っていた場所。

 

 しかし―――テレザートへの航海に、彼は来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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