さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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猛将ゴーランド

 

 乱れる呼吸を整えながら、少年は腰を落とした。

 

 汗ばむ手で剣をぎゅっと握り、まるで獲物に狙いを定めた肉食獣の如く一歩を踏み込む。

 

 ギャリッ、と握った剣の切っ先が微かに地面を擦り、相対するガトランティスの巨漢―――鉄仮面と鎧に身を包んだ戦士もまたそれを迎え撃たんと剣を振り下ろす。

 

 ガンッ、と派手に双方の剣がぶつかり合った。火花が散り、ガツン、と強烈な衝撃が少年の腕の骨を突き抜け、感覚を痺れさせていく。

 

 鍔迫り合いになった途端、早くも少年が押され始めた。

 

 無理もない話だ。

 

 少年の身長は170㎝ほど、体格は筋骨隆々とは言えないにしても引き締まっており、戦うために必要な筋肉はしっかりと付いている。それはまさに鞘に収まった剣の如きしなやかさで、無駄の一切を削ぎ落した理想的な体格をしている。

 

 それに対して、相手の戦士の体格は身長2m超えの、さながらヒグマのようであった。

 

 ガトランティス人に巨漢は多い。むしろ、体格ががっしりとした戦士であればある程良いという風潮がガトランティス内には存在し、そういう文化的背景も踏まえて言うならば、少年よりも相手の戦士の方がガトランティス的には理想の戦士と言えた。

 

 そんな強大な相手を前に、しかし少年の心にはガトランティス人らしからぬ感情があった。

 

 『(おそ)れ』だ。

 

 ―――怖い。

 

 相手が恐ろしい。

 

 殺されるかもしれない。

 

 あんな大柄な相手に、力任せに剣を振るわれでもしたら―――そんな心の内が、少年の剣にも表れていた。

 

 そしてその内心は、数多の戦場を渡り歩いてきた歴戦の戦士には見抜かれていた。

 

 鍔迫り合いに押し負け、一気に押し込まれてしまった少年。このまま押し切られてなるものかと剣を斜めにして相手の剣身を滑らせ、乾坤一擲の反撃を試みる。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ギャギャギャッ、と火花を発しながら滑っていく剣を追い抜くように前に出た少年。

 

 

 

 

 

 しかし少年を迎え撃ったのは、巨漢の放った左の拳だった。

 

 

 

 

 

 ゴッ、と頭を金槌で殴られたような衝撃に、あるいはヘラジカを一撃で叩き殺すグリズリーの如き攻撃に、まだ成長の余地を残す少年の身体で耐えられる筈もない。頭を大きく揺らしながら背中を地面に叩きつけてゴロゴロと転がるや、地面から突き出た岩にぶつかってやっと止まった。

 

「がっ」

 

「―――そこまでぃっ!!」

 

 剣を杖代わりにして起き上がろうとする少年―――”ノル・ゴーランド”を、高らかに放たれた声が遮る。

 

 反撃に打って出ようとしていたノルの身体が、まるでスイッチを切られた電気機器のようにぴたりと止まった。

 

 左手で鼻から零れ落ちるオレンジ色の血を強引に拭い去り、声のした方へと視線を向けるノル。

 

 そこに立っていたのは先ほどまで手合わせしていた戦士ほどではないものの、がっちりとした体格の壮年の男性だった。兵士が身に纏う甲冑の上にガトランティスの戦士長クラスにのみ支給されるコートを羽織り、腰にはジャンビーヤのように大きく曲がった短刀の鞘がある。

 

 眼光はこれ以上ないほど鋭く、先ほどのヒグマのような戦士とはまた違った恐ろしさがあった。

 

 腕を組み仁王立ちしていた男―――”ザイレム・ゴーランド”は己の息子の不甲斐なさに呆れるような顔をしながらノルの傍らへ歩み寄るや、剣を鞘に収めたばかりのノルの肩に手を置き顔を覗き込んだ。

 

「ノル、何だ今の腑抜けた剣は!?」

 

「も、申し訳ありません、父上……!」

 

「大方、ザバイバルの事が恐ろしくなったのであろう!?」

 

 図星だった。

 

 やはりそうである―――内心というものは、握った剣に現れるものだ。『時に剣とは口よりも遥かに雄弁である』という諺がガトランティスにはあるが、まさにその通りである。

 

 ノルの抱いた畏れは、確かに剣に現れていた。

 

「貴様それでもガトランティスの戦士か!? 恥を知れ恥を!!」

 

「申し訳ありません!」

 

「よいか、貴様はいずれこの”ゴーランド”の名と艦隊を受け継ぐのだ。栄えあるガトランティス最強のゴーランド艦隊、その頭目が腑抜けとあっては大帝のお顔に泥を塗る事になるのだぞ!?」

 

「はっはっは、ゴーランド様。その辺にしてあげてくだされ」

 

 豪快に笑いながら助け舟を出したのは、先ほどまでノルと剣を打ち合っていた巨漢の戦士―――”ザンツ・ザバイバル”。

 

 ゴーランド一族に古くから仕えているザバイバル一族の現当主にして、ガトランティスの中でも勇猛果敢と名高い”ザバイバル陸戦師団”の指揮を執る猛将である。

 

 多くの戦場を共にしてきた旧友にして古強者、その実力はゴーランド自身も良く知っている。

 

「確かに弱腰ではありましたが、ノル殿は少しずつ力を付けておられます。一歩一歩、着実に父親たるゴーランド殿の背中に追い付いております故―――」

 

「ふん……この調子では俺が先に老人になってしまうわい」

 

「……」

 

 突き放されるように父に言われ、ノルは視線を足元の地面に落とした。

 

 彼にとっての人生とは、父の跡を継ぐ事だ。そして栄えあるガトランティスの戦士として、宇宙最強のゴーランド艦隊を受け継ぎ大帝のために奉仕する事。それがこの大宇宙に生まれた命の使い道であると、ノルは考えている。

 

 しかし―――理想は高くとも、それを実現するのはどれだけ難しい事か。

 

「ノル」

 

「……はい、父上」

 

「……踏み込みは以前よりも鋭くなっていた。後はもう少し腰の捻りと体重移動を覚えろ。そして何より臆するな。そうすれば貴様もよい戦士となるだろうよ」

 

 振り向きはせず、しかし背中を向けたまま語る父の言葉に、ノルは―――若きゴーランドは顔を上げた。

 

 父たるザイレム・ゴーランドはとにかく厳しい男である。他の戦士たちにも厳しいが、息子であるノルには人一倍厳しい。褒められたことなど、片手で数えられるくらいだろうか。

 

 そんな厳格な父親が少しだけ認めてくれたという事は、打ちのめされ崩れかけていた自尊心を回復させるには十分すぎた。

 

「ありがとうございます、父上!」

 

「ふん、せいぜい励むがよい」

 

 そう言い残し、ゴーランドは2人の元を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらずお厳しいですな、ゴーランド殿」

 

「そういう貴様は俺の(せがれ)に甘すぎる」

 

 ゴストーク級ミサイル戦艦の艦橋に用意された椅子に座りながら酒杯を突き合わせ、ゴーランドとザバイバルは一気に酒を呷った。喉が焼けるほどの強烈なアルコールに、身体の奥で火が付いたような感覚すら覚える。

 

 ガトランティスの戦士がこよなく愛するのはまず戦、次に宴、そして酒だ。金品や女は二の次で、戦場にこそやはり生きる意味が転がっている。

 

「しかし今のノル殿を見ていると、先代ゴーランド(ザイゼン)殿にしごかれている若き日の貴方様を思い出しますわい」

 

「忘れろ」

 

「がっはっはっは」

 

 とはいえ、事実だ。

 

 昔のゴーランドもそうだった。剣に迷いが見える、臆病者はガトランティスには不要―――何度そう罵倒され、突き放され、血反吐を吐く思いで這い上がった事か。

 

 己の不甲斐なさに泣き、敗北の悔しさに泣き、鍛錬の辛さに泣き、涙が枯れるまで泣いた。手に出来た肉刺が潰れる痛みは今でも鮮明に覚えている。

 

 そんな苦難の時代があったからこそ今の自分があるのだと、ゴーランドは考えている。

 

 そして今、息子たるノルもその”苦難の時代”の中でのたうち回っているのだ。

 

 ここで父としてするべき事は、我が子可愛さに救いの手を差し伸べてやる事ではない。腹を括り、地獄の底から這い上がってくる我が子が”戦士の目”を宿しているか否か、見極める事である。

 

(奴はまだ優しい目をしている)

 

 息子の顔を思い出し、溜息をついた。

 

 ノルは―――ゴーランド一族の中でも、特に優しすぎる。

 

「そういえば聞きましたかな、例のヤマト(ヤマッテ)の一件」

 

「聞いておるわ。第十一番惑星でパラカスを下し、シュトラバーゼでメーザーを、そしてあろう事か彗星から逃れた地球(テロン)(フネ)―――」

 

 デスラーが忠告するだけの事はある。

 

 認めたくはないが、しかし認めざるを得ないだろう。

 

 今この瞬間にも、テレザートに向かっているヤマト艦隊は決して一筋縄ではいかない相手である、と。

 

 いつの間にか、ゴーランドとザバイバルの間には大量の骨付き肉が盛り付けられた大皿が置かれていた。ザバイバルが部下に命じて用意させたもののようで、屈強なガトランティスの戦士が3人がかりで運ばなければならない程のサイズである。

 

「……貴様、よもやここで宴を始めるつもりではあるまいな」

 

「いやぁ、ノル殿の成長と精強ゴーランド艦隊、それから栄えある帝星ガトランティスの益々の繁栄と武運長久をと思いましてな。いかがです、大戦の前に一席」

 

「ふん……まあ、良いだろう」

 

 宴は嫌いではない。

 

 だがしかし、最近になって毎晩これだ。テレザートのすぐ傍らに食用肉の調達に事欠かない”恐竜惑星”が存在すると知ってからは、毎日のように戦士たちが恐竜狩りに出かけては大物を仕留め、その肉を持ち帰ってくる。

 

 毎晩でも宴会を開かなければ、食糧庫が肉で埋め尽くされてしまいそうな勢いだ。

 

「ザバイバルよ、部下に狩りは少し自重させろ」

 

「がっはっは、いやぁ申し訳ありませぬ。なにぶん血気盛んな若武者共であります故」

 

「この調子で連日大物を狩ってみろ、艦隊が食糧庫の重さで飛び立てなくなるわ」

 

「がっはっは、それは困りましたな!」

 

 そこでやっと、ゴーランドの顔にも笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その裏で、猛将ゴーランドは静かに牙を研ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙戦艦ヤマト―――相手にとって不足なし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五章『接近、魔の巨大彗星』 完

 

 第六章『宇宙の女神は血を欲す』へ続く

 

 

 




おまけ

第六章予告(セリフのみ。映像とBGMは脳内補完でお願いします)




テレサ『私は、テレサ―――テレザートの、テレサ』





古代「全艦、これよりテレザート上陸作戦を開始する!」

ゴーランド「全艦抜錨! ゴーランド艦隊、出陣!!」

ザバイバル「全師団集結!!」

島「サルガッソー……宇宙の墓場か……!」

土方「古代―――波動砲を使おう」

古代「……ッ!」

山南「この巨大彗星……迎え撃つには、少なくとも300隻の波動砲艦隊が」

フィオナ「地球型のゴルバが量産体制に入れば、あんな下等生物如き……」

ミケール「思いませんよ、赦しを請おうなんて」

速河艦長「お前みたいな奴が、なんで……!」

藤堂艦長「全航空隊、直ちに出撃!」

斉藤「行くぞお前らァ! 第十一番惑星の仇討ちだぁ、突っ込め!!」

永倉「キツいの一発ぶちかますよ!」



テレサ「ヤマトとは、”大いなる和”」










バルゼー(父)「大帝のご命令が下った」





バルゼー(父)「これより我が艦隊は総力を挙げて太陽系へと突入し、地球軍を撃滅する!!」


 
さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~
   第六章『宇宙の女神は血を欲す』


近日更新予定 




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