さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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防衛会議

 

「しかし理解できませんね」

 

「何がだ」

 

 午後から始まる予定の防衛会議に提出する資料をまとめていた山南は、北野の放った一言にティーカップを置きながら応じた。

 

 もっとも、彼の事である。この後に続く言葉は何となく察しがつくというものだ。

 

「私なら分かります。ですがなぜ速河の奴まで会議に?」

 

 こういった会議に出席する機会は、北野の方が圧倒的に多い。

 

 冷静沈着で思慮深く、常に広い視野を持つ北野が強みを発揮するのは艦隊運用だけではない。こういった会議を始めとした政治的な立ち回りにも長けている。

 

 地球防衛軍も一枚岩とは言い難い。中には平和路線を声高に叫び、防衛軍の予算を削ろうと立ち回る輩が常におり、軍からすれば目の上のたん瘤なのだ(とはいえガトランティスとの開戦以降、そういった声は日に日に小さくなりつつある)。

 

 そうした相手を受け流し、軍の望む結果を手繰り寄せるのは、速河よりも北野の方が向いているのだ。速河は些か感情的になりやすく、政治的な闘争を苦手とする側面がある(つまりは単純な男という事だ)。

 

「あいつと付き合いはそれなりに長いですが、兎にも角にも政治には向きませんよ速河は」

 

「ああ、だろうな。正直私も奴の事は爆弾(・・)だと思っている」

 

 本人が居たとしてもこの人はバッサリ言うだろうな、と北野は目を細めた。

 

 山南は強かで狡猾な艦隊司令だ。本音は決して他人の前で晒す事は無いが、親しい相手にはその内心を吐露する事もある。こうして本音が聞けるという事は北野も、そして今頃地球へ向かっているであろう速河も”親しい相手”に分類(カテゴライズ)されているらしい。

 

「だからこそだ。適切なタイミングで起爆してやれば、内なる敵(・・・・)を黙らせられる」

 

「……」

 

「私の見立てでは、ガトランティスが太陽系に到達する日もそう遠くは無いだろう。ヤマトの帰還は間に合わんかもしれん。そうなる前に軍の予算増額を何としても通しておきたい」

 

 分かるな、と視線で問われ、北野艦長は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防衛会議に出席したのは年老いた議員や、ベテランの艦隊司令ばかりだ。

 

 中には内惑星戦争時代から活躍した艦隊司令や定年が秒読みとなったベテランもちらほらと顔を並べており、本当に自分たちのような若手(・・)がこの末席に名を連ねて良いものかと北野は不安になる。

 

 そして隣に座る速河はというと、あまり馴染みのない会議室と堅苦しい空気のせいなのだろう。まるで見知らぬ家に連れてこられた野良猫のように、きょろきょろと視線を泳がせては腕を組んでいる。

 

 性格を見ても、そして体格を見てもつくづくこの男は場違いだと北野は思う。艦隊司令や議員たちが連なる中にただ1人、他の誰よりも体格の大きなヒグマを思わせる巨漢が1人どっしりと座っているのだ。

 

 あまりきょろきょろするなよ、と隣に座るアポロノームの安田艦長に言われ、速河はやっと大人しくなった。

 

「―――それでは次の議題に入りたいと思います。山南司令」

 

「はい」

 

 手元のキーボードを弾くや、会議室の中央に巨大な立体映像が投影された。

 

 映っているのはおそらくヤマトから撮影された映像なのだろう。ヤマトの第三砲塔と第二副砲、艦載機用のカタパルトが見え、ヤマトの後方を同型艦のムサシとシナノが航行しているが、そんなところには誰も注目していない。

 

 目を奪われている原因は、その後方に広がる”白い闇”にあった。

 

 ―――白色彗星。

 

 暗黒の海を征く、魔の巨大彗星。以前より地球へと接近中であるとされていた彗星が、ヤマト艦隊を追うように迫ってくるのである。

 

「これは3日前、ヤマト艦隊から送られてきた映像です」

 

 会議室がざわついた。

 

「白色彗星の大きさは推定で直径150000㎞、木星よりも巨大であります……続けてこちらを」

 

 静止していた映像が再生され始めた。ギギギ、と艦が軋む音に、ヤマト艦内での音声のやり取りが生々しく記録されている。重力傾斜の増大、重力危険域の広範囲化、ガスの接近……緊張感を孕んだ乗員たちのやり取りに、逼迫した空気が会議室の中にも流れ始める。

 

 白色彗星のガスが触手のようにうねり、ヤマト艦隊へと迫ってきたところで、会議室の中で驚く声がいくつも上がった。

 

「ヤマトからの報告では、重力危険域の増大と通常の彗星では考えられない重力傾斜にガスを用いた攻撃、更にはこの彗星が”目の前にワープアウトしてきた”という情報もあります」

 

「ワープアウト?」

 

「彗星がワープしたと?」

 

「はい。加えて、この直前にもガミラス側の派遣した調査船(・・・)が彗星と接触、ワープは確認していないとの事ですが、重力危険域の増大と重力傾斜、ガスを用いた意図的な攻撃など同様の情報が確認できた事から、これがただの彗星でない事は明白です」

 

 映像が切り替わった。

 

 彗星の進路だ。惑星テレザート方面から、地球へと真っ直ぐに突き進んでいるのが分かる。

 

 そしてその上に、ガトランティス艦隊の侵攻ルートが重なった。

 

「ガトランティスの進軍ルートと彗星の進路、そしてこれらの情報を総合すると―――この白色彗星は、ガトランティス側の【天体兵器】である可能性は極めて”大”である、と艦隊司令部は見ています」

 

 天体兵器―――聞き慣れない、あまりにもおぞましい響きに北野と速河は息を呑んだ。

 

 未だかつて前例のない、天体規模の兵器との遭遇。

 

 ガトランティスの切り札……それも木星サイズの、だ。

 

 それが地球へと接近しているという衝撃は、会議に出席した全員の背筋を凍り付かせた。

 

「この巨大彗星……迎え撃つには、少なくとも300隻の波動砲艦隊が」

 

 ちらり、と山南は目を見開いている芹沢へ視線を向ける。

 

「芹沢総司令、波動砲艦隊の増産を急ぐよう関係各所に通達を出していただきたい」

 

「……現状では、足りないというのか」

 

「全く足りません」

 

 即答だった。

 

「300隻でも少ない方です。400隻でも500隻でも、とにかく今は1隻でも多くの波動砲搭載艦が必要です」

 

「……」

 

「しかし山南司令、惑星をも破壊する波動砲であれば彗星の1つや2つ楽なものではないか?」

 

 随分と楽観的な意見を発する議員の声に、山南が一瞬だけ拳を握り締めたのを北野は見逃さなかった。あれほどの威力の”天体兵器”の映像を見て、しかもそれが地球圏へと迫っているという事実を突きつけられてもなおそんな事が言えるのか、という憤りが胸中に渦巻く。

 

 政治家は自分の支持率のために法案を作り、仕事をしていればいい。しかしその法案に基づいて前線で命を懸けるのは軍人であり、最前線に立つのは決まって若者なのだ。これが杞憂で済めばいいが、楽観的な意識から来る準備不足が原因で殺される現場の人間からすればたまったものではない。

 

「私にはねぇ、これを口実に軍の予算を増やそうとしているようにしか見えないのだが」

 

「確かにそうだ。もうガミラスとの戦争も終わり、平和を辛うじて掴み取ったのだ。ガトランティスとも武力ではなく対話での問題解決を―――」

 

 ドン、と机を殴りつける音。

 

 そんな音がすぐ隣からしたものだから、北野は一瞬驚いた。

 

 そして予想通りの光景が広がっていた事に、彼は頭を抱えそうになる。

 

「―――さっきから黙って聞いてりゃあベラベラと、現場を知らねえくせに何を抜かしてやがる」

 

「おい馬鹿、やめろ」

 

 コートを掴んで着席させようとするが、しかし一度火のついた速河は止まらない。

 

 怒り狂った荒熊の如く、吼えた。

 

「連中は侵略の意図をもって攻め込んできてるんだ! 最初(ハナ)っから戦争やるつもりで攻め込んできてる連中が、対話なんかに耳を貸すわけねえだろ!!」

 

「何だね君は! 一介の艦隊司令の分際で偉そうに―――」

 

「こっちは戦友を殺されてるんだ! 俺だけじゃねえ、ここにいる軍関係者の多くが父や兄弟を―――地球市民だって夫や親父をガトランとの戦争で失ってるんだ。分かるか、備えなきゃ死ぬんだぞ!?」

 

 良いんですか、と抗議の意図を込めて山南に視線を送る北野。事実、彼が恐れていたのはこれだ。自分よりも遥かに感情的になりやすく、お世辞にも素行が良いとは言えない速河を会議に出席させればこうなる事くらい、付き合いの長い山南であれば想像できた事である筈だ。

 

 視線を受けた山南は少しばかり肩をすくめながら「言わせてやれ」と言わんばかりにいつもの飄々とした視線を返すばかりだった。

 

 おそらくこのために連れてきたのだろうな、と思う。

 

 平和路線を訴える議員の、現場の犠牲を知らない楽観的な発言には軍内部でも反発が根強い。良いガス抜きになるだろうし、人間は理性よりも感情で動いてしまう生き物だ―――議員たちの感情に訴え徹底抗戦の空気を醸成してしまえば、あとはもうどうにでもなる。

 

 速河が猛獣ならば、山南はさしずめ”猛獣使い”と言ったところだろう。

 

「俺は……いや、私はガミラス戦役で母と妻子を失いました。ガミラスの遊星爆弾の犠牲になり、遺体も残っていません」

 

 声のトーンを落とし、速河は言う。

 

「我らは決してガードを降ろすわけにはいかないのです。ガミラスとの戦争が終わり平和を掴み取った、それはそうでしょう。ですが正しくは”ガミラスとの戦争が終わり、新たな戦争が始まった”と表現するべきだ。今は戦後ではなく、戦時中なのです」

 

 彼も我慢ならなかったのだろう。

 

 妻子を失い、母を失い、自身も左足を失ったガミラスとの戦争。万全の備えをしていながら多くを失った戦争は、忌むべき記憶として脳裏に焼き付いている。

 

 そしてそれは教訓を生んだのだ―――決してガードを下げるべきではない、と。

 

 宇宙で地球人類が生き延びるためには、残酷な現実を屈服させ得るだけの力が必要である、と。

 

「もう二度と家族を、親を、兄弟を、子を、友人を、恋人を……親しい人を失わないためにも戦い続けなければなりません。敵はそこにいるのです、もうそこに迫っているのです。今必要なのは平和や愛を語る言葉ではなく、1隻でも多い波動砲艦隊なのです。どうか―――どうかあの悲劇の再来を回避するため、お力添えを願いたい」

 

 大声を上げてすいませんでした、と結び、速河はそっと席についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山南司令、もしかしてあのために俺を呼んだんですか?」

 

 ヒグマのような体格の速河からすれば小ぢんまりとしたティーカップを片手に問いかけると、山南は「はて、何の事か」と飄々と返した。

 

「お前にもいい経験になると思ってな。勉強させるつもりで出席させたんだが、いやあまさかあんなにも吼えるとは」

 

「冷や汗ものだ。いつ警備員につまみ出されるのかと気が気じゃなかったんだぞこっちは」

 

 北野の咎めるような言葉に、「警備員が怖くて艦隊司令やってられるか」と強気に返す速河。

 

 相変わらずこの2人は防大を出た頃からあまり変わっていないようだ。

 

「ともあれ、速河の会心の一撃のおかげで波動砲艦隊は増産体制に入った。次は来たるべき”土星沖海戦”に備えなければな」

 

 土星沖決戦構想、というメモを北野は思い出した。

 

 かなり早い段階から、山南はガトランティスとの決戦の舞台を土星沖であると位置づけていた。それはつまり土星以遠の防衛ラインを切り捨て、水際での防衛を諦めるという事でもある。

 

 愚策に思えるかもしれないが、しかし兵站を考えれば確かに合理的ではある。

 

 如何にワープ航法が普及したといえ、戦場が遠くなればなるほど兵站には負担がかかる。距離的にもちょうどいいし、地の利も生かせる―――土星沖が決戦の舞台に選ばれるのも、ある意味では当然と言えた。

 

「土星沖海戦、ですか」

 

「まだ構想中だが、概要はこうだ」

 

 手元のスイッチを弄るや、執務室の壁面に映像が投影された。

 

「敵はこちらの5~7倍の兵力と仮定する。土星沖に全戦力を集結させて迎え撃つわけだが、まず衛星ヒペリオンから出撃した”ヒペリオン艦隊”が敵艦隊の中央を突破。不可能ならば攪乱でも構わんが、分断が理想だ。そして分断した前衛艦隊を波動砲艦隊が撃滅、続けて後衛の艦隊を各個撃破……これで数的不利を覆せる、というものだ」

 

 ヒペリオン艦隊がまずカギになるという事である。

 

 山南と北野の視線が、速河へと向いた。

 

「速河」

 

「……もう嫌な予感しかしませんね」

 

 苦笑いを浮かべる速河に、山南は頭を掻きながら告げる。

 

 実のところ、この大役を任せられる艦隊司令は彼しかいないのだ―――攻勢を得意とする地球艦隊の艦隊司令は、そう多くない。

 

 

 

 

 

 

 

「速河―――土星沖海戦では、お前にヒペリオン艦隊を任せたい」

 

 

 

 

 

 




あれ、コレ速河艦長ヤバいのでは???
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