さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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消えない痛み

 

 西暦2204年 2月15日

 

 太陽系外縁部

 

 

 

 

 

 

 

 ワープアウト、という機械音声と共に、フィオナの意識は現実世界へと引き戻される。

 

 微睡にも似た感覚が瞼に残るが、正確には違う。あくまでも無駄な電力消費を抑え、亜空間内部で機械の身体がエラーを吐く事を防ぐための一時的なスリープモードだ。完全に電力が行き渡っていないから”眠い”と感じるのであって、実際に睡魔が彼女に牙を剥いているわけではない。

 

 本当の眠りとはどういうものなのか―――自分以外に誰もいない、スリットから紅い光が漏れるばかりの薄暗い艦橋の中でフィオナはふと思慮の海に意識を潜航させる。

 

 彼女らデザリアム人は、本当の肉体を知らない。

 

 複数の遺伝子の中からランダムに選ばれたそれで脳髄を作り、その脳髄を最初は子供のボディに、そして少しずつ大人のボディに入れ替えていく事で、疑似的に人間としての成長を追体験させる―――そのような贅沢な過程を経て、フィオナというデザリアム人はこの1000年前の時空間に存在している。

 

 ”記録”によれば眠りとは時に心地よく、また時に悪夢として苦痛の源となる事もあると聞く。あくまでも脳の生理現象、自らの記憶に基づいたものであるとされているが、しかしデザリアム人であるフィオナにそのような事など体験しようがない。

 

 スリープモード中の意識はなく、設定した時間が経過するか、外部から強制的に再起動されない限り目が覚める事は無いのだ。

 

《前方、ガトランティス艦隊を発見》

 

「データ照合」

 

《ククルカン級36、ラスコー級14、メダルーサ級3、ナスカ級5。第十一番惑星へ向かう侵攻艦隊と推定》

 

 懲りないものだ、とフィオナは胸中で悪態をついた。

 

 どれだけ骸を積み上げても、彼らは理解しないのだろう。いくら戦力を投げつけても第十一番惑星守備隊は突破できないと。死体の山に血の河を築き上げても、それに見合う見返りは無いのだと。

 

(所詮は下等生物……理解も出来ないか)

 

 原始人め、と小声で吐き捨て、フィオナは命じた。

 

「―――アエテルヌス、”無限アルファ砲”発射用意」

 

《了解、無限アルファ砲発射用意》

 

 彼女からの命令を聞き届けたアエテルヌスに変化が生じた。

 

 艦内で流れ始めるニールセンの『不滅』と共に、通常のアンドロメダ級でいう重力子スプレッドの搭載されている位置から、合計4基のデバイスのようなものがせり上がり始める。解放されたハッチから艦首方向へ電極のようなデバイスを伸ばしたかと思うと、次の瞬間には艦首で重々しい音と共に、赤黒い雷球のようなエネルギー体が生成され始める。

 

 それと並行し、艦首に穿たれた2基の発射口―――アンドロメダ級の連装波動砲が搭載されている場所から、極太の砲身のようなものが展開される。

 

 重力制御により拘束した位相エネルギーの球体は、時間の経過と共にどんどん大きくなっていった。終いには周囲に赤黒いスパークを発するほど密度を増した位相エネルギーの塊は、アエテルヌスの船体を呑み込んでしまうほどの規模にまで膨張していく。

 

「淘汰されゆく小さき命よ……」

 

《エネルギー充填、120%》

 

「―――消え去れ!!」

 

 ぶわん、とエネルギー体の表面に波紋が奔った。

 

 その直後だった―――巨大な位相エネルギーの塊を拘束していた重力傾斜が突如として解除されたのは。

 

 外へ外へと広がろうとしていたエネルギーにかけていた”枷”が外れたのと、砲口からせり出した2本の砲身がエネルギーの塊に指向性を与えたのは同時だった。限界まで膨張したエネルギーの塊は激流の如く艦首方面へと放射されるや、周囲の空間を引き千切らんばかりの勢いで、赤黒い電撃を幾重にも発しながら真っ直ぐに飛んでいく。

 

 唐突に生じた高エネルギー反応は、ガトランティス艦隊側も把握していた。

 

 船体にスラスターの蒼い光を十重二十重に閃かせながら、ガトランティス艦隊は回避を試みる。軽快なククルカン級の回避に一歩も二歩も遅れる形でナスカ級やメダルーサ級も重い船体を回頭させ、発射された”無限アルファ砲”の射線上から全力での退避を試みるが、しかし突然のワープアウトから間髪入れずに放たれたそれから逃れられた艦は一部の幸運な艦ばかりであったのは言うまでもない。

 

 艦隊陣形のど真ん中に、赤黒いエネルギーの奔流が突き入れられる。運悪く射線上に居たラスコー級やナスカ級、メダルーサ級は成す術もなく位相エネルギーの激流に呑まれるや、陰法師すら残さず消失した。

 

 如何に強力なエネルギー砲といえど、しかし収束モードでの射撃では艦隊に対しては効果が薄い。現に、直撃を免れたククルカン級やラスコー級を中核とした駆逐戦隊や打撃戦隊が健在である。

 

 レーダーの探知範囲ギリギリの宙域に捉えたアエテルヌスを発見するや、彼らは仲間の仇と言わんばかりにエンジンノズルから炎を吹かし反撃を試みようとする。

 

 しかし既に、彼らの命運は尽きていた。

 

 艦隊旗艦を含む主力艦艇を呑み込み、後方の宙域へ抜けていくかと思われた無限アルファ砲のエネルギー体。

 

 それが艦隊陣形のど真ん中の空間を、文字通り”引き裂いて”いたのである。

 

 ぱっくりと、何も無い空間に紅い裂け目のようなものが広がる。

 

 ”空間裂傷”―――文字通りの空間の裂け目にして、西暦3199年の地球人類を滅亡へ誘わんとする宇宙規模の大災害、その先触れ。

 

 空間裂傷を通じ、亜空間から漏れ出た未知のエネルギーの激流がククルカン級たちを呑み込んだ。

 

 装甲が剥がれ、内部構造を滅茶苦茶に吹き飛ばされ、瞬く間に原型すら留めず消えていくガトランティス艦隊。

 

 宇宙の遥か彼方で生じた紅い大爆発をメインパネル越しに見つめながら、フィオナはその破壊力に満足する一方でトラウマを穿り返されるような不快感を覚えていた。

 

 無限アルファ砲―――ごく小規模な空間裂傷を攻撃に転用した、アエテルヌスの持つ艦隊決戦兵器。

 

 しかし自分たちの故郷(ふるさと)が辿った運命を想えば、やはりと言うべきか、あまり穏やかではいられない。

 

《ガトランティス艦隊、全滅しました》

 

「アエテルヌス、ラウラに全てのデータを送信。並びにハヤカワ・インダストリーに無限ベータ砲の開発を打診」

 

《了解しました》

 

《左舷、距離16000にワープアウト反応》

 

「識別」

 

《―――”ゴルバ・エナム”です》

 

 唐突に、何も無い空間から巨大な物体が姿を現す。

 

 プレアデス級やヒアデス級のように、蒼い十字架のような光と煙を纏ったワープアウトではない―――音もなく、何も無い空間から突然湧いて出たような、物静かな出現だった。

 

 姿を現したのは、全高10㎞にも及ぶ巨大要塞。

 

 その姿はコケシを思わせるが、しかし上部から左右に突き出た巨大な角と、巨体のスリットから漏れる紅い光が不気味さを際立たせている。

 

 自動惑星ゴルバ―――デザリアム軍の宇宙要塞だ。

 

《―――お久しぶりです、フィオナ様》

 

「久しいですね、”アズール”」

 

 メインパネルに投影された痩せ型のデザリアム人―――”アズール”に敬礼で応じたフィオナは、口元に笑みを浮かべた。

 

計画(・・)への賛同と勇気ある決断に敬意を表します」

 

《いずれ滅びゆく時空間……我らの時空間に、もう未来はありませんからね。いつまでもマザーに従う(泥船に乗り続ける)意味も理由もありません》

 

 そう言いながら、アズールは胸元に装着されているコムメダルを取り外し、手のひらの上で握り潰した。

 

「しかしその様子だと、アルフォンやランベルはマザーに従うつもりのようですね?」

 

《ええ……残念です、彼らのような若い人材が》

 

「ともあれ、あなたがゴルバと共に来てくれたのは心強い。知っての通り、この時空間はガトランティスの脅威に晒されています」

 

《はい、記録は確認しています。しかし勝てますかな?》

 

「地球型のゴルバが量産体制に入れば、あんな下等生物如き……」

 

 既に開発は始まっている。

 

 地球の周囲に浮遊する戦闘衛星たち。それらを拡大・発展させる形で巨大な”自動惑星”とも言える地球型ゴルバ(・・・・・・)の開発計画は、時間断層内部で着々と進んでいるのだ。

 

 波動機関を搭載したゴルバであれば、白色彗星など恐ろしい相手ではない―――フィオナはそう考えている。

 

 いずれにせよ、このガトランティス戦役―――地球人類にとっての大きなターニングポイントになるであろう事は、疑いようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日

 

 地球 極東軍区 北海道

 

 

 

 

 

 

 海が一望できる丘の上に、”それ”はある。

 

 石を削り出して造られた尖塔状の構造物―――傍から見ればそれは現代アートか何かのオブジェのように見えるが、少なくともそれが見る者の心を癒すためのものでも、どこの誰かも知れぬ作者の想像力が生み出した決勝でもない事を、速河力也という男は知っている。

 

 【この先、遊星爆弾犠牲者慰霊碑】と表示された立体映像が述べている通りだ。

 

 ガミラス戦役中、遊星爆弾による攻撃で亡くなった犠牲者たちを弔うための慰霊碑である。

 

 石段を一歩、また一歩登る度に、脳裏に愛娘の、妻の、母の姿が浮かぶ。

 

 目尻が熱くなる―――じんわりと、熱い雫が頬を伝う。

 

 石段を登り切り、慰霊碑の表面に手をかざした。

 

 慰霊碑の表面に塗布されたナノマシンが彼の指を検知して、つるりとした表面に犠牲者の名前をずらりと列挙する。

 

 大人も子供も、男も女も関係ない。

 

 あの時確かに、生きていた人たちの名前。

 

 五十音順に並んだ名前の一覧の中から、母と妻子の名前を見つけるなり、速河は石畳の上に膝をついてその名前を指先でなぞった。忘れるな、あの絶望と憎しみを絶対に忘れるな、喪失感を忘れるな―――そう自分に言い聞かせるように。

 

 今でも失った左足は痛む。いわゆる幻肢痛(ファントムペイン)、消えぬ痛みだ。

 

 だがそれ以上に、かけがえのない家族を失った痛みは想像を絶するものだ―――特に、夫婦の愛の結晶、未来たる我が子を失う痛みは。

 

 声を押し殺しながら、速河は泣いた。

 

 どれだけ泣いても、どれだけガミラスを憎んでも、妻子と母が戻ってくる事は無い。その魂ははるか雲の上、星の海よりも遠いところにある。

 

 だからこそ命は重いのだと、そして二度と奪わせてはならぬのだと、速河は思う。

 

 慰霊碑の献花台に花を供え、持参した線香に火をつけて手を合わせた。

 

「……」

 

 いつになれば、また会えるのか。

 

 何度も死ぬ事を考えた。こうして地球防衛軍に籍を置き第一線で戦い続けるのも、自分の死に場所を探しているからに他ならない。

 

 しかし父としてそう思う一方で、軍人としての理性が必死に死を押し留めていた―――自分だけ1人で死ぬならばまだしも、部下まで道連れにするのはどうか、と。

 

 自分がそうであるように、部下たちにも帰りを待つ家族がいるのだ。自分のエゴのために部下まで道連れにするような事など、決してあってはならない。

 

 線香の火を消し、踵を返す。

 

 外出許可を得ていた時間も、もうすぐ終わる。

 

 ミケールに代わり今は北野が第十一番惑星に駐留、ガトランティス軍を迎え撃っている頃だ。何かあった時に備え、速河率いる速河艦隊は母港の函館基地で待機、即応体制を維持しなければならない。

 

 そろそろ基地に帰ろう、と足を早めたその時だった。

 

「ガミ公出ていけー!!」

 

「ここは地球だぞ!」

 

「侵略者め!!」

 

「親父を返せ! 俺の家族を返せ!!」

 

 憎しみの込められた罵声に、思わず視線を向けた。

 

 慰霊碑へと向かう石段の中腹―――家族を失った被害者たちなのだろう。声を張り上げているのは厚着姿の民間人たちだ。

 

 そしてその矛先を向けられているのは、地球の花を手に、長身の女性兵士(肌の色が地球人のそれだ)を引き連れた小柄なガミラス人だった。マント付きの軍服と階級章から、その人物が単なるガミラス兵ではなく艦隊指揮官クラスの高官である事が分かる。

 

 見覚えのある人影だった。

 

 蒼みの薄い肌に黒い髪、一部が白い前髪と愛嬌のある顔。

 

 間違いない―――ミケール・リガロヴィッチ少将その人だった。

 

 他の被害者たちからの罵声を浴び、石を投げつけられながらも、しかしその小さな足の歩みは止まらない。

 

 憎しみを全て受け止めようとしているかのようだ―――幼い姿をしたガミラス軍将校の目には、しかし覚悟の決まった戦士の光が宿っている。

 

「おい……おい、やめないか」

 

 気が付けば、速河は軍服姿のまま民間人とミケールの間に割って入っていた。

 

「アンタ、何で止めるんだ! 軍人だろ!」

 

「俺の親父はそいつらガミラス人に奪われたんだ!」

 

「気持ちは分かる、俺も妻子を殺された……だが、もう戦争は終わった。終わったんだ」

 

 言葉を発する度に、心が裂けていく痛みを速河は感じていた。

 

 本音では彼らの意見を支持したい気持ちでいっぱいだった。ガミラス人を庇うなど、絶対にありえない。許されるならばこの場で動かなくなるまで殴りつけてやりたい、無残に殺して家族の無念を晴らしてやりたい―――それが彼の本音だった。

 

「ガミラス人を赦せとは言わない。が、取り決めは守れ。法を護れ! それ以上の私刑は軍人として見過ごさない!」

 

 北海道に生息するヒグマのような、それこそ艦隊勤務より空間騎兵隊にいる方が違和感がないレベルの、筋骨隆々の巨漢に凄まれて一般市民が平気でいられる筈もない。

 

 気圧されたように、先ほどまで怒りをぶちまけていた市民たちは後ずさりすると、気まずそうに石段を下って去っていった。

 

「……ありがとうございます、速河大佐」

 

「……あんた、なんでこんなところに来た」

 

 上官に対しての口のきき方に、むっとした顔でクラリスが前に出ようとするが、ミケールは小さな手で彼女を制していた。

 

「ここに来たら、恨みをぶつけられる事くらい……分かるだろ、”無敗の天使”ならよ」

 

「だからこそ、ですよ」

 

 石を投げつけられたのだろう、額から流れ落ちる血をハンカチで拭き取りながら、躊躇いのない目つきでミケールは言った。

 

「あの戦争で負った痛みは決して消えない。だからこそ、その痛みを理解しなければならないのです。自分たちの罪から目を逸らさないためにも」

 

 予想外の返答だった。

 

 ガミラス人といえば傲慢で、地球人を見下すような相手ばかりだった。実際、速河が気に食わないガミラス人というのはそういう連中で、もしここに居たのがミケールではなく典型的な気質のガラス人であったのであれば、民衆の恨みを買うリスクを冒してまで割って入る事はしなかっただろう。

 

「思いませんよ、赦しを請おうだなんて」

 

「お前みたいな奴が、なんで……!」

 

 なぜ、こんな相手がガミラス人なのか。

 

 彼女のようなガミラス人がもっと強力な権力を振るえる座にいたのなら―――あるいは、デスラーの暴走を止められたのではないか。

 

 残酷な運命を突きつけた現実が赦せなくて、速河は肩を震わせた。

 

 そうしてしまうほどに―――ミケールという人間は、誠実であり過ぎた。

 

 

 

 




無限アルファ砲

 試作位相機関搭載型戦艦『アエテルヌス』に搭載された、地球製の位相エネルギー兵器。製造はハヤカワ・インダストリー、技術提供はタンプル財団(デザリアム)が行った。

 位相機関直結のデバイスから前方に放射した位相エネルギーを、ゴルバと同じ方式の重力制御により艦首前方に拘束。十分なエネルギー充填を確認次第重力制御による拘束を解除、位相デバイスを兼ねる砲身によりエネルギーに指向性を持たせ前方へと投射する。

 発射された位相エネルギーの塊は前方へ一直線に進行、何かに着弾するか指定した座標に到達次第急激に膨張する。
 この際、急激なエネルギーの膨張により着弾地点に【ごく小規模な空間裂傷】を発生させ、亜空間から通常空間へのエネルギー流出を誘発する。しかし空間裂傷の規模が極めて小さいため裂傷はごく短時間で修復、通常空間へと取り残された高エネルギーは真空崩壊寸前の状態へと転じ、周辺の広い範囲の空間を加害する。

 つまり簡潔に述べると【着弾した場所にごく小規模の空間裂傷を発生させ大爆発を引き起こす波動砲レベルの兵器】である。

 波動エネルギーに依存しない波動砲レベルの決戦兵器ではあるが、しかしごく小規模とはいえ空間裂傷を敵への加害に用いる事から、大規模空間裂傷により母なる地球に大きな爪痕を刻まれたデザリアムとしては許容できるものである筈がなく、フィオナはこれの技術を用いた”次世代の兵器開発”をハヤカワ・インダストリーに提案している。

 技術や原理から、のちの無限ベータ砲の前身あるいは原型である可能性が極めて高い。

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