さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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テレザート強行偵察作戦

 

「なんだこりゃあ」

 

 艦載機格納庫に突如として運び込まれた物体を見上げ、航空隊の沢村は他の隊員たちと共に、その”異物”を凝視していた。

 

 そこにあるのは、言うなれば『巨大な追加ブースターを搭載したコスモファルコン』と言うべき代物だ。沢村や加藤、篠原といったヤマト航空隊がイスカンダルへの航路の最中に乗りこなした機体と同種のものである。

 

 とはいえコスモファルコンも、今ではすっかり旧式機だ。

 

 現在ではコスモタイガーⅡが正式採用されているし、ハヤカワ・インダストリーでは次期正式採用機としての需要を見越して更なる新型機(”コスモパイソン”という名称だそうだ)を子会社の土門電子と共同で設計、開発中であるという。

 

 では、このコスモファルコンは何か。

 

 ヤマトは既に艦載機をほぼすべてコスモタイガーⅡへと更新しているし、ムサシとシナノも同様だ。シナノに関してはコスモタイガー以外の機体も運用しているが、それはあくまでも攻撃機や爆撃機としての派生型である『コスモシャーク』、電子戦支援型の『コスモアイ』といった同系列の機体となっている。

 

 今更旧式の機体を引っ張り出して何をするつもりか、と航空隊の面々が物珍しそうに眺めているところに現れたのは、ヤマト副長の真田と、彼にスカウトされてヤマトに乗り込んだ技術士官の新見と速河だった。

 

「やあ、ご苦労」

 

「真田副長、これはいったい?」

 

「コスモファルコンを流用した無人偵察機(UAV)ですよ」

 

 真田に代わって答えたのは速河だった。

 

 手にしていたタブレットを何度かタップするや、機体の図面が立体映像となって目の前の空間に投影される。

 

「無人偵察機?」

 

「そうです。人間が搭乗せず、人的損失を心配する必要のない無人機の一種です」

 

 訝しむように図面をまじまじと見ていた加藤が、ある一点を見て目を丸くする。

 

 よく見るとキャノピー周りに設計変更が入っているのが分かる―――ガラス張りのキャノピーは撤去され、代わりに装甲が増設されたほか、その装甲モジュールから露出する形でぎょろりとした目玉型のセンサーが半分埋め込まれるように搭載されているのだ。

 

 もちろん無人機だから、人間の乗り込むスペースなど考慮していない。

 

「あなた方航空隊のパイロットは1人1人が精鋭、まさに地球の宝です。そんな貴重なパイロットの皆さんを、危険な死地へと送り込むわけにはいかない。特に”強行偵察”のような生還が危ぶまれる作戦には……」

 

 速河の言葉に視線を伏せたのは篠原だった。

 

 その言葉は篠原にはよく刺さった。実際彼もガミラスの亜空間ゲートの向こう側を偵察するため、ガミラス軍から鹵獲した機体で亜空間ゲートへ突入。バラン星の観艦式へと飛び込み死にかけた過去がある。

 

 あの時は誰もが篠原の死を覚悟したし、本人も今日が命日になるかもしれない、と思いもした。

 

 ―――軍隊において最も高価な部品(・・)は人間である。

 

 これは大昔から言われていた事だ。基本的人権が各国で尊重されるようになると、兵員の損失は忌避されるようになり、それを防ぐために無人兵器の開発が加速した。

 

 そして今、絶滅の縁から這い上がらんとしている地球はそれ以上の局面に足を踏み入れている。

 

 ガミラスとの戦争で失った人的損失は、決して無視できないものだ。多くのベテランの軍人がガミラスとの戦いで帰らぬ人となり、人口も安定しない地球の現状を顧みれば、経験を積んだベテラン・中堅層の人員がどれほどの貴重な存在かは言うまでもない。

 

 まさに等身大の金塊にも匹敵する価値があるのだ。

 

「現在、ヤマトはテレザートの一歩手前まで来ている」

 

 真田が言うなり、速河はそれに合わせて立体映像を切り替えた。

 

 蒼く美しい、惑星の8割が海に覆われた星―――テレザート。

 

 錯覚か―――航空隊の面々には、特にテレサの夢を見たパイロットたちには一瞬、その蒼い星を背景に祈りを捧げる麗しい乙女の幻影が見え、我が目を疑った。

 

「しかしテレザートには、ガトランティスの守備隊が存在している可能性が高いという事が分かった」

 

「守備隊?」

 

「テレザートを護ってるって事ですか? ガトランティスが?」

 

「そんな事どうやって知ったんです?」

 

「戦闘で撃沈したガトランティス艦の残骸から回収したデータを解析したのよ」

 

 指先で眼鏡を上げながら新見がさらりと言った。

 

 敵艦の残骸は、長期航海を強いられるヤマトにとっては貴重な資源となる。損傷の修復に用いる装甲材も無限ではないし、いずれ枯渇するのだ―――限られたリソースを有効活用するため、場合によっては現地調達した規格の異なる部品も有効活用しなければならない。

 

 イスカンダルへ向かった時もそうだった。

 

 そういう事情もあって、今回も余裕がある場合は新見が主導で敵艦の残骸を可能な範囲で回収していたのである。

 

「連中には何か、思惑があるのかもしれない」

 

 腕を組み、真田が言う。

 

「あの星に眠る宇宙の女神、テレサ―――私にはガトランティスが、あの宇宙の女神を恐れているように見えてならない」

 

「恐れてるって、テレサを?」

 

「あくまでも憶測だ。根拠のない妄想に過ぎないが……」

 

「いずれにせよ、新見さんが得た情報から判断してこのままヤマト艦隊がテレザートへ踏み込むのは危険と判断しました。そこで今回、急遽用意したのがこちらの無人偵察機(UAV)です」

 

 タブレットから投影される立体映像が、再びUAVの図面へと切り替わった。

 

「ご覧の通りコスモファルコンをベースにしました。機体後部にはハヤカワ・インダストリー製のワープブースターを搭載。片道分のエネルギーしかありませんが、元より無人ですし生還を期しているわけではないので問題はありません。この機体は発進後、艦橋からの遠隔操作でワープを行い、その後は第二艦橋で自分が操縦、敵艦隊を偵察―――」

 

「待った」

 

 説明を遮るように言ったのは加藤だった。

 

「なあ新米クン」

 

「はい、加藤さん」

 

「お前、コイツ飛ばせるのか?」

 

「実際に飛ばした事はありませんが、シミュレーターだったら何度か。それにAIのアシストもありますので操縦は問題ないかと」

 

 シミュレーターにAIという言葉を聞き、加藤は坊主頭を掻く。

 

 悪いことではない。

 

 経験のない素人が実際に機体を飛ばして事故を起こすより、画面の向こう側で事が済むシミュレーターは遥かに安上がりだし危険も無い。それに過去のデータを蓄積したAIの補助を得られる、というのも確実性を増す要因たり得る。

 

 だが―――それでも操縦するのが素人ではダメだ。

 

 真田には、加藤の目がそう言っているように思えてならなかった。ヤマト航空隊きってのエースパイロットがそう目で告げている。

 

「コイツの操縦、俺にやらせちゃあくれねえか」

 

 予想外の申し出に、速河は目を丸くする。

 

「え……いやぁ、あの……この機体は素人の僕でも飛ばせるよう調整を……」

 

「この作戦の目的は?」

 

「敵戦力の偵察です」

 

「……確かに飛ばすだけ(・・)なら新米クンでも問題ないだろうさ。お前の実家の最新技術がカバーしてくれるし、シミュレーターで訓練した事があるならば問題はないんだろう」

 

 パイロットとしての下地は出来ているのかもしれない、と加藤は見る。

 

 だが、しかし。

 

「―――けどな、飛ばすだけの飛行と敵の砲火を掻い潜りながらの偵察は別物だぞ」

 

 言葉を失った。

 

 AIのアシストもあるし、なによりも無人機である。万一撃墜されるような事があっても自分が死ぬわけではないし、型落ちした旧式機1機と片道分のワープブースター、そして追加装備された観測機材が失われるだけだ。人命に比べれば安い損失である。

 

 そればかりを考えていた。

 

 いくら損失が安上がりといえども、効果的な偵察が出来なければ意味がない。

 

 技術力は確かに高いが、戦闘に関しては素人同然だ―――ほんの少しのやり取りで、加藤は速河の本質を見抜いていたのだろう。

 

「それは……」

 

「いくら人的損失がゼロでも、必要な情報を得られる前に撃墜されたら意味がねえ。分かるな?」

 

「……はい」

 

「速河、操縦は彼に任せよう」

 

 ぽん、と速河の肩に手を置き、真田が言った。

 

「加藤隊長、それでは済まないが機体の操縦と強行偵察、ヤマト副長として君に一任したい。操縦は第二艦橋で行う―――操縦系統は全く変わっていない。君ならば問題なく飛ばせるはずだ」

 

「そうこなくっちゃあな」

 

 誇らしげに胸を張る加藤に苦笑いしながらも、速河は「では、申し訳ありませんがよろしくお願いします」と告げた。

 

 自分の甘さを痛感する事になってしまったが―――その一方で、安心していた。

 

 ヤマト航空隊の加藤―――彼に任せれば万事上手くいく、と。

 

 加藤という名は既に、地球においての撃墜王の代名詞なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか変な感じだな、と島は思う。

 

 第一艦橋の窓の向こう側。ヤマトから見てやや右舷寄りに飛行するのは、巨大な4基のエンジンノズルを備えたワープブースターと、まるでそれに取り込まれているような格好でブースターを装備したコスモファルコンである。

 

 機体の背面には折り畳み式のレドームが、機首と機体下部には同じく折り畳み式のブレードアンテナが追加されている以外に、標準仕様のコスモファルコンとの大きな差異は無い。

 

 速河の話では、あの機体の片道分のワープはヤマトの第一艦橋から行う『トランスワープ』の方式を取り、それ以降は第二艦橋に設けた遠隔操縦用のコクピットから加藤が操縦を行う、との事だ。

 

「コスモファルコン、ワープ1分前」

 

 ヤマトでは前例のない、第一艦橋からの遠隔ワープ。初めてのそれを、土方艦長は艦長席から腕を組んで見守っている。

 

 どう、とコスモファルコンのエンジンに火が燈った。生じた推力に機体が徐々に押され、ヤマトの傍らから少しずつ遠ざかっていく。

 

「ワープ、30秒前」

 

 ワープエンジンの炎が色を変えた。

 

 荒々しい橙色から、空のような蒼色へ。

 

 やがてその炎が、黄金の尾を引き始める。

 

「コスモファルコン、10エスノットから30エスノットへ」

 

「ワープ、10秒前……9、8、7、6、5、4、3、2、1」

 

 ワープ、と告げるなり、艦橋の窓の向こうで変化が生じる。

 

 加速したコスモファルコンが光の球へと姿を変えたかと思うと、黄金の閃光と化したのである。一瞬遅れて爆発するような音が轟くや、急加速したコスモファルコンは目の前に生じた光の穴へと飛び込んでいく。

 

 黄金の波紋を周囲の空間へと押し広げ、それを最後に宇宙は再び静寂へと還っていった。

 

 

 




コスモファルコン(UAV)

 ヤマトに持ち込まれたコスモファルコンの操縦系統を改造、無人化したコスモファルコン。ハヤカワ・インダストリーが持つ無人兵器の運用技術を基に、ヤマトに乗り込んだ速河信也が真田や新見の協力を得ながら完成させた現地改修機。
 コクピットとキャノピーは完全に撤去されており、代わりにハヤカワ・インダストリーで開発された眼球型の高性能多目的センサーがターレットに収められた状態で搭載されている。暗視、サーマル、X線の他、エネルギーや空間航跡、果ては亜空間を進む次元潜航艦の探知も可能という高性能センサーだが、これ一式でコスモタイガーⅡが2機購入できるほどのコストであるという。

 亜空間ゲートの調査の際、ヤマトへ辛くも帰還した篠原であるが、同じような事態に直面した際に人的損失(特に経験を積んだ貴重なパイロットの喪失)を回避するために同様の兵器の開発が加速しているという。

 コストこそ高いが、代替が可能なだけまだ良いのかもしれない。
 人命の値打ちと比較すれば、まだまだ安いのだから。

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