さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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戦士としての姿

 

 武器に触れた途端、己の中で一種の”スイッチ”が入る瞬間を時折知覚する事がある。

 

 言うなれば、刀剣が鞘から抜き払われた瞬間とでも例えるべきだろう。武器を握った瞬間に己を構成する全細胞が活性化して、身体中の細胞の一つ一つ、毛細血管の一片に至るまでもが戦闘に最適化される瞬間。

 

 そしてそれから始まる時間こそが、ガトランティス人として生を受けたゴーランドが最も”生きている”という実感を得る事が出来る、生きる上で必要不可欠な戦の時間だ。

 

 滾る、やはり滾る。

 

 己の全力を身体の奥底から持ち出し、相手に叩きつけ、死闘の果てにその首を討ち取る達成感。そこに至るまでの苦痛ですら、彼らにとっては甘露たりえるのだ。剣で斬られ、銃で撃たれる苦痛でさえも、戦の後には勇敢に戦った勲章として燦然と輝くのである。

 

 では、ガトランティスにおける一流の戦士とそうでない者を隔てるものはなにか?

 

 往々にしてゴーランドは思う―――己の内から湧き上がる闘志を抱きつつも、しかし冷静でいられる者である、と。

 

 感情のままに、衝動のままに戦う事など動物でもできる事だ。しかし彼らガトランティス人は違う。ガミラス人(ガミロン)には”蛮族”などと呼ばれている彼らではあるが、しかしガトランティス人もまた人の仔、古代アケーリアス文明が蒔いた種から生じた、遍く生命の1つに他ならない。

 

 ならばその湧き上がる感情を律する理性を持つ事こそが、次の段階に至る鍵ではないか―――ゴーランドはそう思い、実践し、そして部下や我が子たるノルにもそれを求めている。

 

「やぁっ!!」

 

 腹の奥底から声を迸らせ、手にした大槍を投擲するノル。地球人基準では騎兵が持つべきサイズの大槍であっても、しかしガトランティス人にとってはごく普通のありふれたものだ。

 

 ごう、と風を引き裂く音を高らかに響かせながら、投げ放たれた大槍が飛んでいく。

 

 その穂先が狙いを定めているのは、草木の影で雑草を食む草食恐竜。

 

 力は十分、狙いも正確だ。当たればその大槍の一撃は骨をも砕き、ちょっとした猛獣サイズの恐竜でさえも絶命に追いやる事であろう。

 

 事実、ノルはそれを確信していた。

 

 なかなかの大物だ。これを仕留めれば父上に優秀な戦士であると認めてもらえる。ゴーランドの名を高らかに名乗る事を許してもらえる―――そのための糧となれ、と祈りを込めて放った一撃は、しかしノルの期待を裏切った。

 

 ぴくり、と身を震わせた恐竜は唐突に草を食むのをやめるや、その場から走り出して逃げてしまったのである。

 

 結果、ノルが放った渾身の一撃は獲物に対しかすりもせず、どすっ、と重々しい音を発しながら地面に突き刺さるのみだった。

 

「あぁ……っ!」

 

「がっはっはっは。ノル殿、少々力み過ぎですな」

 

 千載一遇のチャンスを逃し項垂れるノルの肩に大きな手をぽんと乗せながら、ザバイバル将軍は笑った。

 

 なぜ仕留められないのか。

 

 焦燥感に駆られながらも背中のバッグに手を伸ばし、次の槍を引っ張り出すノル。

 

「―――ノル、貸してみよ」

 

「父上」

 

 引っ張り出したばかりの槍をゴーランドに手渡したノルの目に入ったのは、肉刺が潰れた痕が幾重にも残る、ごつごつとした力強い父の手だ。

 

 分かっている。父が、ザイレム・ゴーランドという男が今の地位に上り詰めるまで一体どれだけの苦難を乗り越えてきたのか。ガトランティスの戦士として生まれ、しかし凡人でしかなかったザイレム・ゴーランドは毎日血の滲むような努力を繰り返し、何度も挫折を味わいながらも、父であるザイゼン・ゴーランドの下で鍛錬を積み重ね今の地位に就いたのだ、と。

 

 ゴーランド一族には、『日々の積み重ねこそ至宝である』という家訓がある。

 

 如何に”天才”と呼ばれる者であっても、凡人が失敗と挫折を繰り返しながらも長年鍛え上げた一芸に勝る事はない。故に誰にも劣らぬ一芸へと昇華するために歩んだ道こそが至宝なのである、と。

 

 だからゴーランド一族の人間は、”天才”という人種を信用しない。

 

 失敗も挫折も知らず、トントン拍子に進んできた人間など、一度の失敗で容易く折れ使い物にならなくなる。

 

 如何に優美で切れ味の鋭い名刀であろうと、容易く折れるようでは実戦において何の役にも立たないのだ。

 

「ノルよ、父の狩りをよく見ているがいい」

 

「はい、父上」

 

 すう、と息を吸い、静かに吐いた。

 

 元々鋭かったゴーランドの目が、しかし木陰で草を食む恐竜を前にさらに鋭くなる。

 

 1人の戦士として、そして何よりも1人の父としてノルの成長を見守る厳しい目が、1人の戦うべき男のそれと化した瞬間だった。

 

 そしてノルは、その父の気配に驚きを隠せない。

 

 ―――これだけ闘志を滾らせておきながら、しかし凪いだ海のように穏やかだ。

 

 殺してやる、仕留めてやるという気配が外部に全く漏れていない。陰に潜む捕食者の如く静かで、しかしその狙いは正確だ。

 

 次の瞬間だった―――大槍が音もなく投げ放たれたかと思うと、草を食べていた恐竜の喉元に深々と突き刺さったのは。

 

 襲った獲物を仕留めにかかる捕食者の牙のように、喉笛に突き刺さった大槍。唐突に奇襲された恐竜は少しだけ身体をばたつかせたが、しかし血を撒き散らしながら暴れた後はすぐに大人しくなった。

 

「……すごい」

 

「ノル、お主の闘志は立派な戦士のそれだ。そればかりは認める」

 

 くるりと振り向いたゴーランドの口元には、微かに笑みが浮かんでいた。

 

「しかし気配が漏れ過ぎだ。本能のまま狩りをするようでは動物と変わらぬ。滾る闘志を律する理性を持て」

 

「はい、父上」

 

「ノル殿、ゴーランド殿も御父上に同じ事を言われたものですぞ」

 

「ザバイバル、余計な事を言うでない」

 

「いやはや、失礼いたしました」

 

 がっはっは、と豪快に笑うザバイバルの傍らで、ノルは目を丸くした。

 

 父も―――ゴーランドも、自分と同じだったのだ。

 

 本能のままに戦いに臨み、しかしそれを律する術を持たなかった。滾る闘志を衝動のままに叩きつける術しか知らず、己の衝動を律する事を知らぬ未熟な戦士。今の自分こそまさにそれであり、そして若き日の父にもそのような日があったのだと思うと、将来に漠然とした不安を抱えたノルの心にも一筋の光が差してくる。

 

「父う―――」

 

「―――」

 

 まさに電光石火だった。

 

 唐突にゴーランドがノルの腰にある鞘から大剣を引き抜いたと思いきや、先ほどと同じく戦士の如き鋭い目つきで身体を捻り、大剣を後方へと放り投げたのである。

 

 いきなり何をするのか、と驚愕するノルであったが、しかし大剣が消えていった茂みの方から、まるで鶏の首を思い切り締めたような濁った悲鳴が響いた。

 

 がさがさと草をかき分けて茂みに足を踏み入れたザバイバル。彼が大きな手でひょいっと持ち上げたのは、小さく退化した前足に嘴のように細い頭、鋭い牙がずらりと並ぶ小型の肉食恐竜だった。

 

 全く気配を感じなかった―――しかしゴーランドは、僅かな気配の揺らぎでそれを察知し剣を投げ放って、一撃で仕留めたのである。

 

 もし気付くのがもっと遅れていたら―――いや、ゴーランドやザバイバルがこの恐竜惑星での狩りに同行しておらず、ノル1人であったのならば、今頃はあの鋭い牙を持つ肉食恐竜の餌食となっていたのかもしれない。

 

「いやぁ、お見事ですなぁ」

 

「……血の臭いに寄ってきたか」

 

 長居はできんな、と呟くや、肉食恐竜に突き刺さっていた大剣を引き抜いて血を振り払い、ノルに返すゴーランド。

 

 一瞬ばかり間近に感じられた父の背中。

 

 しかしその背中に迫る事が出来るのは、ずっと先の事なのであろう。

 

 少なくとも今の自分には―――その半分も届かない。

 

「狩りは終わりだ。艦隊に戻るぞ、ノル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とも奇妙な感覚だ、と加藤は思う。

 

 第二艦橋に備えられた無人機(UAV)の操縦席は、コスモタイガーⅡのそれに準じた設計となっている(コスモタイガーⅡはコスモファルコンとほぼ同じ操縦機構となっているので機種転換訓練はごく短時間で済む)。

 

 操縦桿もフットペダルも、計器類の配置も見慣れたものだ。機体を見なくてもこのコクピットを見るだけで、ああ、コスモファルコンかコスモタイガーⅡの操縦席だなと本能で分かるレベルである。

 

 キャノピーを模したモニターの内側に投影されるのは、先ほどワープしテレザートへと飛び立っていった無人型コスモファルコンのコクピットから見た映像だ。加藤が身に着けたヘッドマウントディスプレイにリンクして旋回する事で、加藤の視界にリアルタイムで現地の映像を映し出してくれる。

 

 ワープが必要になる距離を隔てておきながらもタイムラグなしの通信が可能というのはハヤカワ・インダストリーの技術の賜物と言うべきだが、しかしやはりというか、加藤は無人機の操縦に言語化しがたい物足りなさ(・・・・・)を感じていた。

 

 戦闘中でない限り揺れる事もないヤマトの艦橋の中で、無人機が送ってくる映像を見ながら、大昔のゲームセンターにあったような機械で操縦する―――現役の戦闘機乗りとしては、まるでゲームでもやっているような気分になってしまう。

 

 急加速し急旋回する戦闘機のコクピットで感じるようなGや現場の空気は微塵もない。仮に撃墜されても数千万円分の税金が宇宙の塵になりました、で済んでしまうからなのだろう。実戦のような緊張感もない。

 

 しかしすぐ後ろで篠原や山本、沢村といった航空隊の面々に加え、真田に古代、速河、それどころか土方艦長に空間騎兵隊の斉藤と永倉と、堂々たる面子が控えては加藤の偵察を見守っているのだ。こんなところでドジを踏むわけにはいかない。

 

 今まさに自分が偵察機に乗っているのだという心構えで、加藤は機体をワープ空間から飛び出させた。

 

「これが……!」

 

「惑星……テレザート……!」

 

 暗黒の海原の中で燦然と輝く、蒼い星。

 

 惑星表面の大半が海で覆われた宇宙の女神が住まう星―――惑星テレザート。

 

 ワープアウトするなり、加藤は事前に速河から言われた通り、パネルにあるスイッチのうちのいくつかを既定の順番通りに弾いた。

 

 その瞬間だった―――ワープブースターを切り離した無人型のコスモファルコンが、周囲の空間に溶けていくように透明になっていった(・・・・・・・・・)のは。

 

「おお」

 

「すげえ」

 

 ノイズキャンセリングの技術を応用した、ハヤカワ・インダストリー製の試作型光学迷彩システム。

 

 電磁波に対し真逆の位相のそれをぶつける事で相殺し、視覚的にも電子的にも、対象を文字通り”透明化”する事が可能であるという。

 

 宇宙戦艦に搭載可能なレベルのそれも開発されているというが、しかしコストの増加を司令部が嫌った事、息を潜めての奇襲というドクトリンを防衛軍が採用していない事もあり、現在の主力艦艇への搭載を見送ったという経緯があるのだそうだ。

 

 無理もない。時間断層内で経過する時間は、1日で1年である。

 

 つまるところたった1日で1年分の艦隊の維持費や建造費、それに伴う資材が凄まじい勢いで消費されていく事を意味する。時間断層工廠は地球に大いなる力をもたらすが、それ相応に大食いなのだ。

 

「―――敵だ」

 

 2機―――ガトランティス軍で運用されている攻撃機『デスバテーター』が接近してくる。

 

 地球側では”カブトガニ”とも呼ばれる独特な形状のそれが2機、機体下部のパイロンに空対空ミサイルを親の仇のようにぶら下げてこちらに向かって飛んでくる。

 

 先ほどのワープアウト反応を確認しに来たのだろう。

 

 通常であればとっくにレーダーで捕捉され、コクピット内にはレーダー照射を受けている旨の電子音が鳴り響いているところではあるのだが……しかし無人型コスモファルコンは静かだ。まるで警報システムが故障しているのではないかと思ってしまうほど、何も警告を発しない。

 

 結局、2機のデスバテーターは透明化したコスモファルコンのすぐ近くを掠めて後方へと飛んでいくや、切り離され空間を漂うワープブースターの周囲を旋回するばかりだった。

 

 発見はされていない。

 

 だが、接近は察知されている。

 

「―――あれか」

 

 惑星テレザートを背に布陣するガトランティス艦隊を最大望遠で捉え、加藤は―――そして彼を後ろから見守るヤマトの乗組員たちは息を呑んだ。

 

 テレザートを守るべく、ガトランティスが配置したテレザート守備隊。

 

 その戦力は、想定をはるかに上回るものだった。

 

「―――ミサイル艦(アーセナルシップ)38、巡洋艦46、空母17、駆逐艦39……おいおい、なんつー大艦隊だ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総勢140隻の大艦隊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマト艦隊の前に立ち塞がるのは、ガトランティスの誇る精強ゴーランド艦隊であった。

 

 

 

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