さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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ブリーフィング:テレザート上陸作戦

 

「加藤隊長のおかげで得られた情報によると、敵艦隊は少なくとも総数140隻以上の大艦隊である可能性が極めて高い」

 

 ヤマト艦内の作戦会議室。

 

 パネルを兼ねる床に投影された惑星テレザートとその衛星。両者を結ぶ中間地点と惑星の衛星軌道上に、大きく分けて2つの艦隊の姿が投影される。

 

 作戦会議に同席している速河がスイッチを操作すると、映像のズームアップが始まった。テレザートと比較すると蟻の行列のようにも見えるガトランティス艦隊が相対的に大きくなり、艦隊を構成する艦のディティールもはっきりと確認できるようになってくる。

 

「大気圏内に整備中、あるいは予備の戦力も温存している事を考慮すると、敵はこれ以上の数って事ですよね」

 

「そうだ。それに対し、我々はヤマト、ムサシ、シナノのわずか3隻」

 

「3対140……分が悪いってもんじゃあない」

 

 敵艦隊の艦列を見下ろしながら島が言う。

 

 バラン星の観艦式に突入した時は、これ以上の戦力が集中しているところにヤマト単独で殴り込んだのだ―――その成功体験はヤマト乗組員たちの精神的な励みとなっていたが、しかし今回は状況が違い過ぎる。

 

 あの時は観艦式の最中であるが故に無防備であった敵艦隊に突入したのだ。反撃は受けたが、突然乱入してきたヤマトに慌てふためいた敵艦隊は密集し過ぎていたが故に誤射や衝突で戦闘能力を喪失する艦が相次いだ事、敵艦隊の対応が後手に回った事、そしてヤマトの目的がその大艦隊の殲滅ではなくバラン星の亜空間ゲートを使う事であり真っ向から戦う必要がなかった事もあって、何とか逃げ切った(・・・・・)

 

 しかし、今はどうか。

 

 敵の総数は少なくとも140隻以上。ヤマト、ムサシ、シナノの艦載機を頭数に入れても戦力では負けている(敵艦隊の艦載機も頭数に入れればもちろん負ける)。

 

 そして何より、今回はテレザートに辿り着くためにあの艦隊を突破していかなければならないのだ。すなわちあの艦隊戦力と真っ向からの殴り合いを制する必要がある、というわけである。

 

 それだけではない。

 

「加えて、地上をスキャンした結果……艦隊とは別に多数の熱源やエネルギー反応を検出した。この事から、テレザートの地表を地上戦力が守っている可能性は極めて大である、と見ている」

 

「あの艦隊を突破した後に地上を制圧する……」

 

「二段階の作戦って事か」

 

 地上戦力には空間騎兵隊がいるし、足りない分はヤマト、ムサシ、シナノの戦術科及び保安部の中から人員を抽出し陸戦隊として地上戦に投入する方針となっているが、しかしそちらの戦闘も熾烈を極めるであろう事は想像に難くない。

 

「土方艦長」

 

 すっ、と手を上げたのはシナノの藤堂艦長だった。

 

「我がシナノには、少数ではありますが戦闘装甲車両も搭載しています。空間騎兵隊で運用されていたものと同じタイプです」

 

「シナノは空母ではなかったのか?」

 

「戦闘空母ではありますが……時間断層内の改修で、限定的にではありますが強襲揚陸艦としての機能も持たされています。主力戦車(MBT)、及び歩兵戦闘車(IFV)をそれぞれ8両ずつ搭載していますので、上陸の際はそれを活用したいと」

 

「なるほど、2個小隊分かァ」

 

 ばしっ、と手のひらに拳を打ち付けた斉藤隊長の目は輝いていた。

 

 彼だけではない。

 

 テレザート上陸となれば、その一番槍となるのは彼ら空間騎兵隊である。時代は違えど戦における一番槍は最大の栄誉であるし、そうでなくとも彼らは第十一番惑星の戦いで何度も辛酸を舐めさせられている。

 

 散っていった仲間の仇討ちとしては、またとない機会であろう。彼らの士気が異常に高い理由も頷ける。

 

「十分な数だ。藤堂艦長、俺たちの中にゃあ戦車とか装甲車の操縦を経験してる奴らがごまんといる。人員も申し分ないぜ」

 

「それは良かった。宝の持ち腐れにならずに済んだのは幸いです」

 

 戦意を高揚させながら言う斉藤に対し、しかし藤堂艦長の対応は冷ややかだった。

 

 その温度差に気まずさすら覚える。斉藤が炎ならば藤堂艦長はさながら氷だ。決して相いれない、斉藤がそれなりに嫌いそうな人種ではあるのだが、しかし今はガトランティスという共通の敵を前に仲間割れをしている場合ではない。

 

「加えて、シナノには”コスモシャーク”と”コスモアイ”も搭載しています。地上部隊には常に最新の情報と空爆で万全のサポート体制を敷く事ができるかと」

 

「それにヤマト級3隻が揃い踏みだ。土方艦長、艦砲射撃による打撃力も無視できない要素となりましょう」

 

「うむ」

 

 栗田艦長の言葉に、土方艦長は腕を組んだまま頷く。

 

 コスモタイガーⅡはその設計の優秀さと汎用性の高さゆえに、複数の派生型の機体を生み出している。シナノに搭載されているコスモシャークは主翼を大型のデルタ翼に換装、兵装搭載用のハードポイントを増設した戦闘爆撃機/対艦攻撃機型であり、コスモアイは背面にレドームを、機体下部に複合センサーポッドとスキャン用アンテナを搭載した電子戦支援型だ。

 

 特にコスモアイはその製造コストの高さから”空飛ぶ金塊”などと揶揄されており、実際に稼働する機体を見た者はそう多くない。

 

 その貴重なコスモアイのうち2機が、シナノに搭載されているというのだ。

 

「後は俺たちが責任もって航空優勢を確保すりゃあいいってわけだ」

 

「やる事はいつもと同じですね」

 

 加藤と山本の言葉に、会議に参加していた篠原も「そんじゃ、ちゃちゃっと頭押さえちゃいますか」と軽口を叩く。

 

 結局のところ、鈍重な攻撃機や、電子戦装備を多数搭載した電子線支援機が安全に空を飛び作戦を遂行するためには、敵の脅威を排除し航空優勢を確保する事が先決だ。斎藤たち空間騎兵隊が地上の一番槍ならば、加藤たち航空隊は空の一番槍という事になる。

 

「地上戦は問題ない。最大の課題は……」

 

「この大艦隊、ですな」

 

 土方の言葉を栗田艦長が引き継ぐや、会議室の中には再び重々しい空気が満ちた。

 

 そう、兎にも角にもこの大艦隊を突破しテレザートへ肉薄しない事には話が始まらないのである。

 

 それも古代たちは与り知らぬ事だが、テレザートを守るのはガトランティス艦隊の中でも最強格と名高い精強ゴーランド艦隊―――第十一番惑星やシュトラバーゼで戦った、メーザー艦隊とはわけが違う。

 

「巡洋艦を中核とした前衛艦隊と、ミサイル戦艦(アーセナルシップ)を中核とした後衛艦隊……ダメージソースは後衛の方だろう」

 

 土方艦長が言うや、後衛の多数を占めるミサイル戦艦の姿がズームアップされる。

 

 形状はどこかラスコー級を思わせる。円盤型の船体に推進器、それから上下に割れた艦首と全体のレイアウトはラスコー級のそれであるが、艦首の衝角が大型の対要塞、あるいは対惑星ミサイルとなっている点や、武装の大半が対艦ミサイル、対空ミサイルで占められている点が大きな差異と言えるだろう。

 

 バリエーションというよりは、設計をベースにした拡大発展型なのかもしれない。

 

「このミサイル艦は”ゴストーク級ミサイル戦艦”と呼称されているそうです」

 

 真田の隣に控えていた速河が、手元のタブレットの映像を床のモニターとリンクさせながら説明を始めた。

 

「武装は対空、対艦ミサイル、そして艦首に2基搭載された大型の対惑星ミサイルです。ガトランティスの捕虜を尋問して得た情報によると、地球規模の惑星であれば地表を大きくえぐり、破壊してしまうほどの威力があるそうです。実際に地球艦隊と交戦した事例も最近になって増えている艦であるとされています」

 

 艦首から分離したミサイルがズームアップされ、ヤマトとのサイズ比較が始まる。

 

 ガミラス軍が運用している魚雷や対艦ミサイルよりも遥かに巨大な兵器だ。直撃を許せば一撃で波動防壁をぶち抜かれ、有り余る破壊力を身をもって味わう事になりかねないし、至近弾を受けるのも間違いなく危険であろう。発射される前に撃沈してしまうのが理想だが……。

 

「これだけミサイルに全振りした艦だ。後衛に置いているのはその射程を生かして相手をタコ殴りに(アウトレンジ攻撃)するためか」

 

 南部が唸るように言った。

 

「この距離です。前衛艦隊の正面にワープアウトしたとして、後衛までショックカノンは届きませんよ」

 

「じゃあ、敵艦隊の中間にワープアウトして後衛艦隊から叩くというのは?」

 

「論外だ」

 

 太田の言葉を、ぴしゃりと南部が否定する。

 

「前衛艦隊は巡洋艦に駆逐艦、足の速い艦で固められている。もしそんな事をしたら前衛艦隊はすぐに反転、ヤマト艦隊に対する包囲網を完成させちまうぞ」

 

「あっ……」

 

 ガトランティスの巡洋艦と駆逐艦は、特に機動性と攻撃力に優れる事で知られている。防御力を犠牲に、設計の許す限りの火力を詰め込むのがガトランティス流だ。ビームの口径こそ駆逐艦、巡洋艦相応のものであるが、搭載したすべてのビームの掃射は近距離において圧倒的な瞬間火力を発揮する。

 

 それこそ、近距離での艦砲射撃で”戦艦が巡洋艦に撃ち負けた”という事例も報告されているほどだ。遠距離や中距離では脅威とは言えないが、もし敵の後衛艦隊に集中し過ぎて前衛艦隊の肉薄を許してしまえば……ヤマトでもただでは済むまい。

 

 大口径の散弾銃(ショットガン)に、威力と射程に優れたボルトアクション小銃で近距離戦を挑むようなものだ。ガトランティスと第一線で戦ってきた南部や古代としては、彼らと戦ううえで一番避けたいのが近距離戦闘である。

 

 ならばどうすればいいのか。

 

 律儀に前衛艦隊とやり合えば、その隙に後方から一撃必殺のミサイル攻撃が飛んでくる。かといって前衛艦隊を無視すれば包囲され集中砲火を浴びる……。

 

 隙の無い布陣だ。

 

 しかし、この状況を打開する一手は―――ある。

 

「―――古代」

 

 腕を組み、沈黙していた土方艦長の声は、まるで古代の胸中を察したかのようだった。

 

 何を突きつけてくるのか、古代にも分かる。

 

 そうしなければ、この先生き延びられないのだから。

 

 

 

 

 

 

「古代―――波動砲を使おう」

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 予想通りの答え―――清々しいほど真ん中に飛んできた直球に、古代の頭の中は一瞬だけ真っ白になった。

 

 波動砲の対人使用。

 

 それが何を意味するのか。

 

 イスカンダルへの航海の最中、身を守るためだけに使ってきた波動砲を明確に『武器』として用いる―――つまりはそういう事だ。

 

 古代は自分の手のひらを見た。

 

 手は二面性を持つ。

 

 こうして手を開き、他人へと手を伸ばせば救いの手を差し伸べる事にもなるし、愛する者を抱きしめる事もできる。

 

 しかしひとたび握り締め、相手に叩きつければ、それはたちまち武器にもなる。

 

 波動砲も同じだ。

 

 今、古代たちは波動砲という握り拳を―――敵を殺すために使おうとしている。

 

 約束してください―――スターシャの言葉は、今になってもなお古代の脳裏にリフレインしている。

 

(俺は……当たり前の事がしたかっただけなんだ)

 

 拳を握り締め、肩を震わせた。

 

 相手と約束を交わしたら、それを是が非でも守る。

 

 そんな人間として当たり前の事を全うしたかった、それだけなのだ。

 

 しかし現実は、それを許さない。

 

 ヒトとして当たり前の事を、ヒトとしての道を踏み外せと言う。仲間を守るため、身を守るため、悪鬼羅刹に身を堕とせと囁いてくる。

 

 古代、覚悟を決めろ―――何度も夢の中に現れては、今は亡き沖田艦長は古代にそう語り掛けては闇の中へと去っていく。

 

 いったい何度叫んだのだろうか。『覚悟って何なんですか』と。

 

 苦悩する古代を他所に、しかし作戦会議は淡々と進んでいった。

 

「島、惑星からやや角度をつけてワープアウトできるか」

 

「可能です」

 

「よし……ならば惑星から見て2時方向、テレザートを波動砲の射線に巻き込まない位置にワープアウトして波動砲発射態勢に入る。敵艦隊は当然ヤマトに殺到してくるだろうが……敵の前衛艦隊と後衛艦隊が同じ軸線に乗った瞬間にヤマトとシナノで波動砲を斉射すれば決着はつく筈だ。ムサシはその間、無防備なヤマトとシナノを守ってほしい」

 

「了解です」

 

「敵艦隊を撃滅後、惑星テレザートへ降下。航空隊、空間騎兵隊と共同で惑星表面を制圧し上陸する。以上だ」

 

「各員、直ちに持ち場につけ。今から30分後、ヤマト艦隊はワープに移る」

 

 真田の言葉に、会議に参加していた全員が敬礼をしてから会議室を出ていった。

 

 映像の消えた会議室の中、最後まで残ったのは古代と土方艦長の2人だけ。

 

 顔をしかめながら微動だにしない古代に、土方艦長はそっと肩に手を置く。

 

「……古代」

 

「……はい」

 

「十字架を背負ったお前を追い込むのも酷な話だが、この波動砲にヤマト艦隊全員の命がかかっている事を忘れるな」

 

「……はい」

 

 コツ、コツ、と足音を響かせ、会議室の出口へと向かう土方艦長。

 

 立ち去り際に艦長は後ろを振り向く事なく、古代の背中に声を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「もしお前が撃てんのなら―――引き金は、俺が引く」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ゴーランド艦隊戦です。お楽しみに!
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