さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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VSゴーランド艦隊

 

「それは本当か?」

 

「はい。一瞬ですが確かに」

 

 こちらです、と画面を切り替えると、先ほどまでは平坦な折れ線グラフが表示されていた画面に一ヵ所だけ、反応が盛り上がっている場所が見受けられる。

 

 空間跳躍(ワープアウト)反応だ。

 

「現場は確認したのか?」

 

「航空隊に確認させましたが、何も不審なものは発見できなかった、と。センサーの誤作動の可能性も考えられたため、念のため作業員に現在確認させております」

 

 観測員からの報告を聴き、ゴーランドは腕を組みながら目を細めた。

 

 ガトランティス製のセンサーは兎にも角にも精度が悪い。最近ではガミラス(ガミロン)の科学奴隷に命じガミラス仕様のセンサーを開発、各艦に搭載させてこそいるが、しかしそれでも本家と比較すると精度には大きな開きがあるのが実態だ。

 

 だからセンサーの誤動作の可能性も否定できない。

 

 が、猛将ゴーランドの戦場で研ぎ澄まされた鋭い感覚は、単なる誤動作ではないと看破していた。

 

「……軌道上の前衛艦隊に第一級戦闘配置を命令せよ」

 

「了解です」

 

 観測員もゴーランドの意を汲み、疑問をぶつけることなく全てを察して命令をそのまま艦隊へと伝達し始めた。

 

 ガトランティスの艦隊は、地球やガミラスの艦隊とは違って人員の入れ替えが殆どない。

 

 基本的に艦隊を指揮する身分の一族と、それに仕える家臣の家系の出身者で構成されているのがガトランティス式である。だから艦隊の構成員たちは皆、生まれてから年老いて退役するまでの長い付き合いとなるのだ。

 

 この観測員も今のゴーランドと共に戦場を駆け抜けてそれなりに長い。ゴーランドとはどういう人物か、こういう場合にどう考えるのかを何となく察するほどの付き合いだ(そういう事もあり、言われるまでもなく現場の確認とセンサーのチェックを彼の独断で命じていた)。

 

 ゴーランドが抱いている懸念は、判る。

 

 今、この惑星テレザートを目指している地球(テロン)(フネ)ヤマト(ヤマッテ)

 

 いくら何でもいきなり踏み込んでくるような愚は犯すまい。攻め込む前にはまず偵察が必要不可欠である、というのが戦の常識だ。まず敵を知らなければどんな戦にも勝てないのである。

 

 ただ一度のワープアウト反応―――もしかするとそれは単なるセンサーの誤動作ではなく、使い捨て同然の無人機か、あるいは有人機による生還を期さぬ決死の強行偵察の予兆だったのではないか。

 

 ゴーランドには、そう思えてならない。

 

 そしてもしそれが事実なのだとしたら―――ヤマト(ヤマッテ)との衝突は、すぐそこにまで迫っている。

 

「ノルよ」

 

「はい、父上」

 

「此度の戦、お前の身はザバイバルに預ける」

 

 唐突に父から言い渡されたそれは、ノルにとっては戦力外通告も同義だった。

 

 なぜです、とは言わない。

 

 どうして父が、ゴーランドがそのような決断を下したのか。それはノルにも痛いほど分かっている事だ。自分は戦士としてまだまだ未熟であり、ゴーランドの名を名乗り艦隊を指揮するにはまだまだ早い。この艦橋で父の隣に立つ事すら許されないほどに、だ。

 

 分かってはいたが、同時に期待もしていた。

 

 今日という日はもしかしたら、と。

 

 もちろんそれは儚い夢に終わってしまったが。

 

「……はい、父上」

 

「……ノルよ」

 

 肩を落とし、踵を返して艦橋を去ろうとするノルの小さな背中を、しかし今日に限ってはやけに優しい父の声が呼び止めた。

 

「よいか、ノル。お主はまだまだ未熟だが、それでもこのゴーランドの仔だ」

 

「え」

 

「胸を張って堂々と生きろ。そしていつの日か、勇敢な戦士となって大帝にお仕えするのだぞ」

 

「父上、それはどういう……」

 

 まるで、それは。

 

 そこまで思い至ったが、それ以上深く考えたくなかった。

 

 だってそれは―――まるで遺言のようだったから。

 

 振り向いたノルの視界に入る、父の大きな背中。

 

 彼は多くを語らない。己の戦果とその背中で、生き様を雄弁に物語る―――そういう男だ。ノルの父、”ザイレム・ゴーランド”という男は。

 

 さあノル様、と部下に促され、ノルは最後に腰に提げた剣を抜き払い、父に向かって掲げた。

 

 ガトランティス式の、一種の敬礼だ。敬愛する偉大な戦士に対する最大限の敬意を意味するそれを父に捧げ、ノルは艦橋を去っていく。

 

 扉の閉まる音とエレベーターの駆動音が遠ざかっていくのを待ち、ゴストーク級ミサイル戦艦”ゴーランド”の副官が口を開く。

 

「ノル殿、立派になられましたなぁ」

 

「ああ。俺の……自慢の息子だ」

 

 腕を組みながらメインパネルを見上げ、ゴーランドは口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「あれならきっと、艦隊を立派に率いてくれよう」

 

「そうですな……我々も、ノル殿に立派な戦いをご覧に入れませんと」

 

「無論だ」

 

 拳を握り締め、それを頭上に突き上げる。

 

「―――メーザーを破りし(フネ)ヤマト(ヤマッテ)。相手にとって不足なし!」

 

 この戦、これまでのそれとは比較にならないほど危険なものとなるだろう。たった1隻でデスラーのガミラスを討ち破り、滅びに瀕していた惑星を救った英雄の(フネ)―――。

 

 相手が強ければ強いほど、血が滾るというものだ。

 

 それがガトランティス人の生き方であり、在り様である。

 

 

 

 

 

 

 

「全艦抜錨! ゴーランド艦隊、出陣!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷の割れるような音が響くなり、裂けた空間から舳先が躍り出る。

 

 ワープアウトの瞬間に感じる車酔いにも似た感覚に苛まれながらも、しかし理性がすぐに感覚を現実へと引き戻していく。もう既にここは敵地なのだ―――そして自分は、自分たちはまた新たな罪を重ねる事になる。

 

 いつにも増して険しい顔つきになっている古代。隣で艦の操縦桿を握る島は、彼が何を考えているのか何となく察していた。

 

 ワープアウト後、即座に波動砲の発射態勢に入る。そして接近してきた敵艦隊を波動砲の一撃で無力化し、惑星テレザートに降下する―――その作戦が言い渡された時からだ。古代の表情に暗いものが滲み始めたのは。

 

 ―――約束してください。

 

 心の中で、スターシャの声がリフレインする。

 

 波動砲―――イスカンダルまでの旅路において、身を守るための術として用いてきた波動砲を、初めて明確に武器(・・)として使う。

 

 これがスターシャの望む事なのか。これが救いの手を差し伸べてくれたイスカンダルに対する仕打ちなのか。

 

 抱いた理想と、目の前に立ちはだかる現実。

 

 その板挟みに古代は苦しんでいるのだ―――島にはそう思えた。

 

「惑星テレザート軌道上、敵艦隊の発進を確認!」

 

 雪の報告に、艦橋の中が一気に張り詰めた。

 

「波動砲への回路、開け!」

 

「ムサシ、前に出ます!」

 

 左翼に展開していたムサシが、メインエンジンの輝きをこれ見よがしに曳きながら一歩前に出た。それと同時に艦首の魚雷発射管を解放、波動防壁弾の発射態勢に入る。

 

 波動砲艦隊構想において、最も懸念されたのが波動砲発射までの無防備な時間だ。

 

 波動砲は艦のエネルギー全てを動員して発射する兵器である。その一撃は惑星を砕き、文字通り宇宙すら裂くほどの強烈なものだ。この直撃に耐えられる宇宙戦艦など、この大宇宙広しと言えども存在しないだろう。

 

 しかしそのリスクは極めて大きい。

 

 エネルギー充填中は動く事も防御する事も出来ない。無防備な姿を敵艦隊の前に晒し続けるという非常にリスキーな点は無視できない欠点であり、波動砲のより効率的な運用においてはこれの解消が課題となっていた。

 

 波動防壁弾と共鳴装置を搭載した防御型の艦艇は、そうした隙を埋めるために生み出された派生艦である。

 

「敵艦隊よりミサイル!」

 

「構うな、守りはムサシに任せておけばいい!」

 

 ヤマトとシナノを庇うように前に出たムサシの艦首魚雷発射管から波動防壁弾が躍り出る。ロケットモーターの固形燃料を使い果たすや後部を切り離し、弾頭側面からフィラメントを展開。小型の姿勢制御スラスターを吹かして回転を始める。

 

 波動共鳴装置からのエネルギー供給を受け、フィラメントが蒼い光を纏い始める―――やがて傘のように、巨大な波動防壁が宇宙空間に展開された。

 

 ガトランティスの前衛艦隊から放たれた長距離ミサイルの一団が、ムサシの波動防壁に阻まれて爆散していく。命中さえすれば戦艦にすら無視できないダメージを与える事が可能なガトランティスのミサイルだが、しかし当たらなければどうという事はない。

 

「エネルギー充填、20%」

 

「薬室内、圧力上昇……非常弁全閉鎖」

 

「タキオン粒子、正常加圧中」

 

「エネルギー充填、40%」

 

 敵艦隊は、既に軸線に乗っている。

 

 前衛艦隊が11時方向、そして後衛のミサイル艦隊が1時方向からやや距離を空けた状態で向かってきている。が、攻撃の効率を重視してなのか、どちらの艦隊も極端な密集隊形を取っている。このまま12時方向に波動砲を撃ち込めば、2隻分の波動砲が敵艦隊をたちまち呑み込み消滅させてしまうはずだ。

 

 撃てれば勝てる戦いである。

 

 テレザートへの被害も無い。

 

 が―――物事は、そう簡単にいかないものである。

 

「―――敵後衛艦隊よりミサイル! 大型です!」

 

 メインパネルに、最大望遠で敵の後衛艦隊が映し出された。

 

 ラスコー級に似通った形状をしているが、しかしより角張ったような、武骨なフォルムとなっている。船体は分厚くなり、至る所にミサイル砲台が搭載されたアーセナルシップ型の艦なのだ。

 

《データベース照合、”ゴストーク級ミサイル戦艦”デス》

 

 アナライザーが頭部のセンサーを発光させながら報告した。

 

《太陽系外周艦隊、及ビ戦艦キイノ交戦記録ガアリマス。艦首ノ大型ミサイルニ気ヲ付ケテ下サイ》

 

「今まさにそれが飛んできてるんだぞ、アナライザー!」

 

 太田が悲鳴じみた声をあげた。

 

 メインパネルの向こうの敵艦隊が放っているのは通常のミサイルではない―――艦首に上下二段に搭載された、特徴的な大型ミサイルだ。

 

 そのサイズはあくまでも目測だが、コンゴウ型宇宙戦艦の3分の2にも匹敵するほどの大型ミサイルである。あの中に一体どれだけの炸薬が詰め込まれているのか、そもそも通常のミサイルと同列に扱っていい兵器なのか―――いずれにせよ、あれに被弾すればヤマトでもただでは済まない事は確かだ。

 

 ムサシもただならぬ気配を感じ取ったらしい。艦を上昇させ射線を確保するなり、対空用のエアバーストモードに切り替えたショックカノンで迎撃を始めた。

 

 蒼い光が捻じれ、1つの束になってミサイルたちの鼻先で炸裂する。

 

 砲身中間部のレンジファインダーと連動させる事で使用可能となるエアバーストモードは、標的に接近したところでエネルギー収束を解除。ベクトルを外側へと向けエネルギーを解放する事で爆発を起こし、接近中の航空機やミサイルを撃墜する事を企図した兵器だ。

 

 ショックカノンの炸裂を浴びた大型ミサイルが大爆発を起こし、宇宙空間に巨大な紅い炎の華が咲く。

 

「……あんなものを喰らったらひとたまりもないぞ」

 

 メインパネルを見上げていた真田が、冷や汗を浮かべながら言った。

 

 ちょっとした核弾頭のような爆発だった。

 

 爆発時の衝撃波が遅れてヤマトやシナノにも到達し、船体がびりびりと震える。

 

 爆風を突き破り、健在だったミサイルたちがヤマトへ向かって飛んでくる。ムサシが果敢にショックカノンを射かけて迎撃を試みるが、しかし弾速が速いのか、なかなかミサイルには当たらない。

 

 迎撃を断念したムサシがスラスターを吹かし、波動防壁弾の後ろへと潜り込んだ。

 

 ドン、と腹の底に響くような衝撃が、ヤマト、ムサシ、シナノの3隻を襲う。まるで巨人の剛腕がヤマトの船体を掴み、力のままに大きく揺さぶっているような衝撃に、古代は自分の席から投げ出されそうになった。

 

「防壁弾が!」

 

 南部の悲鳴じみた声に、古代は目を見開く。

 

 ただの一撃だった筈だ―――たった1発のミサイルで、波動防壁弾が砕け散った。

 

 防壁弾を突破した大型ミサイルの内の何発かが、ヤマトのすぐ脇―――右舷すれすれを通過していく。直撃せずに済んだのは女神テレサの加護ゆえなのか、それは分からない。

 

 幸いにもゴーランド艦隊から放たれた大型ミサイルはヤマトの右舷を掠め、船体右舷の展望室を押し潰しながら後方へと抜けていった。

 

 ふう、と胸を撫で下ろしたいところだが、しかし雪のハッとした声が油断を許さない。

 

「待ってください―――本艦後方の空間、不安定です!」

 

「待て、じゃあさっきのミサイルが爆発したら……!」

 

「いかん! 島!!」

 

「機関長ォ!!」

 

「エネルギー充填緊急停止!」

 

 徳川機関長がコンソールにあるエネルギー充填の緊急停止ボタンを押す。ガラスカバーを開けるのももどかしく、拳を振り下ろしガラスカバーを叩き割った。

 

「急速離脱! シナノにも―――」

 

 カッ、と後方で閃光が迸る。

 

 ―――予想外だった。

 

 あのミサイルに、これほどの威力があったとは。

 

 そしてヤマト艦隊の後方の空間は―――先ほどのワープアウトの影響で、まだ空間が不安定なままだった。

 

 ワープで空間に穴を穿ち、抜けてきたばかりだったのだ。そんな場所であんな大爆発を引き起こされればどうなるか。

 

 塞がりかけた傷口に、思い切り石を打ち付けるようなものである。

 

 ぐんっ、と唐突にヤマトが後方へと引っ張られ始めた。

 

 ヤマトだけではない。シナノもムサシも、突如宇宙空間に出現した重力傾斜―――いや、”宇宙気流”とも言うべき現象に捕らえられ、後方へグイグイと吸い込まれ始める。

 

 ヤマト艦隊の遥か後方。

 

 そこにはぱっくりと紅く、”空間の裂け目”が口を開いていたのだ。

 

 

 

 

 

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