さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
”それ”はまるで、宇宙の、空間の叫びにも思えた。
後方の宙域がぱっくりと裂けた傷口さながらに赤々と光を放ちながら、周囲の物体を呑み込まんとしている。
(次元断層!)
やられた、とムサシの栗田艦長は歯噛みした。
よりにもよってワープ直後の不安定な空間に、ムサシの波動防壁弾を一撃でぶち破る程の大型ミサイルを撃ち込まれたのだからたまったものではない。
ワープは空間に穴を開け、長距離を一瞬で移動することができる便利な航法である。波動エンジンの実用化によってはじめて確立されたものであるが、しかし”空間に穴を開ける”という性質上、ワープ直後の空間は穴が開いた状態から急激に塞がるため、ごく短時間ではあるものの不安定になってしまう。
実際、最規模な艦隊で一斉にワープなどすれば、次元断層が発生するほどではないものの他の艦のワープアウト時に発生する重力波が干渉し、微妙にワープ座標がズレてしまう事があるのだ(そのため防衛軍の艦艇にはそれを想定した誤差修正プログラムがインストールされている)。
そんなところに、複数の艦で斉射すれば惑星すら吹き飛ばしてしまう威力の大型対要塞ミサイルを撃ち込まれたのだからただで済むはずもない。放っておけば順調に修復される筈だった空間は、その脆弱な次元境界面を引き裂かれた事によって大きく損傷。結果として亜空間へと繋がる次元断層の誕生に繋がった、というわけだ。
激しく揺さぶられるムサシの艦橋で座席にしっかりと掴まりながら、栗田艦長は「ヤマトとシナノはどうか!?」と声を飛ばす。
「2隻とも次元断層に!」
レーダーで反応を見ていた
メインパネルには、その強力な吸引力に捕らわれたヤマトとシナノの2隻が、必死に姿勢制御用のスラスターとメインエンジンを吹かし全力で離脱を試みる姿が映っている。
しかし次元圧の差により生じる吸引力は、並みの戦艦の推力で逃げ切れるほどのものではない。下手をすればアンドロメダ級でも逃れるのは難しいだろう。
波動砲による敵艦隊殲滅のため、防御担当のムサシを前衛に置き、ヤマトとシナノが後方に展開していたのが見事に仇となった。ムサシも吸い寄せられつつあるものの、何とか次元断層と距離がある分逃げきれそうではある。が、すぐ後方に次元断層を開けられたヤマトとシナノはそうもいかず、2隻の艦影が紅く輝く亜空間の海へと消えていったのはすぐの事だった。
「艦長、ヤマトとシナノを!」
「もう無理だ、間に合わん!」
閉じゆく次元断層を睨みながら、栗田艦長は苦い声を発した。
空間の裂け目は2隻の宇宙戦艦を呑み込んで気が済んだのか、その裂け目の面積を小さくしていく。やがて戦艦も通過できないほどの大きさまで縮小するや、そこには何の変哲もない宇宙空間が広がるだけとなった。
(狙ったのか……!?)
狙ったか、あるいは単なる偶然か。
歯を食いしばりながら、メインパネルに投影された敵艦隊の映像を睨む栗田艦長。
ガトランティスの事だから単なるラッキーパンチじみた攻撃だと断じる事も出来よう。しかし自分たちが対峙している艦隊は他の艦隊とは違う、という異質な”圧力”もまた、栗田艦長は感じていた。
他のガトランティス艦隊は、お世辞にも統率が取れているとは言い難い戦い方をしていた。まるで我先にと敵の首級を争う猪武者のようで、他の艦に後れを取ってはならぬと競い合うかのように激しい攻撃を浴びせるばかりであった。
だが、この艦隊はどうか。
まるで綿密な計算の上で、最大の火力を効率的に、尚且つ瞬間的に叩き込んでくるような、しっかりと練り上げられた”策”を感じさせられる。
ならば前者なのだろう。単なるラッキーパンチなどではなく、最初からこれを狙っていたのだろう。
ワープアウトしてきたヤマトへ対要塞ミサイルを叩き込み、次元断層を発生させ亜空間へと追い落とす―――ムサシだけが取り残され、通常空間に残ってしまったのは誤算だったのかもしれないが、しかし最大の脅威を取り除くことができたのであれば後は簡単だ。全艦隊の火力を集中させて一気に沈めてしまえばよい。
「ミサイル攻撃、第二波が来ます!」
「仁科、撃ち漏らすな!」
「了解!!」
”戦術の鬼”とも言われた仁科を戦術長に据えたムサシのショックカノンが前方の空間へと捻じ込まれていく。捻じれ、絡み合い、1つの閃光となったそれは接近中のミサイルたちの目前で爆発。蒼い波動エネルギーの閃光の中でミサイルが誘爆し、その数を減じてゆく。
エアバーストモードで放たれたショックカノン。矢継ぎ早に次の一撃が放たれ、ミサイルたちを撃墜していく。
「いいか、ヤマトもシナノも必ず帰ってくる!」
2隻の唐突な戦線離脱で浮足立つ艦橋の乗員たちを安堵させるように栗田艦長は言う。
「それまで戦線を支えるんだ。土方さんに恥ずかしいところを見せるなよ!」
「1隻残りました」
「む」
腕を組み、片方の手で顎髭を弄りながら戦闘の推移を見守っていたゴーランドは、少しばかり計算が外れたかと己の未熟さを恥じた。
これも全て、作戦の内だ。
事前に観測されたワープアウト反応を見るに、敵はゴーランド艦隊の布陣を把握したうえで作戦を立てて挑んでくるに違いない。前衛艦隊と、ミサイル戦艦を中心に編成した後衛艦隊。まともにやり合えば火力と物量で押し潰されるであろうという事も理解しているだろうし、何より
後の事を考えれば、最小限の労力で効率的に叩こうとするであろう事は想像に難くない。
ならば敵は使って来る筈だ―――虎の子の一撃、波動砲を。
かつてガミラスを撃ち破った
だがそれも、
発射までにはエネルギーの充填が必要で、その間はどうしても無防備になってしまう―――そのためにあのシールドを展開可能な防御型の同型艦が同行しているのだろうが、発射までに猶予がある事に変わりはない。
それらの条件から猛将ゴーランドが導き出した作戦こそ、自慢の【破滅ミサイル】の威力を存分に生かしたものとなった。
まずヤマトは、ワープアウトから間髪入れずに波動砲を使うために布陣する筈だ。惑星テレザートを巻き込まないような位置取りともなれば、そのワープアウト座標は自ずと絞り込むこともできる。
ワープアウトを確認次第、まずミサイルによる長距離攻撃を叩きつけて防御型の同型艦を前に出させる。そしてそこに、対処できない数の破滅ミサイルを撃ち込んで、ワープアウト直後の不安定な空間を引き裂き次元断層を出現させ、
次元断層からの脱出は容易ではない。事実、
当初は3隻まとめて次元断層へ追い落とす作戦であったが……しかし、1隻だけ残ってしまった模様だ。
が、やる事に変わりはない。
あの防御型の艦に波動砲は無い。通常火力は脅威であるものの、
「第3、第4戦隊、攻撃を完了」
「第5、第6戦隊前へ。破滅の矢を放て!」
「了解。第5、第6戦隊前へ。配置につき次第破滅の矢を放て」
「破滅の矢、再装填はまだか?」
「あと0.2ヘブロンお待ちください」
「急がせろ。せっかくの獲物だ、見ているだけではつまらん」
傍らに控える兵士から酒杯を受け取り、一気に呷るゴーランド。
艦橋の窓の向こうでは、ナスカ級空母から発進した3機のデスバテーターが、ワイヤーで吊り下げた破滅ミサイルの予備弾頭を運搬しゴストーク級の艦首へとセットしているところだった。
他の通常ミサイルは艦内工場で製造できるし、装填も自動装填装置があるから矢継ぎ早にミサイル攻撃が出来る。しかし艦橋に搭載されている中型弾頭と艦首の破滅ミサイルだけは、再装填は予備弾頭を運搬する補給仕様のナスカ級に依存しなければならず、再装填が終わるまでは戦線を離脱しなければならない、という欠点があるのだ。
沸き立つ闘志を、しかし冷静な理性が押さえつける。
落ち着け、落ち着け、と。
戦に夢中になるのはよい。しかし、視野が狭くなってしまっては相手に付け入る隙を生むだけだ。
ましてや此度の戦は息子のノルも見ている―――最愛の息子の前で、醜態を晒すわけにもいかない。
(ノルよ、父の背中を見ておれ)
ザバイバルに預けてきたノルの顔を思い浮かべ、口元に一瞬だけ笑みを浮かべるゴーランド。
そうしている間にも次の破滅ミサイルが、ムサシ1隻へと放たれていく。
「サルガッソー……宇宙の墓場だ」
深海を思わせる亜空間―――そこに浮かぶ無数の残骸を見て島が紡いだ言葉が、それだった。
以前にも聞いた事があるフレーズだった。イスカンダルへの道中、ヤマトは次元断層へ落ち込んでしまった事がある。艦橋の窓の向こうに広がる景色はあの時と同じで、薄暗い深海のような空間に様々な文明の宇宙船の残骸が浮遊していた。
ガミラス艦の残骸や、ガトランティス艦の残骸、そして未知の円盤型の艦の残骸らしきものも浮遊している。どの艦の乗員たちも、尽きゆく食料と艦内の酸素に苦しみ、じわりじわりと迫り来る死の恐怖に追い立てられて死んでいったのだろう。
しかし、そんな彼らに思いを馳せる余裕はない。
今、この次元断層の向こう側ではただ1隻、取り残されたムサシが孤軍奮闘しているのだ。一刻も早く次元断層を脱出し加勢しなければ、ムサシがあの敵艦隊にやられてしまう。
「艦長、シナノに要請し波動砲を」
真田の意見具申に、艦長席で腕を組んでいた土方は頷いた。
以前に次元断層に迷い込んだ時は、ガミラス艦と協力しての脱出であった事は記憶に新しい。ヤマトの波動砲で次元境界面を引き裂き、ガミラス艦に曳航してもらい脱出するという連携プレイで窮地を脱したものだ。
幸い、今回も2隻―――それも片割れはヤマトの同型艦であるシナノである。波動砲も搭載しているから、シナノに波動砲を撃ってもらいヤマトが曳航して脱出、そして脱出後はヤマトの波動砲で敵艦隊を撃滅すればよい。
そのような事もあり、艦橋にいるクルーたちに以前のような危機感はなかった(無論ムサシを危険に晒している事に対する危機感は十分にあったが)。
「艦長、シナノより入電。藤堂艦長です」
「メインパネルに」
土方の指示通り、相原がメインパネルにシナノからの通信を繋ぐ。
ヤマトと全く同じデザインの艦橋。相違点は3体のカラフルなアナライザーたちが収まるスペースが用意されている事くらいではあるが、それを除けばヤマトと見分けもつかないだろう。
艦長席に座っていた藤堂艦長は立ち上がるなり、敬礼をしてから言葉を紡ぎ始めた。
《土方艦長》
「うむ」
言わなくとも、考えている事は同じだ。
幸いここには2隻の波動砲搭載艦がいるのだ。片方が次元断層に穴を開け、もう片方が曳航して脱出した後に波動砲を発射するという作戦は、ヤマトとシナノ2隻の乗員たちの共通認識と言っていい。
しかし、相違点は確かにあった。
《シナノ艦長として、ヤマトに波動砲の発射を要請したく思います》
「え……」
声を発したのは古代だった。
てっきり古代は、シナノが波動砲を撃って次元断層に穴を開ける役割を担うものと思い込んでいたのである。しかし藤堂艦長は逆で、ヤマトに波動砲を発射せよと言っている。
驚愕しながら土方艦長の方を振り向くや、艦長は顔色こそ変えないものの、微かに目を細めていた。
痛いところを突かれている―――細めた瞳が、確かにそう告げている。
「藤堂艦長、なぜ―――」
《古代戦術長》
冷淡な声の矛先が、古代へと向けられた。
《―――撃てるんですか、あなたに》
「―――」
どこまでも冷たく、無慈悲なまでに確信を突く言葉の刃。
ぐさりと胸を刺される錯覚を覚え、古代は目を見開いた。
分かっている事だ―――自分が、波動砲で敵の命を奪うという行為に、波動砲を”兵器”として扱う行為に強い忌避感を抱いているという事は。
今までに波動砲を発射する機会はあった。けれどもそれはヤマトを、ムサシを、シナノを、そして自分たちの身を守るためであると誤魔化していたにすぎない。
―――古代、覚悟を決めろ。
沖田艦長の声が、頭の中でリフレインする。
ぎり、と歯を食いしばり、爪がめり込むほどきつく拳を握り締めながら、立ちはだかる現実と対峙する古代。
逃げようのない、されど乗り越えなければならない壁を前に―――古代の心は、悲鳴を上げていた。
ナスカ級空母(破滅ミサイル輸送仕様)
ガトランティス軍で運用されているナスカ級空母を改造し、ゴストーク級の破滅ミサイルの予備弾頭を運搬するための補給艦とした仕様。船体下部に磁気パイロンを搭載しそこに予備の破滅ミサイルを搭載可能な他、非常時にはそれを発射し攻撃する事も可能となっている(ただし正確な諸元入力が出来ないため命中精度は劇的に低下する)。
また艦内の格納庫を破滅ミサイルの収納区画に改装しており、磁気パイロンと牽引する分も合わせて1隻で20発の運搬が可能。ミサイルを再装填する場合、運搬装備を搭載したデスバテーターに牽引させミサイルの再装填を行う。